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来いよイニストラード その2
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来いよイニストラード その2
by Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru
2011年9月12日
イニストラード・プレビュー第3週にようこそ。今日はイニストラードのデザインについての話の続きと、トップダウンのプレビュー・カードの公開を予定している。これまでの2回の記事(「両面それぞれの物語」「来いよイニストラード その1」)を読んでいない諸君は、今すぐ読みに行ってからこの続きを読んでくれたまえ。
全てはホワイトボードの上に
イニストラードの最初のデザイン・ミーティング(メンバーはトム・ラピル/Tom LaPille、ジェンナ・ヘランド/Jenna Helland、グレアム・ホプキンス/Graeme Hopkins、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfield、そして私)の最初にやったことは、ホラーと言えばこれ、というものを思いつくままに書き出すことだった(そのリストを見たい諸君もいるだろうが、残念ながらそのリストは記録していなかったので完全なリストは私も持っていないのだ)。前回、そのリストに載せられた様々な種族について話したので、今回はそれ以外のことについて触れていくことにしよう。
死
一見すると、これは少しばかり範囲が広すぎるようにも思える。しかし一歩引いてホラー・ジャンル全体を俯瞰してみると、死がどれほど基礎になっているかが分かるだろう。多くの物語では、死は物語の最後になる。キャラクターが殺されたなら、そのキャラクターは二度と舞台に出てくることはない(確かに、他の「フィクション」の世界でも――サイエンス・フィクションやファンタジー、スーパーヒーロー物――死んだら終わりとは限らない、その通りだ)。しかし、ホラーにおいては、死は物語の最初になることすらある。たとえば、人間が4大怪物のうちの3つ(吸血鬼、ゾンビ、幽霊)になるのは、死んでからだ。ホラーの世界では、死んだ後の状態を示すために「アンデッド」という用語を使うことすらある。
イラスト Randy Gallegos |
それにもまして、化け物の仕事の大部分を占めるのは、殺すことだ。彼らは死をもたらすのだ。前回言ったとおり、メタストーリーとでも言うべきものの主役は人間だと私は信じている。死に取り巻かれた世界にとらわれ、自分たちがゆっくりと怪物に変わっていくのを自覚する。ホラーを表現しようというなら、死にデザイン上のコンセプト的な重みを持たせなければならないと感じた。そこで、私は「死テーマ」を加えることになった。
様々な方法を試したが、最終的には、「何かが死んだらボーナスを得る」という単純にして明確なものに集約していった。デザインにおいて、我々はこれを「deathwatch/看取り」という能力語で呼んでいた。能力語という言葉に慣れていない諸君のために説明させてもらうと、複数のカードにおいて能力が同じ、あるいはほぼ同じ場合(賛美などがこれだ)、あるいは、その能力を名前で参照しなければ処理できない場合(到達がこれにあたる)にはキーワードを使う。能力語は文章の前にダッシュとともにつけられている単語で、ただ書かれているだけである。それをメカニズムだと分かるように、フレイバー的に、また参照のために名前を与えたいと思ったものの、キーワードにするほどの統一性がない場合に能力語を使うのだ。
もう一つ、看取りの関連で「死亡」という単語が創造された。この単語は基本セット2012から導入されたが、そもそもは看取りのために存在したのだ。最初の看取りのテンプレートは「このターンに何かが死亡していた場合」というものだった。最初は、書くのが楽で印象的だという理由で、これを省略語として使っていた。
やがて、私はふと「これは今のままよりいいんじゃないか?」とつぶやいた。そうだという自信は持てなかったので、この問題を開発部の他の面々に投げかけてみた。私の主張は、すでに誰もがスラングとして使っているこの言葉をカードに使うと、言葉も少なく、またフレイバー的にもいい雰囲気をまとうようになるんじゃないかということだった。どちらも、開発部が必死になって取り組んでいることだった。これに関していろいろな議論はあったが、最終的にはアーロン/Aaronが「死亡」を新しい術語として採用すると決定したのだった。
陰鬱に関するデザインとデベロップにとっての大問題は、ただどんな効果にでもつければいいというものではないということだった。例を挙げると、戦闘用のメカニズムにつけてもまともには働かない。なぜなら、クリーチャーが死ぬのは戦闘の解決時であって、その前に効果を使いたいものだからだ。これは「気持ち悪い」(開発部の言い回しで、デザイン上の問題によっていらいらするような楽しくないプレイをもたらすカードを指す)。同じことがリアクション系のカードにも言える。何かが死亡している状態で、かつリアクション系のカードを使いたい状態になるということはかなり厳しい条件だ。
デベロップの間に行なわれた変更には、他に、色の濃縮がある。デザインは、死を司る色である黒と緑を中心に、全ての色に陰鬱メカニズムを与えていた。デベロップはこれをさらに緑に寄せた。それによって緑にメカニズム的な独自性を与えたのだ。もう一つ、デザインがやったことは、色ごとの陰鬱の使い方を分けることだった。たとえば、緑の陰鬱クリーチャーは大きくなる、といったようなもので、我々はそれを気に入っていた。
もう一つ、「死テーマ」のメカニズムとして、(断片に分かれた世界アラーラの)グリクシス世界から呼び戻したものがある。(実際のカードでは名前がついていなかったが)内部的には「虐殺」と呼んでいたメカニズムで、何かが死んだときに誘発するものだ。これを陰鬱に加えて投入したのは、また別の種類の効果をもたらし、「死テーマ」をより濃くできるからである。
墓地
ホラーが死の物語なら、ホラー系デザインにおいては死が存在する場所である墓地もまた強く取り上げられなければならない。イニストラードでは墓地を描いたイラストが大量に存在するが、それはこの単語の意味するところそのものではない。デザインで何をするべきなのかがまだつかめていなかった頃から、私は墓地(マジックで言う墓地)テーマはデザインの一部であると理解していた。前々回語ったとおり、イニストラードのアイデア全体はブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthと私のオデッセイのクリエイティブが墓地テーマを使いこなしていないことに関する愚痴から始まったのだ。
《死の支配の呪い》 イラスト Clint Cearley |
しかし、墓地と言ってもそれをどうすればいいのかは分かっていなかった。最初から、墓地で働くメカニズムか、あるいは墓地を強く活用するメカニズムが必要だとはわかっていた。私が最初に思いついたのはフラッシュバックだった。これは市場調査において最も人気が高いメカニズムで、フレイバー的にも良く、他のテーマとの相性もいい......ので、私は使いたくなかった。
なぜ気が向かないかというと、イニストラードが2つめの「墓地ブロック」になりそうに思ったのだ(墓地テーマというだけならウェザーライトも加えて3度目になる)。一度使ったテーマを再び使うなら、前とは違う方法でなければならない。私は大いに焦った。イニストラードを別物だと受け取ってもらうためには、前回、オデッセイで使ったメカニズムであるフラッシュバックを回避するべきだと思ったのだ。そして、私はとてもイカした墓地メカニズムである探査に思い至っていた。
ここで示した3枚のカードを知らない諸君に説明すると、これは未来予知セットのカードだ。どれもミライシフトのカードで、未来からやってきたものである。これらのカードは、将来のいつの日かにより多く使われることになるメカニズムを紹介するものだ。私がこのメカニズムを作ったとき、イニストラードのことは頭にあった。ホラー世界に行って、墓地メカニズムが必要になると分かっていたので、このメカニズムを作ったのだ。
最初のプレイテストの際に、我々は探査能力持ちのカードを入れていた。そして、重要なことに気がついたのだ。探査メカニズムは、墓地セットでは役に立たない。これは直感には反するもので、実際に墓地セットに入れて見るまで私も気がつかなかった。なぜ探査が役に立たないのかというと、墓地セットは墓地にあるものを必要とするからだ。たとえば、前回、ゾンビらしさを作るために墓地から戦場に戻すカードを作った、と話したが、これはゾンビ軍団を作り上げるための鍵であり、ゲーム環境を定義づけるものだった。
探査は墓地を吸ってしまう。探査能力が存在するセットは、墓地を活かす前に墓地のカードというリソースを使い切ってしまうのだ。言い換えると、探査はこのセットに入れたい、墓地を使う他の全てのものと競合するし、それらは探査よりもフレイバー的に重要な物なのだ。ということで、探査は使われないことになった。将来にわたって探査を使わないという意味ではなく、私が作った時とまったく違うスタイルのブロックに投入されることになるだろう。これはデザインにおけるプレイテストの価値を示している。
さて、チームから墓地メカニズムを提案してもらい、それらをプレイしてみたわけだが。どれもピンと来るものではなかった。その一方で、私は過去のメカニズムをもう一度洗い直していた。アラーラ・ブロックからこちら、各ブロックで最低1つのメカニズムを再録するというデザイン上の指針がある(デザイン空間の節約、ゲームを学ぶことの単純化、それに再録を喜ぶプレイヤーの存在がその主たる理由である)。アラーラの断片にはサイクリングがあった。ゼンディカーにはキッカーがあった。ミラディンの傷跡には刻印があった。では、イニストラードには何があるべきか?
また一方で、我々は変身メカニズムについても忙しく立ち回っていた。当時は昼/夜と両面カードに落ち着いた頃だったと思う。私はその方面の進捗について、またトップダウンのデザインが巧く回っていることについて満足していた。そしてそのとき、私はあることに気がついたのだ。すなわち、墓地にホラーというテーマ性をかぶせることによって、全く違う物になる。イニストラードはオデッセイと似たものにはならない。そこを受け入れたとき、今までずっと悩んでいた問題が氷解していった。フラッシュバックを戻そう。
もう一つ我々がやったことに、各色が墓地をどう扱うかを定義するということがあった。削る(ライブラリーからカードを直接墓地に置く)のは墓地セットでは巧く働くので、これは青の一部となった。これに加えて、フランケンシュタインの怪物系のゾンビ、青のゾンビを唱えるためには墓地にあるクリーチャー・カードを追放する必要があるので、削るのとは相性もいい。
黒は墓地から何かを戻すのに最適な色だ。ゾンビもそうだし、他の黒っぽさとも合う。緑はこれまでも墓地に何かがあるのを参照する色だった。緑は過去に敬意を払う色であり、従って墓地にあるカードに応じて何かをする色である。フレイバー的、メカニズム的な理由から、緑は墓地にあるクリーチャーを参照することにした。
探査はうまく行かなかったのだが、墓地をリソースとして用いるというテーマは気に入っていたので赤(と青のゾンビ)にそのかけらを与えることにした。赤はカラーパイ的に墓地にはそれほどのシナジーを持っていないので、良い銀を赤に与えるべきだと感じた。白は他の4色の「邪悪」に立ち向かう「正義」の色なので(このブロックの話であって、全般的に通用する話ではない)、墓地とのシナジーをそれほど持たせるべきではない。フレイバー的に通るようなリアニメイト系のカードが少しあるが、セットで最も墓地を使わない色であることは間違いない。
墓地に関するデザインの最後の一欠片はリチャード・ガーフィールドからもたらされた。彼がチームにいることに興奮している諸君がいて、彼のなしたこと全てを知りたいと思っているのは分かっている。しかしチームのメンバーとして、彼は他のメンバーと仕事をしているのだ。カード1枚単位で見れば話すことがないわけではない(それは次回と次々回に話す予定だ)が、リチャードが?、リチャードが、と取り立てて言うほどの話はそれほどはない。ここに、1つ例を挙げよう。
リチャードは墓地の復活(墓地にあるカードを手札に戻すこと)に関して指摘した一つの問題は、開発部の用語で言うところの「プレイの繰り返し」問題を生じるということだった。何をするかを選ぶことは出来るが、同じ呪文が何度も何度も唱えられることになり、繰り返しの多い環境を作ることになる。リチャード曰く、引けるカードは無作為なので、通常はこの問題は生じない。
リチャードはこの問題を解決するために、墓地の復活を無作為化するカードを作った。カードを墓地から戻すことはできるが、どちらを戻せるかが分からないというものだ。まだ知らない諸君のために言っておくと、私は無作為の熱烈な信者である(無作為はともだち参照)。リチャードが作ってきたそれを見て、私は一目で気に入ってしまった。どれほど気に入ったかというと、墓地にあるカードを手札に戻す呪文や効果は(ほとんど)全てがそうやって無作為にすべきだというデザイン方針を立てたほどである。これによって繰り返しは減り、青や赤の墓地をリソースとするというテーマにおいてプレイヤーは戻せるカードをほぼコントロールすることになった。
実際にこのセットを手にしたとき、墓地要素はセット全体に、だが慎重に、広がっていることに気づくだろう。諸君がどの色を使うかによって、その感覚は違うことになる。
呪い
トップダウン・デザインのおもしろいところの一つに、よく知られた何かを「どうやってマジックのカードで表現するか?」という問題がある。ホラーというジャンルにおいては呪いがまさにそれに当てはまる。大きな問題は、いかにしてそれを作る化だった。答えは、他の多くの問題への答えがやってきたところからやってきた。そう、「アン」セットだ。
《血まみれの書の呪い》 イラスト Jaime Jones |
ひとこと: 私は自分の生み出した両「アン」セットが他のセットのほとんどよりも好きだ。それらの最大の価値の一つに、今まで長年主張してきたことだが、実験的デザインの宝庫だということが挙げられる。何かおかしなことをやろうとして、そのままではさすがに黒枠マジックでは使えないとなったときに調整を加えることがある。その例が、エンチャント(プレイヤー)だ。
アングルードには、文字通りプレイヤーの上に置くカードが2種類存在した(《Charm School》は自分の頭上にカードを載せるもので、《Volrath's Motion Sensor》は相手の手の甲にカードを載せるものだった)。それがどんなエンチャントだったかと思い出そうとしたとき、馬鹿な答えが返ってきた。つまり「エンチャント(プレイヤー)だ」というものだ。結局のところ、諸君は実際に何かをプレイヤーの上に置いたのだ。
ディセンションで、我々は《精神の占有》という、対戦相手につけるエンチャントといった風情のカードを作った。黒枠マジックに「エンチャント(対戦相手)」を導入したのだ。エンチャント(プレイヤー)が実際に黒枠カードになったのは、時のらせんと、その後のシャドウムーアの時であった。
デザイン・チームが呪いについて話し合ったとき、私は「エンチャント(プレイヤー)」のようなものを想像しているのだろうと言った。チームは同意し、それから呪い作りが始まった。ルールは単純だった。「エンチャント(プレイヤー)」を持つオーラで(そしてこのブロックにあるもの全て)が呪いであり、それにエンチャントされているプレイヤーを害するものである。「エンチャント(対戦相手)」でなく「エンチャント(プレイヤー)」にしたのは、普通は自分にエンチャントしたいとは思わないだろうが、ジョニーたちはそうしたい理由を見つけ出すだろうと分かっていたからだ(自分に《血まみれの書の呪い》をつけるようなドラフト・デッキは存在しうるだろう)。
ところで、諸君は全ての呪いにサブタイプ「呪い」がついていることに気づくだろう。そうした理由は、呪いを参照するカードを作りたかったからであり、そのためにはサブタイプが必要だったからである。それらのカードはまだ公開されていないが、公開されたときにはこれだとわかることだろう。私はこの呪いというものに非常に満足しており、「呪い」という単語がホワイトボードに書かれたときに浮かんだフレイバーを完璧に表現したと思っている。
その他諸々
ホワイトボードに書かれたさまざまなことについて語ってきたが、他にも細々した物が書き込まれていた。たとえば、《木の杭》がそうである。
PAXで行なわれたイニストラード・パーティ(紹介記事(リンク先は英語))で、プレイヤーの一人に気に入ったカードはどれかと尋ねた。彼は《木の杭》だと答えた。トップダウンでホラーのセットを作ると聞いて不安だったけれど、そのカードを見て、我々のやっていることを理解したというのだ。我々は、ホラーと言ったときに思いつくあらゆるものを考え、そしてメカニズム的にそれをカードに再現したのである。
《木の杭》 イラスト David Palumbo |
彼が《木の杭》を選んだことに、私は喜びを覚えていた。なぜなら、それはホワイトボードに書かれた膨大なリストにあったものだったからである。実際、今日のプレビュー・カードも同じようなところから生まれている。クリエイティブ・チームのメンバーであり、デザイン・チームのメンバーでもあったジェンナに、ホラーのカード名を思いつく限り列記してもらった。そして、何度もの会議において、ダイスを転がしてカード名を選択し、チーム全体でそれをカード化していったのだ。
今日のプレビュー・カードはそういうデザイン・セッションから生まれたものだ。ダイスを転がして出てきた単語は「地下室の扉」。その単語から生まれたカードが、これだ。
私がトップダウンのデザインを愛しているのはこれである。通常の手順では、こんなカードがデザインされることはあり得なかった。「地下室の扉」にふさわしいカードを作りたかったからこそ生まれたのだ。
命名中に、私はダグ・ベイアー/Doug Beyerと密に連絡をしていた。このカードについては、カード名が本当に重要だと感じたからである。私の問いに、彼が「このカードは地下室の扉として作られたのだから、他の名前はあり得ないと思うがね」と言ったのを良く覚えている。
《地下室の扉》 イラスト Rob Alexander |
もう一つ、このカードに関してあった議論はデベロップ中のものだった。デベロッパーの中には、デッキの一番下からカードを取り出すことは必要ないと考える者がいた。機能的には、一番上から引くほうが簡単だというのだ。このセットのデザイン・リーダーとして(そして主席デザイナーとして)、私はあまり口出しをしないようにしているのだが、デベロップ・リーダーに元に戻すように要請する権利を留保している。変更することに強い理由があるのでなければ、大抵は従ってくれる。私はカードをライブラリーの下から取り出すという行為がカードの美しさやフレイバー性において重要だと強く信じていた。エリック/Erikが同意してくれたのかどうかはともかく、彼は私の願いをくみ取って元に戻してくれたのだった(ありがとう、エリック)。
イニストラードと今からと
今日の話はここまで。イニストラードの作成風景を楽しんでもらえたなら幸いである。そして、この週末に行なわれるプレリリースでは自分でも確かめてみてもらいたい。もし我々が作るのを楽しんだ、その半分でもプレイするのを楽しんでもらえたなら、それでも衝撃的だと言えるだろう。
それではまた次回、巨視から微視に移行しての、カード一枚単位の物語でお会いしよう。
その日まで、ブーイングがあなたとともにありますように。
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