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企画記事
マジック・プロツアー殿堂 八十岡翔太インタビュー ~その根源を探る~ 前編
マジック・プロツアー殿堂 八十岡翔太インタビュー ~その根源を探る~ 前編
by 金子 真実(WotC 日本コミュニティ担当)
ついに、あの八十岡翔太がマジック・プロツアー殿堂に選出された!
類まれなる才能を持ったデッキビルダーであり、世界でもトップクラスのマジックプレイヤーであることは疑いようのない事実だ。そして今年、プロツアー『タルキール龍紀伝』準優勝を原動力に、ついにマジック・プロツアー殿堂に選出されたのだ。
「練習してない」「当日朝にデッキを組み上げた」など様々な逸話を持つ八十岡だが、彼の実力が本物であることに異論はないだろう。しかしその実力の源は、一体どこにあるのか?
彼のその「強さ」を理解できないまま、「天才だから」で片付けるべきなのか?
そんなことはないはずだ。たとえすぐに真似できなくとも、彼の強さにも理由があるはずなのだ。そんな八十岡翔太の強さの、その「根源」に迫るべく、インタビューを実施した。彼の経歴を辿り、そして強さの根源に触れていこう。
初心者時代~2001年 スタートの時期
――まずは、改めてマジック・プロツアー殿堂入りおめでとうございます。
八十岡「ありがとう。」
――実際殿堂になってみて、やはり嬉しいですか?
八十岡「そうだね。やっぱり肩書がもらえるってのは嬉しいことだし、これがゴールってことはないけど、世界の人から認められたってのが嬉しいよね。」
――「マジック・プロツアー殿堂」というマジックでもトップクラスの肩書を手に入れたわけですが、今回はその実力の源を知りたいなあ、と。そこで、八十岡さんの今までのお話を伺ってみたいと思います。まず、八十岡さんがマジックを始めたのはいつごろですか?
八十岡「中学1年生、『ミラージュ』の発売の頃だね。学校で勧められてやってみた。最初は地元のカードショップでやってたね。」
――最初は学校や地元のショップだったんですね。やっぱりカジュアルに遊んでたんですか?
八十岡「そうだね、最初はカードなかったしね、デッキも適当だったよ(笑)。学生だからドラフトするお金もなかったし、ワンブードラフトばっかりして遊んでたよ。」
――ワンブードラフト?
八十岡「2人で1パックずつをドラフトして対戦する遊びだね。当時のブースターパックって1パック500円だったから、ドラフトの3パック1,500円って中学生には高かったんだよね。だからワンブーばっかりやってた。」
――八十岡さんにもそんな時代があったんですね(笑) そこからプロツアーなんかのトーナメントシーンに顔を出すのは?
八十岡「2000年頃からプロツアー予選に出始めて、2001年のプロツアー・バルセロナの予選を抜けたのが最初だね。その後、年末のThe Finals2001のトップ8に入ったあたりが、世間に名前が出た時じゃないかな。」
The Finals2001にて |
――ああ、「カウンター・モンガー」の時ですね。
八十岡「そうそう、オリジナルのデッキで、杉木さん(現・カバレージライター)とデッキをシェアして、2人ともスタンダードは全勝したんだよね。」
――あれは結構ニュースになりましたね。新鋭デッキビルダー、現る!って感じで。
八十岡「残念ながら準決勝でも負けちゃったけど、でも『力が通用するな』とは思ったね。」
――こういった結果を残すまでにはどんな練習をしてたんですか?
八十岡「いや、練習はしてない。基本的にはカジュアルで遊んでただけだよね。ただ、ショップのデュエルスペースにはほぼ毎日入り浸ってたし、日常的にマジックやってたから、その結果かもね。」
――出ましたね、八十岡さんの「練習してない」発言(笑) とはいえ、日常的にマジックをして実力がついたということは、周りのレベルが高かったんですか?
八十岡「どうだろう? 閉鎖空間でマジックやってたから、周りとの比較ってのはわからなかったんだよね。でも、今から考えるとドラフトも普通にやってたから、結構レベルが高かったのかもね。」
――さて、その実力が世間に通用するようになったわけですが、それから真剣にマジックで上位を目指そうと?
八十岡「いや、まあそれでもしばらくはマジックは遊びだったけどね。」
2002年~2005年 『遊び』
――2002年~2005年の八十岡さんは、積極的にプロツアー予選に出場したりとかなりのトーナメントプレイヤーのように見えましたが、それでも「遊び」だったんですか?
八十岡「まぁ、あくまで遊びだったよね。次のプロツアーに出場したのがプロツアー・神戸2004なんだけど、それまではずっとプロツアー予選で負けてたわけだし(笑)」
――なるほど。そのプロツアー・神戸までは全然勝てなかったんですか?
八十岡「プロツアー・大阪2002の予選は惜しいところまで行ったんだけどね。確か7-1-1だったかな。しかも、後で調べてみたら、6連勝したところでドロップしてたら『レーティング招待』でプロツアーに行けてたっていう(笑)」
――なんと、実は別のルートが(笑) その期間はどんな練習をしてたんですか?
八十岡「いや、これも練習してない。地元のデュエルスペースで遊んだり、渋谷のDCIトーナメントセンターでドラフトしたり、誰かの家でドラフトしたりだね。」
――お話を聴いているとドラフトばかりしているように聴こえますが......。
八十岡「遊びだから楽しいことを優先してたからね。練習って言われるとよくわかんないな。ドラフトばっかりやってたよ。でも、このドラフトでマジックの基礎力がついたんじゃないかな。」
――楽しいこと優先、と。
八十岡「そうだね。この時はまだ目標とかがあったわけでもないし、勝つために練習してたとかじゃないからね。普通に週末に大会に出るときにプロツアー予選に出て、プロツアーはその遊びの延長線上だよね。デッキも好きなデッキを使って、楽しいドラフトをして、だったね。」
――でも、2005年の世界選手権にも出場してますよね。
八十岡「普段通り遊んでたらレーティングで招待されたわけだから、それでもやっぱり遊びの延長線上だよね。」
2006年 『目標』
――2006年にはプロツアー・チャールストン優勝、そしてプレイヤー・オブ・ザ・イヤー(以下PoY)を取っていますよね。この時もまだ「遊び」だったんですか?
八十岡「いや、この時は違うね。」
――というと?
八十岡「2006年のシーズンは、はっきり『PoYになろう』と思ってた。」
――どうして突然心変わりしたんですか?
八十岡「2005年の世界選手権がきっかけだね。個人総合優勝、国別対抗戦優勝が両方とも日本、さらにコガモ(津村 健志)がPoYを取って、『これなら自分も頑張れるかな?』と思ったんだよね。」
世界選手権2005 表彰式 |
――なるほど、日本人が頑張っているのを見て、ですか。
八十岡「そう。『じゃあ、来年は俺がPoYを取ろうかなー』と。」
――えっ、なんだか軽いですね(笑) 普通の人だとその間には結構な隔たりがありそうですが......
八十岡「まあでも自分も頑張れるんじゃないかな、と。2005年の世界選手権で15位に入賞して、賞金3,500ドルももらったし。周りにも少し話してたよ、『今年、PoY目指してみるわ』って。」
――なるほど、その賞金を元手にPoYを目指すことにしたんですね。
八十岡「シーズン最初のプロツアー・ホノルル2006の予選を抜けたりしたしね。」
――その後グランプリ・浜松の準優勝などグランプリで結果を出すとともに、プロツアー・チャールストン2006で優勝するわけですね。この期間はどんな練習をしてたんですか?
八十岡「いや、あんまり練習はしてないね。」
――えっ?
八十岡「あ、チャールストンの3人チーム戦は凄い練習したよ。トモハル(斎藤 友晴)とKJ(鍛冶 友浩)とのチームだったんだけど、2人が練習1人が休むを8時間交代して24時間練習したりとか。だからこそ、優勝できたんだしね。」
プロツアー・チャールストン2006優勝 Kajiharu80 |
――チャールストン以外は......?
八十岡「自宅で、かな。でも、自宅に勝手にマジックプレイヤーが集まってきた感じだから、あんまり『練習する』って認識がなかったんだよね。このシーズンはホノルル、プラハ、チャールストン、神戸とプロツアーがあったんだけど、そのうちプラハと神戸はフォーマットがブースタードラフトだった。日常的にドラフトはしてたから、それが結果的に練習になってたって感じかな。」
――日常的にドラフトしてたんですか?
八十岡「そうだね。パックは適当に家に置いてあるし、暇な人が4人以上居たらすぐにドラフト、って感じだったよ。」
――ずっとマジックして生きている状態だったんですね。
八十岡「まあ、そうだね。」
2007年 『生活』
――さて、2006年のPoYを取って、2007年のマジックに入ったわけでしたが、2007年はどんなスタンスだったんですか?
八十岡「まあ、『生活』だよね。PoY取って、マジックで食ってはいけるようになって、次の目標は『プロツアー』優勝だったんだけど、すぐには全力って感じじゃなくて。」
――なるほど、「生活」ですか。仕事とかではなくて?
八十岡「仕事ではないよね。生きていくためにやってたけど、もちろんマジックは楽しかったし。趣味と言い切れるかは怪しいけど、でも仕事って意識はなかったかな。悪くいえばダラダラと、良く言えば日常的にマジックをしてたのが2007年だね。」
――この時期は世界中を回っていた時期ですよね。
八十岡「そうそう、なかしゅー(中村修平)、コガモ、トモハルと4人で世界中のグランプリ回ってたね。」
――ってことは、この時期はこの4人とマジックを?
八十岡「いや、この4人じゃ全然マジックしなかったね。」
――えっ?
八十岡「それぞれが部屋でマジック・オンライン(以下MO)してたりだったよ。みんな個人主義だったからね。意外とこの4人ではマジックしなかった。なかしゅーは観光!って感じだったし。」
――じゃあ、練習はどのように?
八十岡「2006年と近いかな、古淵の自宅に人が勝手に集まってきてたし。でも日常的にマジックしてたよ。」
2008年 『燃え尽き症候群』
――2008年のスタンスも2007年から継続ですか?
八十岡「いや、もっとやる気下がってた。燃え尽きてたね。」
――燃え尽きてましたか(笑)
八十岡「PoY取って、1年世界中回って、疲れてたんだろうね。マジックは変わらず楽しいけど、だからって全力で、って感じじゃなかったな。実際、結果も悪くて、全然勝てなかった。厄年かな。」
――厄年ですか。
八十岡「まあでも、練習環境とかも悪化していってたと思うよ。自宅にやる気のあるプレイヤーもあんまり居なくなっちゃって、マジックせずにボードゲームとかしてたりしたね(笑)」
――結果自体はどうだったんですか?
八十岡「やる気もない、練習もしないで勝てるわけないよね。プロレベルもがっつり下がったよ。」
2009年 『目標2』
――さて、そんな厄年の2008年を終えて、2009年に入ったわけですが......。
八十岡「このシーズンは凄いやる気があったよ。」
――お、やる気出したんですね!
八十岡「そう、だから、電脳世界のチャンピオンになることにした。」
――えっ?
八十岡「2008年の末に、『マジック・オンライン プレイヤー・オブ・ザ・イヤー』が発表されたんだよね。『これっきゃない』と思って、また目指してみることにした。
――また「目標:PoY」ですね。
八十岡「そう。これなら日常的にマジックをしつつ、目標にできるし。賞金なんかも含めてかなり魅力的だったから、ひたすらこれを目指してた。」
――でも、ひたすら家でマジックやってたりして嫌になったりしなかったんですか?
八十岡「いや、そういうのはないね。マジックしてて苦痛とか全くない。むしろマジックしてるほうが楽。そういう意味ではこの制度はぴったりだったね。」
――では、この年は電脳世界が主な戦場に?
八十岡「そうだね。グランプリも海外に行くのをやめて、国内だけにした。あとはずっとMOしてたよ。」
――電脳世界での戦いはどうでしたか?
八十岡「結構大変だったよ。最初は誰がなるかわからなかったし、中盤から概ね3人に絞られて、最後は2人でデッドヒートしてた。」
2009年度 マジック・オンライン プレイヤー・オブ・ザ・イヤー 八十岡翔太 |
――ともあれ、PoYに続いて見事に目標達成、と。
八十岡「そうそう。目標だったから取れた時には安心はしたね。」
2010年~ これまで、これから。
――目標達成して2010年を迎えたわけですが......。
八十岡「そこからのスタンスはだいたい今まで同じだね。個人タイトルを目標に、仕事と合わせて頑張ってるよ。ホビージャパンで働き始めたのもこのころだね。グランプリも、日本とアジア圏の近場には行く、って感じ。」
――なるほど、マジックにオール・イン状態ではなくなったんですね。
八十岡「まあ、そうだね。MOもぼちぼちやるし、セットが発売したらドラフトしたりするけど、マジックだけし続けている状態ではなくなったね。いろいろ考えてはいるけど。」
――その間、日本選手権2010、2011と2年連続でトップ8に入ったり、念願の個人タイトルをグランプリ・神戸2011で獲得したり、さらに今で言う世界選手権、「マジック・プレイヤー選手権2012」で準優勝したりしているわけですが......。
八十岡「でも、練習は主に脳内だし、前日にデッキ組んだりしてるしね。」
マジック・プレイヤー選手権2012にて |
――そして4月についに、プロツアー『タルキール龍紀伝』で準優勝と。あれが今回の殿堂入りの原動力でもありますよね。
八十岡「そうだね、もともとプロツアーでの結果が足りない、何か1つ勝てば入れるよ、って言ってくれてた人は多かったからね。」
プロツアー『タルキール龍紀伝』準優勝 |
――では、今後も同様のスタンスで?
八十岡「殿堂に入ったからって大きく変わるってことはないけど、Hareruya Prosに入った時にも話したように、下の世代を育てていこうって意思はある。だから、そのためにも自分がもっとマジックをしようって意識はあるね。」
――じゃあ、これからはさらに活躍する八十岡さんの姿が見れるんですね。
八十岡「マジックに関しては生涯現役だね。」
後編に続く
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