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開発秘話

Play Design -プレイ・デザイン-

『イクサランの相克』プレ・プレリリースでの発見

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『イクサランの相克』プレ・プレリリースでの発見

Melissa DeTora / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2018年1月12日

 

 皆さんこんにちは! 先週末、わたしは幸運なことに、ブリティッシュコロンビア州ビクトリアのLoadingReadyRun(LRR)で友人が開催した『イクサランの相克』プレ・プレリリースに参加してきました。

 プレ・プレリリースとは読んで字のごとく――実際のプレリリースの前に行われるプレリリースです。参加者は私自身と(StarCityGames.comの配信でおなじみの)クリス・ヴァンミーター/Chris VanMeter、エヴァン・アーウィン/Evan Erwinとルーベン・ブレスラー/Reuben Bressler(Magic Micsポッドキャストの司会者たち)、そしてLoadingReadyRunからキャサリン/Kathleen、グラハム/Graham、アダム/Adam、キャメロン/Cameronでした。このイベントの模様はこちらから見られますが、今回の記事はこのプレ・プレリリースのプレイヤーたちとの興味深い議論で持ち上がった、『イクサランの相克』のカードとメカニズムについてお話ししようと思います。

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LoadingReadyRunの収録スタジオ「Moonbase」に到着。
左からエヴァン・アーウィン、メリッサ・デトラ、ルーベン・ブレスラー、クリス・ヴァンミーター。

コモンの再録

 わたしは木曜の午後にLRRのスタジオに到着し、ほとんどのプレイヤーはすでにそこにいてシールドデッキの構築をしていました。わたしが受けた最初の質問は、中に入ると同時に投げかけられた、「どうして再録がいっぱいあるの?」でした。

 わたしたちは『イクサランの相克』のリミテッドのバランスを助けるために、いくつかのコモンを『イクサラン』から再録することにしました。数年前は、小型セットはドラフトでそのブロックの大型セット2パックの後にドラフトされていました(大大小)。この小型セットは十分に追加されているという感じがまったくしませんでした。

 例えば、『イニストラード』ブロックでは『闇の隆盛』はより深い部族要素を追加していました。『闇の隆盛』が1パックしかドラフトできず、ドラフトするのがすでにドラフトのアーキタイプが決まった後なので、『闇の隆盛』のテーマは成功しないことがよくありました。

 最初に小型セットをドラフトしてその後に大型セットをドラフトする(小大大)のはその問題を解決する方法の1つでしたが、プレイヤーはそれでも小型セットがそのドラフトを大型セット3つのドラフトと違う感じにするには不十分だということに気づきました。

 2つ目の小型セットがドラフトに追加された(小小大)のはそれほど前ではありませんでした。当然、この変更はそのフォーマットを大型セット3つと異なる環境にしましたが、それでもプレイヤーは大型セットのもたらした定番コモンを失っていました。

 それを解決するためにできるのは、とてもよく似たカードを小型セットで印刷するか、もしくは単純にそのドラフト・フォーマットが機能するために不可欠なコモンを再録するかのどちらかでした。我々は実験として再録を試してみることにしましたが、『イクサランの相克』は当分の間は最後の小型セットなので、わたしたちはこの実験を続けられないようです。

 不可欠なコモンを『イクサランの相克』で再録することは、全体的なセットの複雑さも減少させます。いくつかのコモンはすでによく知っているものなので、ドラフト中にプレイヤーが処理して評価するべきカードは少なくなります。リミテッドは年を経るごとにどんどん複雑になってきており、そしてこれらの再録カードはそれを少し抑制する手段の1つです。

 これをプレ・プレリリースのプレイヤーに説明した後、そして彼らが構築したシールド・デッキのプレイテストをした後、彼らはこれがとても理にかなっていると考えました。例えば、青の昇殿デッキは《財力ある船乗り》が3マナで2個のパーマネントを提供しなければ大きく機能が変わってきます。《財力ある船乗り》の数字を1つ2ついじって同型再録することもできましたが、単純に同じカードにしたほうがはプレイヤーにとって少し易しく、これはコントロール寄りの昇殿、海賊、宝物デッキが求めているカードです。加えて、これらは同じブロックにあり、同じクリーチャーがあるブロックからその次までの同じ世界にいることは理にかなっています。

昇殿する

 わたしはその日の1マッチ目の「テーブル・フレンド」でした。この役割で、私はマッチのうち1つにコメントをしてチャットに受け答えをしました。グラハムとキャサリンは第1回戦で対戦し、そしてその時が昇殿メカニズムについての質問が流れ始めた時でした。

 昇殿は『イクサランの相克』唯一の新メカニズムであり、かなりシンプルなものです。(1)昇殿を持つカードが戦場にあるか昇殿を持つインスタントかソーサリーを解決して、(2)10個以上のパーマネントをコントロールしていると昇殿します。昇殿するにはこの両方を満たさなければなりません。一度昇殿するとそれ以降そのゲームの間は昇殿したままです――パーマネントの数が10を下回っても都市の承認は失われません。

 10個のパーマネントをコントロールしていても昇殿カードがなくては昇殿することはできず、そのことが最も混乱を引き起こしました。キャサリンが戦場に昇殿を持つカードを何も出していないのに「キャサリンは都市の承認を得ている」というコメントが流れ続けていました――そしてチャットの皆はそれが正しいと考えていたので、そのことが視聴している皆の間にさらなる混乱を引き起こしました。

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テーブル・フレンドのメリッサと、キャサリンが来るのを待っているグラハム

 まれな状況はいくつかありますが、とても直感的なものです。これはあなたが考えているとおりに機能し、いくらか対策の余地があります。対戦相手の10個目のパーマネントがスタックにある場合、他のパーマネントを除去して昇殿させないことが可能です。しかしながら、ほとんどの昇殿カードは常在型能力を持っているので、都市の承認を阻止するのが難しいことがよくあります。土地をプレイすることに対応することはできないので、対戦相手の10個目のパーマネントが土地だった場合、昇殿を阻止することはできません。

 昇殿はシンプルですが奥の深いメカニズムです。このメカニズムには幅広いカード・タイプに使える広大なデザイン空間が存在します。これは『イクサランの相克』がこのフォーマットに深みと再プレイ性を与えるために必要としたものでした。

 『イクサラン』の複雑さは大きく下がり、結果としてほとんどのプレイヤーは全体的なカードの質とドラフト・フォーマットの質が下がったように感じました。昇殿メカニズムはシンプルでありながら劇的なデッキ構築とゲーム・プレイを可能にし、この週末が進むにつれて輝きました。

再録されたメカニズムを盛り上げる

 キャサリンとキャメロンの両名が吸血鬼の部族デッキを組み、それをプレイした際、『イクサランの相克』の部族シナジーは『イクサラン』のものよりも強力であることは明らかでした。

 わたしたちは確かに、プレイヤーが部族にこだわることに対してより良い報酬を与えようとしました。2マナの部族ロードや「先駆け」は可能な限りその部族を多くプレイするように求めてくる簡潔で強力なカードです。どちらのカードもその部族をプレイすれば莫大な見返りを与えてくれます。

 「先駆け」はリミテッドで優れています。これらはデッキを安定性のあるものにし、多くの選択肢をもたらします。わたしのプレ・プレリリースのデッキには《軍団の先駆け》が1枚入っていて、デッキがマナ・カーブに沿って動くとても有用な助けになりました。これを3ターン目にプレイして4マナ域を見つけてきたり、4ターン目に2マナ域を2枚プレイしたりできるように2マナ域を見つけてきたりできました。爆弾レアさえも探してくることができました(実は持っていませんでしたけれど)。

 「先駆け」の天井はとても高いものです。爆弾レアをドラフトした場合、先駆けの価値は大きく上がります。わたしたちが週末の終わりにしたドラフトでは、クリス・ヴァンミーターは《黄昏の預言者》と《軍団の先駆け》を持っていて、他のプレイヤー(グラハムだと思います)は《帝国の先駆け》と《万猛竜》を持っていました。

 これはアンコモンなので常に出てくるわけではありません――しかし出てきた場合、リミテッドのゲームはより安定性のあるものになります。教示者能力を別にしても、対応するクリーチャー・タイプをプレイするときに恩恵を与えてくれて、先駆けはその部族に大きく依存している場合、リミテッドのデッキにさらなる力を与えてくれます。

 わたしたちが『イクサランの相克』で強化したいと思ったもう1つのメカニズムが激昂です。『イクサラン』では強力な激昂を持ったカードはアンコモンとレアにありましたが、コモンにはありませんでした。これにより激昂に特化したデッキをドラフトすることを望ましくないものになっていました。『イクサランの相克』にはコモンに《鬱蒼たるアルマサウルス》、アンコモンに《針歯の猛竜》という素晴らしい激昂の報酬があります。カード・アドバンテージをもたらすコモンがあることで、《苛立ち》や《ティロナーリの冠》のようなカードがとても魅力なものになります。

まとめ

 プレ・プレリリースは関わった全ての人にとって楽しいイベントでした。わたしはそこで唯一事前にこのセットを知っていたプレイヤーで、皆の反応を見てどのカードが人々を興奮させ、満足させ、怒らせ、混乱させるかを知るのは素晴らしいことでした。その週末、わたしは「楽しむ」ために行ったのですが、わたしがプレイ・デザイン・チームに持ち帰ってマジックをより良いものにする助けとなる価値ある収穫も得られました。お読みいただき、ありがとうございました!

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 ではまた来週。

メリッサ・デトラ (@MelissaDeTora)

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