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佐藤レイの「一歩踏み込む!」リミテッドの極意
第7回:もっと勝てる!『イニストラード:真夜中の狩り』ドラフト
皆さんこんにちは! ゾンビでアタックしたり、昼と夜を変えたりしていますか。
マジック・プロリーグ所属の佐藤レイです。『イニストラード:真夜中の狩り』のドラフトは本当に楽しいですね。大会があったということもあり、僕はここ数年で一番ドラフトをやり込みました。
個人的なことなのですが、前回書かせていただいてから自分にとって大切な大会がいくつもあり、さまざまなことが起きました。
まずはMPLガントレット。こちらの大会で24人中3位以内に入ることができて、マジック・プロリーグに継続して参加できることが決定したとともに、世界選手権の権利も獲得しました。
それから第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権。世界で16人しか参加することのできない最高峰の大会に幸運にも自分も参加することができました。結果は振るわず9位でしたがチームメイトである高橋優太選手が見事優勝しました。
自分が勝ちたかったという気持ちももちろんありますが、その次に彼が勝つことができて嬉しかったです。知り合ってから10年以上経っていますが、特にこの1年間一緒に練習し、苦楽を共にしてきたことを本当に誇りに思います。おめでとう! あんちゃん!
高橋選手の優勝以外にも今回の世界選手権において特筆すべきことがありました。それはスタンダードだけではなく、「MTGアリーナを使っての対人ドラフト」が大会のフォーマットとして採用されたこと! 特定の8人で卓を組み、その8人で戦うという、自分がリアルの世界で今まで幾度となくやってきたあのブースタードラフトが、そのままMTGアリーナの大会でプレイすることができたのです。
まだ通常のMTGアリーナに機能として実装されたわけではありませんが、いつかできるようになるかもしれないと思うと非常に楽しみですね。
そんな世界選手権の参加者として今月や先月は本当にたくさんドラフトの練習をしてきました。そこで得た知見を共有することで、皆さんがより「もっと勝てる」ようになることの助けとなれば幸いです。
今までと同じように、強いアーキタイプや(「青黒ゾンビ」や「青白降霊」ですね)、そこで強いカードやリストを紹介していこうと思ったのですが、せっかく世界選手権に向けて人一倍練習してきたので、今回はそんな僕だから届けられるいつも以上にディープなことを紹介していきます。
ということで今回は「ソーティング」と「サイドボーディング」の2つについてのみ、解説していきたいと思います。リミテッドという魔境、その深淵を一緒に覗き込んでみましょう――準備はいいですか?
第1章 ソーティング
さっそくドラフトのピックや戦略について述べていきたいところですが、その前にソーティングの話をしていきたいと思います。「ソーティング」、聞き慣れない言葉ですね。
今回の『イニストラード:真夜中の狩り』では両面カードが採用されていて、MTGアリーナのドラフト用ブースターからの出現比率も厳密に決まっています。具体的には14枚の中からコモン枠より1枚、アンコモン&レア&神話レア枠より1枚の計2枚の両面カードが出現します(MTGアリーナのドラフト用パックにはフォイル枠は存在しないため、今回は考えないものとします)。
ソーティングとは「そこからわかる情報で、少しでも自分を有利にしていこう」という技術です。
例えばあなたの1パック目2手目、上家のプレイヤーはレアもしくは神話レアをピックしています。アンコモンに両面カードがなかった場合、両面カードがレアないし神話レア枠(以下、まとめて「レア枠」と呼びます)ということなので、上のプレイヤーがピックしたカードは以下の14種類にまで絞ることができます。
『イニストラード:真夜中の狩り』レア枠出現カード
- 《粗暴な聖戦士》
- 《不朽の天使》
- 《心悪しき隠遁者》
- 《戯れ児の縫い師》
- 《怪しげな密航者》
- 《ヒルの呪い》
- 《墓地の侵入者》
- 《堕落した司教、ジェレン》
- 《無謀な嵐探し》
- 《くすぶる卵》
- 《群れの希望、アーリン》
- 《敬虔な新米、デニック》
- 《屍術の俊英、ルーデヴィック》
- 《不吉な首領、トヴォラー》
読みは複合的に行うことができます。先程のケースにおいて、アンコモンに《病的な日和見主義者》や《冥府の掌握》といったトップアンコモンが残っていた場合、おそらく上のピックは《粗暴な聖戦士》か《怪しげな密航者》、あるいは《トヴォラーの猟匠》のいずれかでしょう。
逆のパターンをあります。例えば《秋の占い師》が流れてきつつ、アンコモン枠の両面カードが消えていたとします。上のプレイヤーがピックしたのはかなりの確率で《圧倒される文書管理人》、あるいは《意気盛んな墓守り》でしょう。
あなたは上のプレイヤーが青をやる確率が高くなっているという認識ができて、その結果微妙な選択になったときに青いカードをピックすることを避けることができます。
ケースを挙げればキリがないので、いくつか実践で使えそうな情報だけ共有します。
アンコモン両面枠で初手級なのは《圧倒される文書管理人》と《意気盛んな墓守り》と《牙刃の盗賊》の3種
まずこれが一番覚えておくべきことです。少し下がって《ケッシグの自然主義者》、《猟犬調教師》でしょうか。
3種類と書いていますが、《牙刃の盗賊》は少し落ちるでしょう。カードパワーは申し分ないのですが、赤という色があまり強くなく敬遠されているためです。
そこから何が言えるのかというと、「強力なカードが流れてきた+アンコモンの両面枠が消えているケースでは、上のプレイヤーは青いカードを取っている可能性がかなり高まる」ということです。先ほどの例でも挙げましたね。特に「青白降霊」は被るかもしれないということを意識しておくと良いでしょう。
コモンの両面に初手級のカードはない
『イニストラード:真夜中の狩り』において、コモンの両面枠に強力なカードは存在しません。
最も強いのが《餌鉤の釣り人》で次点が《突風漂い》、その下に《不審な旅行者》や《月皇の古参兵》、《哀悼の巡回兵》があるといったところでしょうか。
なので通常、まったく意識する必要はありません。もしも3・4手目以内にコモン枠の両面カードが消えている場合、やはり上家のプレイヤー(真上とは限りません)は青いカードをピックしていることが多いです。自分が「青白降霊」に向かいたいと考えているときは卓状況をより把握するために常に残っているかどうかを確認しておきましょう。他の色で消える強いカードは全くないので残っていればいるほど自分がいいポジションであるということになります。
色ごとにセット内のレア枠の両面カードの種類数は異なる
実はレア枠の両面カードは色ごとに収録されている枚数が異なります。例えば緑については《トヴォラーの猟匠》だけですが、青には《心悪しき隠遁者》、《怪しげな密航者》、《戯れ児の縫い師》の3種があります。これは赤緑の狼系の両面カード《群れの希望、アーリン》や《不吉な首領、トヴォラー》が収録されているためです。
僕調べですが、初手級のレア・神話レアの両面カードの色別比率は白2、青3、 黒3、 赤1、緑1、青白1、青黒1、赤緑2でした。
なのでレア枠の両面カードがなくなっている場合、他の色よりも青と黒の可能性が上がります。ただし黒のレア枠のカードはすべて黒のトップアンコモンよりも弱いので、例えば《病的な日和見主義者》や《冥府の掌握》が残っていた場合は、黒いカードが取られた可能性はなくなります。
どれくらい役に立つのか?
さてこのソーティングという読みの技術なのですが、実際どれくらい役に立つのでしょうか……ここまで長々と話してきたのに申し訳ないのですが、はっきり言ってそこまで役には立ちません(笑)。
しょせん上家の人がピックした1・2手目のカードを限られた情報からより推測できるというだけです。さらにパックに強いカードが残っている場合でないと、上手く活用することはできません。
ですが事前に備えておくだけで、特定の状況において上家のプレイヤーの取ったカードを高い精度で推測することができます。ドラフトの基本は上家のプレイヤーと色が被らないようにすることです。それが少しでもしやすくなるのであれば、使わない手もまたありません。
おそらくなのですが、皆さんの中でこれを意識していたプレイヤーはほとんどいなかったのではないでしょうか。両面カードがそういう頻度で出ていたことを初めて知ったという人も多いと思います。今後はレア枠の両面カードが残っているか・消えているかをぜひチェックしてみてください。
第2章 サイドボーディング
MTGアリーナでは1本先取……いわゆるBO1のプレミアドラフトが一番人気ですが、ではMTGアリーナで遊ぶのであればサイドボーディングの技術が全く必要ないかといわれると、そうではありません。
例えば現在行われている『イニストラード:真夜中の狩り』ドラフトチャレンジは2本先取、BO3と呼ばれるマッチ戦です。またシールドイベントなどでもサイドボードを使用する機会はあります。
普段はBO1のドラフトしかしていないという人はなかなかサイドボードについて考える機会がないかもしれません。そしてBO3ドラフトをやっている人でさえ、ほとんどの人はサイドボードをかなり軽視しています。
特にシールドの場合は対戦しながらラウンド間に正しいサイドボーディングを考えればいいですが、ドラフトの場合はあらかじめピックしておく必要があります。あらかじめこういう相手にはこれを入れそうという想像力がないとなかなかサイドカードを遅くない段階でピックするのは難しいでしょう。
BO3ドラフトは23~24枚の強いカードを取ればいいわけではありません。ときにはメインに入りうるカードより先にサイドカードを取る状況もありえます。そのためにどういうカードがよく使われるのか理解しておきましょう。
墓地対策系
《岐路の蝋燭案内》《ジャック・オー・ランタン》《腐敗した再会》《掘り返し》《自然への回帰》など
まずは墓地対策カードです。イニストラードでは降霊やフラッシュバックといったメカニズムがあり、自分のデッキが相手の墓地に全く触ることができないとかなり不利な状況に陥ることがあります。
サイドカードとしてとるべき墓地対策カードとしてまずあがるのは《岐路の蝋燭案内》《ジャック・オー・ランタン》でしょう。これらは無色であり、評価も低く9手目以降でも取りやすいです。
《腐敗した再会》と《掘り返し》もいいカードです。特に《掘り返し》はかなり過小評価されているように感じます。「青白降霊」や「赤青《嵐の捕縛》」、「青緑フラッシュバック」など墓地をかなり使ってくる相手には複数枚戻せるメリットはかなり大きいです。13手目などでも流れてきますが、個人的には7・8手目くらいに取られてもいいくらいに思っています。
墓地対策系のカードをいつ取るべきかは、デッキの中にメインで使える墓地対策カードがどれくらいあるかがキーになります。具体的には《戦墓の大群》と《魂標グリフ》の枚数で、これらがまったくないのであれば評価をかなり上げるべきです。逆にそれらがすでにデッキに入っているのであれば少し取るのを遅らせてもいいでしょう。
基準としてはサイドボード含め2枚くらいは相手の墓地に触れられるカードがあると良いですね。
入れる相手としては「青白降霊」、「赤青《嵐の捕縛》」、「青緑フラッシュバック」などです。カード単位で言うと《愛される物乞い》《地下室からの這い上がり》《嵐の捕縛》《ドライアドの蘇生》《蟻の隆盛》などに対して積極的に入れていきましょう。
限定除去系
これらのカードはクリティカルな相手が存在するので、取れるならもちろん多く取っておきたいです。ただ実際問題ピックできる枚数は限られています。すべてのサイドカードに言えることですが「そのカードがないと本当に困るのか」「2戦目以降どれだけ自分のデッキを強化してくれるのか」をきちんとイメージしておく必要があるでしょう。
例えば黒い除去がすでにたくさん取れているのであれば、《日金の連射》はそこまで必要ではないかもしれません。また自分が緑白をやっている時に《スレイベンの除霊》と《垂直落下》は両方を大量に集める必要はないでしょう。どちらも用途が似ているからです。
カード評価の話で言えば、この環境は白青黒の3色が強く、赤緑の2色が弱いです。なので《垂直落下》はかなり評価を上げていいと思っています。強い色には大抵飛行が入っていますし、降霊もあるので無駄になりづらいです。実際、僕は世界選手権においては計3枚ピックしました。
その他、特定の相手に強いカード
《聖戦士の召集》《黄昏の享楽》《溺墓の融合体》《霊波》《焼印刃》《モークラットのビヒモス》《跳ねる狼》《狩りの遠吠え》など
メインで入っていてもおかしくもないようなカードもありますが、基本的にはサイドにあったときどんな相手にサイドインするのがいいのかを知っているといいでしょう。
例えば相手が赤緑なら《モークラットのビヒモス》に触ることはなかなか難しいです。2枚目以降も検討できるでしょう。戦場を固めつつアドバンテージを取ってくる青緑や青白のような相手には《溺墓の融合体》のブロックされなくなる能力が有効です。相手の除去が格闘やエンチャントに寄っているのであれば《霊波》の出番でしょう。赤黒相手の後手ならば《黄昏の享楽》は使えそうです。
ピックの段階でそれらをイメージできるか。環境のアーキタイプの構造をしっかりと理解しておくことが重要です。
以上の3つが主なサイドカード群です。また対策の対策をすることも怠らないようにしましょう。
サイド後相手が《垂直落下》を2枚プレイしたのを見たなら、あるいはそもそも相手が緑なら、あなたの《嵐乗りの精霊》は《溺墓の融合体》のほうがいいかもしれません。
相手が《岐路の蝋燭案内》を2枚や3枚入れてきているなら、あなたのアーティファクトを破壊するカードはいつもより強いはずです。《似姿焼き》や《自然への回帰》は使用する価値のあるカードかもしれません。
そもそも軸となるデッキコンセプト自体を変えられるケースもあります。その一例として僕が世界選手権でプレイしたデッキを紹介します。
8 《島》 7 《森》 2 《山》 -土地(17)- 1 《食糧庫のゾンビ》 3 《またたかぬ観察者》 1 《根のとぐろの忍び寄るもの》 1 《スカーブの世話人》 1 《茨橋の追跡者》 1 《ネベルガストの侵入者》 1 《ドーンハルトの再生者》 1 《突風漂い》 1 《溺墓の融合体》 -クリーチャー(11)- |
1 《ジャック・オー・ランタン》 1 《鍵の秘密》 1 《支配を懸けた決闘》 1 《冬茨の祝福》 1 《カエル声の写し身》 1 《ドライアドの蘇生》 1 《月の憤怒獣の切りつけ》 2 《溺死者の逆襲》 2 《嵐の捕縛》 1 《蟻の隆盛》 -呪文(12)- |
1 《強迫》 1 《火遊び》 1 《掘り返し》 3 《垂直落下》 1 《前哨地の放棄》 1 《揺らぐ信仰の呪い》 1 《貪欲な食欲》 1 《旧き道の力》 1 《伝染病の狼》 1 《不自然な月の出》 1 《不思議な秘本》 1 《儀式の守護者》 2 《蝋燭明かりの騎兵》 1 《嵐のスクリーリクス》 1 《不屈の運び屋》 1 《収穫祭の襲撃》 -サイドボード(19)- |
メインデッキはもちろんですが、ここではサイドボードにこそ注目してもらえればと思います。
まずは《火遊び》《掘り返し》《垂直落下》《不思議な秘本》《嵐のスクリーリクス》などかなりサイドボードが充実しているのがわかってもらえるかと思います。
それだけではなく、実はこのデッキはすべての相手に対して2戦目以降《嵐の捕縛》を抜いていました。
8 《森》 7 《島》 2 《山》 -土地(17)- 1 《食糧庫のゾンビ》 3 《またたかぬ観察者》 1 《伝染病の狼》 1 《根のとぐろの忍び寄るもの》 1 《茨橋の追跡者》 1 《ネベルガストの侵入者》 1 《ドーンハルトの再生者》 1 《突風漂い》 2 《蝋燭明かりの騎兵》 1 《溺墓の融合体》 1 《不屈の運び屋》 -クリーチャー(14)- |
1 《火遊び》 1 《支配を懸けた決闘》 1 《冬茨の祝福》 1 《カエル声の写し身》 1 《月の憤怒獣の切りつけ》 2 《溺死者の逆襲》 1 《蟻の隆盛》 1 《収穫祭の襲撃》 -呪文(9)- |
1 《強迫》 1 《ジャック・オー・ランタン》 1 《鍵の秘密》 1 《掘り返し》 3 《垂直落下》 1 《前哨地の放棄》 1 《揺らぐ信仰の呪い》 1 《貪欲な食欲》 1 《旧き道の力》 1 《スカーブの世話人》 1 《不自然な月の出》 1 《ドライアドの蘇生》 1 《不思議な秘本》 1 《儀式の守護者》 2 《嵐の捕縛》 1 《嵐のスクリーリクス》 -サイドボード(19)- |
これは3本目、スタニスラフ・ツィフカ選手と対戦したときのサイドボーディング後のデッキリストです。
《嵐の捕縛》をサイドアウトして、代わりに5マナ域のクリーチャーや《収穫祭の襲撃》を入れています。相手が墓地対策をしてくることを見越して、それに強い形にシフトチェンジしているというわけですね。それにより、相手に対し「過剰に墓地対策をしてくることへの裏目」を作っています。
あとはデッキリストが公開制だったので、それを活かして青緑の同系対決である高橋選手との試合では、《掘り返し》だけではなく、サイドから《旧き道の力》を入れたりもしていました。メインのデッキリストがあるからこそ、普段より意識することが難しくなるでしょう。
対戦前にすべての対戦相手へのサイドボーディングをあらかじめ考えていて、その結果もあり、競技マジックの頂点である世界選手権でのドラフトを2-1と勝ち越すことができて嬉しかったです。間違いなく、僕が16人の中で一番多くのカードをサイドボーディングしたと思います(笑)。
第1章ではソーティング、第2章ではサイドボーディングという、普段あまり語られることのない2つの技術に限定して解説させていただきました。皆さんが今後プレイする上で参考になるところがあればとても嬉しいです!
もしよければTwitter(@r_0310)などでご意見やご感想を聞かせてください!
今回の記事は以上となります。それでは、次回の記事でお会いしましょう!
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