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ジェイスの話

Tom LaPille / Translated by YONEMURA, Kaoru.

2011年4月15日


 先週末、1200人ほどのプレイヤーがグランプリ・ダラス優勝の栄冠を求めてフォートワース・コンベンションセンターに集った。フォーマットは、世界中のフライデー・ナイト・マジックやマジックオンラインでは毎分毎分行なわれているスタンダードである。この大会の結果は、これからのスタンダードの顔を定義するだろう。

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 トップ8の全てのデッキに、《精神を刻む者、ジェイス》が4枚ずつ入っていた。

 これは即座にインターネット上に広がり、議論を巻き起こした。社内でも多くの議論が起こった。今日は、何が起こっているのかについての我々の大局観を共有したいと思う。

 まず、これはしない、ということについて話そう。我々は、《精神を刻む者、ジェイス》やその他のカードをスタンダードで緊急禁止にすることはない。

 何を言っているのか解らない人のためにもう少し明確にしよう。我々は年に四回、定例の制限・禁止告知を行なっている。次の告知は6月20日の予定であり、その告知は7月1日に発効する。そのときまでは、(現在空の)スタンダードの禁止リストへの変更を告知することはない。

 緊急禁止、あるいは通常の告知日以外の日に禁止を告知することは非常に稀である。実際、マジックの歴史上緊急禁止を行なったのは実に1枚限りである。そのカードとは、《記憶の壺》。この決定には複数の要因があった。ウルザズ・レガシーの発売に至るまでのスタンダード環境は《トレイリアのアカデミー》のような、第3ターンでゲームを決めるコンボデッキに支配されていた。《記憶の壺》は、さらなる、明白に壊れたコンボカードであった。スタンダードを、新たなセットからの壊れたコンボデッキでみすみす支配させるよりも、発売の直後にそのカードを禁止することを選んだのだ。

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 現在のスタンダードはこれほどひどい状態ではない。当時に比べれば、今はよっぽど健全だと思える。確かに1枚のカードが他のカードよりも明らかに強いとはいえ、そのカードのコストは4マナであり、唱えるのに4マナかかるのだ。そして、そのカードを出したからといって即座にゲームに勝つわけではない。スタンダードは3ターンキルのコンボデッキに支配されているわけではないので、緊急禁止の理由にはならない。

 スタンダードでカードを最後に禁止したのは、2005年の3月である。そのときの告知において、《電結の荒廃者》《大霊堂の信奉者》、それにアーティファクト・土地6種を禁止した。これらのカードによって成り立っていた親和デッキは、ダークスティールの発売以来スタンダードを脅かせ続けていた。つい最近もこれらのカードについてこのコラムで語らせてもらった(リンク先は英語)。《電結の荒廃者》親和デッキは3ターンキルのコンボデッキではないが、第3?4ターンにゲームを決めることは充分にあり得、古典的な対クリーチャー戦略への耐性も高いことが証明されていた。環境最強のデッキであることは明らかで、多くの戦略を圧殺する速度を兼ね備えていた。

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 今日の状況が理想的ではないにせよ、《電結の荒廃者》親和の状況と比べてひどい問題があるとは思わない。《精神を刻む者、ジェイス》を使うデッキが第3ターンや第4ターンにゲームを決めることはないし、対戦相手にも色々な対処の余地が与えられている。スタンダード環境に強力なカードが影を落としてはいても、恐ろしいほどにプレイの選択肢はあるのだ。

 話を進める前に、現在の論点についてはっきりさせておこう。《精神を刻む者、ジェイス》は、我々が意図したよりも強い。今考えればもっと弱くすべきだったと思う。これまでも、意図した以上に強いカードやもっと強くすべきだったと思うカードは存在した。稀に、そういったカードを禁止したこともある。しかし、ほとんどの場合において、構築環境はプレイする楽しさを維持していたので禁止しなかったのだ。

 カードを禁止すると言うことについてもう少し事情があるので、何が起こっているのかをもう少し詳細に見ていこう。

カードを禁止するだと!?

 マジックの商品を買うのは、そのパックの中に入っているカードをマジックのトーナメントで使えるという前提があるからだ。エターナル環境に関して言えば、未来永劫に渡って使えるし、エクステンデッドでは4年ほど、スタンダードでは15ヶ月から2年までのあいだの一定期間。

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 完全性とは関連性が働くようにするものであり、我々は自分たちの放った言葉を重んじている。我々がカードを禁止するたび、自分の言葉を破っているのだ。従って、我々はカードを軽々に禁止することはない。

 これは全ての禁止について真であるが、ジェイスについてはさらに状況が複雑になる。《精神を刻む者、ジェイス》は非常に魅力的なカードであり、プレイヤーの多くはそれを手に入れるためにかなりの努力をしてきた。我々はそれを理解しているし、それだけマジックに愛情を注いでくれていることを嬉しく思う。このようなカードを禁止することは、我々がやりたくないことの一つである。

楽しむことはバランスよりも重要だ

 マジックはゲームである。ゲームにまず第一最大に必要なのは、楽しいことである。楽しいことを作り上げることにはいくつもの要素がある。バランスはもちろんその一つだが、バランスだけが全てではない。時を経ての変化、多様性、何度もプレイできること、自由度、その他様々な要素が関与しているのだ。

 《記憶の壺》を禁止したとき、また《電結の荒廃者》たちを禁止したとき、スタンダードのマジックは楽しくなかった。それを明白に示していたのは、当時のトーナメントの参加人数が、両方において、大きく落ち込んでいたことだ。これは今は起こっていない。現実のトーナメントは今まで通り大盛況だ。マジック・オンラインのスタンダードも頻繁に行なわれ、プレイヤーを集めている。ジェイスがより弱ければスタンダードはより面白かったろうけれど、スタンダードからプレイヤーは駆逐されていないのだ。

 もちろん、楽しむためにはある程度のバランスが必要だ。《精神を刻む者、ジェイス》は環境最強のカードの1枚であることには疑いもないが、マジック・オンラインなどを見るとジェイス抜きで戦おうとしている人たちも大量にいる。デイリー・イベントのデッキを見ると、ヴァラクート・ランプ、ボロス、赤単、吸血鬼などなどジェイスを使わない一般的なデッキもあれば、数は少ないものの青黒感染や《獣相のシャーマン》+《復讐蔦》デッキだってある。これらのデッキを使うプレイヤーは、ジェイスなしでも結果を残す余地が充分にあると言うことを主張しているのだ。

 既に言った通り、我々は《精神を刻む者、ジェイス》が強すぎるようになったことを喜んでいるわけではない。しかし、現在のスタンダード環境は充分に楽しく、多くの人がプレイしたいと思っている環境なのである。

新しいセットはやってくる

 これから10日で、新たなるファイレクシアの公式プレビューが始まろうとしている。新たなるファイレクシアは、既に告知されているとおり、175枚のセットで発売以降にスタンダードで使用可能になるわけだ。フューチャー・フューチャー・リーグでも何ヶ月も掛けてテストしたが、これはスタンダードの世界を変えると断言しよう。テストしたのは20人で、外には何十万のプレイヤーがいるのだからどうなるかは断言できないが、ひとたびファイレクシアの全力全軍が解き放たれたら変わらずにいられるものなんて存在しないのだ。

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 《精神を刻む者、ジェイス》は一つの象徴なので、直接それを指示しよう。新たなるファイレクシアのカードのうち少なくとも2枚は、プレインズウォーカー対策のカードだ。フューチャー・フューチャー・リーグでのテストにおいて、それらのカードはその強力さを証明していた。

 さらに数ヶ月すれば基本セット2012が控えている。今夏の基本セットは強力なプレインズウォーカーと対抗する必要性を意識して構築されている。《吸血鬼の呪詛術士》や《ファイレクシアの破棄者》では足りなかったかもしれないが、二の矢三の矢がプレインズウォーカーを狙っているのだ。

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 スターシティーゲームズ・オープン・シリーズなどのトーナメントによると、現在のスタンダードは史上もっとも綿密な環境であり、この環境の進化のサイクルはどんどん短くなっている。毎日、何十万というプレイヤーの手によって、実トーナメントで、またマジック・オンラインで、より多くのアーキタイプがそれぞれの極限を目指して結晶化していく。新しいカードが環境に投入されるたび、このサイクルはもう一度最初から繰り返されることになる。「新たなるファイレクシア」の発売は5月13日。その日を境にスタンダードは様変わりすることを保証しよう。《精神を刻む者、ジェイス》はそれ以降にも一定の地位を保持するだろうが、結果どうなるかは誰にも判っていないのだ。

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 記事の最初に言った通り、次に制限禁止リストを告知するのは6月20日である。新たなるファイレクシアがスタンダードに投入されてから1ヶ月少々が経っており、それまでには充分なインパクトが明確になっていることが望まれる。今日の時点では、6月20日にどういう決定を下すかについてはなんとも言えない。言えないが、我々は我々の決定について非常に注意深く考えるということを約束しよう。

 この問題に関するインターネットでの議論はしばしば乱暴なものになっているが、それほど興奮するのはマジックを愛しているからだと我々は理解している。プレイヤーの皆さんが、我々と同じようにマジックを愛してくれていることを嬉しく思うし、これからも意見を寄せて欲しい。プレイしてくれてありがとう。


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