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楔にて
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楔にて
Mark Rosewater
2011年6月6日
統率者戦プレビュー特集にようこそ! 今回は過去17年のマジック史上に存在したことのないある商品を諸君にお披露目することになる。すなわち、ランダムでない構築済みの商品でありながら、メカニズム的に新しいカードが入っているのだ。なぜそのような選択に至ったかについて、今日はお話ししようと思う。まず、このセットのデザイン・チームを紹介しよう。そして、一部の諸君にとって非常に重要な問題を孕む楔カードについてもお話しするつもりだ(意味が解らない諸君のために、必要に応じて説明は加える)。そしてもちろん、イカしたプレビュー・カードをお見せする。さて、予定を掴んで貰ったところで、年内で一番独特な商品への旅に戻るとしよう。
最高統率者たち
いつもの通り、プレビューをデザイン・チームの紹介から始めることにしよう。
ケン・ネーグル/Ken Nagle (リーダー)
奈落(訳注:開発部の冗談めかした別名)内で多人数戦にもっとも情熱を燃やしているデザイナーといえば、ケンを置いて他にいない。となればこのチームのリーダーが誰になるかはきわめて簡単な選択だった。ケンならチームに入っていようがいまいが関係なくこの商品に相応しいカードをデザインしてくれていただろうと思ったが、ケンの人生における苦悩が減るように、彼をデザインの責任者に据えたのだ。デザイナーに、普段と違うデザイン上の条件の付いた何かを手がけさせたければ、そのデザイン筋肉を伸ばせるようにしてやらなければならない。この商品のデザインはデザイナーとしてのケンにとっても、またこの商品を買おうかと思っている諸君にとってもよい物だったと信じている。
マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb
まだ知らない諸君のために言うなら、統率者戦は開発部の中で非常に人気の高い形式だ。マークはベン図で書くとデザイナーと統率者プレイヤーの重なり部分に含まれる奈落の住人であり、彼もまたチームに相応しい存在だ。以前にも話したことだが、彼がこのセットで果たした役割は彼の異質な特徴にある。彼は何もかもをルールの中で働くようにすることに何年もを費やした男にもかかわらず、非常に気狂いなデザイナーだ。彼はルール・マネージャーの役職をマット・タバック/Matt Tabakに譲り、ルール・マネージャーが頭を抱えるようなカードを作る職務に専念できるようになったのだ。
スコット・ララビー/Scott Larabee
スコットは永年ウィザーズに務めている。彼の名前がめったに出てこないのはなぜか? それは、彼が開発部の人間ではないからだ。スコットは、組織化プレイのプログラム・マネージャーであり、全てのプロツアーがトラブルなく運営されるように心を配っている(イベント全体ではなく、プロツアー本体そのものを)。イベント運営の専門家がなぜデザイン・チームに姿を見せたのか? ベン図を考えてみよう。そう、スコットは統率者戦のプレイヤーである......かなり頭までずっぽりの。彼は何年も統率者戦を楽しんできていると同時に、統率者戦のルールを定めるチームの一員でもある。知らない諸君のために付け加えておくと、ウィザーズが統率者戦を始めたわけでもないし、監督しているわけでもない。ルールを作ったのは我々ではない。禁止カードも我々が定めているわけではない。単にプレイヤーがプレイしやすいように手助けしているだけであり、統率者戦を管理運営しているのは独立したグループの手によるものだ。そして、そのグループに所属しているウィザーズの社員はただ一人、このスコットだけである。従って、彼はこのデザイン・チームに入るのに相応しい男だと言える。
ライアン・ミラー/Ryan Miller
ライアンは私と同じ、ヘッド・デザイナーである。彼が監督しているゲームはマジックではなく、デュエル・マスターズというゲームだ。(訳注:アメリカの)諸君の多くはこのゲームについてよく知らないだろう。なぜなら、そのゲームは英語でないとある言語1つでだけ印刷されているからだ。デュエル・マスターズは、現在、日本語でだけ作られている。このゲームは日本市場向けに開発されているが、デザインのほとんどの部分はこのオフィスで行なわれている。デュエル・マスターズはマジックから派生したものではあるが、それについてはまた別の話にしよう。なんにせよ、ライアンは才能溢れるデザイナーであり、マジックはよいデザインを求めている。ライアンをデザイン・チームに招くのは明白な選択であったろう。
マーク・パーヴィス/Mark Purvis
最後にマーク・パーヴィスだ。多くの諸君は私のコラムを通じてマークがマジックのブランド・マネージャーの1人であることを知っているかも知れないが、知らないであろう事実をここで告げよう。彼は、なんと......マジック・プレイヤーなのだ。ああ、いや、ブランド・チームの全員がマジックを嗜みはする。しかし、マークは古くからの、長きにわたっての、収集できる物なら何でも収集し、ありとあらゆるフォーマットに手を出し、息をするようにマジックをするタイプのプレイヤーなのだ。彼はデザインやデベロップのチームに入ることを気に入っているし、ブランド全体を見通すことのできる人材をチームに入れることは素晴らしいことなので、彼こそがチームの一員として相応しいのだ。彼がどのようにチームの一員として過ごしたかは、彼からの特別記事(リンク先は英語)を読んで貰えばわかるだろう(近日翻訳予定)。
さて、マジック・ザ・ギャザリング 統率者 のデザインに責任を持つ人々の紹介は終わった。ここからは、どのようなデザインが行なわれてきたかについて語ろう。
新しいこと?
統率者戦は人気のある多人数戦形式であり、ウィザーズはそれをフォローするような商品を作りたいと考えていた。これは非常に当たり前のことだ。この商品における実ゲームの変更点は、開発部の下した物と違う決定だった。開発部が基本セットでも拡張セットでもない商品のために新しいカードを作ったのは、非常に久しぶりのことだ。なぜそうすることにしたのだろうか?
それを説明するために、最後にそうした時の話をしよう。時は1994年、一番最初に世に出たマジックの小説こそ「Arena」だった。その本のあるページをちぎって送ると、この方法でだけ手に入れることができる2種類の特製カードが手に入ったのだ。
次に世に出たのは「Whispering Woods」三部作(「Whispering Woods」「Shattered Chains」「Final Sacrifice」)で、それぞれに別々の特製カードがあった。
このカードのほとんどは弱い物だったが、1枚だけ、《Mana Crypt》だけはイベントで使えるようなカードだった。そして、その本は(少なくともアメリカでは)ほとんどの本屋で発売されたのだ。つまり、そのカードについて知識があり、手に入れる方法を知っているような目端の利く人なら、誰でも手に入れられる状況だったのだ。
問題を引き起こしたのはこの本についたプロモ・カードではなかった。問題を起こしたのは、このちょっとしたカードだった。
《Nalathni Dragon》は1994年、Dragon Conコンベンションで配られた特製カードである。詳しくない諸君のために説明しておくと、Dragon ConとはLabor Dayの週末にジョージア州アトランタで毎年開かれるコンベンションである。Dragon Conは、映画からテレビ、マンガから小説、ゲームに至るまでありとあらゆるメディアでの「エンターテインメント」ジャンル、例えばファンタジー、SF、ホラーなどに焦点を当てることが多い。
見ても判るとおり、《Nalathni Dragon》は特に強すぎるというわけでもない。ただ一つだけ奇妙なことは、これは史上初、空前絶後のバンドを持つ赤のクリーチャーだったと言うことだ。どうしてこれが大騒ぎを巻き起こしたのか? 手に入れようと思ったらジョージア州アトランタで行なわれるイベントに行かなければならなかったのだ(当時はまだeBayやその他オンライン・ストアは存在しない。行く以外に手にする方法はなかったのだということを意識してくれたまえ)。街で売っているマジックの本は見つけにくかったとしても入手不可能ではない。一方、ほとんどの人にとってDragon Conに参加するのは不可能なのだ。
プレイヤーたちは立ち上がった。《Nalathni Dragon》そのもののためではなく、その表すことに対して声を挙げたのだ。次に、そこにしか存在しない、そこでしか受け取れないカードが《Mana Crypt》レベルだったら? プロモ・カードだからといって最低品質だとは限らない。いつの日か、強力なプロモ・カードが出て、手に入れられないようなものである可能性はあるのだ。
ウィザーズはプレイヤーたちの怒号を聞き、方針を変更した。まず、《Nalathni Dragon》を次の号のデュエリスト誌(当時ウィザーズが発行していた、マジックに関する雑誌)の付録につけ、誰でも手に入れられるようにした。次に定型のマジックのセット以外で新カードを作ることを止めたのだ。これは再録禁止リストのような大きな告知ではなかったが、行動で示されたポリシーの変更という点ではあれ以上のものだった。
メカニズム的に新しいカードをブースター・パックを持つ商品でだけ出す、ということは今考えられているほど深い話ではないのだ。当時は、マジックの商品といえば全てはブースター・パックで出ていた。どれを買っても同じ物が入っている構築済みの商品というアイデアが出てきたのはその後だ。しかし、そういった新しい商品が世に出ても、それは別枠に置かれていた。
構築済みの商品は、Dragon Conのプロモとは全く違う生き物だと言うことを注目して欲しい。マジックを売っている店ならどこでも構築済み商品を手に入れることが出来る(全ての商品が全ての言語に訳されているわけではないが)。構築済み商品が欲しいプレイヤーはアトランタに行く必要はない。ただ、行きつけの店に行けばいいだけのことだ。
しかし、メカニズム的に新しいカードを含む商品とそうでない商品の間には境があった。最初にこの境界を乗り越えたのは、マジック・ザ・ギャザリング 統率者......ではない。基本セット2010こそ、その先駆者である。基本セットはブースターでも売られていたが、基本セット2010以前の基本セットではメカニズム的に新しいカードを含むことはなかった。しかし、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe(念のために言っておけば、マジック開発部ディレクターだ)は、新しい内容はデザインにおいて重要な道具であると考え、基本セットを線のこちら側に引き寄せる決定を下したのだ。
となると、アーロンがこれと同じ決断をマジック・ザ・ギャザリング 統率者に下すことも驚くべきことではない。このセットには、それまで存在しなかった物が必要なのだ。アーロンの考えでは、この商品に必要なカードがあるのに作ることが許されない理由などないのだ。彼は火曜のマジック・ミーティングにこの議題をかけ、そして開発部は激論を交わした。
最大の反対意見は、統率者戦に興味を持たないプレイヤーもこの商品を買いたくなるようなカードを作ってしまう可能性があるというものだった。他にはそれほどの反対意見はなかった。賛成意見はさまざまあったが、最大のものはこの商品をあるべき姿にデザインできる、というものだった。
それまでの基本セットと基本セット2010の両方で働いた経験上、私は必要な物をデザインできる能力がどういうことをもたらすかを直接知っていた。過去の基本セットのデザイン・チームが、必要な条件を満たすカードが存在しないときにどれだけ苦心惨憺して使えるようにするようにしてきたかについては語りたくもない。「これが出来る限りのことだ」と妥協しながらカードを入れることは本当にストレスが溜まることだ。必要に応じてデザイン・チームが新しい物を作ることができるようになるのだから、私はその変更に諸手を挙げて賛成した。
その判断は正しかったのだろうか? 正直なところ、私はそう思う、が、100%そうだとは言い切れない。私の知っていることは、マジックを長きにわたって健全に保つには開発部のやる気が必要だということだ。しばしば言ってきた通り、マジックの最大のリスクはリスクを避けることである。ブースター以外の商品に新しいカードを入れることについて諸君がどう思っているか、それ以上の方法はあったのか? 私は、今日のコラムへの反響を非常に楽しみにしている。
波に乗れ
さて、ここで全然違う面からこの商品についてお話ししよう。私のヘッド・デザイナーとしての職務の一つに、諸君の望むことに耳を傾けるということがある。私がこれだけ露出しているのは、可能な限り多くの諸君の声を聞きたいからなのだ。諸君の望むことを知るための意見交換をしたいと思っているのだ(いつものように強調しておこう、私は諸君からのメール全て、ツイート全て、質問全て、何であろうと私に届けられたコメントには目を通している)。私の仕事は、カードを、セットを、ブロックを、商品を、諸君の望む物を供給することだ。諸君の声を直接聞くことで、その任務を達成することはたやすくなるのである。
望む物が解れば作るのは簡単だろうと思った諸君。そういうわけではない。場合によっては、諸君の望む物がゲームの楽しみを台無しにしてしまうと思われるものかもしれない。あるいは、ルール上あり得ないようなものを望んでくるかも知れない。そうでなくても、当てはまる場所が存在しなくて燻っているような物かも知れない。最後のカテゴリーに入る物の一つに、開発部曰くの「楔カード」がある。
さて、それでは用語の定義から始めよう。マジックには5つの色が存在する。
この5つの色から、2色の組み合わせは10個できる。友好色の組み合わせ5種(つまりお互いに友好色である2色のことだ)と......
敵対色の組み合わせ5種(お互いに敵対色である2色のことだ)である。
これらの5つの組み合わせから、3食の組み合わせが10個できる。そのうち5つは「弧」と呼ばれるもので、色の円において3つ繋がって並んでいるものだ。言い換えると、弧は1色とその友好色2色からなる、と言っても良い。アラーラの断片では、5つの弧の組みあわせがそれぞれの断片を作り上げていた。
もう一つの3色の組み合わせが、「楔」だ。これは1色とその敵対色2色からなる3色の組み合わせである。
レジェンズというエキスパンションから、多色カードはマジックに存在した。過去に3回、ブロックの大きなテーマになっている。インベイジョン・ブロック、ラヴニカ・ブロック、そしてアラーラの断片・ブロックだ。当時、2色のカードを大量に作ることになった。3色のカードも作ったが、2色の物に比べるとはるかに少なかった。そして3色といっても、友好色のほうが敵対色よりも多くしたいものなので、そのほとんどは楔ではなく弧だったのだ。
つまり、2色や弧カードよりも楔カードははるかに少なかった。なぜこれが問題なのか? それこそが今日このプレビュー特集で語るところ、つまり「統率者戦の人気」だ。この形式の鍵となる部分の一つ(統率者に馴染みのない諸君のために言っておくと、このルールは mtgcommander.net(リンク先は英語)で公開されている)に、任意の伝説のクリーチャーを統率者として迎えることが必要であるということがある。伝説のクリーチャーの色が、使うことの出来る色を定めるのだ。つまり、統率者を楽しむプレイヤーたちはコストに多くの色を含む伝説のクリーチャーを求めているのだ。
マジックには現在5色の伝説のクリーチャーが11種類いる(《アトガトグ》《アラーラの子》《クロウマト》《概念の群れ》《大祖始》《刈り取りの王》《始祖ドラゴンの末裔》《スリヴァー軍団》《スリヴァーの首領》《スリヴァーの女王》《邪神カローナ》)。4色の伝説のクリーチャーは存在しない(ネフィリムを伝説のクリーチャーにしたいという思いは私の心の底に存在するが)。3色になると、弧カードはいくらもあるが、楔カードは嘆きたくなるほど少ないのだ。
これが意味するところは、常に楔の伝説のクリーチャーを(そうでなくても楔カードを)という望みが聞こえてくるということだ。これは問題である。1枚や2枚の伝説の多色クリーチャーを適当なセットに入れることはできようが、そのセットが多色テーマでない限りは数には勝てない。インベイジョンは統率者より前の物だったし、ラヴニカ・ブロックは2色の組み合わせに注目していた。アラーラ・ブロックは弧に注目していた。つまり、楔の伝説のクリーチャーに注目するような多色セットは今まで存在していないのだ。
このような問題は、アーロンがメカニズム的に新しいカードに挑戦したいと思った理由の一つだった。統率者のためのセットに本当に必要なのは、楔の伝説のクリーチャーなのだ(チームは4色の伝説のクリーチャーについても話し合ったが、そのデザインを置く場所は存在しなかった)。セットがあるべき姿を目指す自由を以て、我々は楔の伝説のクリーチャーを一定量作ることが出来た。そして、私のプレビュー・カードはその中の1枚なのだ。
1+1
このプレビュー・カードを選んだのは、このカードのデザインが私の琴線に触れたからだ。私はこのセットのカードは1枚もデザインしていないが、このカードは私が一番最初に携わったデザイン、テンペストの際にデザインしたカードに酷似している。
私は「融合/Meld」と呼んでいた呪文を作った。その背後にあったアイデアは、2体のクリーチャーをくっつけて1体にするというものだ。元のカードでは、2つのクリーチャーの能力全てを持ち、パワーやタフネスはそれぞれ合算した値であるクリーチャーを作るというものだった。ルール上あり得ない物だったので、最終的に仕上げたカードはこれだった。
全然融合じゃない? うん。
私のプレビュー・カードは、ケン・ネーグルがかつて私が作ろうとしたカードに挑んだものだ。それでは紹介しよう、「力の要求」デッキの第一統率者、《擬態の原形質》だ!
ケンはいくつかの進化を加えた。まず、クリーチャーを墓地から取るようにすることで、カード・アドバンテージの喪失を防いでいる。次に、クリーチャー1体の能力をコピーするというクローン技術を用いて、他方は単にパワーとタフネスを強化するだけにしている。そして、上で言った通り、これは楔の伝説のクリーチャーだ。私は、全てのジョニー(と一部のティミー)がこのカードを楽しんでくれることを楽しみにしている。私が最終的に統率者デッキを組むとき、このカードを統率者にしようと目を付けているのだ。
それでは今日はここまで。次回は色のにじみについてお話ししよう。
その日まで、すさまじい楔の伝説のクリーチャーの夢があなたとともにありますように。
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