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舞台裏の六つの秘密

Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki

2011年3月16日


 カードアートは舞台背景の視覚的情報を垣間見せてくれる、だけど。カード名とフレーバーテキストはその舞台の言語世界へと誘ってくれる、だけど。記事からはセット製作の背景にあるデザイン話を探ることができる、だけど。いつもそこには「だけど」があって、長方形をした一枚のカードが伝えることができる世界のディティールにはいつも限界がある。毎週ウェブのコラムニスト達が君を満たしてくれていても。

 これはつまり、ゲームの舞台背景に存在するものと君達に提示できるものとの間には常に情報量のギャップがあるということだ。スタイルガイドには常に我々が公開できるものより多くの詳細があって、語ることのできるものより多くの物語がある。だから今日はそのギャップを狭めるために時間をとろうじゃないか。ミラディンの傷跡とミラディン包囲戦についての、君がたぶん知らない些細だけれど面白いネタをいくつか見てみよう。



注射器状の指

 《メフィドロスの吸血鬼》以外には、最初のミラディンブロックではミラディン産吸血鬼にそれほど多くのスポットライトを当ててはいなかった。だけど我々がミラディンの傷跡でこの次元に戻ってきた時にはミラディンの吸血鬼達を再訪する機会を得て、この吸血生物達に多くの時間を割いてより力強く、矛盾のない外見を与えることができた。


冷たき集いの吸血鬼》 イラストレーション:Randis Albion

 ミラディンの吸血鬼は細く尖った犬歯を持つが、彼らのその牙が血液を摂取する主な手段というわけではない。彼ら吸血鬼達の中指と薬指には長く伸びた金属の刺があり、犠牲者に穴をあけて血液を吸い取るために使用している。君達はそれら注射器状の指を《冷たき集いの吸血鬼》や《喉首狙い》といったカードに見ることができる。


喉首狙い》 イラストレーション:David Rapoza

 このコンセプト・アート(と《冷たき集いの吸血鬼》のアート)には、吸血鬼の消化システムの役割を果たすいくつかの金属の「導管組織」が描かれている。注射器状の指の入り口から吸われた血液は、吸血鬼の体内の血液導管システムによって身体中へと流れ分配される。


イラストレーション:Richard Whitters

基本地形包囲戦

 ブロックの二番目のセットでは最初のセットの基本地形を使う、それがルールだ。ルールはもう一つある、我々はルールを破るのを楽しむ。ミラディン包囲戦はいつもの基本地形の伝統に従ってはいない。包囲戦のブースターパックの呼び物は新イラストの基本地形で、それが包囲戦を独特なものにしている。何故かって? 簡単な回答はこうだ。「傷跡と包囲戦の間の風景の変化を示すため」。

 マジックをプレイするほとんど全ての時において、基本地形は常に君達の目の前にある。そのアートは舞台の大規模スケールでの変化を見せる最もいい手段の一つだ。我々は基本地形のアートを、物語で何が起こっているかを反映し、それが舞台そのものにどのように影響しているのかを示す豊かなヒントとして愛している。ミラディンの傷跡の基本地形アートは、それぞれの基本地形タイプごとに4枚連続のパノラマとして作られた(4つの異なる傷跡の《平地》が並んで一つのアートとなる。傷跡の《》やその他も同じように)。そしてミラディン包囲戦の基本地形でそれは6枚連続のパノラマになった。

 君はミラディンの傷跡特設サイトでミラディン包囲戦の基本地形が傷跡のオリジナルの風景がさらに広がったのを見ただろうか(マウスで右と左方向をより遠くまでスキャンしてみよう)。我々は同じアーティスト達に、4枚の基本地形に更に二つ追加してくれるよう依頼した。我々はまた彼らに、ファイレクシアの感染が拡大してミラディンの土地が変化した様子を示してほしいと依頼した。James Paickのミラディン包囲戦の2枚の《平地》には陰鬱で腐敗した亀裂が走っていて、黒く煤けた剃刀草がくすんだ霞の中ぼんやりと立っているのがわかるだろう。Tomasz Jedruszekのミラディン包囲戦の《》はあばたと刺だらけになって、膿漿に汚れた石柱と曲がった肢のような鉄柱が露わになっている。君がミラディン包囲戦のパックを開けた時の感情は表現しがたいが、それはファイレクシアの堕落がより大きく増大している雰囲気に貢献している


転倒の三角護符

 ミラディンの傷跡の5枚の三角護符シリーズは、それぞれ3つの蓄積カウンターを持って戦場に出るアーティファクトだ。蓄積カウンターと、燃料となる色マナを必要とする能力を持つ。5つ全てのアートにおいて、我々は「三角形の物体を持つ人型生物の手」と依頼した。レオニン、ヴィダルケン、屍賊、ゴブリン、そしてエルフの鉤爪や手がわかるだろう。

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 だが我々はもう一つ依頼した。6つめの作品、金属のゴーレムの手に握られた「無色」の三角形アーティファクトを。それは《転倒の磁石》に使われたものだ。傷跡のデザイナー達は《転倒の磁石》を三角護符サイクルの「無色」メンバーとはみなしていなかったが、それらには少々の共通点があった。3つの蓄積カウンターがあって、それらを使用する。ゆえに我々はそれらを繋げることにした。だが最終的に、《転倒の磁石》は三角護符サイクルのメンバーだとは言いがたいほど十分に違ってしまった(アンコモンではなくコモンで、それに「蓄積する」能力を持たない)。ゆえに「三角護符」のバッジは取り消され、その代わりに《転倒の磁石》となった。


転倒の磁石》 イラストレーション:Drew baker

エルフから爪へ

 ミラディン包囲戦のカード《ヴィリジアンの爪》のために描かれたMarc Simonettiのアートは、絡み森のヴィリジアン・エルフが、爪に似た華麗な銅製の刃を持つ片手武器を振り回す姿というものだ。このアートは実はミラディンの傷跡において依頼されていて、装備品ではなくエルフのクリーチャーカードに使用される予定だった。だがミラディンの傷跡にSimonettiの作品の収まる場所はなかった。傷跡のエルフの多くはファイレクシア化した容貌かもしくはメカニカルな印象が必要で、この作品には合わなかった。ゆえにこの作品は少しの間冷蔵されて、我々はこれが収まる場所を探した。

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 包囲戦の「+1/+0修整と先制攻撃を与える」装備品はこのアートの最適の収まり場所となった。主役として描かれているのはミラディン勢力のエルフだが、彼女の爪型武器もまたはっきりと描かれていて、そしてカード能力の「速くて軽い武器」という雰囲気に実によく合っている。


病気のティラナックス

 ファイレクシア軍は巨大な緑のビーストからの攻撃を受け続けた。だけどそのビーストはフィフス・ドーンの奴等で、ミラディンの傷跡に登場した最上位種ではない。《病気の拡散》のアートには殺されたティラナックスが描かれていて、その身体からは黒い膿漿が漏れ出している。


病気の拡散》 イラストレーション:Jaime Jones

 殺されたティラナックスの前脚はフィフス・ドーンで登場した《ティラナックス》の5/4のそれによく似ている。ミラディンの傷跡に登場した6/5の怪物、《最上位のティラナックス》は似たような骨格構造の前脚を持つが、その先端は明らかに一本の鎌に似た付属器官ではなく、下方へと湾曲した刃の鉤爪だ。

 《病気の拡散》のアートに散らばる小さな点は実はピスタス蠅で、それは(以前の記事で説明したように)蚊に似た昆虫のような生物だ。ピスタス蠅は感染した宿主から体液を摂取することによってファイレクシアの汚染を拡散する。まさに(増殖メカニズムのおかげで)今ここでそれが起こっている。


頂点、標、アーティファクトのランドマーク

 ミラディン包囲戦の頂点サイクルの呪文はフィフス・ドーンの標サイクルをしのばせる。それらは全て強力なソーサリーとインスタントで、墓地に落ちる代わりにライブラリへと戻ってシャッフルされる。だが背景設定的繋がりも存在する。5つの標には5つの大空洞からのマナの噴出が描かれているし、5つの頂点はそれぞれの色をしたミラディンの太陽がミラディンの有名なランドマークの頂上にかかっている。そのランドマークはミラディンのアーティファクト土地サイクルだ。そして、標の大空洞は描かれているアーティファクト土地の中に存在する。以上が詳細だ。

 《白の太陽の頂点》にはタージ=ナール、レオニン文明の首都が描かれている。その元は《古えの居住地》だ。


白の太陽の頂点》 イラストレーション:Mike Bierek 古えの居住地》 イラストレーション:Rob Alexander

 《青の太陽の頂点》にはルーメングリッド、ヴィダルケンとニューロックの人々が暮らす水銀海の都市が描かれている。その元は《教議会の座席》だ。


青の太陽の頂点》 イラストレーション:Izzy 教議会の座席》 イラストレーション:John Avon

 《黒の太陽の頂点》にはイシュ・サー、メフィドロスの中心にしてゲスの要塞が描かれている。その元は《囁きの大霊堂》だ。


黒の太陽の頂点》 イラストレーション:Daniel Ljunggren 囁きの大霊堂》 イラストレーション:Rob Alexander

 《赤の太陽の頂点》にはカルドーサ、ミラディンのゴブリン達が聖地とする鋳造所のような都市が描かれている。その元は《大焼炉》だ。


赤の太陽の頂点》 イラストレーション:Svetlin Velinov 大焼炉》 イラストレーション:Rob Alexander

 《緑の太陽の頂点》にはテル=ジラード、ミラディンの歴史が刻まれた絡み森の銅の巨「木」が描かれている。その元は《伝承の樹》だ。


緑の太陽の頂点》 イラストレーション:David Rapoza 伝承の樹》 イラストレーション:John Avon

 以上が今日のミラディンの傷跡とミラディン包囲戦の舞台裏の6つの秘密だ。だけど明らかにこのブロックはまだ終わっていない。未だ明らかでないいくつかの秘密がまだ、ある。


今週のお便り

 今日のメールはJonから、《皮剥ぎの鞘》のアートと細菌の一般的なサイズについて。

親愛なるダグ・ベイアーへ

 「細菌の戦い:生体武器のフレーバー」を読ませて頂きました。

 《皮剥ぎの鞘》が手だなんて気がつきませんでした! そこで質問です。彼ら細菌の大きさは、あの手の大きさはどれほどなのでしょうか? 明らかに《骨溜め》はとても大きく、少なくとも死体を消費したり自身に付加したりできる程はあります。細菌の大きさはどれほどなのか、そして細菌の入った《皮剥ぎの鞘》の手の大きさはどれほどなのでしょうか? 《荒廃鋼の巨像》の手くらいにも、《解剖妖魔》の手くらいにも見えます。


 Jon、君が指摘してくれた通りだ。生体武器アーティファクトや、細菌として知られる小さな這い回るファイレクシア人の胚の大きさを測定するための比較対象が存在しない。《皮剥ぎの鞘》は人間ほどの大きさをした手かもしれない、それはつまり細菌は小型の子犬サイズだということだ。しかし《皮剥ぎの鞘》と比較できるようなサイズの知られたクリーチャーが描かれていないので、それは巨人ほどの大きさかもしれない。その上、全ての細菌は同じサイズなのかどうかも明らかではない。孵化器から取り上げられて《皮剥ぎの鞘》のソケットに差し込まれる一体は、《縒り糸歩き》に縛られるよう定められた細菌より小さいかもしれない。


皮剥ぎの鞘》 イラストレーション:Igor Kieryluk

 ところで、ミラディン特設サイトに最近登場した大修道士、エリシュ・ノーンの壁紙をチェックしてくれただろうか。ファイレクシア陣営の平地に向かい、右にスクロールしてほしい。エリシュ・ノーンのホットスポットを見つけたら壁紙を開いて、彼女の手を見てみよう。面白いだろう。この二つの作品は同じアーティスト、Igor Kierylukによるものだ。そして彼女の手の接合組織は《皮剥ぎの鞘》とほとんど同じだ。これはファイレクシア人達の身体部位の規格を示しているのだろうか? 彼女は二つの《皮剥ぎの鞘》をまとっているのか、それとも生体武器である《皮剥ぎの鞘》は彼女のような存在の一片から作られたのだろうか? ファイレクシアにとって、それらは交換が可能なものなのだろうか?


骨溜め》 イラストレーション:Chippy

 それら細菌達はもしかしたらそれぞれ違う大きさなのかもしれない。実のところ、様々な生体武器アーティファクトを描いてくれたアーティスト達には数行の説明文しか与えられていない。その上、ファイレクシア人達は組み立てラインに沿って製作されたのではない。彼らは(彼らがそうみなす)完璧な姿を作るのだ。彼らは仕様書に従って身体部品(と細菌)を作る。だけどそれでも、エリシュ・ノーンの身長の情報がなくとも私は、細菌は《皮剥ぎの鞘》から推測されるよりも大きいのではないかと思っている。《骨溜め》をチェックして、細菌の顔とそこから伸びた腿節のサイズを比較して頂きたい。その腿節は人間かゴブリンのそれ程のサイズで、ゆえに細菌は人間の頭蓋骨程の大きさにまでなるかもしれない。《皮剥ぎの鞘》はおそらく人間の手よりずっと大きいサイズなのだろう。もしそいつが君に向かって走ってきたなら、君の恐怖度はメーターを振り切るだろうね。

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