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先生、基本が欲しいです
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先生、基本が欲しいです
Mark Rosewater / Translated by YONEMURA, Kaoru
2011年7月4日
基本セット2012、プレビュー第2週へようこそ。先週は、基本セットのデザイン・リーダーが考えなければならないことについて語らせてもらった。今週は、プレビューの時によくやるアレ、そう、そのセットのデザインについての物語を語らせてもらうことにしよう。ただ一つの問題は、私がこのデザイン・チームの一員でないために話す物語がないということだ。そこで私はひらめいた、今回のものに限らず、基本セットのデザインについてなら話す材料には事欠かないと。今回は、過ぎ去った日々に私が刻んだ基本セットのデザインに関する思い出話をさせてもらうことにしよう。
その前に、プレビュー・カードをお見せしよう。昨年の4月、DailyMTG.comは、私が1995年にThe Duelist誌に書いた記事(リンク先は英語)を掲載した。その記事の中で、私はお互いに対戦するためのデッキの作り方について語った。一つは、私が「グリンチ」と名付けたものだった(ウィザーズに入るまで、私は奇妙なデッキを組むのが大好きなジョニー・デッキビルダーだった。デッキごとに、まるで一人の人間のように名付けるのが癖だった。その名前は大抵、デッキがどんなものかに関連していた)。
グリンチは青赤のデッキで、対戦相手のリソースを奪って利用して勝つデッキだった。今日のプレビュー・カードはこのデッキにふさわしいカードだ。実際、このカードはグリンチで使っていたお気に入りのカード、《アラジン》の現代版だと思っている。
《アラジン》は(マジックの最初の拡張セットで、本体同様リチャード・ガーフィールドによってデザインされており、フレイバーの基礎をアラビアン・ナイトの千夜一夜物語に置いている)アラビアン・ナイト拡張セットに収録されている。伝説のパーマネントという考え方はもちろん、レジェンドというクリーチャー・タイプすらまだ存在していなかったので、《アラジン》は普通のクリーチャーとしてデザインされた。《アラジン》は盗賊だったので、リチャードが作ったカードのメカニズムはいかにも盗賊というものになっている。今日のカードもまた、同じようにいかにもな作りになっている。
これがそのカードだ。
ちょうどアーティファクト・ブロックを終えたところなので、《練達の盗賊》の獲物はいくらでもある。これを使って楽しんでもらえたら幸いだ。
さて、それではタイムマシンに飛び乗って、過去の基本セットのデザインを訪ねに行くとしようじゃないか。
第5版
1995年10月、私はウィザーズに入社した。その直後、第5版のデベロップをやらないかという誘いを受けたのだ(このセットが世に出たのは1997年である)。デベロップ・チームにはわずか3人しかいなかった。当時はマジックの開発部そのものの人数もずっと少なく、チームが3人編成というのは珍しい話ではなかった。
当時一緒に働いた仲間を紹介しよう。まずはスカッフ・イライアス/Skaff Elias だ。
上の写真は、2003年2月に書いたコラム「Choose your own adventure(リンク先は英語)」からのものだ。これはスカッフの写真である。スカッフはフィラデルフィアでマジックのプレイテストをしたメンバーの1人で、「東海岸のプレイテスター」として知られるグループの一員だった。同じ4人(スカッフ、ジム・リン/Jim Lin、デイブ・ペティ/Dave Petty、クリス・ペイジ/Chris Page)がアンティキティとフォールン・エンパイア、アイスエイジ、アライアンスをデザインしたのだ。マジックの歴史が始まってすぐにスカッフはウィザーズの一員となり、私が入社したときには副社長だったが、やはり開発部の一員でもあった(スカッフは非常に独特な役目を果たしていたのだ)。
スカッフに関して一番よく知られているのは、プロツアーを作ったことだろう。だが、彼はマジックのブランド・マネージャーもつとめていたし、マジックを含む多くのウィザーズの商品に関わってきた。当時、スカッフは全ての時間を仕事に費やすとして有名で、寝るときも机の下に寝袋を置いて潜り込むような生活をしていた。スカッフを言葉で言い表すことは難しいが、彼は豪傑だと言える。たとえば、今でもはっきりと思い出せるのは、最初のプロツアー会場にスカッフが歩いて表れたことだ。――空港が閉鎖されるほどの強烈な吹雪の中を。
スカッフを変わり者だと言うのは簡単だが、ただ奇矯だと言うだけではない。スカッフは今までに開発部で会った誰よりも情熱的だった。スカッフは関心を持つだけではなく、超関心を持つのだ。何かに没頭したら、脇目もふらずつきっきり。問題には彼なりの展望を持って突撃。スカッフと数年働いたが、こうして彼について書くだけで笑いがこみ上げてくる。スカッフがチームについてどう思っていたかは知らないが、おそらくチームにいたいと思っていただろうし、それがスカッフらしさなのだ。
もう一人のメンバーは、ロバート・グートシェラ/Robert Gutschera だ。かつて、開発部の過半数が数学科出身だったことがあった。ロバートは数学の教授だった前歴を持つ。彼はいつでもゲームが大好きで、リチャード・ガーフィールドに手紙を送った。リチャードはロバートと話し合い、そして経営陣にロバートを雇うように推薦したのだった。
ロバートはそれほどマジックに働いたわけではないが、私は、マジック以外のゲームでロバートとともに働く機会があった。(当時は100%マジックのデザイン漬けというわけではなかったのだ)。ロバートは非常に知的だった――開発部なのだから当然だ――が、それ以上に洞察力に優れていたことが印象的だった。ロバートは問題を検証し、解決のための障害が何かを識別する能力を持っていたのだ。
私が何かに行き詰まったとき、よくロバートに相談した。実際、ロバートと話すことはなんであれ楽しかった。それにもまして、10年以上の開発部暮らしの間にロバートが機嫌を損ねたことはたった一度だけだった(私は目撃していないが、それはひどかったそうだ)。みんなが、一緒に働きやすくて得るものの多いロバートのことを好きだった。
これほど強力なチームだったのだ。欠点を上げるなら、このチームは開発部でも最も頑固な3人だったことに加え、最も多弁だったことだろう。一個の点について延々語り続けるのだ。今日の話はこのセットに含まれている一枚のカードについてである。
そのカードとは、これだ。
マジックの最初の拡張セット、アラビアン・ナイトからの《砂漠の竜巻》。マジックの初期のセットはフレイバーに満ちあふれていた。カラー・パイはいっぱいに引き延ばされていて、トップダウンのデザインによってある色が普通はやらない効果を持つこともしばしばだった。その例が《砂漠の竜巻》だ。
リチャードは、強烈な砂漠の嵐が狙ったものを何でも壊してしまうという考えが気に入っていた。フレイバー的にはこのカードは自然の攻撃なので、リチャードはこれを緑においた。問題は、緑という色には直接のクリーチャー破壊がないはずだ、ということだ(クリーチャーを対処する能力がないわけではないが、緑「クリーチャー同士が戦う」色なのだ)。
とはいえ、《砂漠の竜巻》はフレイバーに富むだけでなく、シンプルで機能的ないいカードだった。そこで、カラー・パイを無視しているにもかかわらず、リバイズド(第3版)に再録されたのだった。
続けて、第4版にも。
私は、アラビアン・ナイトの《砂漠の竜巻》を、ちょうど2歳の娘が私の携帯電話を壊してしまったときのように、勘弁していた。まだ幼くて、どうすればいいのか分からなかったのだ。しかしそのカードがリバイズドに再録され、第4版に再録されるに至っては激怒した。これでは、緑のあるべき姿が誤解されてしまう。私が第5版のデベロップ・チームに入った時点で、《砂漠の竜巻》はすでにファイルに入っていた(昔の、再録のみの基本セットにおいては、デザイン・チームがカードを選んでファイルにいれ、デベロップはそれを確認するものだった)。私には一つの使命があると感じた。つまり、《砂漠の竜巻》を追い出すことだ。
3人チームの利点の1つに、議論に勝つための目標が明確だというものがある。つまり、多数派になれば良い、自分以外のどちらかを説得すれば良いと言うことだ。私はまずスカッフとの話し合いに挑んだ。
私:ちょっと質問があるんだけど。
スカッフ:うん。
私:《砂漠の竜巻》についてどう思う?
スカッフ:好きだよ。
私:緑にあるのが好き?
スカッフ:ああ。好きだし、緑にあるんだから、緑にあるのが好きだ。
私:そうじゃなくて、緑が呪文でクリーチャーを殺せるのは奇妙じゃないかってことさ。
スカッフ:うん、ちょっと奇妙だよね。
私:セットに入れるべきじゃないとは思わない?
スカッフ:いや、セットには必要だよ。いいカードだ。シンプルで、雰囲気もあって、実用的だ。
私:ありがとう。
これは行き止まりだ。ということで次はロバートに。
私:ちょっと質問があるんだけど。
ロバート:何?
私:《砂漠の竜巻》についてどう思う?
ロバート:よく知らないけど、好きだと思うけど。
私:緑が呪文でクリーチャーを殺せるのは奇妙じゃない?
ロバート:ちょっとはね。
私:このセットから抜くとしたらどう思う?
ロバート:うーん、良いシンプルなカードで、インパクトもあって独特の効果がある。他に何か入れるカードがあるかな?
(ロバートと私は緑のレアの綴じられたバインダーをひっくり返した)
ロバート:ダメだ、ダメ、ダメ、これなら、いや、ダメだ、ダメ、うーん......ダメ、ダメ、ダメ......これもダメだ。ダメだな。
スカッフはこのカードを気に入っており、ロバートは他によりよい代替カードがないという。私は何度も何度も挑み、懇願し、嘆願し、駆け引きまでした。デベロップ・チーム外の人間にも、デベロップ・チームのメンバーを変心させられるように話し続けた。だが、効果はなかった。
最後のチャンスは、マジック開発部の全員とのミーティングの席だった(我々のチーム以外に、ビル・ローズ/Bill Rose、マイク・エリオット/Mike Elliott、ウィリアム・ジョカシュ/William Jockusch、ヘンリー・スターン/Henry Stern、ジョエル・ミック/Joel Mick、ジム・リン/Jim Lin がいた)。全員が一堂に会し、ファイルに最後の確認を行なうのだ。最後になって、私はこの議題を持ち出した。あらゆる証拠を元に検討された結果、よりよい選択肢がないので《砂漠の竜巻》はセットに残す、と決定されたが、その一方で、開発部はこのカードを前例としては扱わないという見解が下された。
これはうまく行ったとは言えない。何年も後になって、私は相変わらず緑がすべきでないことをしようとする緑のカードと争っているし、《砂漠の竜巻》はまたよみがえってきた。この話の教訓は、緩やかな傾斜は危険だということである。何かが間違っていると思ったら、それが動き出す前になんとしても止めるべきだ。慣性がついてしまえばそう簡単には止められないのだから。
また、私はよく自分が勝ったことによって何かが起こったという話をするが、実際には百戦百勝というわけではない。自分の考えが正しいと信じていても、思い通りに行かないことはよくあるものだ。
さて、一事が万事こんな調子で、チームは《ネクロポーテンス》をセットに入れていた。私はエネルギーを無駄遣いしてしまっていたのかもしれない。
第6版
次の舞台はそれから2年後、開発部が第6版のデザインに取り組んでいた時の話だ。歴史を知っている諸君にとって、カード編成よりも、このセットで導入されたルールによって、この第6版は非常に重要な基本セットだった。今「6版ルール」と呼ばれている変更、それはマジック史上最重要なルールの全面見直しだったのだ。
第5版と違い、私は第6版のデザイン・チームにもデベロップ・チームにも属していなかったが、ルールの変更は非常に大きかったので、ルール変更の総指揮者であったビル・ローズはマジック開発部全員の意見を求めていた。ビルの質問は単純で、それぞれが信じるマジックをよくするために必要な変更は何か、というものだった。
私のビルへの回答を理解するために、まずはその一年前にさかのぼり、マジック史上初のマジック・インビテーショナル、デュエリスト・インビテーショナルについて見なければならない。デュエリスト誌(遠い昔にウィザーズが発行していた、マジック専門誌)の発行者であるウェンディ・ノリタケ/Wendy Noritake という女性に、デュエリスト誌を宣伝するための宣伝イベントについて尋ねられ、オールスター・ゲームを開催してはどうかと提案した。それほどの予算はなかったので、最初のイベントをサンディエゴで開催する企画を立てた(インビテーショナルのおこりについて詳しく知りたい向きは、こちらの記事(英語)を参照してくれたまえ)。
やがて、ウィザーズはグランプリを立ち上げ、その最初の会場に香港を選んだ。グランプリの歴史に詳しい諸君はお気づきの通り、第1回グランプリはオランダ・アムステルダムで行われている。そう、万事うまくは行かないもので、香港ではグランプリは開けないということになったのだ。しかし何かレベルの高いことをやりたいという要求は強く、車を優勝賞品とした大会を開催するという話になった、が、そのイベントの目玉となるものが足りなかったのだ。
ある日、スカッフは私を部屋に引きずり込み、香港での苦境を告げた。「インビテーショナルを香港でやるというわけにはいかないか?」と聞いてきたのだ。 イベント・チームは新しいネタを探していて、我々はそこに飛び込んだのだった。
最初のインビテーショナルは、マイク・ロング/Mike Long と オーレ・ラーデ/Olle Rade の決勝となった。ラーデがロングを下し、ロングのインビテーショナル制覇は2年後のバルセロナまで待つことになる。この数ラウンド前に、ちょっとした事件があった。インビテーショナルは15回戦、5形式による総当たりで行われる(第1回は6形式で行われ、リミテッドは各種2回戦しか行われなかった)。最初のインビテーショナルの形式の1つに、スタンダードがあった。今日では多くのプレミア・イベントでスタンダードはプレイされているが、当時はそれほど頻繁ではなかった。そこで私はこのインビテーショナルを使ってスタンダードのデッキを広めようと思ったのだった。
状況を混ぜ返すために、私はまだ構築で使うことができなかったビジョンズ拡張セットの使用を認めた(当時、発売から構築で使えるようになるまでにはかなりの時間差があった)。プレイヤーの中の一人、トーマス・アンダーソン/Thomas Andersson はスウェーデン人で、ニューヨーク市で行なわれた第1回のプロツアーでトップ8に入った人物だが、彼はこのカードを軸にしたデッキを組んだ。
ビジョンズの《時の砂》だ。無害でおかしなカードに見えるが、そうではない。リチャードがアルファに導入した、あるルールのせいである。
ところで、アルファ版のルールブック(英語)を読んだことがない諸君は、一読してみることをおすすめする。(訳注:読んでも得るものはありません、多分)
さて、上の画像で強調されている部分を見てもらえるだろうか。これは、このルールブックにおいてある重要なルールが記載されている部分である。「コンティニュアス・アーティファクトはタップ状態になると効果を失う」。この部分について深く掘り下げていきたいとは思わないが、「コンティニュアス・アーティファクト」とは全体に影響を及ぼす効果を発揮し続けるもの、だと思ってくれたまえ。
さて。つまり、《時の砂》と「タップ状態では無効」というルールを組み合わせると、非常に不公正なデッキができあがる。トーマスは3-0の戦果を挙げた。マット・プレイス/Matt Place(後に開発部のデベロッパーとなる)は決勝でトーマスとその《時の砂》デッキに敗れたのだ。全てのプレイヤーはこのデッキについて文句を言ったが、私にもどうできるものでもなかった。私がそのデッキを見たのは初めてだったし、まだビジョンズが構築で使えるようになっていなかったので、《時の砂》がどう働くかというルールもまだ公開されていなかった。このインビテーショナルが初めての機会で、そのせいでスタンダード部分は炎上したわけだ。私は、そう遠くないうちに訂正が出されるだろうと確信していた。
さて、ビルの質問の日に話を戻そう。
私:ああ、あるとも。「タップ状態のアーティファクトは効果を失う」という腐ったルールをなくしてもらえないか? 簡単にオンオフできるせいで、おもしろい効果のアーティファクトをデザインするのが本当に難しいんだ。《吠えたける鉱山》や《冬の宝珠》といった、タップ状態で無効にしたいカードがあるなら、それらのカードにそう書けばいい。ビル、もう勘弁してくれ!
それが、私が6版ルールに行なった寄与である。ああ、あと、マナ・バーンがなくならないようにしたことも寄与だ(が、その話はすでに記事(リンク先は英語)にしている)。
4つの基本セットと7年の時間
このコラムを書き始めたときにはもっと多く語ろうと思っていたのだが、2つで時間が来てしまった。もしこういった過去の話をもっと聞きたいなら、言ってくれたまえ。聞きたくないなら、それはそれで言ってくれたまえ。記憶の道をたどる旅を楽しんでもらえたなら幸いである。
それではまた次回、私の個人的な秘密が公開される日に。
その日まで、遠い昔に自分が下した判断とその判断の生み出した波紋への想いがあなたとともにありますように。
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