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あらゆるもの(※)は死ぬ
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あらゆるもの(※)は死ぬ
Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki
2010年12月15日
※ほとんどの場合。
熱力学第二法則、エントロピーの情け容赦ない鉤爪を逃れられると言い張れるものはほとんど何もない。生ける身体は死ぬ。壮大な建造物も倒れ、腐ってゆく。化学的に不活性に作られたプラスチックでさえ、日光や風雨にさらされるという自然の崩壊プロセスと、十分に長い時間の終着点の果てにはすり減ってしまうだろう。全てのもの(※)は儚いのだ。
※ほとんどの場合。
君が生まれたその瞬間、時計は避けられない終点をめざして時を刻み始めた。全ての婚礼は神聖なる絆の始まりで―それは年月を経た後、裁判所か墓地かのどちらかで終わる。銀のゴーレム、カーンが人工次元アージェンタム、後のミラディンを創造した時、彼の内に僅かに潜んでいたファイレクシアの堕落は彼の創造物へと感染した。ただ一滴の油がそれだった。さらさらと流れ落ちる砂時計の砂のように、ミラディン世界の生命はその内のファイレクシア人が増えるに従って減少してゆく。時とともに、全てのもの(※)は潰える。
※ほとんどの場合。
最も素晴らしい工匠の魔法によって造られた物質だけが、非常に頑丈になりうる。永続性を持ち、時間そのものの試験を耐え抜いても決して質が落ちることはない。それは死を知らぬ金属。その名はダークスティール、ミラディン人にとっては幸運にも、ミラディン世界で見ることができる。
ダークスティールの見た目
ダークスティールは魔力を持つ、暗灰色から黒色の金属である。光沢のある黒にも、鈍くつやのない黒にも、銀色がかった黒の鋼にも見えるが、とにかくそれは深い黒色をしている。時折、一定の光量のもとでこの暗黒の金属は緑がかって見えたり、黄色がかった赤銅色に見えたり、赤?紫色のように見えたりする。例えば《ダークスティールのマイア》《ダークスティールの斧》《ダークスティールのガーゴイル》のように。
《ダークスティールのマイア》 アート:Randis Albion |
《ダークスティールの斧》 アート:Daniel Ljunggren |
《ダークスティールのガーゴイル》 アート:Ron Spencer |
魔力の微片が取り巻いている物体やアーティファクト・クリーチャーはダークスティール製である。魔力の微片の軌道はそのアーティファクトを取り巻く黄金色の線となる。確認してみよう。
《ダークスティールの歩哨》 アート:Erica Yang |
《ダークスティールの鋳塊》 アート:Martina Pilcerova |
「魔力の軌道」という視覚的情報は、ダークスティールに他の金属とはっきり区別できる独特の外見を与えている。金属製アーティファクトに満ちた金属世界において、ただ暗灰色の金属であるだけでは視覚的に明確な違いを十分見せることはできない。
《ダークスティールの反応炉》を見てみよう。これら黄色の魔力微片が、時とともに輝きを増す脈打つ球体へと融合している。見ろ、爆発するぞ! つまり俺の勝利だ! このおこがましい勝利は《ダークスティールの反応炉》内部へのチャージが十分に蓄積された結果だ! こんな展開だってあるんだよ! 多分、ダークスティールの融通のきかない特性がこんなリアクションを起こさせて、神秘的なエネルギーの急激な変化が大規模な悟りの境地へと到達する原因になったんだと思うんだ! きっとね!
《ダークスティールの反応炉》 アート:Kev Walker |
形造れぬものを造る
この形はミラディン創世の時よりの物か、それとも思いもよらぬような力がこの形作れぬ物を形作ったと言うのか?
―― 上座研究者ポンティフェクス(《ダークスティールの溶鉱炉》)
では先に進んで、今週のお手紙を先取りだ。もしダークスティールが破壊されないとしたら、それは一体どのように鋳造されるのでしょう? ダイヤモンドよりも硬く、プラスチックよりも弾力があり、デヴィッド・リンチの「デューン/砂の惑星」(訳注:SF小説「デューン/砂の惑星」を原作とした映画。すこぶる不評)よりも不変なものを、どうやったら成形することができるのでしょうか?(後半については私に異議を唱える人がいるかもしれない。TOTOは勝利のためにギターリフをする)(訳注:TOTOはアメリカのロックバンド)
それとも、私は先に進んでこんな手紙を印刷しよう。読者の一人Orenがまさにそんな質問をくれていたんだ。
親愛なるダグ・ベイアーへ、
先週の記事を読んで、私はとある興味深いことについて考えました。ダークスティールは旧ミラディンブロックから存在しているので、きっと以前この質問を誰かが送っていると思います...が、ダークスティールは破壊されない金属と述べられています。しかし疑問なのは、ダークスティールはまた武器や建造物にも使われているということです。どのようにすれば可能なのでしょうか? 普通のやり方では鋳造できないはずです。明らかに、打ち延ばしたり切ったりする必要があるのですから。同様に、もしそれを形作るのに魔法が使われるのだとしても、同様に破壊するのにも魔法を使うことができないとは? いやむしろ、ダークスティールはどうやって手に入れるのでしょう? 本当に破壊することができないのであれば、掘り出すことはできるのでしょうか?
--Oren
素晴らしい質問だ、Oren。私が知る限り、小説にもカードのフレーバーテキストにもこの公式サイトの記事にも、はっきりとした回答は書かれたことはない―それはおそらく、この問題はダークスティールという素材についての論理的困難さを突いているからだと思う。
それでも! 我々はヴォーソスだ。ファンタスティックな理詰めが大好きだ。我々は不可能の中に住み、炉辺で安楽椅子に座って機知を働かせる。こんなふうに、理由を付けることができる。
伝統的な鋼は鉄とその他の素材との合金だ。私はダークスティールは合金だとは考えない―つまり、ダークスティールは金属を溶かして造られたのではなく、他の金属に溶かし入れることもできないと私は考えている。明らかに形を変えることができるが、どのような方法でもその状態を変えることができるとは思わない―ダークスティールは永久にダークスティールなのだ。
ダークスティールは採掘されるのだろうか? たぶん。カーンがミラディンを金属世界として創造した際、その構成要素として様々な種類の金属を世界に含ませた。その地殻のいくらかはダークスティールのようなものだった。つまり破壊されない金属を君が掘り出すのに、非常に緻密な作業なんかはたぶん必要ない―ただミラディンの山腹をダイナマイトで吹き飛ばせば、ほぼ無傷のダークスティールをきっと君は見つけられるってわけだ。
そのように、ミラディンの人々がダークスティールを発見してから恐らくそう長い年月は経っていない。そして多くのダークスティールを地表近くや、手の届きやすい別の場所から採掘してから恐らくあまり長い年月は経っていない。もっと深部には? 《ミラディンの核》は空洞だが、そこに辿り着くまでには何マイルもあって、まだ発見されていないダークスティールが沢山存在すると思われる。
そう、破壊することはできない。定義上は。―だが鋳造することはできる。《ダークスティールの斧》のようなカードがその証拠だ。《ダークスティールの斧》のような物体や《ダークスティールのマイア》といったクリーチャー達は完全にその姿形をしてミラディンの地殻のどこかに横たわっているわけではないと私は僭越ながら思っている。誰かが、どうにかして、ダークスティールをそれらの姿に成形した―全てのダークスティール製品が最初からその永続的な姿をしていたわけではないと。
とはいえ、こんなのも面白いかもしれない。「やあボブ、俺が見つけたんだぞ。こいつを見てみろよ! まるで粗暴者の彫像みたいだろ、《ダークスティールの粗暴者像》ってどうだい!」
ダークスティールは破壊されないゆえ、破壊ではない方法で成形される。現代の金属加工技術と同じくらい優れた古代からの鋳造技術によって、その金属が液相になるまで圧力か温度を、もしくはその両方を上げてゆく。そしてまだ融けているうちに、液体の金属を望む形にしたならば再び固化させる。
だが。私は、ダークスティールは液体にはならない、と思っている。
ダークスティールは切ることも、打ち延ばすこともできない、それは確かだ。だが私は液化というものさえも本質的に破壊であると考えている。ファンタジーの概念にあまりに多くの科学を持ちだすまでもなく、液体というものは特定構造の結合を破壊することを暗に示していると思っている。ダークスティール―それは壊れないもの。ゆえに私が思っているのは、普通のやり方―ただ高熱で鋳造されるのではないと。
だから、ああ、Orenが指摘してくれたように、ダークスティールはおそらく何か重要な魔法で鋳造される。だが一体どんな魔法が破壊されない金属を成形できるのだろう? どうやってダークスティールの破壊されない形を、とりわけ途中で液化か何かさせることなく別のものに変えるのだろう?
私が考えるに、ダークスティールの鋳造は、一種の視点の転換のようなものを意味する。ダークスティールを加工する工匠達は、ダークスティールをめぐる他のもの全てを作り変えることを理解している。現実に小さな変化を与えるのは、ダークスティールを変化させるよりも簡単だ。金属そのものを作り変えるよりも、その姿形という事実を変化させる。一定量のダークスティールを一揃いの頑丈な鎧に変形させるのではなく、君がやっているのは一揃いのダークスティール製の鎧にまだなっていないものを変形させるということだ。もしかしたら、「やあボブ、俺が見つけたんだぞ。こいつを見てみろよ!」というのは真実からそう遠くないのかもしれない。ダークスティールの鋳造はもしかしたらそのダークスティール製物体がそうなるべき特別なデザインに簡単になるように、存在そのものへと圧力をかけることなのかもしれない。
もう一つの例として、ミラディンにはダークスティール製の彫像は存在しないという事実についてどこかで取り上げたと思う。誰かが、存在そのものへ十分な圧力をかけるという普通の方法で彫像を作り出した。もしかしたら、《ダークスティールの巨像》のデザインはそれ自身が必要としたほどに強いのかもしれない(哲学専攻の人、メモをしてね:デカルトはその著書、Meditations on First Philosophyにてこれに似た理論を神の存在証明に使用していた)。
どうかな? 駄目? 君はどう考える? 私の理詰めの貯蔵はここが限界だ―もしかしたら君達はもっと良い説明をくれるかもしれないね。
とにかく、私はこの一種の魔法は明らかに平凡なものではないと考えている。ダークスティール製のアーティファクトやアーティファクト・クリーチャーを作り上げることは、土曜の午後の気軽な仕事ではない。それどころか、貴重なダークスティールの塊をいったん必要としたなら―それはヴァルショックの地域の安売り販売所で一瓶25セントで売っていたりするものではない―それを成形するためにはとてつもない魔法が必要となる。もしかしたら工匠達は生涯をかけてそれを学ぶのかもしれない。もしかしたらその金属加工の仕組みは《鉄を食うもの》の体内での作用が鍵となっているのかもしれない(生け贄に捧げる、というのは破壊するってことじゃないよ。ヒヒヒヒ)。もしかしたらその魔法はカーンが最初にアージェンタムを創造した時の魔法と同じようなものかもしれない―その呪文は、炉の熱の中で作用するのではなくて、いくつかの現実が存在する抽象的領域で働くのかもしれない。
ミラディン人のダークスティール
ミラディンの傷跡にて分かたれていたように、ダークスティールはミラディン人勢力側にある。私は、ダークスティールはミラディンの最初の時から存在していたので、おそらくミラディン人は大声でその所有権を主張しているのだと考えている―だがそれなら、ファイレクシアもまた最初の時から潜伏していた。そのことが判明して、ミラディン人は血のかわりに油の流れるおぞましい文明と次元を分かつ戦いが始まり、ダークスティールもその助けとして用いられるようになった。現在まで、ファイレクシア人達はダークスティールを操り、もしくは感染させる能力を身に付けたようには見えない。私が言いたいのは...それは間違いだろうって事さ。
今週のお手紙
親愛なるダグ・ベイアーへ、
先日の記事「ミラディン世界の人外文化」についてです。
私はこの記事をとても気に入りました。私は水曜日の記事、Savor the Flavorが大好きなのですが、その中でもこれは(それと「ミラディン世界の人間文化」も)とても素晴らしかったです。ですが注文しても宜しいでしょうか。マイアは? ゲームにおいて、彼等はミラディンの大きなパートを占めています;私はオーリオック・デッキを他で見たことはありません。文字数の問題があることはわかりますが、マイアについてもっと情報をリクエストしても宜しいでしょうか? それと吸血鬼は? 私はミラディンの吸血鬼についてとても興味があります。とりわけゼンディカーで吸血鬼の軍勢を見た後なので。それとゴーレムやオーガ、トロール、言及さえされていない彼等についても知りたいと思っています。彼等はマイナーな種族かもしれませんが、日の目を見る権利はあるはずです!
--Jack
それは正しいよ、全くだ。そしてミラディンの傷跡スタイルガイドには先週の記事に紹介したようにメジャーな種族についての詳細が記されているが、君が触れていた他のいくつかの種族についてのテキストもある程度存在する。例えば、ミラディンの吸血鬼についての一節を紹介しよう。
吸血鬼
《冷たき集いの吸血鬼》 アート:Randis Albion |
屍賊の猛攻撃から数年、多くの吸血鬼が生まれ、彼等の生態も変化した。屍賊となるか吸血鬼となるかという選択に直面したとき、モリオックはますます後者を選択してゆき、かつてモリオックのコミュニティだったものがそっくり吸血鬼のものとなった事例も多く存在する。吸血鬼達は領土とアンデッドの従僕の所有をめぐって争い、それぞれがいつの日かゲスから囁きの大霊堂を奪うことを望んでいる。彼等は遥か遠くから大霊堂をぐるりと取り巻き、包囲する軍勢それぞれが好機を待っている。
冷たき集い
これら吸血鬼の戦士と暗殺者達は身隠しの魔法に精通しており、標的を打ち倒し、その力を奪うために使用する。最も高額な入札者のために傭兵として働くが、彼等へと支払う報酬は他の者達の肉体と魂である。彼等は雇い主に支払いとして最も頑健な従僕の生命を要求し、従って契約を履行した時には2つの潜在的を弱める結果となる。改心した者は彼等に加わる。そうでない者は、彼等の製作する恐ろしい武器の燃料として使用される。
気をつけるべきは、冷たき集いの吸血鬼達はメフィドロスの沼が絡み森周辺へと拡大しつつある地域、レイ=グーアからやって来ているということである(こちらの記事最下部に、スタイルガイドからの別の引用あり)
しかしながら、いくつかの種族についてはスタイルガイドにも記述が存在しない。例えばオーガについては、スタイルガイドにアートについての参照記事はあるのだけれど、彼等についてのテキストは存在しない。スタイルガイドにあるのは、オーガについての旧ミラディンからのアート2つで、彼等のこの次元での姿をアーティストに示すためのもの―正確に言うと《オーガの爆走者》と《錆口のオーガ》―が彼等についての全てだ。伝統的に、どんなブロックでもオーガの数は少ししか与えられていなくて(多くのゴブリンやヴァルショックに比較して)―そしてオーガの個性はとても明確だ。彼等はオーガ。巨大で卑しい。踏みつぶし(《オーガの爆走者》)食らう(《錆口のオーガ》)。このように彼等の詳細をさらに付け加えてライターへとあてがう必要性があるようには思えない。
我々は書きすぎることについては気にしていない―決して使われることのないテキストがスタイルガイドには常に多少存在する。そんな記事は、たとえ我々が気に入っていてさえも、カードや書籍、コミックに反映されることはない;行き先はない。そして別の言い方をすれば、常に、後から完成させる必要のあるいくつかの詳細事項があるいうことだ。スタイルガイドにどんなに詳細が描かれていようと、その文書がどんなに重くなろうと(そしてここ数年、ページ数は増加の一途をたどっている)、我々が予想しない溝が常に存在する。そのような場合、我々とクリエイティブ・チームのライター達は、やるべきことをやる―必要とあらばその溝を埋め、世界の全てのクリーチャーや様々なものがヴォーソス達に適切に扱われるようクールかつ美味しいものを書き上げる。
皆が素晴らしい感謝祭を迎えられますように。エッグノッグ(訳注:主に北米で感謝祭から大晦日に飲まれる甘い飲み物)を飲んで、2011年にまた会おう。
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