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コモンの常識

Mark Rosewater

2011年4月18日


 コモン特集その2「コモンの帰還」へようこそ。2002年4月に、MagicTheGathering.comでは最初のコモン特集を組んだ。興味がある向きは、当時の私のコラム(リンク先は英語)を読み返してみるといい。そのコラムでは、コモンのデザインがなぜ難しいのかについて説明している。今回、また別の観点からコモンのデザインについて語ろうと思うが、なにせ9年前のことなので多少重複しても問題はないと思われる。

最初の最初から始めよう

 今回のコラムには、マジックのカード・デザインにおける自明にして重要なことが記されている。つまり、常にコモンから始める、ということだ。私は今私自身の16個目に当たるセットのデザイン・リーダーを務めている。どのデザインもまったく同じようにして始まるのだ。デザイン・チームを前にして座り、そのセットが何をしようとするのかを見積もり、そしてコモン・カードを作り始めるのだ。なぜ毎回同じ手法をとるのか? コモン・カードにはデザイナーとしての私を捕まえる何があるのか? なぜ私の問いかけは常に3つなのか? それら全ての、そしてそれ以上のことについてこれから語ろう。

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 コモンの重要性を理解するために必要なのは、マジックのブースターを開くことだけである(我らが弁護士のために強調しておくと、ここで説明しようとしていることはブースターを開いた人が一番よく体験するであろうことではあるが、そうならない可能性もないわけではない)。ブースターの中には15枚のカードがある――トークンやルール・カードも数えるなら16枚だけれども、それはこの際関係ないので飛ばすとしよう。

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 パックに含まれているうちの1枚は基本土地で、3枚はアンコモン。1枚はレアか神話レアだろう。残りの10枚のカードはコモンである。つまり、ブースター・パックに含まれている全カードのうち3分の2はコモン・カードなのだ。これがどうして重要なのか? そこにはいくつかの理由が挙げられる。

コモンは第一印象の大半を決める

 小説を書くなら、読者に第一章から読み始めさせなければならない。映画を撮るなら、視聴者に第一シーンから見せなければならない。ほとんどのクリエイティブな努力は、その作品を読者や視聴者にどう経験させるかについてある種のコントロールを行なわせる。トレーディング・カード・ゲームでは、コントロールできる範囲は非常に小さい。どのカードをプレイヤーが最初に見るかについて何も判らないし、プレイヤーごとに違うカードを最初に目にすることだろう。セット内の全てのカードを見てくれることすら確定ではない。確実なのは、プレイヤーは、諸君が選んだのではない順番で、カード群の中の一部を目にするだろう、ということだけだ。

 プレイヤーが何を見るかをコントロールするために諸君に与えられている唯一の道具は希少度である。アンコモンよりもコモンを、レアよりもアンコモンを、神話レアよりもレアを、身にする頻度は高いだろう。つまり、プレイヤーに見て貰うことが重要な何かがあるのであれば、それをコモンに、それも繰り返して配置すべきなのである。プレイヤーがそれを確実に目にするようにしたければ、それを十分な枚数のコモン・カードにする必要があるのだ。

 この理由こそが、「コモンに存在しないテーマはテーマではない」という私の主張の理由なのである。コモンはセットの中心たるメッセージを運ぶのに非常に重要な役割を担っている。キーとなるメカニズム、テーマ、雰囲気などは全てコモンに現れていなければならないのだ。

 コモンからカードのデザインを始めることの大きな理由の一つに、必要な物すべてをコモンだけで示すことが出来ているかどうかを見ることがある。示せていなければ、そのセットのテーマをプレイヤーに伝えることはできないに違いない。全てコモンという練習は、この最初の関門をクリアーできるようにするための非常に簡単な練習法なのである。

コモンはリミテッドの大半を形作る

 最初、リミテッドはブースターを楽しく開けるための方法であった。時を経て、リミテッドはただの後付けからマジックをプレイするためのもっともありふれた方法の一つへと変わっていった。そして、デザインにおいても注意を払うものになっている。現代デザインにおけるコモンのもっとも重要な役割の一つとして、リミテッドが巧く回るようにするということがある。

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 デザインをコモンから始める大きな理由の一つに、コモンだけでのプレイテストはもっとも手軽で簡単なリミテッド環境のテストだということが挙げられる。確かにコモンだけでプレイすることにはおかしなことがあるけれど、リミテッド環境がどのようになるかについて大まかに掴むための非常によい手助けになる。

コモンは初心者の資産の大半になる

 もう一つ意識しておくべき重要なことは、まだ経験の浅いプレイヤーが持っているカードはずっと少ないということである。しばしば、彼らの資産の三分の二はコモンである。つまり、コモンは彼らをこのゲームに導き入れるために我々が有する唯一の手段であることからもデザイン(そしてデベロップ)の有用な道具であることが証明される。

 コモンからコンセプトを取り除いてしまうと彼らがコンセプトに出会うことが遅れ、彼らがそれに接する機会は大きく失われることになる。

 ゲームの活力は、そのゲームにどれだけ新しい血を入れられるかということに依って定められる。マジックには、新しいカードを作り続けることでゲーム全体としての複雑さが増え続けるという問題があり、新しいプレイヤーのために複雑さを減らすことなしには、必然的な陳腐化の道を辿ることになる。コモンに注目することは、この継続中の問題に立ち向かうための助けになるのだ。

コモンの繋がり

 接触する機会の問題がコモンから始める最大の理由ではあるが、それ以外にもいくつかの理由がある。

コモンはもっともデザインしにくい

 前回の基本根本のコラム「デザインの骨格を埋めよう」で、私はセットのデザインに関する重要な見地、つまり「一番難しいところから始めよ」ということについて語った。その理由は至って単純で、デザインするカード全ては他のカードができることによって制限されるからであり、一番難しいところから始めるのは、それらをデザインするのを一番簡単なときにするための方法なのである。制限をもっともたやすく扱うことの出来るデザインに、制限を加えたく思うだろう。私の好きなデザイン上の真理をもう一つ示しておこう。コモンはもっともデザインしにくく、コモンからデザインを始めることの理由はそこにある。

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複雑にするのは単純にするより簡単だ

 もう一つ、コモンから始める理由には、デザイナーがメカニズムを育てていく方向に合致しているということがある。まず最初に、そのメカニズムがどう働くのか基本的な感覚を掴むためにもっとも単純なバージョンから始め、その後で工夫を加えるために複雑さを上塗りしていくというのが一般的である。コモンは、その「もっとも単純なバージョン」を持つものであり、コモンからデザインを始めるということは自然とデザインにとって好ましい手法を辿ることになる。私がよく言う通り、デザインの役割は勢いに背くことではなく勢いを巧く利用することにある。

リミテッド環境を最初の単純なところから調べたいものだ

 この理由は一つ前のものの延長線上にある。リミテッド環境を構築するに際しては、小さいものから始めて少しずつ層を追加していくのが一番である。あまりに多くの因子を一度に追加するとプレイテストはせわしないものになり、何が巧く行っていて何がそうでないのかの分析が出来なくなる。単純なものから始めれば、ほんのいくつかの要素だけに注目することができ、その環境がどう動いているのかをよりよく理解できるようになる。

 既に判るとおり、デザインをコモンから始めることには多くの利点が存在する。

水のプレイテスト

 コモンカードから始めるべきであると話してきたが、ここで、全部がコモンのプレイテストがどういうものなのかについて少し話させてもらおう。様々な意味で普通のマジックとは異なるので、その違いを理解しておくことは重要である。

プレイのバリエーションがずっと少ない

 全ての希少度の中で、コモンの強さには幅が少ない。もちろん強いクリーチャーや強い除去呪文はあっても、それらはより高い希少度のものに比べて調節されている。レアや神話レアにはリミテッドで「爆弾」と呼ばれるようなものがありがちで、それはコモンにはあり得ない。全体除去やリセット呪文もまた、コモンにはあり得ない。

 これはつまり、コモンのみのプレイテストは振れ幅が小さいということを意味する。どちらかのプレイヤーが有利になったら、逆転するのは難しい。大逆転のために必要になるような呪文はコモンには存在しない。同様に、即座に対処しなければならないような脅威もまたコモンには存在しない。

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カードのバリエーションがずっと少ない

 もう一つ、コモンのみのプレイテストでの大きな差として、単純に使えるカードが少ないということが挙げられる。つまり、何度も同じ状況になる可能性があると言うことである。大型の緑の地上クリーチャーはコモンには一種類しかないことが多いのでいつでも同じクリーチャーになるだろう。これを減らすための方法として私が使っている方法に、「2枚」ルールがある。1種類のカードは2枚までしか入れられないというものだ。2枚以上のカードを手にした場合、その過剰なカードを同色の他のカードと交換するのだ。この例外は、複数のバージョンを考慮しているメカニズムを使っている場合であり、その場合には手にした全てのカードを使ってもよいとしている。

クリーチャーは小さい

 もう一つ、コモンだけを使うことの効果として、コモンに存在しないものが存在しなくなるというものがある。存在しないカードの最大のグループは巨大クリーチャーである。緑に1枚、あとは青に「海蛇」がたまにいる程度で、コモンには3/3以上のクリーチャーはめったに存在しない(確かに例外はある)。このことによる最大の影響は、クリーチャーのカーブをいくらか下げること、そして巨大クリーチャーで負けゲームをひっくり返すことが難しくなると言うことである。この変更によってマジックというゲームが壊れるわけではないが、通常とは違う方向性を帯びることは確かである。

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除去は1対1になる

 年を経てコモンから取り除かれたものの一つに、カード・アドバンテージを内包した除去がある。今もコモンの除去呪文は多いが、それらは1対1になっている。これによって、コモンのみのプレイテストにおいて、ゲームのテンポを自分の有利なように変更することは難しくなっている。言い換えると、有利になったプレイヤーは有利であり続けがちなのだ。

一部のタイプのカードは存在しない

 アーティファクトをテーマとしたセット以外では、コモンにはそれほどの量のアーティファクトは存在しない。コモンにあるエンチャントと言えば大抵はオーラである。プレインズウォーカーは何段階もの希少度の彼方である。この影響は、コモンのみのプレイテストには存在するカード・タイプが少しばかり減るということである。

 この節の大きなメッセージとしては、コモンのみのプレイテストは通常のマジックではない、ということである。デザインがそれを使う理由は、デザイナーにその環境がどうなるのかという感覚を与えるのに非常に有用だからであり、詳細なことが判るわけではない。前の記事(リンク先は英語)で語った通り、繰り返しはデザインにとって重大である。従って、デザイナーは早くプレイテストできるファイルを得ることが重要なのである。コモンのみのファイルは、デザイン・チームがそのカードでプレイテストできるようになるための最低限のものとしてよく用いられるのだ。

コモンの知識

 最後に、良いコモンカードのデザイン法についていくつか言って終わりにしよう。

単純たれ

 そのカードは1つだけのことをすべきである。クリーチャーなら、能力は、キーワード、起動型、誘発型能力のどれであれ、1つ。むしろバニラ・クリーチャーであるべきこともある。コモンカードをデザインするにあたってデザイナーがもっともよく失敗するのはここである。私は、自分のデザイン・チームにコモンだけをデザインするように言うことがある。そうしてデザインされたカードをコモン、アンコモン、場合によってはレアに振り分けるのだ。

 コモンカードを単純にすべきだと言うことはどれだけ強調しても強調したりない。マジックには複雑さの余地はあるが、コモンにはない。デザインにおけるコモンの役目は、アイデアを煮詰めてそのエッセンスを取り出すことであるが、そのエッセンスでさえもコモンにはならないことがあるのだ。

短文たれ

 カードの文章は注釈文も入れて3行以内にまとめるべきである。実際のセットにはこの条件に当てはまらないカードもあるが、多くはない。一般に、私はこれを目標としてよい物だと考えている。

 多くのデザイナーはカードの働きを短縮文で書いて実際のルール・テキストを書かないでおこうとする。例えば、青のカードで「石臼4」とだけ書かれているようなものだ。この種の短縮文の問題は、デザイナー自身がプレイヤーが感じるような感じ方を出来なくなると言うことだ。一貫すると単純で判りやすく見えるが、書き下してみるとそうでないことはよくある。

 私は、デザイナーがカードを印刷される状態で見るために、注釈文をカードに書くことを推奨している。私は、デザインの初期の段階でメカニズムをデル/Del やマット/Matt(それぞれ編集のトップとルール・マネージャーだ)に送りつけて大まかなテンプレートを受け取り、そのカードが実際にどういった見栄えになるのかをチームのメンバーに掴んで貰うことが非常によくある。

 一見すると文章の長さはそれほど重要ではないように思われるが、これまでの統計からカードのテキストが長くなればなるほど理解されないことが多くなっているのだ。

関連せよ

 コモンカードには2つのうちどちらかの役割がある。ゲームを動くように、また穴がないようにするために必要な基本カードと、セットのエッセンスを満たすカードである。理想的には可能な限りのカードが両方の役割を満たすべきだが、実際にはカードの多くはそのどちらかだけの役割を果たしている。

 あるカードが前者の役割を果たしていないなら、それは後者の役割を果たさなければならない。つまり、コモンカードをデザインするにあたっては「これはセットを定義するカードだろうか」と問い直さなければならない。当てはまらなければ、そのカードはダメだ。言ってしまえば、拡張セットにはセットを前進させないカードの居場所はないのだ。

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芳醇たれ

 カードを単純に保つ最高の方法の一つに、カードの働きの一部をクリエイティブに任せることがある。フレイバーに満ちたカードは、プレイヤーが既に持っている情報を持ち込むことが出来るので単純にできる。開発部で、我々は「共鳴」についてよく語る。我々は既知の何かに当てはまる、そのイメージ通りのことをするカードを好む。それらのカードは、実際にそのカードを見るよりも前から充分な知識を与えられているのでもっとも理解しやすいのだ。もちろん、フレイバー以上の機能を持つカードは存在するが、コモンにおいては全てのカードでフレイバーが役目を果たすようにすることを試みることができる。

コモンたれ

 奇妙な話だが、これもよくある間違いなのでここに入れておこう。私は、デザイナーがよくコモンでないコモンカードをデザインすることをおもしろがっている。よくあるのは、ゲームのある一面はコモンで行なわれることでない、ということに気づいていないことによるものである。コモンを作る諸君に、最新セットのコモンを見ろ、とアドバイスを送ろう。例えば、ミラディンの傷跡のコモンを見てみるといい。



 私がここでどれだけ言うより、実際にミラディンの傷跡のコモンを見るほうが教訓が得られるだろう。GDS2のトップ8全員が、現代のセットのコモンをデザインしろと言う課題に対して、それらのセットのコモンを見るのにかなりの時間を費やしてきたことを私は知っている。コモンをデザインするということに興味があるなら、これらのコモンを見るためにも時間を掛けろと強く主張しておこう。

コモンな表現

 今回コモンについて語ることは以上だ。今後9年は経たないうちに、また新しく言いたいことを携えて語ることになるだろう。

 それではまた次回、新たなるファイレクシアのプレビューでお会いしよう。

 その日まで、あなたのコモンがコモンでありますように。

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