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佐藤レイの「一歩踏み込む!」リミテッドの極意
第9回:もっと勝てる!『神河:輝ける世界』ドラフト
皆さん、忍術してますか? お久しぶりです、マジック・プロリーグ(MPL)所属の佐藤レイです。
僕が初めてプロツアー(今でいうセットチャンピオンシップ)に参加したのは『神河物語』時、すなわち17年前に発売された旧神河の頃なので、今回の『神河:輝ける世界』はなんだか青春時代が帰ってきたようでとても感慨深いです。神河のように、僕もこれから輝いていきたいものです。
というわけで今回は『神河:輝ける世界』ドラフトについて大型イベントで勝利したデッキのリストを見ながら分析をしていくのですが、その前に本セットのドラフトをプレイする上でまず理解しておかなければいけない要素について説明します。
それでは皆さんよろしくお願いいたします!
環境スピードについて
忍術や英雄譚など強力なメカニズムやギミックが複数ある中で、それ以外にもこの環境で理解しておく必要がある要素があります。
それは、この『神河:輝ける世界』の「環境スピード」についてです。
例えば僕の大好きなセットに『オンスロート』があるのですが、そこでは変異クリーチャーが環境の主戦力なので、基本的にお互い3ターン目から行動することが多かったと記憶しています。
そのセットでは、なんと2マナ2/2のバニラ(能力を持たないクリーチャー)が初手で取られることすらありました。これは3ターン目に2/2を出す行動が主流なのであれば、例えバニラであっても2マナでパワー2があれば十分強力なカードになりえたからですね。
過去発売されたセットの中で、いわゆる「灰色熊」がそれほどの強さだったのは後にも先にもこの『オンスロート』だけでしょう。それほど環境スピードはカードの強さを測る上で重要な指針となります。
そして『神河:輝ける世界』の環境スピードは、いまだかつてないレベルで速いです。
《蛾乗りの巡回兵》《ネットワークの攪乱者》《大牙勢団の襲撃》《猿人のスリング》《しげ樹の牙》などなど……各色にプレイアブルなコモンの1マナ域があることからも、これは意図して設計されているのでしょう。
特に《大牙勢団の襲撃》は素晴らしい1ターン目のアクションで、かなり強力な1枚ですね。
1マナ域だけでなく、2マナ域にも優秀なカードが多くあり、さらにそこから《月回路のハッカー》をはじめとする2マナ以下の忍術を持つカードが早々に戦場に出てくる非常に高速な環境です。
『神河:輝ける世界』において3ターン目に行動を始めるということは、すなわち「敗北」を意味します。
いつもの環境よりも早めに行動する必要があるということを、まずは前提として認識しておきましょう。
イベント勝利デッキ紹介と強いデッキの特徴
それでは、大型イベントで勝利したデッキリストを確認していきましょう。
アリーナ・オープン(2月26~27日)
『神河:輝ける世界』を使ったリミテッドの大型イベントとして、2月の末にはアリーナ・オープンが開催されました。
2日制のイベントで、2日目のドラフトにて6勝以上のプレイヤーが賞金を得られるという構造です。上位入賞者のデッキ一覧は用意されていないのですが、参加者のSNS投稿を見ている限りでは、入賞した多くのプレイヤーが青黒忍者を使用していました。
8 《沼》 7 《島》 1 《閑静な中庭》 -土地(16)- 2 《墨昇の潜入者》 1 《毒血勢団の口封じ》 1 《月回路のハッカー》 1 《銀毛の達人》 1 《ウイルスの甲虫》 1 《思慮深い達人》 1 《月の賢者の養子、ナシ》 1 《探照灯の相棒》 3 《無孤勢団の伏兵》 1 《月罠の専門家》 2 《サイバの侵入者》 -クリーチャー(15)- |
1 《長所食い》 1 《大牙勢団の襲撃》 2 《当世》 1 《高速ホバーバイク》 1 《発明的反復》 1 《タミヨウの完成化》 1 《ねじれた抱擁》 1 《語られざるものの警告》 -呪文(9)- |
こちらは海外プレイヤーの方が使用された青黒忍者で、ご自身のYoutubeチャンネルにてデッキとスコアを公開されていたので引用させていただきました。
なんと2マナ以下のカードが11枚! それもすべて自分からアクティブに使用できるカードたちです。
《サイバの侵入者》は「魂力」能力によって4マナのカードとして使用できるため、実質5マナ域は《語られざるものの警告》のみ。4マナ域の《無孤勢団の伏兵》も忍術で出すことが多いでしょう。
リミテッドを始めた時期によっては、もしかするとクリーチャーは15枚、それ以外の呪文が8枚、土地は17枚、そして2マナ以下は4~5枚くらいで、3マナ以下までで8枚くらい欲しい……などのセオリーを最初に教わった方もいるかもしれません。
もはやそんな常識は通用しません。『神河:輝ける世界』の環境スピードに私たちは合わせる必要があります。
Limited Super Qualifier
MTGアリーナを使用したリミテッドの大型イベントはアリーナ・オープンだけでしたが、Magic Online(以下MO)ではLimited Super Qualifierというセットチャンピオンシップの権利を懸けた、数百人単位のプレイヤーが出場するリミテッド(予選ラウンドがシールド、トップ8ラウンドがドラフト)の大会が2月末から計4回行われました。
ここでは決勝ドラフトの優勝デッキについて見ていきましょう。
8 《島》 7 《森》 1 《道路脇の聖遺》 1 《未知なる安息地》 -土地(17)- 1 《しげ樹の牙》 2 《月回路のハッカー》 1 《樹海の練習生》 1 《無常の神》 2 《探照灯の相棒》 1 《西の樹の木霊》 1 《地熱の神》 1 《月罠の専門家》 1 《空泳ぎの鯉》 1 《花咲く跳獣》 1 《鏡殻のカニ》 -クリーチャー(13)- |
1 《呪文貫き》 2 《次元切開》 2 《当世》 1 《短絡》 1 《粗暴者の鎧機》 1 《天空に到る母聖樹》 1 《樹海の好意》 1 《タミヨウの完成化》 -呪文(10)- |
1 《森》 1 《島》 2 《開運の供物》 2 《執政の権限》 2 《猿人のスリング》 1 《月罠の試作品》 1 《呪文貫き》 1 《自動操縦の工匠》 1 《逸失叡智の御神体》 1 《朧宮の守り》 1 《ネットワーク端末》 1 《神童の試作機》 1 《君主今田の凋落》 1 《地下街のたかり屋》 1 《暁冠の日向》 1 《穢れの一掃》 1 《報復招来》 1 《秩序の柱、直美》 -サイドボード(21)- |
こちらは1回目に日本人強豪プレイヤーの小坂和音(テルテル)選手が使用して優勝したデッキです。
先ほどの「青黒忍者」と同じように2マナ域が充実していますね。5マナ域は《花咲く跳獣》のみです。
《探照灯の相棒》《月罠の専門家》《花咲く跳獣》といった戦場に出たときの能力を持つカードを《次元切開》で上手く使いこなす構成となっています。
8 《森》 7 《山》 2 《岩だらけの高地》 -土地(17)- 2 《樹海の練習生》 1 《悪忌の種火守り》 1 《とぐろ巻きの忍び寄り》 1 《無尽活力の御神体》 1 《大蛇の統合守り》 1 《蜂起軍の無法者》 2 《青銅鎧の猪》 1 《燃え立つ空、軋賜》 1 《都和市の案内ボット》 1 《鉄蹄の猪》 -クリーチャー(12)- |
3 《電圧のうねり》 2 《古代への衰退》 1 《歴史家の知恵》 1 《活力の温泉》 2 《天空に到る母聖樹》 1 《調和した出現》 1 《旋輪脚》 -呪文(11)- |
1 《山》 1 《沼》 1 《平穏な入り江》 1 《未知なる安息地》 3 《火花舞う出現》 1 《小手の使い魔》 1 《無私の侍》 1 《短絡》 1 《放浪者の介入》 2 《仲裁者の拘束》 1 《記憶の担い手》 1 《古の牙を継ぐ者》 1 《君主今田の凋落》 3 《神社の世話役》 1 《沈黙の蜘蛛、琴瀬》 -サイドボード(20)- |
こちらは2回目に行われたSuper Qualifierで優勝した赤緑のデッキです。
2マナ域のクリーチャー7枚に加え《電圧のうねり》が3枚入っていて、2ターン目までに行動できるカードが計10枚入っています。
そして5マナ域以上のカードは《鉄蹄の猪》だけで、それもより軽いコストの「魂力」を持っているため、実質土地が4枚あればデッキ内のすべてのカードが使える構成になっています。
《無尽活力の御神体》《調和した出現》《歴史家の知恵》とサーチできるカードが3枚あるにも関わらず《神社の世話役》は3枚ともサイドボードにあります。5マナ以上のカードを採用するのが、いかにハードルが高い環境かがわかりますね。
9 《森》 8 《島》 -土地(17)- 1 《しげ樹の牙》 1 《竹林の射手》 1 《樹海の練習生》 1 《機械壊しの河童》 1 《月回路のハッカー》 1 《収得のタコ》 1 《朧宮の守り》 2 《巨大な空亀》 1 《鏡殻のカニ》 -クリーチャー(10)- |
2 《精霊との融和》 2 《梓の幾多の旅》 1 《当世》 2 《融合する成長》 1 《古代への衰退》 1 《更生の季節》 2 《語られざるものの警告》 1 《せし郎師匠の伝承》 1 《完成化した賢者、タミヨウ》 -呪文(13)- |
1 《森》 1 《ジャングルのうろ穴》 1 《平地》 1 《岩だらけの高地》 1 《平穏な入り江》 1 《兎電池》 1 《執政の権限》 1 《呪文貫き》 1 《タミヨウの保管》 2 《攪乱プロトコル》 2 《短絡》 1 《母聖樹の加護》 1 《とぐろ巻きの忍び寄り》 1 《本質の把捉》 1 《高速ホバーバイク》 1 《古の牙を継ぐ者》 1 《歴史家の知恵》 1 《ムーンフォークの謎掛け師》 1 《知識の渇望》 1 《絶望招来》 -サイドボード(22)- |
3回目のイベントで優勝した青緑デッキです。
こちらは今まで紹介したデッキに比べると高マナ域のカードが多いですが、《梓の幾多の旅》《融合する成長》2枚ずつを使ったランプ構造になっています。
また7マナ域の《巨大な空亀》《鏡殻のカニ》はともに「魂力」持ちなので、実質的なマナ・カーブはもっと低いです。
このデッキも2マナ域以下のカードは10枚。2枚ずつの《語られざるものの警告》《巨大な空亀》をはじめとして、強力なエンチャントが多数入ったこのデッキでは《精霊との融和》がかなり強そうです。
6 《森》 6 《平地》 1 《沼》 1 《花咲く砂地》 1 《岩だらけの高地》 1 《磨かれたやせ地》 1 《血溜まりの洞窟》 -土地(17)- 1 《しげ樹の牙》 1 《無尽活力の御神体》 1 《樹海の自然主義者》 2 《金之尾の門弟》 1 《地熱の神》 1 《貪る混沌、碑出告》 1 《七ツ尾の導師》 1 《大狸》 1 《巨大な空亀》 -クリーチャー(10)- |
1 《タミヨウの保管》 1 《梓の幾多の旅》 1 《啓蒙の時代》 1 《魅知子の真理の支配》 1 《放浪者の介入》 2 《仲裁者の拘束》 1 《融合する成長》 1 《ネットワーク端末》 1 《永岩城の修繕》 1 《天空に到る母聖樹》 1 《調和した出現》 1 《皇国の契り》 -呪文(13)- |
1 《森》 3 《蛾乗りの巡回兵》 1 《青銅の棍棒》 1 《道照らし》 1 《執政の権限》 1 《悪忌の種火守り》 1 《神の火炎》 1 《短絡》 1 《当世》 1 《朧宮の守り》 1 《勢団の揺さぶり》 1 《霊都の歩哨》 2 《樹海の好意》 1 《七ツ尾の導師》 1 《雷鋼の巨像》 -サイドボード(18)- |
こちらが一番最近に行われた4回目イベントの優勝デッキです。
緑白に《貪る混沌、碑出告》、《巨大な空亀》といった強力なカードをタッチしています。
特に《融合する成長》を持つ緑においては、《貪る混沌、碑出告》のような強力なレアを引いたときにタッチできるよう普段よりも2色土地を取っておくと良いかもしれません。このデッキにおいてはまったくメインのカラーではない《血溜まりの洞窟》さえも上手く使われています。
……さて、Limited Super Qualifierの優勝デッキ4つを見ていただきましたが、なんと4回とも緑系のデッキが優勝しています。
強豪ばかりが集まる決勝ドラフトデッキにおいて4回とも勝つということは、この環境の最強色は緑で、どんどん緑を狙っていけばいいのだな……。
とは、簡単に言えないのがドラフトの面白いところです。
なぜなら、ドラフトにもまたメタゲームが存在するからです。それは強者同士になればなるほど顕著になります。全員が青黒が強いと思っていたために緑が空いて、その結果強力なカードが取れやすくなって勝っただけで、総合力の面ではやはり「青黒忍者」が上である、なんてケースもよくあります。
またMTGアリーナとMOにおいてはドラフトの対戦形式が異なる、といったところにも注意する必要があります。
MTGアリーナにおけるプレミア・ドラフトやアリーナ・オープンは、同卓者と必ず対戦するわけではありませんが、MOの決勝ドラフトやリアルで行われるドラフトは基本的に必ず同卓者と対戦することになります。
そのためMTGアリーナでは「絶対的に強力なデッキ」を目指し、同卓者とだけ対戦するドラフトでは「相対的に強力なデッキ」を目指す必要を目指すことが重要です。
カット(自分では使わないが相手が使いそうなカードをあえてピックすること)などの必要性も全く異なりますし、受けの広いドラフトをするべきか、するべきでないかも変わるでしょう。
これに加えBO1・BO3においても最適戦略は異なります。例えばエンチャント、アーティファクト、大型クリーチャーなどに対する限定除去をはじめとするサイドカードの効きやすいアーキタイプ(赤い軽いアーティファクト主体のデッキなど)はBO1では勝てるかもしれませんが、BO3だと勝率が下がってしまうかもしれません。
それらのことを考慮した上で、この環境に存在する多くの強いデッキに言えるであろう特徴をまとめました。ぜひ参考にしてみてください。
キーとなるのは2マナ域以下のカードの枚数
勝っているデッキは最低8枚、大体のデッキが10枚ほど入っていました。
環境スピードに合わせた構築をしましょう。2ターン目に行動できないことは大きく負けに直結します。
5マナ域以上は本当に強いカードを少しだけ
2マナ域以下が重要なのと同様に5マナ域以上のカードの採用も普段の環境に比べ少ない傾向にありました。手札に溜まってしまうリスクは速い環境ほど高くなります。5マナ域以上は本当に強いカードを数枚入れるだけに留めましょう。
《巨大な空亀》や《鉄蹄の猪》などの「魂力」を持ったカードは5マナ以上のクリーチャーかつ軽量スペルとしても数えられるので、採用しやすくていいですね。
思っているほどアーキタイプ環境ではないかも
「青黒忍者」や赤いアーティファクト主体のデッキなど、ほとんどのカードがアーキタイプ(メカニズムごとに設定された特徴)に寄っているデッキも存在しますが、それよりも適切なマナ域に強力なカードが採用されている点、そして個々のカードのシナジーが重要である印象を受けました。
なので、カード間のシナジーの引き出しを増やしておくといいでしょう。
《ウイルスの甲虫》と《戦闘復帰》は相性がいいですし、《月罠の専門家》と《次元切開》、《しげ樹の牙》と《旋輪脚》……と、挙げれば本当にキリがないですが、このカードとこのカードの相性が良い、ということを可能な限り知っておくことが強力なデッキを作る力になります。
《語られざるものの警告》と《天空に到る母聖樹》は見たら取れ!
この2枚はアンコモンですが実質ボムレアと同等くらいの強さを持っています。今回見てきたデッキの中で、これらのどちらかが入っていないデッキは存在しません。見たら取りましょう。
そして最後に1つ、個人的にすごく気に入っているリストを紹介します。
16 《山》
-土地(16)- 2 《増員された浪人》 1 《猿人のスリング》 1 《悪忌の浪人》 1 《折り紙細工のおとり》 1 《霜剣山の製錬者》 1 《都和市の整歌師》 2 《青銅鎧の猪》 1 《無双の侍》 1 《屑鉄場の鉄殴り》 1 《都和市の案内ボット》 2 《鉄蹄の猪》 -クリーチャー(14)- |
2 《実験統合機》 2 《電圧のうねり》 1 《火をつける怒り》 2 《神の火炎》 1 《粗暴者の鎧機》 1 《鏡割りの寓話》 1 《地震波》 -呪文(10)- |
1 《山》 1 《急流の崖》 2 《月罠の試作品》 1 《青銅の棍棒》 1 《火をつける怒り》 1 《小手の使い魔》 1 《熱心なメカ乗り》 1 《冥途灯りの行進》 1 《野心的な突撃》 1 《不可能の発見》 1 《地下街のたかり屋》 2 《未来派の調査員》 1 《地熱の神》 1 《憤怒の贈り物》 1 《無孤勢団の伏兵》 1 《空泳ぎの鯉》 1 《タミヨウの完成化》 2 《勤勉の神》 -サイドボード(21)- |
みんな大好き、漢の赤単。
MOのLimited Super Qualifierで3位に入賞したデッキです。Super Qualifierは2人に権利が出るので、あと1勝できればセットチャンピオンシップの権利を獲得できたデッキでした。
黒・緑・青が人気で白が少し落ち、そして赤が一番不人気な環境なので、このようなことは時たま起こりうるかもしれません。単色のリミテッドデッキってカッコいいですよね!
終わりに
今回は実際の大会で入賞したデッキをもとに、強いデッキや環境自体の分析をしてみました。どのようなセットでも使える手法だと思いますので、『神河:輝ける世界』以外でもぜひ皆さんトライしてみてください。
繰り返しになりますが、ドラフトにおいては対戦形式(同卓者と対戦するかどうか、BO1かBO3かなど)によって最適な戦略は異なりますので、それを意識して情報を取り入れることが大切です。
参考になるところがあれば嬉しいです! もしよければ、Twitter(@r_0310)などでご意見やご感想をお聞かせください!
今回の記事は以上となります。それでは、次回の記事でお会いしましょう!
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