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開発秘話

Play Design -プレイ・デザイン-

『マスターズ25th』をデザインする

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『マスターズ25th』をデザインする

Melissa DeTora / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2018年3月16日

 

 こんにちは、そして「Play Design -プレイ・デザイン-」へようこそ。私はしばらくこの記事を休止していて、そして今後は私の記事をお目にかける機会が少なくなります。基本的にはセットが発売されて、それらにプレイ・デザインが与えた影響について説明するときや、何か興味深いことを伝えたいときにだけ記事を書く予定です。とは言っても、頻繁に発信は行いますから、ただ週刊連載の形ではなくなると言うだけのことです。

 わたしは引き続きスーパーリーグやマジック公式の動画配信に参加して、グランプリの生中継にも出演します。4月13~15日のグランプリ・ハートフォードで生中継を行い、そしてもちろんウィザーズのお膝元である4月6~8日のグランプリ・シアトルにもいますので、もしそこに来ることがあれば気軽に声をかけてください。

 今回お話ししたいのは、『マスターズ25th』セット・デザイン・チームでの私の体験についてです。

 1つ目は『マスターズ25th』がデザイン過程にあったときにウィザーズで起こっていたことの背景です。「マスターズ」はブースターで発売される主要なセットとは少し異なる働きをします。これらは他のセットとは異なる時間軸で、そしてその過程の中で早い時期にデザインされます。わたしたちが『マスターズ25th』を仕上げたのは1年以上も前です。

 次に、わたしたちが『マスターズ25th』に取り組んでいたときには、プレイ・デザイン・チームはまだありませんでした。当時はまだマジックのセットの作り方をデザイン/デベロップの形から展望/セット/プレイ・デザインの形にする移行期間でした。とはいえ、アンドリュー・ブラウン/Andrew Brown、イアン・デューク/Ian Duke、アダム・プロサック/Adamu Prosakを含むプレイ・デザイン・チームのメンバー数人はウィザーズで他の仕事をしていたので、依然としてこの製品にはバランスの観点からたくさんの人の目が向けられていました。

 『マスターズ25th』のチームはかなり小規模――実際のところ3人だけでした。ヨニ・スコルニク/Yoni Skolnikがリードで、残りのメンバーはイーサン・フライシャー/Ethan Fleiscerとわたしでした。このセットはわたしにとって大きな意味があったので、このチームに選ばれて舞い上がっていました。わたしは、マジックをその始まりからではないとはいえ90年代からプレイしていて、「古き良き」マジックを経験していて、これらの懐かしいカードとデッキのアーキタイプをこのセットに組み込むことは、わたしにとって大事なことでした。

ドラフトの展望

 初期のマジックではリミテッドは広くプレイされておらず、開発部がデザイン上意識していないフォーマットでした(開発部が初めてリミテッドのプレイテストを行ったのは『ミラージュ』でした』)。

 1990年代後半、シールドデッキはプロツアー予選レベルでプレイされていて、わたしが聞いたところによると、それは開拓時代の西部地方のようでした。シナジーはとても少なく、クリーチャーは弱く、カードは基本的にレアリティに関係なく振れ幅の大きなものでした。除去はありましたが、そのリミテッド・フォーマットの最も良いクリーチャーに対処できるように慎重に選ばれたものではありませ、、でした。バランスは全く考慮されていませんでした。《大喰らいのワーム》と《恐怖》がシールド・プールにあったなら、基本的に言うことなしです!

 構築フォーマットののマジックも同様でした。もちろんインターネットは今ほどではなく、ネットデッキングなんてありませんでした。デッキに関しての情報は、口コミ、「Scrye」や「Inquest」などの雑誌からの情報、ウィザーズのサイトのプロツアーのテキスト・カバレージ、thedojo.comから入手していました。

 キッチンテーブル・プレイヤーの場合、そのデッキは持っているカードのうち同じ色の束というのが普通でした。デッキは大抵60枚を優に越え、4枚積みはありませんでした。私はマジックを初めたころに《ヴィーアシヴァン・ドラゴン》を『ビジョンズ』のパックから出したことを覚えています。わたしはそれまでに金色のカードを見たことがなく、これを今まで持っていた中で一番素晴らしいものだと考えました。私はすぐに持っている赤と緑のカードを全部詰め込んだ赤緑デッキを作りました。大体80枚ぐらいのデッキでした。確か全然ゲームに勝てませんでしたが、わたしは今でも《ヴィーアシヴァン・ドラゴン》を場に出したときの感覚を覚えています。

 この手のデッキ構築は新しいプレイヤーが始めるときにとてもよくあることでした。デッキ構築はマジックで最も難しい分野の1つで、新しいプレイヤーが直感的に理解するものではありません。(これはチャレンジャー・デッキの強さを決めている基準の1つです。わたしたちは新しいプレイヤーがそれらの改良のしかたを知らなくても、箱から出してすぐにフライデー・ナイト・マジックでプレイできるようにしたいと思っています。)

 多くのプレイヤーは友達か親戚からもらったカードの束か買ったブースターから出発し、その後デッキ構築にどう取り組めば良いかを実際に知りません。色のバランスやマナ・カーブ、クリーチャーの数のような物事は、初めたばかりの新しいプレイヤーが考慮しない次のレベルの戦略です。色は最も理解しやすい物事で、新しいプレイヤーにとって、緑のカードすべてと《》をデッキとしてプレイするのはよくあることでした。

 マジックがプレイヤーを引きつける物事の1つは発見です。パックを開けてプレイすることを通して、プレイヤーはカードについて学び、すごいコンボとプレイパターンを発見します。わたしたちは『マスターズ25th』ドラフトでその発見の感覚を再現したいと考えたのです。

 ここ数年、わたしたちはリミテッド・フォーマットをアーキタイプと色のペアに基いてデザインしてきました。こうすることでプレイヤーがデッキを構築する時に探すべきもの、そしてデッキ構築での明確な方向性をプレイヤーに知らせる助けになります。この手の方向性は『マスターズ25th』では示されていません。今回は明確なドラフトのアーキタイプや色のペアはなく、わたしたちはどんなタイプのデッキでも機能する強力な2枚コンボに頼ることにしました。以下はその例の一部です。

 《カブトガニ》――このカードで可能な最も強い動きはこれにタップ能力を与えることです。わたしはこのカニに《大石弓》を装備させるのが大好きですが、それはこのカードでできることのうちの1つに過ぎません。

 《雲隠れ》――マジックには(「オーナーのコントロール下で」戻ってくるものではなく)コントローラーの元に帰ってくる明滅効果は多くはありません。これと《反逆の行動》を組み合わせれば対戦相手の一番いいクリーチャーを永久に盗むことができます。また《雲隠れ》は重い変異を不意打ちでオモテにするのにも優れています。

 《ファイレクシアの食屍鬼》――大量のクリーチャーを並べる方法を見つければ《ファイレクシアの食屍鬼》は速やかに相手を倒すことができます。《分霊の確約》と《ゴンドの存在》は大量のクリーチャーを並べる2つの手段です。

 《カヴーの捕食者》――こいつを育てるために相手にライフを与える方法を見つけましょう。《激励》がわたしのお気に入りです。

 これらのシンプルなリミテッドのコンボに加えて、わたしたちにとって大事だったもう1つの事柄は、ゲームプレイを通して懐かしさを感じさせることでした。

 『マスターズ25th』の戦略やコンボの多くは、古い高レベルな構築デッキを連想させます。伝統的なリミテッドのアーキタイプは存在しませんが、わたしたちは古き良き構築フォーマットの雰囲気を作り出したいと考えました。この計画を支援するために、わたしたちはいくつかレアリティの格下げを行いました。以下は私のお気に入りの一部です。

 ポンザ――《バルデュヴィアの大軍》がスタンダードにあったとき、それは絶対的な強カードでした。当時5/5のクリーチャーは戦場から排除することがとても難しく、土地破壊と火力で援護するとさらに困難でした。

 ドロー・ゴー・コントロール――《対抗呪文》と《流砂》や《ミシュラの工廠》のような多機能な土地はあなたの望むようなゲーム展開を可能にします。ゆっくりとカードを進めていき、対戦相手をわずかな勝ち手段のうち1つ、理想的には《精神を刻む者、ジェイス》で止めを刺すことでゲームに勝利します。このようなデッキでの私のお気に入りのカード・アドバンテージ・エンジンの1つは《渦まく知識》と《戦隊の鷹》です。

 ピクルス・ロック――これは『時のらせん』スタンダードで人気のあった《ヴェズーヴァの多相の戦士》で変異誘発を駆使するデッキです。《塩水の精霊》は「ピクルス」として知られ、毎ターンこれを誘発させると対戦相手はロックされます。

みんなのためのもの

 わたしたちはウィザーズでたくさんのマジックの製品を作っていて、それらはそれぞれ異なる客層に向けられています。その中には『統率者』やチャレンジャー・デッキのようなそのフォーマットを始める人向けのものがあります。『コンスピラシー』や『バトルボンド』のような新基軸の製品は変なフォーマットや多人数戦を楽しむプレイヤーに向けられたものです。

 マジックの最も素晴らしい側面の1つはその深さであり、さまざまなプレイヤーを、さまざまな方法で満足させられることです。とは言え、『マスターズ25th』チームにとって重要だったのは、あらゆる人向けに何らかの小さなものを持たせるようにすることでした。すべてのプレイヤーがすべてのカードを好きになることは不可能ですが、あらゆるタイプのプレイヤー向けに少しでも何かがあれば、わたしとしてはこのセットは成功です。

 わたしたちの目標には以下のことが含まれていました。

  • 深くて再プレイ性があり、プレイヤーがドラフトとプレイをして発見を感じられるドラフト・フォーマットにすること。
  • さまざまなタイプのプレイヤーに向けたカードの再録。
  • 再録、アート、ゲームプレイを通じてプレイヤーに懐かしさを与えること。

 わたしは皆さんが『マスターズ25th』を楽しんでくれることを心から願っています。あなたがパックを開けるとき、カードを眺めるとき、そしてプレイするときに、わたしはあなたが初めてマジックのパックを開けたときや初めてゲームをプレイしたときと同じ気持ちになってほしいと願っています。このセットで楽しんでください、そしてマジック25周年おめでとう!

メリッサ・デトラ (@MelissaDeTora)

 

(編訳より:著者からご説明のあったとおり、本記事は今後不定期掲載となります。)

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