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糸谷竜王インタビュー! 「将棋とマジックと私」

糸谷竜王インタビュー! 「将棋とマジックと私」

by 金子 真実(WotC コミュニティ担当)

 マジックの最新セット『タルキール龍紀伝』は、サルカン・ヴォルが過去を改変し、ドロモカ、オジュタイ、シルムガル、コラガン、アタルカの5体の龍王がそれぞれの氏族を統べる世界だ。

 そして、日本の伝統競技「将棋」の世界にも、また1人の「竜王」が存在した。それが、糸谷哲郎竜王だ。


糸谷哲郎竜王

 2014年、糸谷六段(当時)は第27期竜王戦挑戦者決定三番勝負で羽生善治名人を2勝1敗で退け、森内俊之竜王(当時)への挑戦権を手にすると、その勢いのまま第27期竜王戦七番勝負では森内俊之竜王(当時)を4勝1敗で破り、見事将棋界7大タイトルの1つ「竜王」を獲得した。

 その糸谷竜王が、ベルギー・ブリュッセルにて開催されるプロツアー『タルキール龍紀伝』に特別招待されることになった。

 「龍王」が統べる世界に降り立った、将棋の世界の「竜王」。
 本記事では、特別参戦の糸谷竜王に、将棋とマジックについてお話をうかがった。

糸谷竜王とマジックとの出会い

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――マジックを始めたのはいつごろですか? そのきっかけは?

糸谷「初めて買ったのは、『メルカディアン・マスクス』発売の頃ですね。小学生だったと思います。おもちゃ屋で、面白そうだなーと手に取ってみました。でも、その時はまだ遊ぶ相手がいなくて。なので、プレイを始めたのは中学生の頃です。」

――過去に糸谷竜王は「日本選手権トップ16」という成績を残されているわけですが、本格的にトーナメントマジックをしたのはいつごろですか?

糸谷「大学で復帰してからですね。『ワールドウェイク』発売のころです。大学でマジックに復帰したら、プレリリースで高校の同級生と再会して。そこが競技プレイヤーのグループだったので、必然的に自分も。幸い復帰してすぐに日本選手権の予選を抜けて、本戦に出場することができました。」

――すごい! 糸谷竜王から見て、マジックはどんなゲームだと感じましたか?

糸谷「とりあえず面白かったですよ。不完全情報ゲームなので、想定する範囲がとにかく広いですね。例えば特定の1枚のカードで情報が激変しますし、想定するべき相手のカードも多いです。ゲームとしては、プランの組み立てと直感力のゲームかな、と。大きなプランを作って、その後に出てきた情報に応じてプランを適宜変更していくゲームだと思っています。」

――今回、そのマジックでプロツアー『タルキール龍紀伝』に特別招待という形で出場されていますが、糸谷竜王から見てプロツアーはどのような場ですか?

糸谷「マジックプレイヤーにとって大変栄誉な場であり、出場できて嬉しく思います。将棋でいえばタイトル戦ですもんね。将棋は日本の中でのゲームなので、マジックでは海外のプレイヤーの考え方なんかを見てみたいですね。海外の方と対戦するのは英語が心配ですが、でも楽しみです。最近は哲学書を読む時くらいしか英語を使わないんですよね(笑)」

――(笑) いや、でも英語の本を読めるのでしたら、マジックをする英語力としては十分すぎると思いますよ。

糸谷「哲学書なんで特殊なんですよね......例えば、『直感』とかは出てくるのに、『きゅうり』は出てこない(笑) 哲学的な単語はいっぱい出てくるんですが、晩御飯のメニューとかが出てこないんですよ(笑)」

――(笑)

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将棋とマジック、その共通の考え方

――復帰して3ヶ月で日本選手権突破、そしてトップ16入賞とのことですが、やっぱり将棋とマジックで共通のこともあるのでしょうか?

糸谷「考える要素は近いですよね。ただ、将棋は完全情報ゲームですが、マジックは不完全情報ゲーム。考える範囲自体はマジックのほうが広いんですが、実際には1手か2手しか読まなくて良いという点は違いますね。ですが、やはり共通する部分は大きいです。」

――というと?

糸谷「対人ゲームにおける、根本的な考え方ですね。相手の動きを考えるということです。将棋には『三手の読み』という言葉があります。『自分がこうする、相手がこう来る、自分がそこでこうする。』という読みです。相手の行動を予想し、その読みを数値化して、深読みをする。対人ゲーム全てでの共通の考え方です。」

――なるほど。マジックで言うとどのような考えですか?

糸谷「例えばなんですが、4/4のクリーチャーと3/3のクリーチャーで攻撃したとします。相手には0/4の壁がいて、これで4/4をブロックしてきたら? 長期的に見たら、もちろん3/3をブロックしたほうが得なので、これは『相手が全体除去を持っている』と考える。相手がどう考えていて、何をしようとしているのかを読む。この例はちょっと極端ですが、こういった考えを積み重ねるのは将棋もマジックも同じです。あとは、『攻めるよりも守ることが勝ちに繋がることがある』というのも重要な考え方ですね。」

――「攻め」よりも「守り」ですか?

糸谷「はい。将棋でも例えば、持ち駒を使って攻めきれそうだからといってうかつに攻めて失敗すると、もうどうしようもなくなってしまう。受けに回って相手の攻めを凌ぐことが、『攻め』るよりも勝ちに繋がることがある。マジックも同じで、例えば『突然2ターン目に対戦相手に《稲妻の一撃》』というプレイはほぼありえないですよね? でも、『どうしてありえないのか?』というところを理解していない人もいる。単に『セオリーだから』で覚えてしまうと、応用が利きません。」

――対人ゲームの基礎、ということですね。

糸谷「はい。相手の行動を読んで、基礎を覚えれば、相手をミスに追い込むこともできます。最終的に『相手をミスに追い込む』というのが対人ゲームだと思っています。」

――ありがとうございました。それにしても、この対人ゲームの考え方は他のゲームにも応用できそうですね。糸谷さんはマジックをされていますが、他の将棋棋士も将棋以外のゲームをされるんですか?

糸谷「そうですね、息抜きにゲームをする将棋棋士は多いですよ。息抜きなんですけど、でもやっぱりゲームが好きなんで。(笑) 例えばチェスやモノポリー、麻雀やポーカー、大富豪にはまった方もいらっしゃいましたね。『詰め将棋』ならぬ『詰め大富豪』を考えていた方もいましたよ(笑)」

――『詰め大富豪』ですか、それはまた......!

糸谷「みんな、将棋が好きだから、ゲームが好きだからやっているんですね。」

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伝統競技「将棋」 「伝える」ということ

――糸谷竜王といえば、「西遊棋」の運営や電王戦の解説など、将棋の普及活動にもご熱心ですよね。

糸谷「ゲームが続いていくためには、新規層の獲得が必ず必要です。そのために重要なのが継承、「伝える」ということですね。完全な新規層って、人から入ってくるんですよ。だから、人が人に伝えやすい環境が必要です。そして、それを続けやすい環境を用意することですね。例えば将棋だと、子供の頃に一度触って始める人って多いんですよね。でもその後、中高生の時にやめてしまうことが多い。低い年齢層に対して、どうアピールするのか?という課題があります。」

――将棋は既に何年も続いている伝統競技ですが、「マジック」を「伝える」ためには、何が必要だと思いますか?

糸谷「現状のマジックで見ると、初心者向けの記事などが足りていないと思いますね。始めたての人に向けた記事や、映像などです。初心者のために、例えば『ティーチングキャラバン』という初心者講習会をやっていると思いますが、この講習会部分の映像化なんかが必要だと思います。プレイ映像があったほうがわかりやすいですよね。」

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糸谷「あとは、多くのプレイヤーが直感的にプレイしている部分の言語化が必須だと思います。色々な定石や基礎がありますが、それがきっちり言語化されている記事ってほとんどないんですよね。でも、これをきっちり言語化して伝えていかないといけないですね。そうしないと、理解しているつもりが実際は理解していない、ということになってしまう。『Aという定跡は◯◯だからダメ』が『Aという定跡はダメだからやめなさい』になってしまうと意味がない。これだと数学の方程式で、途中の計算がわからず答えだけコピーしているようなものです。」

――ありがとうございます。こういった「伝える」ということに対して、糸谷竜王が気をつけていることなどありますか?

糸谷「今みたいな話って、すごく『難しい』話になりがちなんですよね。なので、できるだけわかりやすく、噛み砕いて話す、書くことは重要です。あとは例えばずっと真面目に話していても、飽きられてしまう。だから、ちょっと面白い小話などを混ぜていく。具体的に『◯分に1回は笑いがおこるように』というのが良いですね。真面目な話で上級者に満足してもらいつつ、それ以外の中・初級者層や初心者層にも楽しめる話をできるよう心がけています。」

――ありがとうございます、勉強させていただきました。

ベルギー・ブリュッセルを訪れて プロツアー『タルキール龍紀伝』

――今回、海外が竜王戦の時のホノルルに続いて二度目ということですが、いかがですか?

糸谷「ホノルルは完全な観光地でしたが、今回のブリュッセルは『海外!』と感じますね。電車の降りる駅で間違えそうになったり、自動販売機が使えなかったりとか(笑) 日本にはない変わった飲み物を飲んだりもしましたよ(笑)」

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――海外ならではですね(笑) 観光などはされましたか?

糸谷「今のところ、名物のワッフルやチョコレート、フリッツやムール貝は食べました。小便小僧やサン・ミッシェル大聖堂も見ました。なんというか、ブリュッセルは『洋風な京都』という感じですね。建物が古く、伝統を感じます。景観も綺麗ですし、京都に近い雰囲気を感じました。」

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――観光も楽しんでらっしゃいますね。最後に、今回のプロツアーでの目標を教えてください。

糸谷「まずは......初日抜けですね。ドラフト、あんまり自信がないんで......。ドラフト1-2、スタンダード3-2で4-4にして、初日を抜けたいですね。」

――ありがとうございました!


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