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変身するガラク
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変身するガラク
Tom LaPille / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru
2011年9月2日
2週間前、マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterはプレビュー前の恒例となっている謎かけで、イニストラードに関することに触れていました。いろいろとおもしろい謎かけがありましたが、その中に1つ、あらゆる議論を呼び覚ましたものがありました。「忠誠度能力を5つ持つプレインズウォーカー」というものです。
この項目についてどんなものなのかという想像を皆さんが膨らませているのを、私たちは楽しく見ていました。能力をわずか4つしか持たない《精神を刻む者、ジェイス》をカードに入れるために、イラストの小さい新しい枠を作ったのですから、5つの能力にしたらイラスト欄が取れなくなるんじゃないか、あるいは文章がすごく短いんじゃないか、などという想像が飛び交っていました。
私はイニストラードのデベロップ・チームに所属していましたので、それが実際はどういうものなのかを知っていましたし、なぜそうなったのかも知っていました。デベロップ・チームに関して話すのが常ですが、今日は話す内容も多く、カードについて語ることも多いので、紹介は来週にします。ここからは、デベロップの一番最初から話していきます。
その時点から、両面カードを作ることは確定していました。デベロップのリーダーのエリック・ラウアー/Erik Lauerとデザインのリーダーのマーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterの2人はそろって、両面プレインズウォーカーを作りたいと思っていました。マークの最初のアイデアは、狼男のプレインズウォーカーを新しく作って、変身するプレインズウォーカーにしようというものでした。しかし、数人から、すでに変身させられているプレインズウォーカーが存在するのでそれを使おうという声が上がりました。
The Hunter and the Veil Part 3 | イラスト Alex Horley-Orlandelli |
これが非常に優れた考えだと言うことは明白でしたが、私にはいくばくかの不安がありました。プレインズウォーカーのデベロップは、すでに問題を抱えていたのです。カードにさらなる条件が増えれば、その問題はさらに難しいものになることはわかっていますし、ストーリー側からプレインズウォーカーを選んだなら今までにないほどの条件になることでしょう。しかし、他に両面プレインズウォーカーを作れる機会が来ることはあり得ないでしょう。マジックのデザイン戦力も逼迫しています。一度しか存在しない何かを使っておもしろいことができるなら、それを活かすべきなのです。ここでやるしかないと考えて、私は自らを奮い立たせて飛び込んだのでした。
ネタバレ注意:挑戦は成功しました。そのカードが、こちらです。
答えはこうなりましたが、ここに至るには多くの困難な問題がありました。たとえば、こんなものです。
ガラクはどんな姿?
このガラクが似ても似つかないものは1つ分かっていました。これは標準的なプレインズウォーカー・カードです。ジェイスの4つの能力を持つ枠はかわいらしいものでしたが、2つの姿を持つので、ガラクの変身を表すためにできるだけ広くイラストを載せたいと思いました。そのため、それぞれの姿が持てる能力は3つ、そして変身前の姿の持つ能力のうち1つは変身させるものでなければなりませんでしたし、変身後の姿の持つ能力のうち1枠は変身を元に戻すものに取られる可能性がありました。
《情け知らずのガラク》イラスト Eric Deschamps |
忠誠度能力の1つで変身させられるとなって、それはおかしなことだと考えました。ガラクは自ら望んで変身したのではないので、プレイヤーがカードを使うときにガラク自身が変身するかどうかを「選ぶ」ことができるように思えるのは奇妙なことです。そこで、彼が物語上で呪いを解くことが出来ないのと同じように、彼自身の能力では変身前の状態に戻ることが出来ないと決めました。
変身前の状態には彼を変身させる誘発型能力が必要になったので、変身前に持つ忠誠度能力は2つ、変身後に持つ忠誠度能力は3つとなりました。
ガラクはどう変身するの?
物語上、彼が変身するのは、リリアナが邪悪な闇の魔法で撃ったからです。これをマジックのカードにそのまま描き出すことはできませんでした。「対戦相手がカード名にリリアナを含むカードを唱えるたび、[カード名]を変身させる」というルール文章は格好良いものですが、10カ国語以上に訳されているマジックにおいてカード名を参照するのは下策ですし、またガラクの変身が対戦相手がまれにしかしないようなことに依存するというのも望ましいことではありません。プレイヤーは、自分のカードに起こることを自分の手で処理したいと思うものです。
ゲームデザインにおいて、最善の手はしばしば最も単純なところにあるものです。変身の誘発イベントを、ガラクの忠誠カウンターがある値以下になったときにすることにしました。これは、ガラクが衰弱し、あるいは脆弱になったことを表していると取れます。この値は、もちろん、忠誠度の初期値より小さい値でなければなりません。
ここで、新たな疑問が起こりました。
ガラクの忠誠度を自然な方法で減らすには?
対戦相手が攻撃してきたときにしか変身できないというのでは、あまりにも情けない話です。すでに言ったとおり、プレイヤーが自分の手で自分のカードを操作できるようにする必要があります。そこで、ガラクに何か建設的な、そしてそれでいて忠誠度を失うような、能力を持たせることにしました。これで彼を自然に変身させることができます。
エリック/Erikのアイデアは、ガラクが相手のクリーチャーと個人的に戦うことで衰弱するようにするというものでした。緑にクリーチャー除去を与えるのは奇妙ですが、緑のクリーチャーが他のクリーチャーと格闘するのはすでにある話でしたし、これも同じようなものだと言えます。ガラクの変身に関して、コミックで彼がやったことをいろいろと示していました。洞窟から出るために山と積まれた岩をどかし、ステンドグラスの窓をぶち割って飛び込み、ジェイスののどを掴んで締め上げる。そういうことをやってくれる下僕を召喚するのではなく、自分の手を汚していたのです。これがガラクのやったことです。
他にガラクのできることは?
他のガラクの能力を探すべく、私たちはよく知られている井戸をのぞき込みました。以前のガラクのカードはトークンを作りましたから、今回もそうしましょう。健康なガラクは狼を作ることにしました。より不健康な化身も狼を作ることにしましたが、エリックはガラクの呪いをトークンの変更でも表すことにしました。接死を持つ1/1の狼です。これはフレイバー上もゲーム上も良策だと思いました。2/2のほうが1/1接死よりも有効な局面はいくらでもありますが、その逆の状況もいくらでもあります。これはおもしろいカードになると思いました。
ガラクの能力の中で私の気に入っているものは、変身後のガラクが持つ2つめの能力です。いくつかの意味で、その能力は《原初の狩人、ガラク》の2つめの能力と似ています。ただし、クリーチャーを生け贄にすることが必要なのでより暗いイメージをまとうことになりますし、そのためにデッキの組み方も大きく変わってくることになります。マジックのプレイにおいて多様性は非常に大切ですし、競技プレイでいろいろなデッキを作り上げるには特定の種類のカードを探すことができる、トーナメント・レベルのカードが必要です。これは環境を硬直させてしまいがちですが、その一方で他では使えないようなカードを1枚だけ入れるという自由度を与えてくれます。そして、そうしてカードを探す能力が脆弱なものであるか、あるいは条件の厳しいものであれば、そこから生まれる多様性は楽しいものになります。
ガラクはそのためには最適です。この能力を得るのは自動的とは言いがたいものですが、それによって得られるメリットを考えると《大修道士、エリシュ・ノーン》や《囁く者、シェオルドレッド》などを1枚だけデッキに忍ばせておきたい気分になるでしょう。そうしたなら、突然それを探してきて、油断していた対戦相手に叩きつけてやることもできるのです。それもまた、この世界のおもしろさと言えるでしょう。
奥義は闇に寄っただけの《踏み荒らし》ですから、それほど語ることもありません。ただし、5つの能力を持ったプレインズウォーカーのデベロップについてはいくらでも語ることがあります。このガラクを作るにはいくつもの条件がありました。マナ・コスト、初期忠誠度、変身する忠誠度、5つの忠誠度能力のコスト。最初の目的はこのカードをバランスの取れたおもしろいものに仕上げることでしたが、次の目的はこの5つの能力をどれも有益で選択肢になり得るようにすることでした。想像できる通り、後者のほうがかなり難しい目的でしたし、調整もかなり必要でした。変身後の能力を使えるようにするため、変身できるようにしなければなりません。つまり、変身前には忠誠カウンターを得る能力は作らないことにしました。また、変身後の能力を強力にしなければならず、同時に、忠誠カウンターのコストが-3でしかない「奥義」を作ることも必要となりました。プレイテストの時には5つの能力全てを当たり前に使っていましたから、完成したものには非常に満足しています。
《ヴェールの呪いのガラク》 イラスト Eric Deschamps |
イニストラードについてはネットのあちこちで語られてきていますが、マジック世界にはもう一つの大イベントがありました。先週末に行なわれた、プロツアー・フィラデルフィアです。これは新しいモダン形式の、プロレベルでのデビュー戦となります。このイベントの構築部分の結果が、生まれたばかりのモダンのあり方を決めることでしょう。興味がある向きは、どうぞご確認下さい。
私は、このイベントで行なわれる両形式を作った人間として、非常に興奮しています。基本セット2012のデベロップ・リーダーは私でしたし、モダンの策定にも着想から最後までずっと関わってきました。これはある意味で「私の」プロツアーで、分割形式になってからのプロツアーについてそう言えるのは今回の私が初めてでしょう。あなたも一緒に、このプロツアーを楽しみましょう。
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