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未回答問題:イニストラード

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未回答問題:イニストラード

Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru.

2011年10月10日


 今回、新しいコラム・シリーズを始めようと思う。大体毎セット、多くの質問が私のところに届けられてくる。これまでもコラムでできる限り多くの質問に答えているつもりだが、答えないままに見逃しているものや、その答えに対する再質問などもあった。「未回答問題」は、よく質問されているなかでまだ答えていない質問に答える場所である。今日取り上げるのは、言うまでもなく、世に出たばかりのセット「イニストラード」に関するものだ。


マジックの歴史上、青のゾンビがいなかったわけではありません。なぜ再録しなかったんですか?

 一つずつ見ていって、なぜ再録されなかったかについて説明しよう。

Drowned》(ザ・ダーク)?全ての青のゾンビのなかで、最も質問されたのはこいつだ。このカードにはいくつかの問題があった。1)映画「ゾンビ」型のゾンビであって、青と言うよりも黒にふさわしいものだった。2)色違いの起動型能力を持っていた。その色もゾンビの色ではあるけれど、イニストラードで色違いを使うのはフラッシュバック呪文だけに決めていた。これ1つだけを例外とするのはいかにも据わりが悪い。3)クソカードだった。ゾンビをイカしたものにするのが目的で、クソカードにするのは目的ではなかった。

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浅瀬の海賊》(ホームランド)?1)ゾンビ海賊に恨みがあるわけではないが、イニストラードにはふさわしくない存在だった。2)フランケンシュタインの怪物より映画ゾンビのゾンビに近い。3)現在は船であるクリーチャーを作ることは避けている(ホームランドではこのカードはゾンビではなく船だった)。4)イニストラードの青のゾンビは自分のライブラリーを削るものであって、相手のライブラリーを削るものではない。

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メタスランのゾンビ》(インベイジョン)?これは《Drowned》と同じ(名前は違うが)ものだ。繰り返さない理由も同じだ。

破れ翼のドレイク》(ラヴニカ)?このカードの最大の問題点は、色違いの起動型能力だった。また、再生は映画「ゾンビ」系のゾンビの象徴でもある。

命運縫い》(アラーラの断片)?このカードは蘇生というキーワード・メカニズムを持っていて、イニストラードには蘇生メカニズムは存在しない。


なぜ蘇生でなくフラッシュバックを再録したんですか? 蘇生の方がホラーっぽいと思うのですが。

 この質問への答えはいくつも存在する。

答え1)このセットの他の要素の多くがクリーチャーに関連するもので、クリーチャーにはもう弄る余地がなくなっていた。たとえば、部族メカニズムはもちろんクリーチャーに関連するものだ。セットの中に同じところを弄る要素が大量に入りすぎると、デザインするために必要な領域がなくなってしまう。それを避けるために、メカニズムを複数のカード・タイプに分けることが重要になる。すでに採用を決めていたメカニズムがクリーチャーを中心にしていたので、墓地メカニズムの一部をインスタントやソーサリーに振り分けることが重要になった。また、フラッシュバックは蘇生よりもずっと汎用性に富むものだ。

答え2)このブロックの後半で――え、ああ、まだ言っちゃダメだそうだ。うん、まあ、これについては忘れてくれ。問題ない。後になれば諸君にも分かることだ。


イニストラードに憑依が入らなかったのはなぜですか? ホラーと言えばこれでしょう?

 確かに憑依はフレイバー的には言うこと無しだが、メカニズム的に問題があったので考慮もされなかった。市場調査によると、(憑依が導入された)ギルドパクトのころのプレイヤーは何が起こるのか理解するのが難しかったと出ている。メカニズムの質として注視しているものの一つに、覚えやすさがある。つまり、プレイヤーがすぐにそのメカニズムが何をするか思い出せるようでなければならないのだ。憑依はこの点で失格であった。


何でこんなに多くの「バニラ」の狼男を作ったんですか?

 最初に言っておくと、狼男はどれも狼男メカニズムを持っているので、バニラ/クリーチャーではない。コモンの狼男の多くが狼男メカニズム以外の能力を持たない理由は、他のコモンを単純なものにしているのと同じで、ゲームのプレイを簡単にするためである。プレイヤーはいきなり複雑な局面になるのではなく、次第に複雑さを増す方を好むものだ。そこで、我々は、リミテッドで頭がこんがらがらないように、コモンを単純なものにしているのだ。

 諸君がカード単体で見るときには、すでに中身を理解しているのだから非常に簡単である。狼男がどう動くのかを知っていれば、この長い文章は無視できる。しかし、狼男メカニズムは、狼男が戦場にある間は無視できるものではない。「バニラ」の狼男でも、ゲームには巨大な影響を与えるのだ。


狼男メカニズムに名前をつけなかったのはなぜですか?

 そうしなかったのは、両面カードはすでに新しい用語「変身」を作っているからである(ちなみにルール上はこれをキーワード処理と呼んでいる)。キーワードの中にキーワードを入れ込むことは頭痛の種になるので、全ての狼男が同じように動くにもかかわらず、そして指し示すのに便利になるにも関わらず、名前をつけるのをやめた。この問題がなければ、我々がキーワードに(あるいはおそらく能力語に)したのは間違いない。


イニストラードの世界を(ホームランドの舞台である)ウルグローサにしようとは思いませんでしたか? よく似た世界だと思うのですが。

 ウルグローサにすべきかどうかは議論の対象となった。しかし、いくつもの重大な問題があった。

1)その世界に何があるかを定義する自由度が失われる。このセットは全体としてホラーの世界を描くのが目的なので、すでに存在する世界を使うことは望ましくない。

2)直前のブロックでミラディンに戻ったところだった。すでに訪れた次元を再び訪れる意思はあるが、毎年それでは食傷するというものだ。

3)不幸なことに、ホームランドはけちがついているセットなので、「ホームランドに戻る」と言ったところでヒキにはならない。


吸血鬼や狼男が、ゾンビとスピリットのように、色によって性質が違うようにしなかったのはなぜですか?

 すでに語ってきたとおり、黒のゾンビは映画「ゾンビ」型のゾンビであり、青のゾンビはフランケンシュタインの怪物を連想させるゾンビである。青のスピリットはいわゆる亡霊で恐ろしいものだが、白のスピリットは助けになるような祖霊たちだ。吸血鬼や狼男も同じようにクリエイティブ的に分類できるだろうか? 分類が出来ないわけではないが、その差異はほんのわずかしかない。なぜか? それは、クリエイティブ的な要求がそれで満たされているからである。

 青と黒のゾンビは、必要性によって分類された。黒には青くないゾンビがおり、その逆も同じである。同様に、デザインは他の4色と白とを区分しようと努力し、白には邪悪な怪物がいないようにした。これによって、白と青のスピリットはまったく別物になったのだ。

 吸血鬼や狼男にはこのような問題は存在しなかった。吸血鬼は黒でも赤でも理解できたし、狼男は赤でも緑でも理解できるものだった。厳密に区分する必要がそもそもなかったのだ。


○○はどこですか?(○○にはイニストラードに存在しないホラーのネタが入る)

 何かが存在しない理由は、大抵は以下の4つのうちのどれかだ。

1)イニストラードという世界観に合わなかった。チェーンソーやほうきの柄が採用されなかったことについてはこの間書いたところだ。

2)デザインしようとしたが巧くまとまらなかった。

3)トップダウンのフレイバー重視のセットを作る上で、想像されるもの全てを挙げることが含まれる。イニストラードはかなりの部分をカバーできたと思うが、カードの枚数には限りがあったのだ。

4)イニストラード・ブロックはこのイニストラードだけで終わりではない。


ゾンビの中に、タップ状態で戦場に出るのとそうでないのがいるのはなぜですか?

 デザイン上でよくある失敗の一つに、必要以上に強くメッセージを放ってしまうことが挙げられる。我々はゾンビに「動きがのろい」というフレイバーを持たせたかった。そのために。「タップ状態で戦場に出る」という能力を、数枚のカードに持たせたのだ。全てのゾンビ・カードにこの能力をつけると、ゾンビに書かれている文字が増え、自由度も下がってしまうことになる。ある一連のカードに同じメカニズムを持たせるときは、特に注意が必要である。そうする場合、我々は危険な道を歩んでいるということを意識しなければならない。

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カードの中に「吸血鬼、狼男、ゾンビ」と列記してあるものと「人間でない」と書いてあるものがありますが、なぜ統一されていないんですか?

 デザイン中に、統一した方が良いと思うところと、ばらつきを持たせた方が良いと思うところとが存在する。テストプレイにおいて、イニストラードにはもう少しばらつきが必要だと判明したので、今回はそちらを選んだのだ。


ルーデヴィックの実験材料》が卵じゃないのはなぜですか?

 卵はもうクリーチャー・タイプとしては存在しない。本当に残念だ。


なぜ、基本セット2012に入っている《帰化》をイニストラードにも入れたんですか?

 基本的な汎用呪文のいい亜種がないとき、元の呪文を入れることは良くある話だ。セットにふさわしくない亜種を入れるのは、いずれその亜種が必要になったときに困ることになる。そもそも最初にこのセットに《帰化》を入れたとき、基本セット2012に《帰化》が入るかどうかはまだ決まっていなかったのだ。


赤に呪いが多いのはなぜですか? 白や緑に呪いがないのはなぜですか?

 デザインにおいては、白以外の全部の色に呪いを配置した。白を除いたのは、このセットにおいて白が「善い」色であり(カギ括弧をつけているのは、通常、白が「善い」と決めていないからである)、呪いは「悪い」イメージがあるからである。デベロップの間に、呪いは再配置され、赤の領分が広くなった。《うろつく餌食の呪い》はもともと緑で、「おいしい呪い」と呼ばれていた。これは、イニストラードのデザイン・チームの一員であり、カードのコンセプト的なもの(アーティストに出すイラストの指示を作ったり)を一手に引き受けていたジェンナ・ヘランド/Jenna Hellandがデザインしたものだ。ジェンナの仕事については、彼女自身がコラムにまとめている(リンク先は英語)。

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イニストラードのパックに複数のレアが入っていることがあると聞きましたが、どういうことですか?

 説明する前に、今から言うことは「ほとんどの」イニストラードのパックの中身のことだということを強調しておきたい。そうでないこともまれにあるのだ(正常だ異常だという言い方をしないようにと法務部から言われているので、これだけ強調しておこう)。

 さて、(たいていの)イニストラードのパックから出てくるのはこうなっている。

・レアまたは神話レア1枚

・両面カード(稀少度はコモンから神話レアまである)1枚

・アンコモン3枚

・コモン9枚

・土地(25%)またはチェックリスト・カード(75%)1枚

・ルール・カードまたはトークン・カード(裏面は広告)1枚

 両面カードでないフォイルが入っている場合、コモンの1枚がそれに入れ替わる。これが起こったとき、レアや神話レアが2枚入っている可能性が生じるわけだ。

 両面カードのフォイルが入っている場合、両面カードがそのままそれに入れ替わる。

 この結果、パック1つから得られる最良の組み合わせは、フォイルの両面カード、フォイルの神話レア、通常の神話レア、ということがあり得る。たとえば、フォイルの《情け知らずのガラク》/《ヴェールの呪いのガラク》と、フォイルの《ヴェールのリリアナ》、それにフォイルでない《ヴェールのリリアナ》が入っている可能性があるのだ。


両面カードが変身したら別の色の能力を持つようになるのは問題ないんですか? 毎ターン1点のライフを失わせる3/3が白にいたり、5/1クリーチャーが青にいたりするんですよ?

 このコラムでも、何度もカラー・パイについては取り上げてきた。私は、考え無しに色を混ぜることに最も反対している人間の一人である。では、なぜこの場合は問題ないと判断したのか? 色を混ぜることの最大の危険性は、その色の弱点を克服してしまうことにある。ここで挙げられている2枚はどちらも、通常は存在しないクリーチャーを得られるようにするだけで、色の弱点を克服できているわけではない。また、どちらの色変化もフレイバー的に非常に自然なものである。どちらもこのセットの目玉となるカードであり、賛成のほうが反対よりも多かったのでデザイン中に取り入れることになったのだ。


両面カードはなぜクリーチャーがクリーチャーになるものだけなのですか?

 ホラーの物語で変身と言ったらクリーチャーだから、というのが大きな理由である。大抵、何らかの生き物が他の生き物――あるいは化け物、になるものだ。

 また、新しいデザイン空間に足を踏み入れる時は、まず最もわかりやすく単純なものから始めるのが肝要である。ブロック中にはさらなる両面カードが登場するが、その中にはクリーチャーからクリーチャーになるものではないカードも存在することだろう。


両面カードはなぜ反転カードではなかったんですか?

 最初の大騒動が一段落ついて、私は両面カードに関する多くの反響を受け取った。プレイヤーの大多数は、両面カードを楽しんでいるようだ。両面カードを反転カードでは作れなかったのかという質問は沢山寄せられている。反転カードを使えば、両面カードで生じた外部的な問題を起こさずに済んだだろう。

 この問題に対しては、すでに一度答えているが、なおもこの質問は絶えない。今回は、これについてもう少し完全な回答を提示することにしよう。なぜ反転カードではないのか、その理由には次のようなものがある。


1)開発部は反転カードを失敗作だと思っている

 ゴッドブック研究や市場調査といったものについて語ってきた。それはつまり、セットを後になってから見直し、プレイヤーからの反響を聞くということである。何かが成功したかどうかを知りたいのは、成功していたならそれをもう一度戻すことができるし、失敗していたなら二度と使わないか、あるいはその問題点を克服する方法を見つけることができるからだ。

 反転カードは市場調査の結果、非常に評価が低かった。プレイヤーは反転カードを嫌いなのだ(理由? これから推測するとも)。失敗したと分かっているものをなぜ繰り返す必要があるのか? 現在、両面カードが失敗したと仮定してみよう(実際にはそうでないと調査結果は物語っているが)。それでさえも、すでに失敗したことをそのまま繰り返すより、まだ成功するかどうか分からない新しいものに取り組む方がいいに決まっている。


2)反転カードは美しくない

 なぜ反転カードの評価が低いのか? 私は、メカニズムによるものではないと考えている。なぜなら、「カードが他のカードに変化する」というメカニズムは他にもあり、それらは反転カードのように評価が低くはないからである。反転カードが不評な理由は、単にそれの見た目が悪いからだと確信している。

 デザインにおける美学については常々語ってきた。この問題は、ゲーム上の美学と言うよりも見た目上の美しさに起因しているが、どちらもそう遠い話ではない。詰め込みすぎなのだ。たとえば、両面カードを反転カードで作ってみよう。すぐに分かるとおり、場所が足りなくなるので、コモンの「バニラ」狼男である《苛まれし最下層民》/《猛り狂う狼男》を作ってみることにする。

 両面カードの形では、こうなる。

 反転カードの形だと、こうだ。

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 枠に入るように、いくつかの要素が削られている。イラストは切り取られ、両面カードでは見て取れる物語が消えた。場所がないのでフレイバーを重視することができないのだ。スペース的に可能なのは、人間形態と狼男形態を描くことだけで、それ以上のことは全て取り払われた。文章欄の問題で、フレイバー・テキストもなくなった。そして、もう一つ、パワー/タフネスの欄を作るために、クリーチャー・タイプにあった戦士も取り除かれた(訳注:英語では。日本語ではたまたま文字数が少ないため、クリーチャー・タイプは入ったままになっています)。

 この問題は機能の問題ではなく、形の問題である。反転カード版は重要なフレイバーを失っただけでなく、カードに全てを詰め込まなければならないので狭苦しくなるのだ。


3)必要なスペースが足りない

 先ほど例示したのは「バニラ」の狼男だ。ほとんどの狼男は「バニラ」ではなく、より多くのルール文章が書かれている。他の両面カードにしてもそうだ。まして《情け知らずのガラク》/《ヴェールの呪いのガラク》に至ってはなおのことである。反転カードを使わなかった理由の一つには、カードに文章が入りきらないということがある。

 文字を小さくすればいい? 確かにそれで入るものもあるが、そうなると読むのも難しくなり、またなおさら狭苦しい感じになってしまう。ものによっては、それこそ《情け知らずのガラク》/《ヴェールの呪いのガラク》などはどうやっても入らない。

 これが、反転カードを使わずに両面カードを使った理由の説明になっていれば幸いだ。


質問募集中

 以上で今日のコラムは終わりである。諸君がこの新シリーズをどう思ったか、意見が聞きたいと思っている。「未回答問題」は将来のセットについても欲しいだろうか? 意見を聞かせて欲しい。メールでもツイッターでも構わないし、他のソーシャルメディアを使って貰っても構わない。

 それではまた次回、アンデッドの話でお会いしよう。

 その日まで、あなたの質問への答えがあなたとともにありますように。


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