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どんな大火も灯から
どんな大火も灯から
Dave Guskin / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年7月1日
こんにちは、私の名前はデイブ・ガスキン/Dave Guskin、『基本セット2014』の最終デザインとデベロップのリーダーを務めました。ウィザーズの一員になって以来ずっと、私はいつかマジックのセットでリーダーを務めたいと思っていました。そして、ついにこの『基本セット2014』でその機会を得たのです。もちろん、この重要なセットのリーダーを務めあげるためには少しばかりの幸運の助けは必要でしたし、同時にデジタル・デザイナーでもありました。でも文句はありません! この経験は、想像していたよりもずっとやりがいのあることでした。その経験のハイライトを、これから皆さんにもお伝えします。
《火の兄弟》
この基本セットのデベロップ・チームの構成は本当に独特のものでした。
デイブ・ガスキン/Dave Guskin(リーダー)
私です! すでに言った通り、私の開発部での本業はデジタル・デザイナーでした。私は過去数年に開発部が手がけたほとんどのデジタル物(Magic Online、デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ、その他細かなデジタル物など)を担当してきました。
開発部ディレクターのアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheと私の上司のケン・トループ/Ken Troopが私をアーロンのオフィスに呼び、そしてこの基本セットのリーダーを務める機会を与えてくれましたが、私はすぐにイエスと答えることができませんでした。その後、落ち着いて考え、いくらか具体的な議論を重ねてから、これにかける時間を捻出する方法を見付け、そしてプロジェクトが始まったのです(これまでにも、私は『アラーラ再誕』や『基本セット2011』『新たなるファイレクシア』『アヴァシンの帰還』『プレインチェイス』『アーチエネミー』など、いくつものデザイン・チームやデベロップ・チームのメンバーにはなっていました)。
アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe
新人リーダーの私が方針を誤らないように、アーロンが「次席者」を務めてくれました。アーロンはデベロップの経験も豊富で、私が開発部に居る間にも『ゼンディカー』や『新たなるファイレクシア』のリード・デベロッパーを務めていましたし、腹の中には『基本セット2010』『基本セット2011』といったデザインも十二分に抱えていました。彼のスケジュールを空けるために私も彼も手間が増えたのは事実ですが、彼以上の相棒は望むべくもありません。
マックス・マッコール/Max McCall
マックスは私の同じくデジタル・チームのメンバーで、カジュアル寄りの脳みそとデュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズに関する深い理解を兼ね備えた賢い奴です。私がこの『基本セット2014』でリーダーを務めた時にマックスは『マジック2014―デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』のリーダーを務めていたので、両セットに共通する様々な問題に同じ視線で取り組めるように頻繁にコミュニケーションを取ったのです(これについては後でまた触れます)。
ケリー・ディグス/Kelly Digges
ケリーはこのチームの価値あるメンバーです。細かなところを緻密に見つめ、カジュアル的な貴重な考え方を与えてくれました。数字と言うよりも楽しさに関係するような問題、特に重要で致命的な問題を「解決」する方法を探しているときに、ケリーは特に素晴らしいアイデアをもたらしてくれたのです。
ジェイムズ・ハタ/James Hata
ジェイムズはデュエル・マスターズやKaijudoのデザイナーとして働いており、それらのゲームの考え方(もっとはっきり言えば、目を惹くような考え方)を導入し、この基本セットを本当に楽しいものにするという素晴らしい仕事をこなしてくれました。ジェイムズは常に私に、そのカード1枚の対象人物は誰なのか、その解決法がなぜ正しいと言えるのか、などを考えさせてくれましたし、それによってチームは活発になり、セットに文脈が生まれたのです。
皆さんの中には、このチームには2つのものが足りない、と思う方がいるかも知れません。中核デベロッパーと、デザイン代理です。ただでさえ、デイブはこれが初めてのリーダーなのに、さらに複雑な問題に繋がってしまいました。つまり、「デザイン代理がいなくて手に入らない展望と、中核デベロッパーがいなくてわからない優れたゲーム・プレイを組み合わせ、かつM14らしさを全面に保つにはどうしたらいいのか」です。
これは、誰もいないデベロップ・チームと、すべてを保たなければならない1人の男の物語です。これが、基本セットのデベロップなのです。
《火柱》
はじめに、M14のリード・デザイナーだったマーク・グローバス/Mark Globusが私をオフィスに招きました。このときまでに私が手にしていたのは、デザインが作ったカードが入ったマルチバース・ファイルと、私の前任者であるザック・ヒル/Zac Hillが『ドラゴンの迷路』に移るにあたって後任の私に残したメモの2つだけでした。私はファイルを眺め、コメントを読みましたが、そのバラバラの破片をまとめて見ても1枚の絵にはなりませんでした。だからこそ、マークと私は「デヴァイン」(デザインからデベロップへの引き渡し)をすべく何回かのミーティングを行い、セット全体を通して見て、それぞれの破片がどう繋がっていて全体の展望にどう寄与しているのかについて話し合ったのです。
その会話を経て繋がったことが、私の『基本セット2014』デベロップの中心となる4本柱となりました。
チャンドラ
M14に関して、グローバスとクリエイティブやブランドの協力者は、「ローウィンの5人」のプレインズウォーカーを採用し、その中で誰か1人にスポットライトを当てようと決めていました。『基本セット2012』や『基本セット2013』(それぞれD12、D13も)は、ギデオンやニコル・ボーラスを中心にデザインし、マーケティングを行なって大成功を収めていたのです。しばらくの協議の結果、チャンドラにしようということで合意し、マークと私はこのセットがチャンドラのセットになるように調整しました。そのために必要なのは? 構築で魅力的な新しいプレインズウォーカー・カードと、チャンドラをテーマにした大量のサポート・カード、それにセット全体を通して彼女の個性を描くフレイバーです。
それでは〈紅蓮の達人チャンドラ〉にもえてください。
チャンドラを作るにあたっての私の目標は、既存の赤デッキにも入ると同時に、新しい赤デッキの主軸にもなる可能性があるプレインズウォーカーにするというものでした。これまでのチャンドラにあった問題の1つは、彼女は確かに燃やすのですが、あまりにもコストが重くてバーン・デッキには巧く入らないということだと私は感じていました。今回の[+1]能力は、より攻撃的なデッキで真価を発揮しますし、[0]能力は新しいデッキの可能性を見せると同時にそういったデッキでもよく働いてくれます。そして彼女の奥義はゲームにけりを付けるものであると同時に、面白いデッキ作成を決断させるものになるでしょう。
(エリック・ラウアー/Eric Lauerは《エルキンの壷》にちなみ、親しみを込めて『壺能力』と呼んでいる)チャンドラの[0]能力が赤の能力として相応しいのかどうか、私たちは議論しました。最終的には、私も他の多くのメンバーも、2つの意見の組み合わせで納得したのです。
- 歴史的に、プレインズウォーカーが競技マジックで使われるためにはカード・アドバンテージを得る能力が必要で、単純な火力カードのアドバンテージというのは「面白い」ものにはなりにくい。
- プレインズウォーカーに多様性を持たせたければ、チャンドラの能力の1つを彼女の最も魅力的な個性である「賢明だが直情な振る舞い」に基づくものにすべきだ。この能力はそれを表している。
ここでもう1枚プレビュー・カードをお見せしたいと思います。このセットでチャンドラをサポートするカードを、火種から大火まで備えているというその中の1枚です。チャンドラの身につけている篭手をお目にかけましょう。ああ、熱を感じてください!
私たちはこのカードの数字をかーーーなり試してみましたが、単純な火力を楽しいものにするのはやはり難しいのです。マナ・コストを下げて追加ダメージを1点にしてみました(火力呪文用《栄光の頌歌》ですね)が、これはクリーチャー戦略に対して強くなりすぎましたし、他のアーキタイプにも有力でした。結局の所、環境にある火力を慎重に選んでメタゲームを組み上げていたので、+1点の差は本当に大きかったのです!
皆さんの中にいるジョニーなプレイヤー(やあ、お仲間!)にとっては、チャンドラの篭手を使って珍妙なバーン系コントロールとかコンボデッキを作れる機会になります。前菜にはチャンドラのプレインズウォーカー・カードの[+1]能力を使い、メインディッシュは《炬火の炎》とか《ぶどう弾》とか《よろめきショック》とかいかがです? いい焼け具合じゃないですか。
スリヴァー
『基本セット2014』のスリヴァーについて、マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterが素晴らしいコラムを書いていますので、ご一読ください。私はスリヴァーについて言いたいのは、マークと私はともに同意しているのですが、スリヴァーは基本セットにおける非常に重要な役割を果たしてくれるということです。「これが僕の色だ」という初歩のデッキ作成から卒業した次のデッキに目を向けさせてくれるのです。スリヴァーは非常に直接的で、新人プレイヤーも作成したくなるようになっています。そして、そのデッキを作り、使うことで、さらにシナジーを意識したマジックの世界に踏み込むことになります。これをM14の「再録」メカニズムに出来たことを嬉しく思っています。
スリヴァーは繰り返しやプレイテストが多少必要でした。基本セットのリミテッドで他のアーキタイプを壊すことなく5色スリヴァー・デッキを作ることができるでしょうか? 単なるカードパワーだけでなくシナジーを軸にしたデッキを助ける環境になっているでしょうか? 『時のらせん』のように、他のものを犠牲にしてメカニズムを詰め込むことはできません。この問題を解決するため、私はリミテッドにおけるスリヴァーのアーキタイプを赤緑白に縮め、赤緑、赤白、緑白のスリヴァー・デッキがそれぞれ違う動きをするようにしました。最も重要なのは、スリヴァーを揃えることによるメリットが散らばるようにすることでした。先制攻撃や速攻は赤、マナとパワー・タフネスの強化は緑、トークン生成は白。これができると、デッキのアーキタイプは巧く定まりました。スリヴァーはこのセットの楽しいドラフト戦略で、何種類か作れる程度の深みもあるのです(より高いレアリティのスリヴァーが青や黒にも少数存在するのは、構築における多様性のためです)。
系統
デザインが提示したものには、神話レアの象徴的なクリーチャー(天使、悪魔、ドラゴン、など)の強いサイクルがあり、そのそれぞれにはより低いレアリティのサポート・カードの垂直サイクルがついていました。たとえば、スフィンクスには、より低いレアリティにスフィンクス部族の効果を持つカードやスフィンクスが存在していたのです。セットをプレイテストして調整していくうちに、それらの神話レアの中には本当に楽しいものもあればそうでないものもあるとわかってきました。固いサイクルにしてあることで、その魅力や楽しさを押さえ込んでしまっていたのです。
私たちは、低いレアリティのサポート・カードを残しましたが、各色1枚に減らしました。また、それぞれの神話レアのもっとも楽しいバージョンは、その象徴そのものを描くことだとわかりました。そこで、プレイヤーがカジュアル構築で使いやすいようにし、それから自分なりのアレンジを加えられるようにしました。これによって新人プレイヤーが構築の広い世界に出るための第一歩となる足場を築けるので、これはマークのデザインの中でも私が一番気に入っている部分の1つです。
芳醇な組み合わせ
『基本セット2014』は、より芳醇な基本セットとしては5つめになります。5回目ともなると、最初の数回で再現されていたマジックと近いものにするのは難しくなります。この問題に取り組むため、マークとクリエイティブ・チーム、それに私は、組み合わせることによって話を作るという肥沃な空間が存在すると同意しました。つまり、単体でも魅力的で芳醇であり、組み合わせることで物語が作れるようなカードのことです。M14はこういったカードで満ちあふれています。ビーストと獣使い、魔女と大釜とイモリ、それに私のお気に入りの崇拝者と呼び出された悪魔。これらの存在が、この基本セットにこれまでの基本セットとは異なる雰囲気をもたらしてくれています。とはいえ完全に作り直されたのではなく、そう、発展したのです。
再録の扱い
基本セットに関して忘れてはならないことは、再録の量です。100枚から150枚もあります! つまり、セットの雰囲気は何を再録するかによって変化するのです。私のチームは可能な限り相応しい再録(スリヴァーのサポート、系統や組み合わせに必要なカードを見付ける、など)、そして、それ以外でも面白くて多様なゲームプレイをもたらすカードを見付けるという素晴らしい働きをしてくれました。
これは『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』とも強い関わりがあります。デュエルズでは、プレイヤーは特定の順番で(次元の並びによる)カードを体験するので、私たちは対になる基本セットでもクリエイティブ的な文脈をもたらすように最大限の努力をします。M14でも、D14で必要な次元に対応する必要がありましたから、クリエイティブ・チームのコンセプト担当は私たちのバニラやフレンチ・バニラ、有力再録カードがその環境に存在できるようにしっかり働いてくれました。
《燃え立つ調査》
他にも、この初めての基本セットのリーダー体験から話したいことはありますが、記事がかなり長くなっていますので箇条書きに留めておきます。新人リーダーですが、新しいことに挑戦し、マジックのセットをデザインするうえでの標準となることに挑戦できたことは本当に誇りに思っています!
- いくつかの調査を行なったこと。スリヴァー(当時はもっとよく分からないクリーチャー・タイプだった)と、セット内のカードの特定のバージョン(ちなみに〈古きものの目覚め〉だ)について。それらの社内調査の結果からどうあるべきだと思われているか、またそれへの賛否の意見をを掴むことができた。
- デベロップ終盤のドラフト・プレイテストが少々足りないと思ったので、最終の「磨く」フェイズで8人のグループを作り、そこでドラフトを3回続けて行なった。デベロップと私は、もしこのドラフトの間に2〜3枚だけのカードしか変わらないようなら、成功していると判断することにしていた。実際に変更されたのは2枚で、実際、このセットはドラフトしていてとても楽しかった(バイアスがかかってはいない。うん。)
デベロップは現在、セットを磨き上げる間に(最低でも)1日のドラフト日を設けていて、私はなんとなくいい気分になります。私は新人ですが、すばらしいM14という船を率いて、デベロップ・チームにポジティブな寄与を出来たのだと感じられるのです!
《焦熱の結末》
(うん、当然コレだよね)
『基本セット2014』のデベロップを楽しんでいただけたでしょうか? 私は、何にもまして、万物は流転するということを学びました。基本セットには多くの優れた点があり、229枚全てについて話すのはやりがいもあり、また楽しいことです。
私のチームと私が作り上げたこの商品をお楽しみください、そして皆さんがそこから何かを感じ取ってくれることを願っています!
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