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言語学から見るミラディン包囲戦
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言語学から見るミラディン包囲戦
Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki
2011年2月2日
オクラ・トゥインキー・トーフ:ミラディン包囲戦エディションの時間だ!
君達がむさぼり食らっているそれ、マジックのカードは言葉の栄養をまさしく豊富に含んでいて、その言葉の出所はいつでも確認するに値する。我々は昨年10月にミラディンの傷跡を形作るいくつかの風変わりな言葉についてチェックした。プレリリースが過ぎ去りビジュアルスポイラーが都合よく埋まった今、ミラディン包囲戦に含まれる言葉と言葉術について取り調べる時が来た。
だが今回は、ちょっと変わった形式でやろう! 私はこの知識を君達に教訓的に与えようとはしない。代わりに、私が答えを明かす前にそれぞれの言葉の起源について推測する機会を与えよう! 我々ゲーマーはゲームを楽しむものだ―そしてどんな形でも私はスコアを記録はしないし、ほんの少しだって裁定しようとかは思わない。よし、始める前に「オクラ・トゥインキー・トーフ」のルールをもう一度確認しよう。
私はミラディン包囲戦のどこかにある、カード名かフレーバーテキストで使用されている言葉を提示する。君達はそれぞれの言葉をオクラ、トゥインキー、トーフのどれかに分類する。それぞれの分類の定義は、
オクラ:現実世界にも存在するが、造語に思えるかもしれないもの。曖昧だったり既に廃れた英語、もしくは他の言語から借りてきた単語など。
トゥインキー:完璧な造語であり、現実世界に存在しないもの―その環境での特別な用途に相応しいものとして作られた空想的新表現(訳注:トゥインキー/Twinkieはアメリカの有名なスポンジケーキの商標であり、ジャンクフードの代表格)。
トーフ:現実に存在するものから作られたが、どこか奇怪でなじみのないもの。単語を調合して新たに作られた、もしくは実際の言葉を改造したもの。
それぞれの言葉について推測したら、クリックして答えを見てほしい。その順番だよカンニング好きさん達! では始めよう。
Cryptoplasm (《謎の原形質》)
これは英語の単語ではないが、混じりっ気無しの現実世界にルーツを持つ由緒正しいトーフだ。「組織」や「生体物質」を意味する"-plasm"と、「隠れた」「秘密の」を意味する"crypto-"が合わさったものだ。《謎の原形質》はつまり、隠されているか秘密の生体物質だ。実際、このカードは魔法的にその姿を変え、ファイレクシア内部に浸透するミラディン人のエージェントを表している。カードイラストでは、前面のファイレクシア的外見をした者がその背後にいる死んだファイレクシア人の姿をとっている―勝者はミラディン軍のスパイ、《謎の原形質》だ。
Shrike(《枝モズ》)
"Shrike/モズ"は格好良く作り上げられた言葉のように聞こえるが、実在する―つまりオクラだ。"Shrike/モズ"はステップやサバンナに生息する鳥の一種だ(訳注:北米大陸にモズは僅かしか生息していない)。面白い点としては、モズの科名、Laniidae/モズ科はラテン語の「肉屋」から来ていて、この鳥はよく「肉屋の鳥」と呼ばれている。彼等は昆虫や小動物を捕らえては尖った枝や有刺鉄線、その他とにかく尖ったものに突き刺しておくゆえに! ファイレクシアは確かに賛同するかもしれない。このカード名の他の部分、"Tine/枝"は白に列するファイレクシアの金属のくちばしと鉤爪を指している。"Tine/枝"は鋭利な突出物や枝角、フォークの歯などをまさしく指す言葉だ。
Norn(《ノーンの僧侶》)
リアルなものは何もない―この言葉は完全に作られたものだ。"Norn/ノーン"はエリシュ・ノーン、ファイレクシアの階級において重要な地位にある者を指している。だがこの単語は英語にも他の地球上の言語にもルーツを持たない―全て化学的に作られて、意味はない。
Gnathosaur(《オオアゴサウルス》)
"gnatho-"の由来はギリシャ語で「顎」の意だ。"Saur"はギリシャ語で「トカゲ」。この二つの組み合わせの結果、ファイレクシア人をその顎で噛み砕くミラディンの巨大トカゲが誕生した。バリバリムシャムシャ、ファイレクシア人うまうま。自然の要素を妙な形に組み合わせる―トーフだ!
Mitotic(《分裂の操作》)
"Mitotic/分裂"はきちんと辞書に載っている古い言葉で、我々のほとんどは普段使わなくなってしまっているものだ。生物学において細胞/cellの有糸分裂を指す言葉でもある。この呪文は君がコントロールするパーマネントのどれか一つを複製する―ライブラリートップから7枚のうちに引き当てられたならば。最悪でも君は《島》を入手できるだろう―でももしかしたら《停滞の監房》があるかも! は! Cell繋がりジョークでした。そんなことばっかり言ってるから私は皆からバカにされるんだよね。
Compleat(《ファイレクシア化》 フレーバーテキスト)
この"Complete/完璧"の廃れた綴りはエキゾチックに見えるかもしれないが、全く自然なものだ。英語では"Compleat"という形容詞は「あらゆる面において高い技術を持ち、熟達している」や「全部、全体」、用例として「完璧な俳優」や「完璧な運動選手」といったように、ある人物の専門的職業における才能の幅を指す。マジックにおいては、"Compleat"はまた動詞でもある―快い意味ではない。それは誰かがファイレクシア人となる過程を意味するか、もしくはファイレクシアによって「完璧となった」状態を指す。ファイレクシアはただ屍からなる恐怖の文明というわけではない―それはまた、有機体への考え方と有機体が可能な限り最良のものとなるには何が必要かという考え方を持っている。ファイレクシア人達は次元を統べるだけでなく、犠牲者達から吸収し変形させる。ただし目的のために―なぜなら彼等は非ファイレクシア人を不完全で、不十分で、完璧ではない/incompleatとみなしているからだ。
Flensermite(《解剖妖魔》)
これはトーフの領域―完全に自然の原料から作り上げられた奇妙な混ぜ合わせ語だ。そうとも、「完全に自然」はそれを後押ししてくれるかもしれない;語源の"flenser"は意地の悪い領域に固く結びついている。「"flense"すること」は「?から余分な脂肪や皮を剥ぐこと」を意味し、鯨やセイウチをそうするように―もしくはファイレクシアの場合、人々をそうするように。"Mite"はより馴染み深く、単純に「とても小さい物体」や「とても小さいクリーチャー」を意味する。《解剖妖魔》はその指に犠牲者の有機組織を剥ぐために使う刃をもつファイレクシアの小さなグレムリンだ。つまりどういうことか、もしプレリリースで《解剖妖魔》に攻撃されていたならわかるだろう! こいつは身の毛もよだつようで、だけど言語的にはうっとりする程にすばらしい。
Pistus(《ピスタスの一撃》)
Richard Whittersによる コンセプト・アート |
この言葉は作り物の中の作り物だが、きちんとした世界構築から成っている。スタイルガイドには、飛行するピスタス蠅は蚊に似た空を飛ぶ昆虫で、生物の体液を吸うとある。最近彼等はその貪欲さとファイレクシアの汚染を他のクリーチャーへと広める才能から、そうとは意識せずにファイレクシアの仲間となった。ピスタスの十分に飢えた群れはドラゴンさえ倒しうる―そして十分な量のファイレクシアの油の痕跡を残してゆく。毒の一滴を君にも残して。
Oculus(《眼魔》)
君達がこれをトーフだと推測したことを責めはしない―この言葉は"Ocular/眼の"や"oculocutaneous/眼皮膚"(私は確信しているよ、いつでも君達がやってくるのを)といった言葉を改造したもののように聞こえる。だけど"oculus"は正真正銘の英単語だ。意味はシンプルに「眼」、そしてこのファイレクシアのホムンクルスは間違いなくとても目立つそれを持っている。建築学では"Oculus"は環状の開放部、ドームの天井のようなものという意味もある。《眼魔》のクリーチャーデザインは、絵に見ることができるようにその形、ホムンクルスというクリーチャー・タイプにいっそう矛盾のない方向を目指した;魔法で作られた召使いクリーチャーの「顔いっぱいの眼」というデザインは《結ばれた奪い取り》や《こそこそするホムンクルス》にも見ることができる。もちろんホムンクルスのファイレクシアへの適合においては、その可愛らしさを取り除かなければいけない。ああ、どんな方法でもそれが最優先だ。くねくねぐねぐね。
Galvanoth(《ガルヴァノス》)
私はこれをトーフに分類する、とはいえこれの語源はとても遠まわしで、トゥインキーに十分近い。最初の部分"Galva"は"galvanic/ガルヴァーニ電気の"や"galvanism/ガルヴァーニ電気"、生体電気に関わっている。だがこれらの単語そのものはルイージ・ガルヴァーニ、死んだ蛙の脚に電気を通すと痙攣することを発見した人物の名から来ている(我々は現実世界の人物に由来する単語をいつも使うわけではないが、《通電式キー》や《感電の弧炎》といった前例があり、アーティファクト・ブロックでは常に電気関係用語を多く使用する)。次の部分"-noth"は大型クリーチャーはその名前の最後に"-oth"を持つというマジックのちょっとした伝統で、《アボロス》、《強情なベイロス》、《ゴロゾス》、《古木のヴァーデロス》などなど。だけどその伝統は今度は、ロシア語に由来をもつ「マンモス」や、驚くべきことに全く異なる語源、「獣」を意味するヘブライ語の複数の単語から来ている「ビヒモス」、そういった現実世界の言葉に起源があるように見える。この二つが《ガルヴァノス》となって、エネルギーの節点を探して徘徊し純粋な源を見つけたなら華々しい魔力の爆発を放つミラディンの獣となった。
Mortarpod(《迫撃鞘》)
ミラディン包囲戦に収録されている、身の毛もよだつようなファイレクシアの生体武器アーティファクトの多くは単語の混ぜ合わせから命名された。生体武器はファイレクシアの装置で、小さなファイレクシアの「細菌」に付いて出て来る。彼等のライフサイクルの早期、未熟なうちに徴用されたファイレクシア人だ。ギリシャ語の"podos"から来ていて「脚を持つもの」を意味する"-pod"と、高い角度で砲弾を放つ短めの大砲"mortar"が合わさった結果、蜘蛛のような脚で動き回る大砲に似た武器である《迫撃鞘》が完成した。面白いことに、"mortar"という単語はラテン語で"bowl/鉢"を表す。"mortar and pestle/乳鉢と乳棒"のように。歴史的に最も古い砲撃武器は浅い鉄の鉢以上のものではなく、台所や薬屋で使用されていた鉢と同じものなのだろう。そしてこれこそが風変わりな、だけど平凡な材料から調理された言葉だ。
Decimator(《大量破壊の網》)
"Decimate/大量破壊"という言葉はなじみのないものではないし、実際既にマジックのカード名として存在している。だけどこの言葉の厳密な定義はあまり知られていない(ゆえに私はオクラと呼ぶ)。我々はよくこの言葉を「多くの数か多くの割合の何かを破壊する」という意味で使っているが、"Decimate"は実際"decimal/十進法の"や"deciliter/デシリットル"等の言葉と同じ語源を持つ:"deci-"はラテン語で、意味は「十分の一」だ。"Decimate"の文字通りの意味は「多くの中から選択された十人ごとに一人を殺す」。"Decimation/十分の一刑"は古代ローマ軍の軍法で、暴動や反乱を処罰する為に使用されていた。十人毎に一人がくじ引きで選ばれ、残りの者の罰を受け処刑される。《大量破壊の網》におけるこの単語の使用は後者の意味に近い。三通りの方法で対戦相手を殺すこのカードは、まさに相手を十分の一ずつ殺す(ゲーム開始時ライフの十分の一、致死量の毒カウンターの十分の一、60枚デッキを想定したライブラリの十分の一だ)。
この意味ではオデッセイの《大量破壊》の方が実際に対戦相手を大量破壊していると私は思うが、もし君の対戦相手が既に選ぶべき十個のアーティファクト、クリーチャー、エンチャント、土地をコントロールしていたなら君は《大量破壊》したにもかかわらず長生きはできないだろう。私はそう思う。
それでは君達の出来はどうだったかな? この12種類のミラディン包囲戦の言葉中、正しく分類できたのはいくつあっただろうか? 同意できなくて、怒りに拳を振るわせて天井カメラに向かって私を呪うかい? いやいや、人生は続いていくんだよ。
今週のお手紙
私のメールボックスを見ると、そこにはとても多くの好奇心と推測が溢れている―ミラディン・ファイレクシア戦争の勝者は誰になるのか、ファイレクシアの内部組織はどのように構築されたのか、5人の法務官とは何者なのか、カーンの砕かれた、ファイレクシアに侵食された心は一体どうしたのか。君達は皆それを知りたがっている。これら全ての質問とより多くの質問には、答えるに適した時がある。その多くは既に発表されている次のセット"Action"、「清純なるミラディン」か「新たなるファイレクシア」のどちらかまで待ってもらうことになる。だけどそれはまだだ。今私が言えるのは、ファイレクシアの主だった5人の法務官達はそれぞれミラディン包囲戦のフレーバーテキストに登場しているが、ミラディンの傷跡のフレーバーテキストにはそのうち4人しか登場していないということだ。
先へ進もう。
親愛なるダグ・ベイアーへ
「ファイレクシア、強くそして分かたれたもの」を読ませて頂きました。
我々はファイレクシア帰還の証人です。だけど私はファイレクシアのあの仮面をどのカードにも見ていません。あのシンボルは廃止されてしまったのでしょうか?(もしそうであればひどく残念です、あれはとてもクールですから)
前もってお礼を申し上げます。
--phaseshifter
Phaseshifter、君の質問への答えは少々曖昧なものになる。あの仮面は戻らないが、その類のものはある。
我々はあの仮面(リンク先は英語)をファイレクシアという文明そのものよりも、ファイレクシアの前指導者ヨーグモスの象徴とみなしていている。ヨーグモスは既に我々とともにはないゆえ、仮面の形をした聖像はミラディンの傷跡ブロックでは明白に表に出てきてはいない。その反面ファイレクシアのシンボル(リンク先は英語)は全てのファイレクシアを表現していて、多くのカードに見ることができる。《荒廃のマンバ》、《消失の命令》、《ノーンの僧侶》、《恐ろしき天啓》といったカードのイラストを見てみよう―すかし模様を参照するまでもなく、このブロックのファイレクシア陣営のカードだ。
だがヨーグモスの仮面のデザイン、膿漿の涙を流す眼と虚ろに開いた顎は、このブロックのイラストに名状しがたい衝撃を与えてくれる。《ヴィリジアンの密使》のイラストをよく見てほしい。眼が黒い液体で満たされていて、膿漿が頬を流れ落ちているのがわかるだろうか? それこそがファイレクシアに影響された人型生物の多くに共通する特徴だ(以前のコラムで言及したように、《テル=ジラードの堕ちたる者》も参照のこと)。そしてそれはヨーグモスの仮面から直接インスパイアされたものだ。類似したモチーフはファイレクシアの傷を受けた時のらせんブロックのアートにも存在する。そして《堕落した良心》のイラストでファイレクシアの玉座に鎮座するカーン―巨大な銀のゴーレムの険しい表情、黒く染まった眼と陰鬱な表情は以前の機械の父祖の仮面を強く思い起こさせる。
君達全員がプレリリースで、敵を粉砕するすばらしい時を過ごせただろうか? 次回、我々は戦いへと真っ逆さまに突入だ。
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