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狼男、猛る
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狼男、猛る
Tom LaPille / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru
2011年9月16日
アオーーーーーン!
イラスト Michael C. Hayes |
ああ、いや、こんにちは、ご機嫌いかが? 間違いなく私は元気です。
ええ、はい。読みたいのはデベロップの記事ですよね。今出しますよ。まずはプレビューカードから。目に見えない? いえいえ、ここにありますとも。
さて。
イニストラードでの大事件と言えば、まずは両面カードです。
デザインとデベロップの連携を少し強めるために、各セット、両チームに所属する人を1人置くようにしています。イニストラードに関して言えば、その役目は私が担当しました。これによって、私は2つの理由から奇妙な立ち位置についきました。
まず、マークに両面カードというアイデアを投げかけたのは、私です。私はデュエルマスターズで最初に両面カード、後に「超次元カード」と呼ばれるようになったカードが作られたときのデザイン・チームに所属していました。マークが変身をメカニズム的に表したいと言ったとき、私はすでにそれについて調べた後だったのです。
《夜明けのレインジャー》《黄昏の捕食者》 イラスト Steve Prescott |
これは私にとっての新しい役割でした。デベロップはマジックのカードを作るうちの正気の側を担うものです。プレイヤーから、なぜ両面カードを神河のような反転カードにしないのかという質問を受けましたが、もちろん私たちは狂気のデザイナーたちを何とか引き留めようと努力したのです。神河ブロックの要素の中で時を経て進化していったものがありますが、反転カードはその中には入っていませんでした。反転カードには現時点で以下のような問題があります。
- イラスト枠が狭く、その中にある存在の2つの状態を描く必要がある。その結果、どれだけ完璧に仕上げても落ち着きの悪いものになる。
- 各側の文章欄が非常に狭くなる。
- タップ状態の時に、どちらの側なのかがわかりにくい。
- 変身前と変身後を同じ絵の中に入れるのは難しい。
デベロッパーは、セットにおける最終的な数を調整する番人ですが、セットを魅力的ですばらしい物に仕上げる責任もあります。やがて、両面カードの様々な問題を踏まえても、変身を描写するのには完璧だということが明らかになりました。このセットをすばらしいものにしてくれるものでしたから、削減するということは選びませんでした。ファイルを受け取った私たちは、問題解決に取り組んだのです。
問題解決のための最初の一歩は、その問題を認識することです。それが、イニストラードのデベロップにおける新しい挑戦でした。デベロップ・チームが最初に目にしたのは、それこそありとあらゆる種類の問題でした。セットに注視してもらえたのはよかったのですが、その問題視されている中のいくつものことに私自身も関与していましたので、私がやることはそれらの要素が生き延びられるように守ることでした。
イニストラードのデベロップ初期に守らなければならなかったものの一つに、「狼男メカニズム」があります。このセットがデザインからデベロップに渡されたときには、すでにこの印刷されたものとまったく同じデザインになっていました。
陰鬱やフラッシュバックのように名前のついているメカニズムではありませんが、セットの根幹をなす要素です。私たちは、フレイバー的にいい方法で狼男を変身させたいと思っていました。昼/夜を持たせるというメカニズムは完全にうまく行ったとは言えませんでしたが、全ての狼男が同時に同じ方向に変身するというメカニズムであればフレイバー的に問題ないという知見を得ていました。
また、プレイヤーが変身を操作できる必要があると言うことも重要です。映画での狼男は破壊の暴走列車みたいなイメージがありますが、マジックのゲーム内でプレイヤーを長距離列車に閉じ込めるのは良くないということが分かっていました。プレイしていて楽しいメカニズムにする必要があったのです。
実際の狼男メカニズムができあがる前にはいろいろな試みがなされましたが、最終的にはこのデザインに満足していましたし、これ以外にいい方法はありませんでした。つまり、私にはこのデザインを他のデベロッパーの手から守り抜く必要があったのです。このメカニズムを防衛するために私の取った手法は単純でした。充分このメカニズムをテストプレイしてもらってから、ファイルの一部として提示したのです。私たちはこれを好きで、そうでなければ提示しません。判断を下す前にプレイして下さい、と。
《クルーインの無法者》《クルーイン峡の恐怖》 イラスト David Rapoza |
大抵において、デベロップの間に行なわれるプレイテストは、デザインの間に行なわれるプレイテストよりも競技的です。そしてその結果、それまで気づいていなかった狼男メカニズムの性質が浮かび上がってきました。このメカニズムがホラーというジャンルにふさわしい速度感をもたらしたのです。映画のタイトルになるような怪物は、いきなりパッと現われたりはしません。不気味な音楽とゆっくりしたカメラワークに彩られて緊張を高めたあと、ゆっくりと姿を見せるのです。狼男が変身する直前の、呪文が使われないターンはまさにそういう溜めのように感じました。もう一つ、いくつかのゲームで体験した私が気に入ったのは、相手の狼男が変身しないようにするために毎ターン呪文を使う必要があるということです。毎ターン切れ間なく呪文を使えるかどうかを自問しなければならないということが、さらに緊張を高めてくれます。できるときもあれば、できないときもあります。そしてできなかったときに敵の狼男が変身して襲いかかってくるというのは、まさにドラマチックな結果でしょう。ゲームのペースという観点から言うと、理想的です。
最初のテストプレイの後、デベロップ・チームは渡された狼男メカニズムを採用することに決定しました。ただし、いくつかの問題が発見されました。最大の物は、自分の狼男を変身させるためのコストは重すぎるというものでした。基本セット2012環境は私の予想以上に非常に速いもので、ドラフトで《火山のドラゴン》よりも《火葬》を優先するような競技プレイヤーが存在しています。なぜなら、第6ターンというのはあまりに遠く、それよりも除去呪文の方が重要だからです。そういった世界では、1ターンの間呪文を唱えないことは死に直結します。イニストラードをそういう環境にするわけにはいきませんでした。
エリックはこれに気づき、イニストラードのリミテッドを基本セット2012よりも遅い環境にすることにしました。イニストラードにもアグロ戦略を助けるカードは存在しますが、それはあくまでも例外となります。狼男は呼吸する時間が必要で、プレイヤーは重いフラッシュバック・コストを支払うためのマナが必要で、ホラー映画には盛り上げを作るための時間が必要です。これは、前に言ったように、基本セット2012の速度と好対照をなすことができました。
デベロップの初期を通して、私たちは望ましい速度を守り、減速しました。その結果、予想外の副作用が生じました。全てのデッキが遅くなった結果、ゲーム開始直後のターンに唱えられる呪文の数は減りました。その結果、マナ・コストの小さい狼男は即座に狂乱に踊ってしまうことになります。第2ターンに狼男を唱えたら、もはや即座に変身することが確定しているようなものです。変身後の姿が強力なクリーチャーだとしたら、対戦相手をなぎ倒す戦力を手に入れてしまいます。狼男を変更することなく環境を遅くすると、その世界は軽い狼男への対抗策を失ってしまうのです。
私たちがイニストラードのデベロップをしている間、マジックの観戦記者ビル・スターク/Bill Starkは社内での編集作業をしていました。そして、プレイテストの間に、彼はこの問題への対処法を見つけたのです。彼は狼男には非常に否定的でしたが、両面カードの存在が必要であることや特定のメカニズムに苛立たされたことには腹を立てていないようでした。彼が腹を立てていたのは、対戦相手の狼男の変身を止めることができず、第5ターンに押し負けたことで、これは正当な批判だと思いました。
ビルのその経験は不幸な物でしたが、それによって私たちは一部のカードを変更することにしました。最終的には、それは有意義だったと言えます。実際、今日のプレビュー・カードはそうして変更されたカードのうちの一枚なのです。
それが、こちらです。
このカードのどこを変更したのか、理解できないかも知れません。確かにこの状態でも、非常に攻撃的なカードです。デザイン・チームは、1/1の人間・狼男クリーチャーが変身できる先をどの程度強力にできるかという練習としてこのカードを作りました。このカードは非常に強く見えますし、実際に構築環境でも使われるほどに強いカードですが、フューチャー・フューチャー・リーグのプレイテストをくぐり抜けました。このカードは、楽しいと同時に公正なものだと考えています。
《無謀な浮浪者》 イラスト Michael C. Hayes |
イニストラードのリミテッドに話を戻しましょう。このカードをリミテッドで使えるように、どう変更したかです。少しばかりトリッキーな話で......このカードに施された変更はただ一つ、稀少度でした。プレイテストの時には、このカードはコモンでした。ですから、ビルは1マナの3/2クリーチャーにやられる回数が少しばかり多すぎ、先に言ったような反応を示したのです。私たちはこのようなカードをコモンから外し、代わりに次のようなカードをコモンにいれました。
このカードは何のためらいもなく相手を叩き潰してくれます。7/7は巨大で、カード1枚でこれほどの打撃を与えてくれるようなコモンはそうはありません。しかし、このすさまじい打撃を与えるようになる前には、少しばかりの時間があります。最終的には、私たちはこういうカードを入れることでドラフトやシールドがより楽しくなっていると感じました。
先日告知したドラフト規定からの変更
ドラフトと言えば、最後に言っておかなければならないことがあります。両面カードのドラフトについて、先日告知した方法に少しの変更を加えることを決定しました。両面カードをピックした場合、次のカードをピックするまでの間、そのカードを他のカードの束の上に置くことが義務づけられます。これは他のプレイヤーに情報を公開することになり、カードの情報を隠すことが出来るかどうかと言う手先の器用さによる有利不利が発生しなくなります。これからは、公開される情報だけを意識して両面カードをピックすれば良くなるのです。
書き添えておくと、何をドラフトしたかの情報が他のプレイヤーに知れることを危惧する声があります。ドラフトの初期に、その情報が公開されるのは本当に有利になると思いました。私が《情け知らずのガラク》を引き当てたことが分かれば、自分が緑を使うという強い主張になります。そこで私は全員に私が持っているものを公開することを気にしないようになりました。それによって周りの人が緑を回避したなら、それはもう最高です!
さて、これでイニストラードのプレビュー特集はおしまいです。今週末はプレリリースです、皆さんお楽しみ下さい!
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