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活用と超過の起源
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活用と超過の起源
Ken Nagle / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2012年9月3日
ラヴニカへの回帰はまもなく! 街の雑踏、竜英傑の叫び、かつてのラヴニカを知るものには懐かしい初手級のマナ供給源。ラヴニカへの回帰は私がリード・デザイナーを務めた3個目のセットで、これまでの実績はワールドウェイクと新たなるファイレクシアでした(つまり大型クリーチャーがぽろっと入ってるということです)。その大型クリーチャーを紹介する前に、私がこのラヴニカへの回帰に向けてデザインした2つの新しいメカニズム、ゴルガリの活用とイゼットの超過についての1年以上前の開発部内でのやりとりをお見せしましょう。
ゴルガリの活用とイゼットの超過のメカニズムを掘り下げるにあたって、新しいメカニズムのデザイン中に作った初版の、(プレイテスト用カードは編集者の手を通らないので)書き間違いの混じったプレイテスト用カードをお見せします。この新しいメカニズムがどのように、そしてどうして変化していったのかをお見せし、そして最後に美麗なイラストのついたカードをお届けします。
アート:Slawomir Maniak |
ゴルガリの回帰
ゴルガリはラヴニカの屍術師であり、死をただの強化の一環として捉えています。前回のメカニズムは発掘で、これは墓地のカードを再利用するとともに墓地を肥やす、同じカードを何回も使用できるようにする能力でした。
肥えた墓地はゴルガリ・プレイヤーの最良の友です。ラヴニカへの回帰にあたって、ゴルガリらしい肥えた墓地を維持するとともに、これほどは再利用できないような新しいメカニズムをデザインすることになりました。
消化可能から活用へ
最初のプレイテストにおいては、ゴルガリの新メカニズムは「消化可能/digestable」と呼ばれていました。(書き間違いがあるのに気付きましたか? 正しくは「I」――そう、digestibleです)
《大腐れワーム》
{4}{B}{G}
クリーチャー ― ワーム
消化可能(あなたがコントロールするクリーチャーが1体攻撃したとき、あなたはこのカードのマナ・コストを支払い、これをあなたの墓地から追放してもよい。そうした場合、そのクリーチャーはターン終了時までこのカードのパワー、タフネス、能力を得る。)
死せる《大腐れワーム》の死体を他のクリーチャーが食べてそのサイズや能力をしばらく得る、というフレイバーは充分に魅力的なものです。消化可能キーワードの注釈文は、どのクリーチャーでも使えるように汎用性を持ったものにしました。しかしながら、ゴルガリの消化可能メカニズムにはこれほどのデザイン空間を必要とはしていませんでした。つまり、40枚の消化可能カードを作るのではなく、1ダースほどの消化可能カードを作るということです。ゴルガリのメカニズムは、他の9つのギルドのメカニズム同様、ラヴニカへの回帰とギルド門侵犯にふさわしくなければなりません。それは、ラヴニカのギルドというのは10種類の組み合わせを均等に扱うという本質があるからです。
消化可能の2回目のプレイテストが始まりました。ここで、コストが追加され、注釈文の文章はこう変わりました。
《消化可能な蠍》
{B}
クリーチャー ― サソリ
接死
消化可能{B}(あなたがコントロールするクリーチャーが1体攻撃したとき、あなたはこのカードの消化可能コストを支払い、これをあなたの墓地から追放してもよい。そうした場合、そのクリーチャーはターン終了時まで+1/+1の修整を受けるとともに接死を得る。)
このメカニズムはプレイテストで巧くいったのですが、あまりにはかない、一時的なものに思えました。この修整をより継続的なものにすることにしました。ターン終了時まで+1/+1の修整を受けるのではなく、+1/+1カウンターを試すことにしました。ここで、私はこの能力の名前を活用に変えました。活用のプレイテスト用カードは、今までのコモンの中で最大のコストとなりました(大型クリーチャーですから)。
《大腐れワーム》
{4}{B}{G}
クリーチャー ― ワーム
活用 5-{7}{B}{G}({7}{B}{G}、このカードをあなたの墓地から追放する:クリーチャー1体を対象とし、その上に+1/+1カウンターを5個置く。この能力はソーサリーとしてのみプレイできる)
この版でこのメカニズムは完成に至りました。名前も、中身も。ご存じない皆さんのために言うと、私は過去のセットで《漁る軟泥》というカードや貪食メカニズムをデザインしました。そう並べてみると、私が自分のクリーチャーをお互いに食べるという能力を大好きなのだと気付くかも知れませんね。
《消化可能な蠍》の最終版は、こうなりました。
活用のおかげで、ゴルガリはラヴニカへの回帰における「大型クリーチャー」のギルドとなりました。序盤をしのぎ、長期戦に持ち込んで活用できる骸で一杯の肥えた墓地を活かすろいうものです。ラヴニカへの回帰では、ゴルガリは死体を消化するだけではなく、活用するのです――このように。
アート:Noah Bradley |
イゼットの回帰
イゼット団はラヴニカ全土から集まった狂った科学者の集団です。必要以上に練り込まれた計画と研究所でのトラブルから、彼らは白髪になっています。メカニズム的には、イゼットはインスタントやソーサリーを活かした呪文使いのギルドです。前回のメカニズム複製は、呪文を最後の一滴まで絞り尽くすという彼らの考え方をよく表しているものでした。
分散から超過へ
イゼットの新しいメカニズムも、インスタントやソーサリーのメカニズムにすることにしました。最初に試したのは「分散」。これは私がグレート・デザイナー・サーチ#1(リンク先は英語)の際に提出したメカニズムです。この分散メカニズムは、1つだけを対象にするカードに全てを対象とさせるというものでした。私の提出物はこちらで見ることができます(リンク先は英語)。
《分散的静寂》(コモン)
{W}
ソーサリー
エンチャント1つを対象とし、それを破壊する。
分散{4}{W}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、すべてのエンチャントを対象とする。)
《分散的カビ》(コモン)
{G}
ソーサリー
アーティファクト1つを対象とし、それを破壊する。
分散{4}{G}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、すべてのアーティファクトを対象とする。)
《分散的突風》(コモン)
{R}
ソーサリー
クリーチャー1体またはプレイヤー1人を対象とする。分散的突風はそれに2点のダメージを与える。
分散{4}{R}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、すべてのクリーチャーとプレイヤーを対象とする。)
《分散的抜け道》(コモン)
{U}
ソーサリー
クリーチャー1体を対象とする。それはこのターンブロックされない。
分散{5}{U}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、すべてのクリーチャーを対象とする。)
《分散的蘇生》(コモン)
{B}
ソーサリー
あなたの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻す。
分散{6}{B}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、あなたの墓地にあるすべてのクリーチャー・カードを対象とする。)
このメカニズムはトーメントの赤のレア《放射》を元にしたものです。
基本的な考え方は、対象1つを取る赤や青の呪文を全体版にする、というものです。イゼットは呪文の旨みを最後の一滴まで絞ります。対象1つに対する火力、手札送り、強化、破壊、すべてが超過するのです! 「分散」というキーワードは、クリエイティブ・チームが提示してくれたより良い名前「超過」に変更されました。
私のお気に入りの超過カードの、最初のプレイテスト用カードがこちらです。
《火山の鎚の時》
{1}{R}
ソーサリー
クリーチャー1体またはプレイヤー1人を対象とする。このカードはそれに3点のダメージを与える。
分散{3}{R}{R}(あなたはこの呪文をその分散コストで唱えてもよい。そうしたなら、これが対象にできる他の各クリーチャーか各プレイヤーにつき、これをコピーする。各コピーはそれぞれ違うクリーチャーやプレイヤーを対象とする。)
このプレイテスト用カードでは、分散はデザイン開始時に最もよいとされた書式である《放射》の文面を利用して書かれています(《放射》の印刷前のルール・テキストでは「Change all the 'target' in target spell to 'each'」となっており、これはデザイン中における私のイメージしていた分散能力そのものでした。この「target becomes each」という実装について、ルール・マネージャーのマット・タバック/Matt Tabakに感謝します。)
(訳注:この、文章変更効果を持つ自己置換能力としての実装は、日本語版のカードでは行なわれていません。日本語版の注釈文では、当該効果によって変更された文章を訳したものが記載されています。)
時を経て、実際の分散の実装と《火山の鎚の時》は様々な形の、まったく違うカードになっています。
「クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。それに4点のダメージを与える」という呪文を分散することによって「各クリーチャーと各プレイヤーに4点のダメージを与える」にすることは簡単でしたが、他の分散カードはそう簡単ではありませんでした。《炎の波》のようなカードよりも《蒸気の突風》のようなカードのほうが多い一方で、《炎の波》を唱える方が《蒸気の突風》を唱えるよりも好まれます。さらに問題点を挙げるなら、分散では「クリーチャーかプレイヤー」を「クリーチャーとプレイヤー」に変更しなければ、《金屑の嵐》のような処理が正しくなってしまいます。
《火山の鎚の時》と同じように、他の分散カードもその対象を強化するもの、弱体化するもの、どちらともつかないものに分類されます。マジックのほとんどのカードは2種類のどちらかに分類できます。
- 私にとって有利になるもの(「クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで先制攻撃を得る。」)
- 相手にとって不利になるもの(「クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで飛行を失う。」)
しかしながら、もし「クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで先制攻撃を得る」を「各クリーチャーはターン終了時まで先制攻撃を得る」に書き換えたとしたら、このカードは自分にとって有利とも相手にとって不利とも言えないものになります。同様に、「クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで飛行を失う」を「各クリーチャーはターン終了時まで飛行を失う」に書き換えたとしても、それは有用なメカニズムとは言えません。
つまるところが対象の話
私たちの取った解決策は:
- あなたがコントロールするクリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで先制攻撃を得る。
- あなたがコントロールしていないクリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで飛行を失う。
この調整によって、「あなたがコントロールする各クリーチャーはターン終了時まで先制攻撃を得る」「あなたがコントロールしていない各クリーチャーはターン終了時まで飛行を失う」という狙い通りの文選結果が得られるようになりました。カードによる不利益が発生しないよう、全ての超過カードには「あなたがコントロールする」「あなたがコントロールしていない」という文面が使われています。
そして、《火山の鎚の時》の最終版、あなたのブースターから出てくるものはこうなりました。
ラヴニカへの回帰の際には、イゼット団があなたの呪文を超過させるのをお楽しみ下さい。あなたの《炎の斬りつけ》は次なる《炎の波》かもしれません。
ラヴニカ最智の存在
さて、それでは約束の大型クリーチャーをご紹介しましょう。
- 帰ってきた奴
- 神話レア
- 伝説のクリーチャー
- 多色
- イゼット
- ドラゴン
- ダメージを与える
- カードを引く
- その両方が同時に発生する
このすべての条件を満たすカード、そう聞けば誰もが想像するでしょう。《竜英傑、ニヴ=ミゼット》です。
このデザインは元の《火想者ニヴ=ミゼット》を思い出させるようなもので、誘発型能力が逆になっていることが特徴です。カードを引いたときにダメージを与えるのではなく、ダメージを与えたときにカードを引くようになっています。また、この何年かでニヴ=ミゼットのサイズも増えました。今回は攻撃にも参加できるレベルです。
《竜英傑、ニヴ=ミゼット》 アート:Todd Lockwood |
さらにオマケで、この記事の中にニヴ=ミゼットのプレイテスト用カードを隠しておきました。竜英傑を見付けられますか?
私が私のデザイン・チームとともにデザインに注いだのと同じような楽しみと情熱が、皆さんにも楽しんでいただけたらいいと思います。また、ラヴニカへの回帰のデベロップ、編集、クリエイティブ、それにイラストレイターの皆さんにも多大な感謝を贈ります。来たるプレリリースで、プレイヤーの皆さんがどんな感想を持つか本当に楽しみです。ご意見ご感想は、メール、フォーラム、その他ソーシャル・メディアで教えて下さい。
いつどこであなたがラヴニカへの回帰に触れるにせよ、クリーチャーを活用することや呪文を超過させることをお楽しみ下さい。《竜英傑、ニヴ=ミゼット》はそれを堂々と見てくれることでしょう。
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