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2025年11月10日のパウパーにおける《満潮》禁止についての説明

Gavin Verhey
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2025年11月10日

 

 やあ、みんな――パウパー・フォーマット委員会のガヴィン・ヴァーヘイ/Gavin Verheyだ。本日私たちは、パウパーに変更を行った。この変更の舞台裏と決断に至った理由をここで詳しく語らせてほしい。

 まずは大見出しからだ。《満潮》はパウパーにて禁止される。この禁止措置はただちに発効し、間もなくMagic Onlineにも反映される。

 3月に、私たちは《満潮》を「試験的禁止解除」という新たな試みの一環として禁止解除した。「試験的禁止解除」とは、カードを解禁してそのパフォーマンスを観察する試験期間を設定し、その後にそのまま解除するか禁止カードリストへ戻すかを決めるというものだ。このアイデアは、禁止カードを調査しながらプレイヤーにとって楽しいカードをフォーマットに戻す可能性も生まれる素晴らしい方法だと思う。3月の試験的禁止解除では《予言のプリズム》が解禁され、それは成功だった。「ウルザトロン」のようなデッキを助けるカードとして環境に見受けられるようになったものの、問題ないという結果が出たのだ。現在の環境は《予言のプリズム》が禁止された当時とは大きく異なっているのだ。

 一方の《満潮》は、かなり繊細な議論を呼ぶことになった。

 解禁当時、私たちは次のように述べている。

私たちとしては、このデッキがメタゲーム上で最上位のデッキの下に収まるのがベストだと考えている。実験のすえに結局使われないとなっても、それはそれで問題ない。環境の中心から離れているか、プレイに耐えるもののベスト・デッキではないという立ち位置が理想的だ。こういうシナリオなら、禁止解除のままになるだろう。

しかしながら、大ブレイクを果たしメタゲーム上で3本の指に入るというなら、試験期間の終了時に再び禁止する可能性が高いと思う。手札だけで完結するコンボ・デッキが上位3デッキにいるのは、フラストレーションを引き起こしかねない。このデッキが繰り出す難題にすべての色が完璧に対応できるわけではないのだ。

イベント結果

 では、まずはデータと結果を見てみよう。

 「ハイタイド」デッキの結果が出始めるまでには、プレイヤーたちがベストな形に集まるまで少々時間を要した。プレイヤーたちが出した結論は、《精神のくぐつ》と「連繋」を用いる強力なエンジンに合わせてデッキを洗練させることだった。「秘儀」呪文への《精神のくぐつ》の連繋と《満潮》でマナの維持と増加を行い、1ターンを長く続けて大量のマナを生み出したら、《思考の流れ》ループで対戦相手を倒すという形だ。これは通常、妨害がなければ4ターン目か5ターン目には勝負がつき、ごくまれに3ターン目に決まることもある。

 いくらが自由枠はあるものの、デッキリストの大半はほぼ同じ形のメインデッキになる傾向が見受けられる。Magic Online challengeを制した最新のリストがこれだ。

Adrowo - 「ハイタイド」
Pauper Challenge / パウパー[MO] [ARENA]
13 《
2 《冠雪の島
-土地(15)-
4 《渦まく知識
1 《綿密な分析
1 《万の眠り
3 《見えざる糸
4 《満潮
4 《留まらぬ発想
4 《商人の巻物
1 《交錯の混乱
4 《深遠の覗き見
3 《パズルの欠片
4 《定業
4 《精神のくぐつ
2 《霧中の到達
2 《思考の流れ
4 《ロリアンの発見
-呪文(45)-
1 《綿密な分析
2 《青霊破
2 《払拭
1 《被覆
3 《ファラジの考古学者
2 《万の眠り
1 《交錯の混乱
3 《断絶
-サイドボード(15)-
 

 勝率の面を見ると、当初はMagic Onlineで50%をちょっと上回るくらいから始まり、「Paupergeddon」のような現実世界で行われるイベントではあまり姿を見かけなかった――まずまずといったところだろう。しかしその後時間が経つにつれて「ハイタイド」の成功率は着実に伸びていき、私はそのことを心から喜んだ。Magic Onlineでは勝率55%を超える週も見受けられるようになり、メタゲームの上位に近づいていった。

 他の多くのデッキと違い、「ハイタイド」は週ごとに大きく異なる数値を示した。成功しているにも関わらずメタゲーム上の占有率は小さく、またマッチアップに大きく左右されがちだったのだ(これについては後段で詳しく話そう)。「ハイタイド」は高いプレイスキルと豊富な経験が求められるデッキだから、勢力を伸ばすのに時間がかかったという可能性は大いにあり得るだろう。私たちの知る限り、複雑で遅いコンボ・デッキはオンラインでも現実世界でも使用率は低い傾向にあり、歴史を振り返っても環境に大挙して現れるということはない。

 「ハイタイド」デッキの成功だけで、私たちがカードを禁止する基準を満たしたとは言いがたい。そう、その成功には他の要素が絡んでおり、それこそが《満潮》を禁止へと追い込んだのだ。

ゲームプレイとトーナメント管理上の問題

 《満潮》は間違いなく長いターンを発生させるカードの1つだ――長年のレガシー・プレイヤーならみんな知っていることだし、驚くことでもないだろう。しかしながらパウパーの「ハイタイド」は、みんなが過去に見たバージョンよりも輪をかけてひどい可能性すらあるかもしれない。

 たとえ熟練の使い手でも、《満潮》のコンボを完遂するまで10分や15分かかることが珍しくない。大量のストームを重ねた《精神の願望》のような、対戦相手に潮時を感じさせる大きな一撃がある他のフォーマットと異なり、パウパーにおける《満潮》コンボは信じられないほど漸増的で、大きな転換点を迎えるときがやって来ない。《洞察力の花弁》を1枚採用し《精神のくぐつ》とともに無限マナを生み出すバージョンもあるのだが、それは使用に耐えないという人も多いだろう。このデッキでは、効果のないカードを1枚引くだけで勝敗が分かれるのだ。

 私の個人的な体験の話になるけれど、私自身「ハイタイド」デッキをたくさんプレイした。前回の「Paupergeddon」のサイドイベントでも、11回戦に相当する数をプレイした。その中で私は、コンボ始動から10分経ってもまだ勝利を確信できなかった。私の方が折れてしまいそうだと考えているところで対戦相手が投了したゲームがいくつもあった。あまり個別のゲームや状況のせいにしたくないと私は考えているけれど、「ハイタイド」を相手にする場合は常に対戦相手に最後までプレイさせるのが最適解となり、その事実がさらにゲームの時間を引き伸ばす要因になっている。

 「ハイタイド」側のプレイヤーは、次のターンに敗北すると見ればコンボ始動に踏み切ることだろう。つまりどのゲームでもコンボのターンが発生することになる。そうなれば「ハイタイド」側のプレイヤーがゲーム時間の大部分を占有し、その間対戦相手は座り続けるという悲惨なゲーム体験に帰結するだろう。

 完遂までに多くの時間がかかるデッキは、もちろん「ハイタイド」だけではない(「ファミリア」などもゲームを長引かせ、時間を独占する可能性があるデッキだ)。しかしそれらの場合は少なくとももう1ターンマジックをプレイできる。「ハイタイド」の場合は何分も時計を見続けたすえにターンが返ってこないということがよくあるのだ。さらに、「ファミリア」のようなデッキのコンボはクリーチャーに頼ったものであるため、手札で完結するコンボよりはパウパーのカードプールでも対処しやすいだろう。

 上記の要素が加わることにより、トーナメント管理上の問題が発生する。1つのターンがかなり長引くため、「ハイタイド」側のプレイヤーがラウンド時間が終了する頃にコンボを始動した場合、たとえ適切なペースでプレイしてもイベント全体の時間が後ろにずれる可能性がある。これはその場の全員にとって悪いイベント体験になるだろう。そういう事態になる状況は限定的ではあるものの、たとえ数回でも発生すれば大きな遅れにつながるのだ。

 デッキのある程度の成功と1ターンに時間がかかること、いずれも単独では禁止に至る理由にはならない(例えば同じく時間がかかる「サイクリングストーム」に対しては私たちは行動を起こしていない)けれど、強力なデッキに上記の要素が組み合わさることで深刻な問題が生まれ、その問題は拡大していくのだ。

フォーマットへの影響

 「ハイタイド」は最大勢力のデッキになっていないものの、だからといってその影響がフォーマット全体に広がっていないことにはならない。

 「ハイタイド」は非常に極端な相性差を持つデッキだ。多くのマッチアップにおいて、対戦相手がスタックや手札への干渉手段を持っていなければゲーム1はほぼ自動的に勝利する。そのため対戦相手としては、4ターン目までに決着をつけなければサイドボーディング後のゲームに頼ることになるだろう。ただしメインデッキから「ハイタイド」と相性の良いデッキになると話が変わり、おそらく「ハイタイド」側が非常に厳しい戦いを強いられることになる。

 例を挙げるなら、「ハイタイド」にとって相性最悪の「青単フェアリー」に対しての勝率は、ある週では20%を切っていた。なんて極端なんだろう! そしてその一方で、第1ゲームに干渉手段を持たないマッチアップに対しては逆の結果になる。席についた時点で、第1ゲームをどちらが取るかがわかってしまうのだ(凄まじいドローの差がなければね)。

 その結果、2つのことが起こった。

 1つは、「ハイタイド」に対して第1ゲームに有利を取れるデッキや勝てるチャンスがあるデッキ(「フェアリー」や「テラー」、赤単)がメタゲーム上の勢力を大きく伸ばしたこと。それ自体は悪いことじゃないだろう。あるデッキを倒せるから立ち位置が上がるというのは、よくあることだ。しかしながら、このケースではすでに人気を集めているデッキのさらなる人口増加に貢献することになり、「テラー」デッキが最上位デッキとしての地位を固めることになったのだ。

 もう1つ、こちらの方が問題なのだが、「ハイタイド」デッキの存在によりどちらが先に勝つかのレースが過熱していることだ。パウパーの魅力はゲームが段階的に展開していくところだというプレイヤーも多いだろう。しかし「ハイタイド」を倒そうとすると、コンボを妨害するか、あるいは「ハイタイド」側も干渉手段を持たないためこちらが先に走り切るかを試みることになる。そして後者を選ぶデッキが増加した結果、フォーマット全体のゲーム時間が圧縮され、「ハイタイド」のコンボ始動ターンを迎える前に死に物狂いで急ぐプレイヤーたちのゲーム上のやり取りは減っていった。

 別の言い方をするなら、「ハイタイド」がミッドレンジを餌にするため、その下にいるミッドレンジに弱いデッキが良いカウンターになっているとも言えるかもしれない。しかしながら、私たちはここ数年にわたり、パウパーの速度を落としてやり取りを楽しめるようにするための取り組みに力を入れてきた。パウパーの場合、プレイヤーが互いにカードを一方的に投げ合って、どちらが勝つかを見るだけのゲームになればなるほど、その体験は悪いものになる。もちろん高速デッキは存在するべきではないという意味じゃないけれど、素早く勝とうとすることをフォーマット全体で推奨し、やり取りがほとんどなくなるのには反対だ。

 サイドボーディング後には「ハイタイド」を妨害する手段を持てるだろう。しかし今度はそのサイドカードを何枚引くかの勝負になってしまう――しかも「ハイタイド」は、世間が考える以上に粘り強さもあるのだ。さらに言うなら、第1ゲームは負け確定で、サイドから大量の対策カードを投入し逆転を狙うほど極端な相性差があるデッキ相手だと、サイドボードでなんとかするという戦い方も決してベストな選択肢ではない。私たちは以前、同じく極端な展開を生み出すとして赤単から(《僧院の速槍》など)禁止を出したけれど、「ハイタイド」がテーブル上で見せるものに比べれば極端さは少ない。

 使用率は決して高くないものの、フォーマットに与える影響は規格外なのだ。

満潮》の禁止とこれから

 最後に私たちは、自身に問いかけた。「『ハイタイド』はフォーマットをより良くしたり楽しいものにしただろうか?」と。上記の理由を総合すると、答えは「No」だ。

 「ハイタイド」は極めて高い勝率を記録し、干渉が難しく、フォーマットへの影響も大きく、プレイ体験にもトーナメント体験にも悪影響を与える。

 それらの要素を総合的に判断し、私たちは《満潮》を禁止する決断を下した。

 今回の実験には満足していることは強調しておきたい。結果的には再び禁止するということになったものの、パウパーで一度も使用できていなかったカードを試験的に使用できるようにし、コミュニティのみんなに実験してもらい、議論を重ね、その結果を知るというプロセスは前向きなものだった。現時点では今後の試験的禁止解除の計画はないけれど、将来的にまた何かを試すことになっても私は驚かないだろう。

 「ハイタイド」のような複雑なデッキが入った環境の変遷やフォーマットへの影響を見定めるには多くの時間が必要だったことは事実だが、禁止告知がここまで伸びたことを心からお詫びしたい。夏が過ぎてもこのデッキの戦いぶりを観察する必要があったことや、通常の禁止制限告知が2週間前倒しになったことを受けてタイミングを揃えようとしたことなど、理由は挙げられるけれど、それでも当初の日程がずれて、プレイヤーのみんなは新たに計画を立て直そうとし、「ハイタイド」を学ぶことに時間を使いカードを手に入れるべきかどうかを見極めようとしていた。こんなことが当たり前になってはいけないし、今後の試験的禁止解除では起こらないように努めるよ。

 さて、それでは他のカードについてはどうだろうか?

 今回私たちは、他にも変更するべきところはないかとフォーマット全体を見渡した。禁止措置を行う可能性があるデッキとして私たちの注目を集めたのは、「テラー」デッキだ。このデッキは今年を通して安定した強さを見せ続けており、使用率/勝率ともに6か月以上にわたって頂点に君臨している。

 しかしながら、前段でも述べた通り「ハイタイド」がフォーマット全体に規格外の影響を与え、それはプレイヤーのデッキ選択にまで波及した。「テラー」デッキに優位を取れるデッキの多くは「ハイタイド」のようなデッキのスピードについていけず、それまで「テラー」対策に使われていたサイドボードの枠が「ハイタイド」への対策に向かっていたのだ。《満潮》を取り除いた今こそ、このフォーマットがこれからどのように進化していくのかを観察したい。

 もう1つ私たちが注目したのは、新たな「スパイ・コンボ」デッキの登場だ。最近の「Magic Online Challenge」から一例を挙げるが、採用カードの組み合わせについてはまだ試行錯誤の段階のようだ。

karden33 - 「スパイ・コンボ」
Pauper Challenge / パウパー[MO] [ARENA]
3 《
1 《冠雪の森
1 《
-土地(5)-

3 《復讐する狩人
4 《欄干のスパイ
2 《深き闇のエルフ
2 《門を這う蔦
4 《気前のよいエント
2 《ロッテスの巨人
3 《仮面の蛮人
1 《催眠の悪鬼
4 《草茂る胸壁
3 《クウィリーオン・レインジャー
3 《サルーリの世話人
4 《サグの原生龍
3 《根の壁
3 《ほくちの壁
-クリーチャー(41)-
2 《戦慄の復活
4 《土地譲渡
4 《暴走の先導
4 《紆余曲折
-呪文(14)-
2 《フェアリーの忌み者
2 《ファング・ドラゴン
1 《鋭い痛み
3 《林間の癒し手
3 《催眠の悪鬼
2 《ナイレアの信奉者
2 《散弾の射手
-サイドボード(15)-
 

 この真新しいハイブリッド・コンボ・デッキは、《欄干のスパイ》でライブラリーの大半を切削した後に《ロッテスの巨人》を《戦慄の復活》で戦場に戻し、致命傷(あるいは少なくとも大ダメージ)を与えて素早く相手を倒す。また、壁でマナ加速をして大型の脅威を繰り出すというサブプランまで持っており、監視対象入り間違いなしだ。《欄干のスパイ》と《戦慄の復活》は、どちらも問題を起こすデッキの燃料になり得る極めて強力なカードだが、このコンボに干渉できる時間は十分にあるし、サイドボードの選択肢も明白だ。このデッキがこれからどのように発展していくのか注目するつもりだけれど、フォーマット全体への影響という点では、これまで「ハイタイド」が及ぼしてきたものに比べればずっと適切に見える。

 全体的に見れば、パウパーは健全だ。それもまた、今回は変更を控える理由の1つだ。「ハイタイド」のようなデッキが与える影響は、問題を抱える他のデッキと比べて表層的なものではない。今回の変更でパウパーがもう少しやり取りを楽しめる方向へ戻り、「ハイタイド」をターゲットにしていたデッキの使用率が少し下がれば幸いだ。まずはとにかく、見守るしかないだろう。

 Magic Onlineでは、今週に「Pauper Championships」が開幕する。このイベントと今月イタリアで開催される「Paupergeddon」の様子は、ぜひともしっかり観察したいところだ。そしていつものように、私たちは今回の件についてみんなが書いた意見をすべて読むつもりだよ。

 この記事を読んでくれたみんな、いつもパウパーをプレイしてくれているみんな、そして試験的禁止解除という実験に参加してくれたみんな、本当にありがとう。やる価値のある実験だったし、たぶん将来的にまた試すことになると思う。

 パウパー・フォーマット委員会を代表して――ガヴィン・ヴァーヘイ

Alex Ullman
Alexandre Weber
Emma Partlow
Gavin Verhey
Mirco Ciavatta
Paige Smith
Ryuji Saito

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