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戦略記事

佐藤レイの「一歩踏み込む!」リミテッドの極意

第10回:もっと勝てる!『ニューカペナの街角』ドラフト

佐藤 レイ

 お久しぶりです、マジック・プロリーグ(MPL)所属の佐藤レイです。皆さんは『ニューカペナの街角』の5つの一家、どこかお好きでしょうか。ちなみに僕は舞台座が好みですね(こちらの診断でも舞台座になりました)。

 今回は環境もだいぶ成熟した『ニューカペナの街角』ドラフトについて話せればと思っています。

 それでは皆さん、よろしくお願いいたします!

『ニューカペナの街角』ドラフトの特徴

 前回の『神河:輝ける世界』が環境スピードという点においてドラフトの常識を変えたように、『ニューカペナの街角』もまたひとつの常識を打ち壊しました。

 それは「除去はボムの次に強い」というセオリーです。

 ドラフト……もといリミテッド戦を学ぶとき、最初に教わるであろうことの1つに「どのようなカードがリミテッドにおいて強力か」ということがあります。

 そうした際に長らく、まずゲームを決める超強力なレア――いわゆるボムがあり、そしてその次に除去カードの存在が挙げられてきました。

 そしてこの環境のコモンにも《殺害》《絞殺》といった強力なカードが存在します。特に《殺害》はリミテッドにおいて強すぎるということで、再録の際にアンコモンに格上げされた過去すらあるカードです。


 僕は『ニューカペナの街角』が発売される前、全収録カードのリストが出た段階で《殺害》がコモンにあるのを確認して、まあ流石にこれがトップコモンだろうなという予想を立てていました……が、それは見事に外れました。

 除去がなぜボムの次に優先されるべきなのか。それはボムに対処することができる数少ない手段だからです。ただ『ニューカペナの街角』のドラフト環境においてはそのかぎりではありません。

 ひとつには「盾カウンター」の存在があります。例えば《聖域の番人》《契約紡ぎ、ファルコ・スパーラ》などのボムは強い除去耐性を持っています。


 また戦場に出たときや死亡したときに影響を与えるカードも多いです。《救出専門家》や《作業場の戦長》、《産業のタイタン》などですね。


 さらにボム級のエンチャントにも、当然クリーチャー除去では触れることができません。《大衆蜂起》《八百長試合》《斡旋屋一家の隆盛》などです。


 したがって、いつも以上に除去がうまく機能しない『ニューカペナの街角』ドラフト環境においては、優秀なクリーチャーの方が除去よりも優先されます。

 僕がトップコモンと考えるのは《鼓舞する監視者》《宝石泥棒》の2種類です。どちらも歴代の3マナ域と比べても驚くべきコストパフォーマンスです。


 ……ここまでで何か気づいたことはありませんか? 実は、除去以外に挙げたカードは全て白と緑のカードなのです。

 一見すると『ニューカペナの街角』ドラフトは5つの一家によって構成される3色環境のように見えますが、そこにあるのは「白と緑の逆襲の物語」です。

 それは《華やいだエルズペス》や《狩りに出るビビアン》が《敵対するもの、オブ・ニクシリス》に立ち向かうストーリーをそのまま体現しているかのようで、除去色である黒や赤がいつも人気で、クリーチャーが優秀なだけの白や緑がいつも不人気だった昔のリミテッド環境を知っている僕としてはなかなか感慨深いものがあります。

 そんな今回も皆さんにノウハウを提供できることを嬉しく思います。それでは具体的な戦略の話に移りましょう。

何がなくともまずは白

 僕の『ニューカペナの街角』ドラフトにおけるおすすめ戦略は「白を狙いつつ、できなそうなときは赤黒に向かう」です。

 なぜ白を狙うべきなのか。もちろん理由はひとつ。この環境で白が一番強い色だからです。

 この環境のドラフトでMTGアリーナにて行われた大型イベントの「アリーナ・オープン」「予選ウィークエンド」において、大きく勝ったのはともに白系のデッキでした。

 白はこの色単体のカードパワーも高いのですが、その色を含んでいる一家のカードの強さも印象的です。

 特に斡旋屋、常夜会は5つの一家の中でも優秀なカードが多いです。友好2色から3色目に場合によって進む、というやり方が一般的であるため、ボムでもなければなかなか3色のカードからピックすることは難しいですが、アンコモンでありながら《規律正しい決闘者》《雑集家、ラグレーラ》《苦悶の占い師、クェザ》などはそれから取っても良いほど優秀なカードたちです。


 白を狙うと一家の色構成上、最初は友好色の白青か緑白かのどちらかになります。もちろんそこから3色になることが多い(ならない2色でまとめる構成も大いにあり)のですが、そのうえでも、自分のデッキのベースが白青なのか、緑白なのかはしっかり理解しておく必要があります。

 次は、それぞれのアーキタイプの特徴についてデッキリストを見ながら理解していきましょう。

白青ベース
高桑 祥広 - 「白青」
アリーナ・オープン 2日目6勝2敗 / 『ニューカペナの街角』ドラフト (2022年5月14~15日)[MO] [ARENA]
9 《
8 《平地
-土地(17)-

2 《斡旋屋一家の新入り
2 《ラフィーンの密通者
1 《フェアリーの荒らし屋
1 《鼓舞する監視者
1 《超常使いの詮索者
1 《著名な剣士
1 《粋な盾仲間
1 《こだまの検察官
1 《溜め池のクラーケン
1 《舞踏場の喧嘩屋
1 《超能力すり
1 《下水クロコダイル
-クリーチャー(14)-
1 《証人保護
2 《必殺の一射
1 《風変わりなペット
1 《壮麗なる変化
2 《都落ち
1 《口止め
1 《大衆蜂起
-呪文(9)-
高桑祥広氏のTwitter より引用)

 

 こちらは「アリーナ・オープン」で古豪プレイヤーである高桑さんが6-2したデッキです。

 白青の良いところは高速なテンポアグロから、攻撃をいなしつつ飛行やブロックされないクリーチャーで攻める受けよりのミッドレンジまで、さまざまなレンジのデッキを構築できることでしょう。このデッキはかなり受けよりの構成になっており、老獪な古豪らしさが出ていますね(笑)。

Tom Galstian - 「白青タッチ緑」
アリーナ・オープン 2日目8勝0敗 / 『ニューカペナの街角』ドラフト (2022年5月14~15日)[MO] [ARENA]
7 《
5 《平地
2 《
2 《天橋塔
1 《植物広場
-土地(17)-

1 《捨て石の従僕
1 《惑乱のいかさま師
1 《支援工作員
1 《ラフィーンの密通者
1 《空の叫び屋
2 《雑集家、ラグレーラ
1 《鼓舞する監視者
1 《翼盾の工作員
1 《粋な盾仲間
1 《溜め池のクラーケン
1 《スパーラの審判者
1 《下水クロコダイル
-クリーチャー(13)-
1 《とんずら
1 《軽蔑的な一撃
1 《屈服の拒否
1 《力の天啓
2 《壮麗なる変化
1 《痛烈な一撃
2 《魚の餌になる
1 《都落ち
-呪文(10)-
Tom Galstian氏のTwitter より引用)

 

 こちらは「アリーナ・オープン」を8-0した白青。《雑集家、ラグレーラ》のために緑がタッチされています。先ほど挙げたデッキよりも、より相手のライフを詰めていく構成になっています。


 低いマナ・カーブでコンバットトリックを上手く駆使していけそうです。《捨て石の従僕》《魚の餌になる》から出てくる魚・トークンが強そうですね。


 またデッキ2枚入っている《壮麗なる変化》はかなり過少評価されている1枚に感じています。


 このデッキには入っていませんが、二段攻撃を持つカードとも非常に相性がいいです。攻める白青が組めたのであればぜひ使ってみることをおすすめします。

L3D91 - 「白青タッチ黒」
予選ウィークエンド 2日目7勝1敗 / 『ニューカペナの街角』ドラフト (2022年5月28~29日)[MO] [ARENA]
5 《平地
5 《
4 《
1 《斡旋屋一家の潜伏先
1 《常夜会一家の店先
1 《天橋塔
-土地(17)-

1 《支援工作員
1 《斡旋屋一家の古参
1 《ラフィーンの密通者
1 《策謀の故買人
2 《魔道士の従者
1 《鼓舞する監視者
1 《敏捷な窃盗犯
1 《翼盾の工作員
2 《苦悶の占い師、クェザ
1 《内密の調査員
1 《裏酒場の給仕人
2 《砕かれた熾天使
-クリーチャー(15)-
1 《不吉な小包
1 《市民の鉄梃
1 《かき消し
1 《風変わりなペット
1 《常夜会一家の魔除け
1 《早抜きの短剣
1 《屋上の迷惑
1 《魚の餌になる
-呪文(8)-
L3D91(Lev D.)氏のTwitter より引用)

 

 こちらのデッキは白青をベースに、《苦悶の占い師、クェザ》をはじめとする3色の強力なカードをタッチしたデッキです。


 ご覧いただきたいのはマナベースで、土地だけでもメインカラーの白青ともに8枚は確保されている上に《不吉な小包》まで取っています。


 2枚の《砕かれた熾天使》もフィニッシャーかつマナベースの安定に役立っていて非常に良い構成ですね。


 強いプレイヤーはここまで3色カードを使う際に気を遣っているということがよくわかります。

緑白ベース
Authority - 「緑白タッチ青」
アリーナ・オープン 2日目8勝1敗 / 『ニューカペナの街角』ドラフト (2022年5月14~15日)[MO] [ARENA]
6 《
6 《平地
2 《
1 《斡旋屋一家の潜伏先
1 《舞台座一家の中庭
1 《天橋塔
-土地(17)-

2 《市民の奉仕者
1 《従者つきの社交家
1 《支援工作員
1 《市民の庭師
1 《空の叫び屋
4 《集まる群衆
2 《雑集家、ラグレーラ
1 《魔道士の従者
1 《舞い降りる守護者
1 《害獣の声
1 《カルダイヤの力自慢
1 《掃除係
-クリーチャー(17)-
1 《一家のために
1 《ラフィーンの導き
1 《身代金の要求
1 《かき消し
1 《早抜きの短剣
1 《温かい歓迎
-呪文(6)-
Authority氏のTwitter より引用)

 

 アリーナ・オープン8勝の緑白で、主に《雑集家、ラグレーラ》のために青がタッチされています。

 白青ベースのデッキに比べて、緑白は《市民の奉仕者》が使えることにより2マナ域を強力にすることができるのが強みとなっています。


 4枚の《集まる群衆》はすごいですね、《戦隊の鷹》を思い出します。

 
Buja - 「緑白タッチ赤」
アリーナ・オープン 2日目8勝1敗 / 『ニューカペナの街角』ドラフト (2022年5月14~15日)[MO] [ARENA]
7 《平地
6 《
1 《
1 《環状競走路
1 《舞台座一家の中庭
1 《土建組一家の監督所
-土地(17)-

2 《支援工作員
2 《市民の奉仕者
1 《市民の庭師
1 《厚顔な成り上がり
1 《鼓舞する監視者
1 《宝石泥棒
1 《著名な剣士
1 《粋な盾仲間
1 《害獣の声
2 《カルダイヤの力自慢
1 《無所属の筋肉達磨
1 《裏酒場の給仕人
1 《産業のタイタン
-クリーチャー(16)-
1 《安全の加護
1 《絞殺
1 《市民の鉄梃
1 《金色の両翼
1 《豪勢な献酒
1 《力の天啓
1 《用心棒の荒事
-呪文(7)-
Buja氏のTwitter より引用)

 

 こちらも8勝デッキ。《絞殺》と《厚顔な成り上がり》のために赤がタッチされています。


 このデッキのように緑がメインカラーで、かつ《無所属の筋肉達磨》が入っているときは《金色の両翼》がいい働きをしますね!


 今回デッキを紹介するにあたって色々なデッキを見てきて、白青・緑白に関して気が付いたことがあります。

 強く感じたのが、勝っているデッキはメインカラーがしっかりと決まっているということです。仮に斡旋屋一家(白青緑)だとしても、《市民の奉仕者》を使いながら《天界の整調者》も使っているような、均等に近い、緑白ベースか白青ベースかわからないデッキはありませんでした。

 勝っている緑白で《市民の奉仕者》を全く採用していないデッキはなく、ほとんど複数枚投入されていました。色を選択する上でのキーカードになっています。

 除去よりも優秀なクリーチャーが優先され、除去色ではない色が環境のメインアーキタイプということは、普段よりもコンバットトリックが有効に働きやすい状況であるということでもあるということです。白青・緑白に関わらず複数枚使われています。

 プレイ時も《早抜きの短剣》や《一家のために》などに、上手くやられないよう気を付ける必要があります。


 アリーナ・オープン、そして予選ウィークエンドの勝ち組デッキのほとんどが白系でした。白を使っておらず優秀な成績を残したデッキは全体の10%もありません。

 ピックした同卓者とだけ対戦するテーブルトップのドラフトでは少し変わるかもしれませんが、それでもこの環境の白の強さは圧倒的です。皆さんもぜひそれを意識した上でカードをピックしていきましょう。

カウンターストラテジーとしての「赤黒」

 前章で述べたとおり、白青・緑白をベースとした白系のデッキは環境の強力なカードたちをより多く使うことのできる最強のアーキタイプです。

 しかし最強が存在するということは、メタ的視点で見れば使われない色を一人占めすることで強力なデッキを構築することができるはずです。

 白・青・緑の組み合わせが最も強い、だからこそカウンターストラテジーとして赤黒を狙うというのが僕のもう1つのおすすめ戦略です。

佐藤 レイ - 「赤黒(サンプルデッキ)」
『ニューカペナの街角』ドラフト (2022年6月)[MO] [ARENA]
9 《
7 《
1 《路面列車駅
-土地(17)-

3 《殺人魔
1 《歪んだ守衛
1 《騒乱の巡回者
1 《土建組一家の新入り
1 《土建組一家の調達者
2 《機知ある怨怒取り
1 《貴顕廊一家の新入り
1 《夜の棍棒使い
1 《顔壊しのプロ
2 《プラズマの操作手
1 《鍛冶場の親方
2 《橋桁のうすのろ
1 《喧嘩腰の拳闘士
-クリーチャー(18)-
2 《絞殺
1 《殺害
1 《不本意な雇用
1 《鞭打
-呪文(5)-

 こちらは奇襲を軸に据えた高速2色アグロデッキです。

始めるタイミングは3・4手目の除去

 まず認識しておくべきなのは、この色・戦略は基本的に「やらされる色・やらされる戦略」であるということです。決して自分から狙いに行くものではありません。前提として白がやれるなら白をやるべきです。

 白が人気過ぎて、《鼓舞する監視者》はおろか《ラフィーンの密通者》すらなかなか流れてこない、しかし赤や黒のカードはどんどん流れてくるといった状況がこの戦略を取る上で理想的な流れです。

 おおまかなピック感でいうと、それ以外に白絡みの強力なカードがなく、3手目の《殺害》、4手目の《絞殺》あたりが流れてきたときにとりあえず取っておき、5手目の《橋桁のうすのろ》、6手目の《殺人魔》から寄せていくようなイメージです。

 
アリーナよりもテーブルトップ向きの戦略

 基本的にこのような戦略は、卓内で相対的に強力なデッキを組み上げることが重要なテーブルトップドラフト向きの戦略です。

 今回の赤黒に限らず、明確に強いアーキタイプがある環境においては、もしそれができなさそうな時にどのような戦略を取るのが良いのかを皆さんも考えてみてください。

終わりに

 今回も大規模イベントで上位に入賞したデッキがどのようなアプローチを取っているのかを中心に見ていきました。

 同じ色の組み合わせだとしても、カード単位で取る戦略が変わっているのがやはりドラフトの面白さですね。皆さんも強いプレイヤーのリストからぜひ技を盗んでみてください。

 また、最強のアーキタイプを作ることができなさそうな時、全員がそれを狙うような状況の時、他にどんなアーキタイプをどのタイミングでやり始めるのか……という構想をあらかじめ練る練習をしておくことは、今後テーブルトップの大会が増えそうな現在においては非常に有効なように感じました。

 参考になるところがあれば嬉しいです! もしよければTwitter(@r_0310)などでご意見やご感想をお聞かせください!

 今回の記事は以上となります。それでは、次回の記事でお会いしましょう!

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