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企画記事
あなたの街のティーチングマイスター 第5回:ゲームショップブリックス(京都府) 坂本夏彦さん
「ティーチングマイスター」とは、初心者にマジックを教える認定資格を持つ人のこと。ティーチングマイスターが教えるマジック体験会「多元宇宙への招待状」の開催を記念し、全国各地にいるティーチングマイスターの紹介インタビューをシリーズで掲載していきます。
第5回は、京都の学生街で町家を改装したゲームショップを1人で切り盛りしているこの方です。
やったことがなかったカードゲーム
――まずはマジックとの出会いからお聞きしたいのですが。
坂本:実はカードゲームをやったことがなくて……。テレビゲームっ子として育って、もちろん学校とかで周りにカードゲームをやってる友達はいっぱいいましたけど、なんだか難しそうだなと思って、自分で遊ぶってことは一切してなかったんです。
――そうなんですね。とすると、マジックを知ったのはお店がきっかけですか?
坂本:はい。この店を始めたのは2010年末なんです。最初はテレビゲームのショップをやろうと思ったんですが、それ単体では難しいのでボードゲームやカードゲームも取り扱うことにしまして。最初はもっと別のカードゲームが主体だったんですが、半年もしないうちに常連のお客さんたちから「マジックを扱ってほしい」と要望があって、そこで初めて知識を仕入れました。
だから、マジックを店で扱い始めたのは2011年の夏前ごろですかね。詳しいお客さんにいろいろと教えてもらいながら、始めた感じになります。
――お客さんの要望に応えた結果なんですね。
坂本:そのころは、ほかにもいろんなカードゲームを扱ってほしいという要望に応えて幅広くやっていたんですが、2016~17年くらいからはほぼマジック一本に絞りました。
――ここの客層に、マジックが特に合っていたということですか?
坂本:そうですね、うちは15~22時と、主に遅めの時間帯で営業していまして。気づいたら大学生以上ばかりが集まるようになったので、ぴったりだったみたいです。
――そうすると、マジックは仕事のために勉強した感じですか?
坂本:正直そうですね、ルールがわかってないと教えられないし、今どんなデッキがはやっているかとかも、最低限のレベルは知っておかないといけないですし。
――カードゲームもやったことなかったレベルから、ゼロからどうやって勉強したんですか? やはりネットで?
坂本:それが、当時はまだ中高生だとぎりぎりガラケーを使ってたころなんですよね。「『怪盗ロワイヤル』がおもしろい」とか言ってた時代なので(笑)。
なので、まずは常連さんと遊びながら覚えましたね。「店長のデッキ作ってあげるよ」「ありがとう、回し方教えて」みたいな感じで(笑)。もちろん調べれば、当時もネットに情報はあったんでしょうけど、みんな雑誌や口コミの情報が中心でした。
――お客さんと一緒に学んでいったと。
坂本:そうやって大人になってから始めたので、正直言って全然マジックが上手にはなってないと思います。おもしろさはわかるようになりましたが、強くなっていこうっていう気持ちはなくて、楽しく遊びたいだけでやっているので。
お店の多次元宇宙
――このお店のお客さんも、たぶんガチな感じではないですよね?
坂本:ええ、普段はがっつり強いデッキを組む方でも、うちで遊ぶときにはカジュアルなデッキを持って来られるんですよ。今日思いついたデッキをワクワクしながら回してみる、みたいな。勝ち負けじゃなくて、やりたいギミックが動いたら満足みたいな感じです。世間一般で流行している強いデッキを使う人がいないので、よそからいらっしゃる方には「環境がわからない」って言われますね(笑)。
――楽しそうな環境です。
坂本:2014年ごろだったかな、スタンダードが全国的にちょっと停滞してた時期があったんですよね。そのころでもうちは満席でした。みんな好きなデッキしか作らないので、世間的な評価とはズレた、別の次元で生きてた感じです。なので、そんなにお客さんが減ることもなくて。
京都府にはうちと似たようなお店がいくつかあるんですが、どこもそこならではのコミュニティがあって、世間の流行は関係なく、それぞれの次元で遊んでるような感じなんですよね。
――そのいろんな次元を渡り歩くプレインズウォーカーもいたりすると。
坂本:そうです。時々遠征に来たりします。
ただまあ、コロナ禍の時期はどこのお店も大変だったみたいですが……。そりゃあ3年くらい、会社や学校、家族に「カードショップには行くな」って止められる時期があったら、当然ではありますよね。なんとか最近は戻ってきたって感じです。
――ああ、そうですか。
坂本:コロナが明けて、最近は観光客の方も明らかに激増しています。円安もありますし。あと、このあたりは大学が多いので、留学生の方も多くいらっしゃいます。
――留学生のお客さんも大会に出場しているんですか?
坂本:しますします。マジックとは関係ないですが、ミニチュアゲームとペイント用のアイテムをいっぱい買っていかれる留学生の方なんかもいまして、趣味っていうのは留学先でも、どこででもやりたいものなんだなって伝わってきますね。
――へえー、おもしろいですね。
坂本さんはどんなフォーマットをプレイするんですか?
坂本:最近の流行に合わせて、やはり統率者戦ですね……とはいっても、新作の統率者デッキを使って遊ぶ程度ですが。どういう商品なのか知っておきたいですし。
――それはお客さんとプレイされるんですか?
坂本:いや、私が1人でやっている店ですので、大会中に買い物に来るお客さんへの対応とかもしないといけないですし、それに多くの人とかかわる立場でもありますので、感染対策に気をつけるという意味でも、今はあえてやらないようにしています。私が倒れたらお店が開けられなくなってしまいますので。
いろいろなティーチングのお客さん
――それでは、ティーチングマイスターになったのはいつですか?
坂本:2019年の1月でした。2018年から19年にかけて、飲食店としての営業許可を取って、飲み物を出してプレイスペースでボードゲームも遊べるような形にした時期があったんですが、そのときにけっこう聞かれたんです。「マジックやりたいけど、どうしたらいいですか?」と。
――ボードゲームのお客さんの要望だったんですね。
坂本:はい。興味ある方がけっこういることがわかって、もともとティーチング用のキット的なものはあったんですけど、ちゃんと資格を持って教えられたほうがいいのかなと。
それまでは、マジックやりたくて来る人がいたらコミュニティの中に入って、いつの間にか常連さんに教えてもらってたんですけど。
――ボードゲームという別のコミュニティの人に対しては、「じゃあ店長が教えます」と。
坂本:はい、そういうきっかけですね。
――じゃあティーチングを受けに来るのは、主にほかのゲームをやっている方なんですか?
坂本:一番多いのはそうで、二番目に多いのは、突然の復帰組です。20、30代のとき、最初期のマジックをやっていて、今は50、60代という方もいらっしゃったりします。「ちょっとまた趣味としてやってみようかな?」みたいな感じで。
――そんな大ベテランが来るとは。
坂本:「ほんとに一番初期のころやってたけど、今はどうなってるの?」みたいな感じの方は、意外と多くなってきました。
余談ですが、うちはけっこうテーブルトークRPGを古くから遊んでいる方もいらっしゃるんですよ。当時、TRPGのサークルにマジックが持ち込まれて、どんどんみんながマジックやるようになっていって、「ボーナスを全部突っ込んでボックスを買った」みたいな話が聞けたり(笑)。
――歴史上のマジックエピソードですね!
坂本:そういう、ほんとに第一世代といった方が改めてルールを聞きに来ます。正直、50代以上の世代には、まだまだ潜在顧客がいると思うんですよね。カードの字が小さいので、老眼対策だけは必要になってくると思うんですけど(笑)。
――大判カードが必要かも(笑)。いろいろなタイプのお客さんがいることで、ティーチングのやり方もちょっと変わってきたりするのでしょうか?
坂本:最初にマジック経験者か、ほかのカードゲームをやったことがあるかなどを聞いたうえで、今はルールだけ知りたいのか、復帰にあたって何か知りたいことがあるのか、もしくは強くなりたいのか、といった話をしっかり尋ねます。そしてまず、「このティーチングはルールをお教えするものなので、強くすることはできません」というのは伝えます。
――最初に目的を明確にすると。
坂本:はい。そうするとあんまりズレないで伝えることができます。ちょっと細かい話になるんですけど、基本のティーチングではスタックの概念はお話ししないんですね。個人的にはスタックってすごくおもしろいところだと思うんですけど、ややこしいので、インスタントの概念だけ伝えて、初心者にはそこまで突っ込まないということなんです。なので、例外的にスタックの概念を追加で教えるかどうかは、その人の目的とかに応じて変えてます。
――確かに、MTGアリーナから来た人なんかは、スタックの概念がはっきりしないと逆にわかりにくい、なんてこともあるでしょうし。
坂本:そうです。そうやって皆さんの質問に答えたりしているうちに、30分の予定が1時間になってる、ってことはやっぱり多いですね。
――コロナの時期は、ティーチングとかもあまりできなかったですよね?
坂本:イベントを開くことはできなかったんですが、興味があるというお客さんが来られたら、個別に対応していました。2020年の一番谷底のときでも、平均して月に1組くらいはありましたね。
――なるほど、少しずつ続いていたと。
坂本:とはいえ、厳しい時期は客足がぴたりと止まって、飲食店より厳しかったくらいです。そんな中で常連さんが支えてくれたり、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストさんもいろいろと支援してくださったりしたおかげで、正直助かりました。
教えるという技術
――ティーチングをやってよかったことはなんですか?
坂本:自分自身としては、常連さんから教わって理解してたマジックとはちょっと違うところも掘り下げられたかなと。いろんな意味で、マジックに対する理解度が深まったと思っています。
あと、「教える」という技術を学べた点がありますね。たとえば、すごく強いプレイヤーさんでも、教えたいことだけ教えてたらあんまりうまく伝わってなかったりするんですけど、高校の先生をやってるプレイヤーさんが教えてるのを見ると、相手の反応や表情を見て話してるので、めっちゃうまいんですよ。ティーチングマイスターの資格を取るために教わる中で、そういうところがわかるようになりました。
――おお、なるほど。
坂本:また、ティーチングによってマジックを始めてくれるお客さんがいることで、もちろんビジネスにもつながってます。今は京都府でティーチングマイスターがいる店はうちだけみたいなので。
――それでは最後に、ティーチングを受けてみようと思う人へのメッセージをどうぞ。
坂本:まず、受けてプラスにしかならないですよと。
今度からティーチングのキャンペーンが始まって、たくさんの人にお教えする機会が増えると思うので、私としてもできる限りのことはやりたいなと思っています。プレイスペースに大勢入れるような状態にして、開店前にティーチングイベントの時間を取ることで、買い物に来たお客さんのためにティーチングを中断したりしないですむように環境も整えて、一度に大勢いらしても対応できるようにしようと思ってます。
――よろしくお願いします。それではどうもありがとうございました。
ゲームショップブリックス
住所:京都府京都市右京区西院三蔵町26-1
電話番号:075-312-5887
公式Xアカウント:https://twitter.com/game_bricks
「ゲームショップブリックス」は、京町家の離れを改装して作られた、雰囲気のあるプレイスペースが特徴。こういった古い窓や天井が残る部屋で遊べるお店はなかなかないのでは?
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