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開発秘話

Play Design -プレイ・デザイン-

プレイ・デザインとデジタル・マジック

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プレイ・デザインとデジタル・マジック

Melissa DeTora / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2017年12月15日

 

 まだ「MTG Arena」のクローズドベータにサインアップしていない、もしくはデジタルのマジックの新しいゲームがどんなものか見てみたいですか? 詳細を見るにはこちらをクリック!(リンク先は英語)

 「Play Design -プレイ・デザイン-」へようこそ。年末休み前の今年最後の記事として、そして「Magic: The Gathering Arena」のクローズドベータ稼働を祝って、今週は「MTG Arena」やMagic Onlineを含むデジタル・マジックがどのようにわたしたちのカードのデザインやデベロップに影響するかについてお話しします。

 近年、マジック開発部は「MTG Arena」とMagic Onlineの開発と密接な連携をとり、新しいコードや追加のデベロップ時間を必要になるかもしれない新しいメカニズムや、普通でないことが起こりそうなものを彼らが知ることができるようにしています。その理由は、マジックのルールがとても複雑で、カードに変更が必要だったり追加の作業時間が必要になったりするためです。しかしながら、常にそうであるとは限りません。

 昔は、開発部はデジタルとあまり連携を取っていませんでした。開発部はただセットを作って、それが完成してかららMagic Onlineの開発チームに出荷していただけでした。その時開発部は知りませんでしたが、その過程は時々Magic Onlineの開発者に悪夢を引き起こしていました。当時プレイヤーがMagic Onlineで経験していた問題の多くは、この重大な過程上の問題から発生していました。あるカードはプログラムするのがとても難しく、またあるカードは既存のカードとのバグを引き起こし、そしてそのすべてがとても厳しい締切の下で行われていました。さらに追い打ちをかけたのが『神々の軍勢』のカード、《運命の気まぐれ》でした。

 《運命の気まぐれ》はそれまでのマジックのカードにない挙動をしました――カードを3つの束に分けたのです。2つの束はたくさんやったことがあるのですが、Magic Onlineにはカードを3つの束に分けたカードはなかったのです。Magic Onlineの開発チームが通常の時期にコーディングを始めたとき、このカードは大量の追加作業を引き起こしました。面白いのは《運命の気まぐれ》はカジュアル・カード以上のものではなく、競技プレイ向けでもなければ強力なリミテッド・カードでもないということです。このカードは容易に他のものに変更することができました。

 
運命の気まぐれ》 アート:Seb McKinnon

 《運命の気まぐれ》事件の後、マジック開発部は過程のかなり早期にデジタル・チームと連携を取り始めました。彼らはカードやメカニズムのデジタルの実装を推薦する仕事をする「Magic Online開発部」として知られる人たちのチームを雇いました。アリソン・メドウィン/ Allison MedwinはわたしたちのMagic Onlineおよび「MTG Arena」との連絡係で、彼女は両方のデジタル・チームと毎日仕事をして、デザイン・チームにデジタルで問題を起こすかもしれないカードやメカニズムを報告してくれます。

プレイ・デザインの情報提供

 開発部は「MTG Arena」チームが開発を始めた時から連携してきました。わたしたちはカードをデザインするときにデジタルを意識した、すべきこととすべきでないことのリストとシステムを開発しました。プレイ・デザイン・チームはMagic Onlineで最も人気のあるフォーマットであるリミテッドとスタンダード向けにカードをデベロップしているので、わたしたちはカードに変更を加えたときにそれがデジタルにどのように影響するかを常に考えなければいけません。以下はわたしたちが考慮しているいくつかの事柄です。

クリック回数

 あなたがMagic Onlineのプレイヤーで、『アイコニックマスターズ』をドラフトしたことがあるなら、最近「待機」カードをプレイしていたかもしれません。そのカードをプレイするためにしなければならないことを意識したことはないと思います。マナを出して、そのカードをクリックして、毎ターン誘発をスタックに乗せるためにクリックして、その誘発を解決するためにクリックして、最後のカウンターを取り除くためにクリックして、ようやくそのカードが唱えるためのクリックができます。《明日への探索》をプレイするためにこれだけかかるのです。各カードが多数のクリックを必要とすることはゲームのプレイ時間を増加させ、混乱を引き起こし、全体的にそのゲームをやっていて楽しくないものにします。

 今度は紙で「待機」カードをプレイするときに必要な動作を考えてみましょう。土地をタップして、「待機」カードをテーブルの上に置き、サイコロかコインをそのカードの上に置き、毎ターンサイコロもしくはコインを動かし、その呪文を解決します。わたしたちは物理的動作を減らして紙でこのカードをプレイするための時間を減らしていて、そしてこれはわたしたちがデジタル・プラットフォームでこれをプレイするかを考えるときに当然だと思うものです。プレイ・デザイン・チームの一員として、ファイルに目を通すときやフューチャー・フューチャー・リーグでプレイテストをするときに、わたしたちはクリック回数を減らしてゲームプレイをデジタルでもっと楽しめるものにする方法を考えています。

不必要に対象を取ることを減らす

 わたしたちがクリック数を減らすために探していることはたくさんあります。ひとつは、可能な場合、対象を取る回数を減らすことです。《血の芸術家》は紙よりもデジタルのほうがプレイしにくいカードの1枚です。《血の芸術家》の誘発型能力はどのプレイヤーも対象に取ることができます。紙の場合は、この誘発は簡単に解決できます。クリーチャーが死亡したとき、対戦相手に1点のライフを減らすよう伝えます。この能力で自分自身を対象に取りたいとはいうことはないでしょうが、しかしMagic Onlineではどうあってもプレイヤーをクリックすることを求められます。

 《ズーラポートの殺し屋》と比べてみましょう。この2枚カードは機能的に差がありますが、1対1の紙のマジックでは《ズーラポートの殺し屋》の能力を《血の芸術家》と同じ方法で解決します――クリーチャーが死亡したときに対戦相手に1点失うよう伝えます。しかしながら、1対1のデジタル・マジックでは、《ズーラポートの殺し屋》の誘発を解決するために必要なクリック数は《血の芸術家》よりもずっと少ないのです。

誘発型能力を減らす

 以前の記事で《アダントの先兵》のテンプレートについてお話ししましたが、このテンプレートはデジタル・マジックを簡単にして、もっと楽しめるようにするための不必要な誘発を減らすところから始まりました。

 もし《アダントの先兵》が「《アダントの先兵》が攻撃したとき、ターン終了時まで、これは+2/+0の修整を受ける」だった場合、デジタル・マジックでは両方のプレイヤーが必ずクリックしないといけないため、いったん止まってしまいます。ほとんどの場合、プレイヤーはこの誘発に対応しようとはしないので、このカードは毎ターンゲームプレイを遅くします。もし対戦相手が《今わの際》やこのクリーチャーがボーナスを得てしまうと唱えられない呪文で対応したい場合、戦闘開始ステップなどの他の機会が存在します。

 将来的には、これのようなテンプレートを持ったクリーチャーがもっと見かけられるようになるでしょう。注意してほしいのは、《戦装飾のシャーマン》のように、その能力が対象を取る場合は能力を常在型にできないということです。

 もう1つの例が『アモンケット』の《スカラベの巣》です。以下の2つの文章について考えてみてください。

あなたがクリーチャー1体の上に-1/-1カウンターを1個以上置くたび、その数に等しい数の黒の1/1の昆虫・クリーチャー・トークンを生成する。

あなたがクリーチャー1体の上に-1/-1カウンターを1個置くたび、黒の1/1の昆虫・クリーチャー・トークンを1体生成する。

 これらのテンプレートはどちらも機能的には全く同じですが、2番目のものはより多くの小分けにされた誘発型能力を発生させます。紙ではこれらの小分けにされた誘発型能力はプレイヤーの目に見えませんが、デジタルではそれぞれの誘発をスタックに置いて、その全てを個別に解決していかなければなりません。この明白な理由によって、わたしたちはデジタルを意識して前者の書式でこのカードを印刷しました。

 マジックの誘発を減らすもう1つの方法が「してもよい」から「する」に変更することです。能力が選択できるものの場合、解決するための時間がかかります。YesかNoを選ばなければいけないだけでなく、その能力を使いたくない場合でもそれを使わないことを選ぶためだけにスタックに乗せて対象を取らなければならない、という紙のマジックにはない問題があります。「してもよい」誘発型能力はデジタルでプレイするときに多くのプレイヤーに混乱を引き起こします――「何で自分を対象に取れるの? 使いたくもないのに!」

 わたしたちは上記のことや他にも多くのことを考えていますが、プレイ・デザイン・チームにとってカードをデジタルでよりよく機能させることよりもゲームプレイのほうが大事です。わたしたちは選択肢を考えていますが、常にそれを実行するとは限りません。《戦装飾のシャーマン》を例にしてみましょう。

あなたのターンの戦闘の開始時に、クリーチャー1体を対象とする。あなたは「ターン終了時まで、それは+2/+0の修整を受ける」を選んでもよい。

 もしこのカードをまた作るなら、デジタル・チームは「選んでもよい」を取り除くことを勧めてくるかもしれません。しかし、それはこのカードのゲームプレイを機能的に違うものにしてしまいます。対象を強制にした《戦装飾のシャーマン》を何もない盤面に唱えると、それは自動的に戦闘中に4/2になります。そうすると《復仇》や《大物潰し》のような呪文で除去される余地が出てきます。それらのカードが同じリミテッド環境にある場合、あなたがこれを空の盤面で唱えて対戦相手がマナをアンタップ状態にしている場合、戦闘ステップをパスして第2メイン・フェイズに唱えるのが正解ということになります。

 
戦装飾のシャーマン》 アート:Warren Mahy

 《戦装飾のシャーマン》が「選んでもよい」ではない場合、このようなことが起こりえます。

「《戦装飾のシャーマン》2.0を唱えて、終わりです」

「ターン終了時に、それを《大物潰し》」

「でもこれ2/2ですよ」

「でも戦闘中に誘発するよ」

「でも......」

 このカードを「強制」誘発にすることで、プレイヤーはこの呪文を空の盤面に唱える場合、具体的に第2メイン・フェイズに唱えていることの宣言が推奨されるようになります。これは直感的だったり自然なゲームの流れとはいえません。わたしたちは常にデジタル・マジックを改善する方法を探していますが、ゲームプレイを損なうような変更は行いません。

 「MTG Arena」はクローズドベータに入ったばかりであり、この記事の読者の皆さんはサインアップを勧められています。わたしたちはこれを可能な限り多くの目に見てもらいたいと思っていて、そしてあらゆる種類の意見を求めています。もしまだクローズドベータに参加していないなら、まだ遅くはありません。詳しい情報はこのリンク先にあります。わたしは年末休みにプレイして、そこで皆さんに会うのを楽しみにしています!(編訳注:各リンク先は英語)

 お読みいただきありがとうございました。良いお年を!

 それでは2018年に。

メリッサ・デトラ(@MelissaDeTora

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