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中村修平の「ドラフトの定石!」
中村修平の「ドラフトの定石!」 第2回
中村修平の「ドラフトの定石!」 第2回
ドラフトを始めるその前に
前回はドラフトに進む前の話としてどういうデッキの組み方があるか、という内容でした。ここからは実際にドラフト中へと話を進めていくのですが、ここでこの記事の目的を振り返ってみましょう。
この記事の目的は、何気なく行われているドラフトの「定石」、当たり前を説明・検証していくことによって、何が本当に必要で、何が本当は要らないものなのかを考える。「なんとなく」を潰していくことで、それに付いている無駄を削ぎ落とし、理論を洗練させ、ドラフトの精度を上げることです。これから実際のドラフト中のお話に入りますが、ぜひ「なんとなく」を再確認し、潰していってください。
と、1パック目に入る前にまだ話さねばならないものが残っていました。まずはそちらから進めていくことにしましょう。
- 第1回
- ドラフト前
- イントロダクション
- 定石
- デッキの組み方 前篇
- 第2回
- ドラフト中 前半
- 取るカードの優先順位
- なぜ2色なのか
- 3つの視点
- ドラフト前半
- 第3回
- ドラフト中 後半
- 第4回
- ドラフト後
- 第1回
- ドラフト前
- イントロダクション
- 定石
- デッキの組み方 前篇
- 第2回
- ドラフト中 前半
- 取るカードの優先順位
- なぜ2色なのか
- 3つの視点
- ドラフト前半
- 第3回
- ドラフト中 後半
- 第4回
- ドラフト後
取るカードの優先順位
ドラフトではどういうひな形を目指して進んでいくかは既に解説しました。
基本的にはクリーチャーがいっぱいで呪文はちょっとで良い。そしてどういう形であれ基本はマナカーブというものを意識すればよい。
ではどういうカードに優先順位を付けて取っていけばそういうデッキを構築できるのか、2マナ2/2より2マナ3/3。強いカードは強いというのは当たり前ではありますがそれ以外に指針となるものはないか、それを端的に表すのがこの定石です。
除去>クリーチャー>それ以外
ドラフト経験者の方は馴染み深い言葉だと思います。
「破壊する」と書いてあるカードがあったらそれを取れ、とはドラフト初心者なら誰しもが聞く言葉だと思いますし、事実その通りです。
ですが、私が言った目指すべきデッキの性質とは別のことを言っているように見えますね。クリーチャーがたくさん必要なのになぜ除去から優先して取るのか? それは除去カードがクリーチャーに対して代わりとなることができる「代替性」もある一方、クリーチャーは除去の代わりにならないからです。
《カロニアの大牙獣》に対しては《稲妻の一撃》で対処は可能です。2マナの利用に対して2マナで処理できている。この時の両者の関係は同等ですね。
ですが《カロニアの大牙獣》vs.対戦相手がコントロールするシステムクリーチャーではどうでしょうか。あるいは相手が同じ3/3でも飛行持ちであったならば? 哀れなことに《カロニアの大牙獣》は直接的にはどうすることもできません。何かの間違いでブロックしてくれることを期待して攻撃に向かうくらいしかやることがないのです。
《稲妻の一撃》でしたらどうでしょうか? もちろん《カロニアの大牙獣》に対処できるだけでなく、3/3飛行クリーチャーにも、システムクリーチャーだってタフネスが3以下なら対処できます。
もちろん3点ダメージも万能ではありません。対象となるクリーチャーがタフネス3を超えていて殺せない可能性は常にあります。
ですがそれでも《カロニアの大牙獣》よりはずっとやれることが多い。これが「代替性」です。
この「代替性」ゆえに除去はクリーチャーより優先され、クリーチャーはゲームに勝つために不可欠なのでその他の呪文に優先されるという図式になります。
そしてこの考え方は同じ除去間、同じクリーチャー間での評価基準にもなります。
同コストなら効果が強い方、例えば「2マナのインスタント」同士なら、「3点ダメージ」より「対象のクリーチャーを破壊する」の方が強いですし、同じ「3点ダメージ」という効果でも、「2マナ」と「1マナ」であれば1マナの方が優れているという評価になります。
先ほどのクリーチャーについても、同じコストならばただの3/3よりも飛行持ちが強い。先ほどちょっと出てきたシステムクリーチャー、戦闘以外で戦場に干渉できる能力を持ったクリーチャーなら更に良いのです。
コスト対効果で優れている方が強い。
これは定石以前のマジックにおける根本原理なのです。
ですが、いかなる定石も逆転することがあります。どのような定石であろうとも、こうすれば勝つという選択の前にはただの熊同然。具体的に言うと、ゲームに勝てる爆弾カードであるならそれを差し置いて除去を取る意味も喪失し「1枚の除去でゲームに勝つことはできないが、そのカードでならゲームに勝つことができる。」という風に覆されるのです。「1枚でゲームに勝てる」の分かりやすい例としては、「プレインズウォーカー」や「回避能力(飛行など)を持ったサイズの大きなクリーチャー」などがあげられます。いわゆる「爆弾カード」です。
ただしその呪文を唱えるために必要なコストにも「勝てる」は関係しているので注意が必要です。
強いカードというのは大抵コストが高いという枕詞が付きます。しかし、デッキ構成はマナカーブ理論から逃れることはできません。その10マナのカードを撃てば確実に勝てるかもしれませんが撃てなければ意味がないのです。意味のないカードはその他以下という評価に沈まなくてはなりません。
目安としては5マナまでならばコスト増に考える必要はありませんが、6マナ以降からはコスト増による唱えにくさを考えなければいけない領域、そして8マナがだいたいデッキに入る限界点といったところでしょうね。
まとめると、大まかな優先順位は以下のようになります。
爆弾>除去>クリーチャー>その他
なぜ2色なのか
ドラフトでは、デッキを2色で組むのが基本とされています。が、なぜ2色なのでしょう?
マジックには5つの色がありますし、3色以上でドラフトを進めても構わないように思えます。また逆に単色を組んではいけないという道理もなさそうに思えますね。
これは一面ではそのとおりです。2色+何枚かだけ追加の1色を入れるという戦略は非常に一般的ですし、環境という要因によってもこの2色で組むという定石は無視されることも度々あります。多色ブロックとされているものでは3色以上の多色が基本だったり、稀に単色こそが最強の色の組み合わせ(?)ということすらありました。
それでも2色を組むのが理想的と言われるのは、複数の視点から2色の方が具合が良いという理由からです。この回と次回の全体を使ってその「なぜ」の部分を少しずつ解説していきます。
3つの視点
さて、過程については色々ありますが、ドラフト中についての理論・定石のほとんどは要するに、
空いている色を見つけろ
という言葉に集約されます。
アーキタイプドラフトのようなドラフト過程を放棄した取り方ならばともかく、ドラフトで強いデッキを作るためには少しでも強いカードをたくさん取ることが必須で、しかもそのカードは自分が使える色でなくてはいけません。それにはドラフトをしている8人の中で競争率の低い、不人気な色を探すのが近道です。
これからする話も、これを発見する方法についてを論じたものが大半となります。その中で私としてはこんな言い方を用いたいと思います。
どこで手番を使って勝負にいけるかがドラフトの鍵である
ドラフトの手数は14枚×3パック=42手。
第1回でお話しした通り、デッキには23枚のカードが必要です。単純計算で考えると42−23=19手まではデッキに使わなくても良い、手番を捨てても良いということができます。もちろんこの19手の中にはそもそもデッキに入るカードが残っていないパック内での最終盤も含まれているので、実際にはもっと少ないことになります。いかに有効にこの「無駄にできる手数」を使用して勝負にいけるか、それが腕の見せ所です。
実際に「勝負にいける」機会はドラフト全体で2〜3回と言ったところでしょうか。その分かれ道でどのような選択をするのか、この記事ではその分岐点に際して、以下の3つの視点からの考え方を示した後にどうあるべきかについて語っていきます。
自分のみ視点で、場面場面でのみ、渡されたパックごとでどうするか。 | 自分視点 |
8人の中としての視点で、まわりはどう考えるか、あるいはあなたをどう考えているか、理想的にはそれが卓にいる全員分。 | 8人視点 |
デッキとしての視点で、デッキが何を求めているか。 | デッキ視点 |
上に挙げる3つの視点はそれぞれが独立したものです。ドラフトというゲームではただそのパックから一番強いものを取る、自分視点でのみの利益の追求は必ずしも最も良い選択にはなりません。ドラフトの流れを読み解くためには、自分から見て他の7人がどういう風に考えているかという視点での考え方も必要ですし、完成させるべきデッキから見て何が必要かということから判断を迫られることもあります。時にはそれぞれの視点が相反することさえあるのです。
自分ではベストを尽くしたのに相手のデッキの方が強かった。これはもしかすれば、自分という視点でのみ物事を考えすぎて、対戦相手のデッキを必要以上に強くしてしまったのかもしれません。逆もまたしかり、対戦相手のデッキを弱くすることに成功しても、自分も大幅に弱くなってしまっては意味がありません。そのカードを使える予定だった人は自分を除く7人の中のただ1人なのですから。だからこそ、それぞれの視点が妥協できる結論には一定の理があるということにもなりやすいのです。
今はとりあえず、それぞれの視点が「なぜ2色なのか」という問いについてどういう答えを持っているかに留めておきましょう。
自分視点 | 自分のデッキに必要なカードを確保するため 目の前にやってくるカードという意味で単色ではそもそも全体の5分の1しか使えず、カードが足りない。 →だから、2色以上が望ましい |
8人視点 | 隣のプレイヤーたちとの棲み分けのため 全てのプレイヤーが3色以上をやってしまうとお互いに使用色が被り合い、カードを取り合う結果としてデッキが弱くなってしまう。 →だから、2色以下が望ましい |
デッキ視点 | 自分のデッキを構築する際の土地色事故回避のため 「土地の枚数が足りているのに必要な色マナが足りなくて呪文が唱えられない」という状況を回避するためには適度に土地カードの種類を統一する必要がある。 →だから、2色近辺が望ましい |
(編注・お詫び:掲載当初の内容では、上記の表で文意を損なう誤植がありました。お詫びして訂正いたします。)
初手
さて、ドラフトの始まりです。
あなたは強力な神話レアを引いて、どれを取るべきか悩む要素がまるでない素晴らしいパックでした。1周目でのノルマである8枚のデッキに入るカードも確保し、この後も右から左からの大接待を受けてめでたしめでたし。
......などという幸せなケースはここでは語りません。
ドラフトとは確率のゲームでもあります。
たまたま運よく自分のパックで強力なカードを引き当て、たまたま運良く8人の中で都合の良い席に座った結果、特に悩むこともなく思い通りのデッキを組めるということもあります。ですがそうでない時の方が圧倒的に多く、その時にどうするかというのがドラフトのテクニックです。
では逆にこんなケースはどうでしょうか?
Case: 強いカードが何もなかった。
残念。まったくもって残念です。ですがそれがドラフトです。諦めて弱いカードの中から自分がまだマシだと思っているカードを取りましょう。
しかし「○○よりマシ」というのはある意味でドラフトの本質を突いています。初手というのは所詮は42回のドラフト機会のうちのたった1回、しかも何の追加情報もないままに取らされるたった1回という考え方もあります。この考え方に従うと3つの視点での結論はかなり明快に一致します。
自分視点 | 一番強いカードを取ればよい。 |
8人視点 | 考えても意味がないので一番強いカードを取ればよい。 |
デッキ視点 | そもそもまだ何もデッキが決まっていないので、一番強いカードを取ればよい。 |
これは、先ほど「語らない」と言った「強力な神話レアを引き当てた時」の結論とほぼ同じです。ですがこれが正解。そもそも8人視点やデッキ視点はまだ白紙の状態なのです。第1回で説明した通り、ドラフトというゲームは弱いカードの中からいかに強いデッキを作っていくかというゲームです。
自分がこれこそが一番強い、あるいは得意なデッキタイプにとってこれが一番必要と思ったカードを取ればよく、これから先の展開で使えなくなってしまってもそれはそれで切り捨ててしまえば良いのです。後からこちらの色にしておけば良かった、こちらにして悪かったというのは、何か明確な根拠と確信、ついでに説明ができなければただの結果論でしかありません。
もちろん別に一番強いカードを取らなくても良いのです。ですが、取らないという行動には理由と一貫性がなくてはいけません。「理由があって強いカードからは取らない。」という主張したいのであれば、それが少なくともドラフトの全行程において、矛盾なく立ち回れる行動原理を確立させて初めて、比較できる位置に立つことができます。
残念ながらプロと呼ばれているプレイヤーの間ですらもそれが完璧にできているとは言い難いのが実情です。例えばこのようなケース。
Case: 強いカードが3枚あって、その内の1番目と2番目に強いカード2枚が同じ色だ。
初手にまつわる話として最もよく出てくるものでしょう。そして良く言われている定石としては、「下被りを回避するために、敢えて3番目に強いカードを取るべきだ」でしょうか。それをこの主張に沿った形で、先ほどの視点ごとに説明を試みるとこのようになります。
自分視点 | もちろん一番強いカードを取るべき。 |
8人視点 | 強さ通りに取ってしまうとこのパックを次に取るプレイヤーが同じ色を取ってしまうので一番強いカードを取るのは良い選択ではない。上流下流が逆転する2パック目以降のことを考えると下と被る可能性が高い選択をすべきではない。 |
デッキ視点 | そもそもまだ何もデッキが決まっていないので、もちろん一番強いカードを取るべき。 |
自分に正直な「自分視点」では当然の反発。まだデッキについて何も決まっていない「デッキ視点」でも反発されています。残る「8人視点」が妥協を迫っている形ですね。ですが、私としてはこの論拠について以下のような反論があります。
8人視点 | 強さ通りに取ってしまうとこのパックを次に取るプレイヤーが同じ色を取ってしまうので一番強いカードを取るのは良い選択ではない。上流下流が逆転する2パック目以降のことを考えると下と被る可能性が高い選択をすべきではない。 →同じ色の強いカードを2枚流すとして、その理屈では誰もその色のカードを取ることができなくなってしまう。しかし、現実ではそんなことはありえない。 また、全員が2色以上の色をドラフトしているならば隣あったプレイヤー同士全く色が被らないというシチュエーションがほとんどないのだから、最も損害が少ない下被りは理想的だとすら言える。 |
このように、説得力に欠けるように思います。この定石はそもそも妥協点を取っているという一貫性も保てなくなっているのでおかしい、というのが私の考えです。
流したカードを覚える
さて、初手だけではなくその後についても含めてドラフトにおける選択肢に理由づけするために必須の要素があります。
流したカードについてはなるべく記憶しておく
この情報があることによって初めて、今後の「取る色を選ぶ」「強いカードをあえて取らない」といった選択肢に理由付けができるようになります。もちろん簡単なことではありません。一朝一夕でできることではないでしょう。ですが、流したカードの色やその枚数などは、これから非常に大きな意味を持っていきます。すぐにはできなくとも、必ず意識していくようにしてください。
それではプロでも戸惑う2手目以降について話を進めていきましょう。
2手目〜8手目
2手目から8手目でやらなくてはならないのは自分が使用する色を決めることです。色主張こそがやっている色を堂々と宣言できないドラフト中における言葉のようなものでこの部分が前半戦の鍵となります。その際の基準になるのはまずはカードの強さ、そして連続するドラフトの中で徐々にそれ以外の部分、追加されていく要素が判断に影響を与えることになります。
前半における3つの視点で立ち回りが断然楽かつ優勢なのは自分視点です。これはただ流れているカードから強いカードを取っていれば良いだけですからね。
より難しいのはデッキからという視点。こちらは状況によって刻一刻と変化し、ただ強いカードを取れば良いというものではありません。
初手はこの色だったけど、2手目はパック内で一番強い違う色のカードを取るのか、それとも初手と同じ色のカードを取るのか? さらにはもしかしたら3手目ではまた違う色のカードが最も強いかもしれません。あまり手を広げすぎると23枚という必要枠に届かなくなる可能性もありますし、それとは別にマナ域で足りていない枠が発生するかもしれません。
さらに、プロプレイヤーですら正確に読み取るのが難しいといえるのが8人視点。
これは全てを俯瞰できる解説者的な視点と言えば良いでしょうか、各プレイヤーの思惑を理解した上でそれに沿って最良の動きをすべしという、言葉にすると曲芸じみた立ち回りを要求するものです。ですが、ドラフトに慣れていくに従って案外できてしまっているもので、解りやすく言うと、先ほどの「座っているだけで強いデッキができた。」を自分から意図して目指していくということです。
流れてきたパックの文脈から意味を見つけ出す作業をすることで、
「この色が空いている、どうも上流にこの色をやっているプレイヤーはいないだろう」
「この色が流れてこない、どうも上流に抑えられているので色を変えるべきだ」
といったことを読み取るのが8人視点の肝となります。
上流のプレイヤーが気づけなかったさらに上流のメッセージさえも読み取り優位な色に気づき、下流のプレイヤーには伝える意図を考え、あわよくば操作していく。これはまさにドラフトの醍醐味といえます。
ただし、注意してもらいたいのは、これは会話ではなくてあくまで「一方通行」、読み取る作業であることです。
こちらもメッセージを送信できますし、受け取ったパックからメッセージを読み解くことができますが、それが果たして送るべき相手に伝わっているのかは別問題。こういう風に意図したのになぜそれが解らなかったか、というのは全くのナンセンス。プレイヤーは各々ドラフトを自分が勝つためにやっているのですし、また立ち位置も違うのです。あなたにとっては自明の理でも、あなたが上流のプレイヤーの意思を100%理解できないのと同じように意味が通じなかったり、そもそも無視することが最善手であったりします。これが暴走してしまうと先ほどの意味のまるで通ってない初手の選り好みとなってしまうのです。
ドラフトにおいて序盤戦となる初手から8手目では、まさにこの8人視点を上手く自分の中で立ち上げられるかが鍵となります。他の2つの視点が自分で完全に管理できる要素であるのとは対照的に、8人視点では他のドラフト参加者、特に自分と近接する参加者の情報を送られてくるカードと送るカードから読み取らなければなりません。
ほとんど理詰めで論拠は導けるとはいえとても地味な反復練習を必要とし、さらに性質の悪いことに、プレイヤーの立場では正反対の結論が並立したまま判断がつかないといったことすらあるのです。言い換えると、自分視点、デッキ視点と違い8人視点だけは平気で嘘をついてくるのです。
それでは実際の視点の組み立て方について、序盤に発生する典型的なパターンを使って説明していくことにしましょう。
Case: 上流から流れてくるカードの中で特定の色が明らかに多い
なぜその色のカードが溢れているか、その理由について考える必要があります。考えられるのは概ねこの3択。
- 上流のプレイヤーたちにとってその色の人気がない。
- 参入しているプレイヤーは適正数いるのだが、単純にパックの偏りでその色のカードが多い。
- 参入しているプレイヤーは非常に多いが、それ以上にカードが溢れている。
これをどのように判断するかは、基本的にはパックの経過を見るしかありません。単純に人気がないということであれば続くパックでもその色のカードが溢れ続けることでしょうし、適正数かそれを上回るプレイヤーが参入しているのであればその色のカードはすぐに流れてこなくなるでしょう。
この「来るかもしれない不人気色」の確保をしやすくするための方策の一つに、「手を絞る」という選択があります。自分視点とデッキ視点では最序盤では最も強いカードを取るのが最適解なのに対して、8人視点寄りの妥協を選択するという道です。
これには初手から取る色を絞っていた場合、色の切り替えをするのに容易にできるというメリットがあります。消えるであろうと考える手順よりかなり遅くまで残っている強いカードを見た時に、とりあえずそれを抑えておいて、以降もその色のカードが流れてくるようならば取れば良く、それが駄目であれば最序盤がある程度まとまりを取ってカードをドラフトしているのでもう一度、2色目を探しにいくチャンスを得ることができるのです。
「手を絞る」という行為を3つの視点から見ると、以下のようになります。
自分視点 | 色の統一を優先して2〜3番手のカードを取る。短期的にはマイナス。 |
8人視点 | 不人気色への参入によって最終的なデッキの強さの底上げを図れる。 |
デッキ視点 | 短期的には不利益だが、より確信をもって2色目を決めることができるので必要枚数を揃えやすい。 |
あるいは逆に、この流れを積極的に拾いにいくためにあえて色を絞らずカードの強さを優先して取っていく、「手を広げる」という方策もあります。「手を絞る」ことが序盤のリスクを回避するドラフトだとすれば、こちらは先手を取って勝負に行く、ハイリスク・ハイリターンを目指すというドラフトですね。
序盤の数巡。最悪序盤の全てを犠牲にして無理やり空いている色を取りに行くという方法で、自分視点でのカード選択に8人視点とデッキ視点を巻き込んでしまうやり方です。
この「手を広げる」という行為を3つの視点から見ると、以下のようになります。
自分視点 | 最善解である一番強いカードを取り続けられる。 |
8人視点 | 流れてくるカードの中から最も強いカードを取り続けるということは色的に最も良い位置に座る可能性を最大化できる。 |
デッキ視点 | 成功すれば利益は最大化できるが、失敗してしまうと1パック目を完全に捨ててしまうことにもなりかねない。 |
妥協点のようにはとても見えませんね。ただしハマった時の利益はもちろん最大です。
手を絞るのと手を広げるのとでは、難易度という点で手を広げる方策の方が分岐が多く難しいですが、どちらかの方が優れているという訳ではありません。あくまでコインの表裏。次のパターンではそれぞれのメリットやデメリットでさえも逆転してしまいます。
Case: 上流から流れてくるカードの中で自分が初手に取った色が明らかに少ない
先ほどとは逆のパターンですね。これも概ね3択に絞れます。
- 上流のプレイヤーたちにとってその色の人気が高い。
- 参入しているプレイヤーは適正数なのだが、単純にパックの偏りでその色のカードが少ない
- 参入しているプレイヤーはいないが、そもそもその色のカードが出ていない。
ここで問題となるのは、先ほどとは違ってどのタイミングで手を引くかということ。その色に手を出していないのであればそもそもこれらの問題には無縁でいられるからなのですが、先ほどのパターンでは切り替えが容易で安全策に思えた「手を絞る」という選択が、その色に固執してしまう非常にリスクが高い行動となってしまうのです。
既にある色のカードをある程度取っていたのでその色を捨てることができない。初手のレアカードに引きずられて酷いドラフトになってしまった、というのはドラフト失敗談としてはよくある話です。これもまた見極めに数巡はかかってしまうので、どんなに上手いプレイヤーでも損失は発生させてしまいます。
自分視点 | 色の統一を優先して2〜3番手のカードを取る。 →人気色への執着によって損失を拡大させてしまう |
8人視点 | 不人気色への参入によって最終的なデッキの強さの底上げを図れる。 →不人気色へ即時に参入できなかった分の機会損失 |
デッキ視点 | 短期的には不利益だが、より確信をもって2色目を決めることができるので必要枚数を揃えやすい。 →短期的に不利益で、かつ長期的にも不利益なカードをドラフトしてしまっている |
ここまでであれば、難易度こそ上がるものの手を広げる方に進んだ方が良いように思われるかもしれません。ですが手を広げる方に進んだ場合にまだ説明していないもう1つの要素があります。
それは、自分が流したパックを見ることになる下流のプレイヤーです。
情報の送信
もしドラフトが14人でやるもので、かつ左回ししかない一方通行であったら、下流のことは考えないで良かったでしょう。ですが現実のドラフトには1周してくる9手目以降というのがありますし、2パック目には右回しの周回だってあります。これによって何が発生するかというと、自分の左側、下流にあたるプレイヤーについて考えなければならないということなのです。
この下流にあたる左のプレイヤーたち。決してあなたの思い通りになる存在だと思ってはいけません。あなたがあなたの事情で上流からのパックがどういうものか推測しているように、彼らは彼らなりの範囲でしか得られない情報と自分の事情によってドラフトを進めていきます。特定の色のカードを流し続けたからといって、その色をやってくれているだろうというのは期待でしかないですし、ある色をドラフト中にシャットアウトしたからといって、彼らの初手がその色の強力なレアであれば諦めることはないかもしれません。むしろあなたが目論んでいるのと同じように、返しの2パック目を期待されてやり続けられるということすらあります。
しかし、思い通りにならないからといって対話を試みないというのは上手いやり方とは言えません。再度になってしまいますが、「せっかく○○していたのに予想外の行動を取られた。」というのがナンセンスであるという話であって、対話ができないという話ではないのです。あなたが特定の色を強く流してやれば、少なくともその色をあなたは現状で興味がないというメッセージを下流のプレイヤーに送信することになるのは可能ですし、それを判断材料として下流に座っているプレイヤーはこれからのドラフトをしていくという推測が成り立ちます。
手を絞るドラフトが手広く色を取るドラフトより優位なのはこの部分です。手を絞ることによって自然、自分が選択していない色の強いカードが流れます。そしてそれを受け取ったプレイヤーも、あなたがしているのと同じように上流の情報を受け取ろうとするかもしれません。もっとその方向に進んでいけば冒頭で言ったように下流のプレイヤーを完全に誘導できる可能性さえあります。
そこまで期待するのはやりすぎだと思いますが、少なくとも下流のプレイヤーの動向を読むための道筋をつけることはできますし、自分の立場から想像してみて下流のプレイヤーにとってやりやすい=協力関係を築きやすいというメリットがあるのです。
8人視点 手を絞るドラフト | パック内で色が合っていない強いカードを敢えて流すことによってその色をやっていないのだと主張することができる。 またドラフトにおいて近接するプレイヤー同士が色を争ってお互いのデッキを弱くするのは、相対的にそれに関係していない他のプレイヤーよりもデッキが弱くなりやすいが、手を絞ることにより、これを回避しやすい。 |
8人視点 手を広げるドラフト | 自分中心で強さ順に色を関係なく取るドラフトを展開する結果として、下流のプレイヤーに空いている色を知らせることが難しい。 また下流のプレイヤーが何色をやっているかという予測が立てづらいので、2パック目でのカード供給には期待が持てない。 |
色を被せるのは悪か
さて、そこで問題です。
あなたは手を絞る方向でドラフトをやろうとしています。3手目にかなり強めだけど今まで取っていた色と違うカードが来てしまい、あなたは自分の方針からこれを見送ることにしました。すると4手目にも先ほど流したカードと同じ自分がやっていない色の強力カードが流れてきたではありませんか!
さて、どうするのが良いのでしょうか?
そしてさらに、もしこれを見送った先にもう1回同じ選択肢が出てきたときには?
ドラフト前半戦でよくある、そして常に身悶えてしまう場面です。これに対して「こういう時は取って良い、取ってはいけない」というのを断言することは私にはできません。
ただ、こういった時に「流れてきたカードを取ると下流のプレイヤーと色が被ってしまう。色を被せるのは悪いことだ。」として一括りにしてしまうのは少し視野が狭いと思います。
あなたのドラフトでの目的は何でしょうか? 隣に座ったプレイヤーと仲良くすることでしょうか? 違いますね。ドラフトでの目的、それは3回のマッチに勝つためのデッキを組み上げることです。
ここで新たな色の強力カードを取らないということは、「序盤にカードを絞るという不利益を背負ってまでした行動が概ね無駄になる」という不利益に加えて、「他の色への参入のタイミングが遅くなればなるほど、下流のプレイヤーと色を巡って対決しなくてはならない」という可能性が増大していくリスクも存在します。
さらには上流にあたるプレイヤーも、あなたと同じように色を被せてくる可能性があるということも忘れてはいけません。
色を被せるリスクと、色を被せないリスク。それらを見比べ、「色が被っても自分がその色に参入すべきだ。」という結論になるのであれば、それは適切な選択と言えるでしょう。もちろんそうなれば自分の下流のプレイヤーに対しては察してくれと言葉にならない言葉で伝えるしかありませんし、同じようなことを上流のプレイヤーがした場合にもそう簡単には読み取れません。
簡単に読み取れないのは間違いありません。ですが、「しょうがない」と切り捨てていくわけにもいきません。それではただの運ゲーになってしまいます。せめて、あなたの選択した色は卓内で人気なのか?そうではないのか?自分の立ち位置を知る方法はないのでしょうか?
ここで出てくるのが、「色の限界点」という概念です。
色の限界点
マジックには色が5つしかありません。
まれにマルチカラーで10個のギルドであったり、5つの断片であったり、実は混成マナのおかげで5色とは少し違った5色が存在していたりといったことがありますが、基本的には5色しかない色の中でどうやって少しでも優位な席に座れるかがドラフト中での大テーマとなります。
さてこの5色という数字が問題です。
ドラフトの参加者は8人。単色だろうが、2色だろうが、3色以上であろうが、どうやっても競争者が少ない色に恵まれた人と、そうでない競争者が多い人が恵まれない人が出てくることになります。
ではこの色的に恵まれた人になればゴールなのか? それもまたイコールとは言えません。ドラフトにおいて、5つの色が全く同じ強さということはほとんどないからです。強い色ならば、例えば4人のプレイヤーがその色をドラフトしていても強いデッキになる。弱い色ならば、その色をドラフトするのが2人以下でないとデッキが弱くなってしまう。そういったことが発生します。これが、色そのものが持っている「限界点」です。
これはもちろんドラフトで使用するセット、つまり環境によって違いますが、一般的にはコモンに除去カードが多めに取られている黒と赤は多めといったことが多いですね。
人数にすると4人まで参入しても許される色というのはその環境の最強色である可能性が高いです。これ以上の人数になると、必ずどこかで同じ色が隣り合うという計算になりますからね。また特定の色が多くの参加者を許容できるということは必然的に他の色のどれかが独占できる可能性があるということです。全員2色でドラフトしていた場合、必要な色の合計値は16。例えば黒と赤がそれぞれ4人ずつ参入できるとすれば残りの席はわずか8、そこに3色を埋め合わせてやると3、3、2といったあたりが妥当でしょうか。
この計算だと強い色の限界点が4、弱い色では2と、競争率に2倍の差がついてもおかしくないということになります。しかし、実際に色の強さに2倍も開きがあるのでしょうか?これは流石に考えづらいでしょう。限界点が低い、いわゆる「弱い色」でも戦えるのはこの「限界点」と「色の強さ」の関係によるものです。
もちろんこれは基礎分野ではなく、発展分野。環境毎にその配分が変わってしまうので、常にドラフトを楽しんでいる上級者用の考え方です。
通常、「自分の選んだ色の立ち位置」の最終的な答え合わせは2パック目で、となります。ですが、この「色の限界点」という考え方を利用することによって、1パック目にもその中間発表くらいのものは知ることができます。
それは、あなたが開けたパックが1周して返ってくる9手目です。
9手目
果たして自分がやっている色は8人にとって人気なのか? そうでないのか?
それを見分けるのが9手目にやることです。
ドラフト中の各パックのノルマは、デッキに入るカードを8枚集めることです。そうすれば8×3=24枚でデッキに必要なカードを集めることができます。理想としては各パックの最初から順番に8枚のカードをそのままデッキに投入できることであり、9手目というのは最高に上手く行っているドラフトでは必要がない手番であるとも言えます。
しかし、ほとんどの場合はそうではありません。むしろ、この9手目こそが最も重要な手番となることのほうが多いのです。
どうして9手目が重要なのでしょうか? それは、この手番で見るパックが元々はあなたの初手、自分が開いたパックだから。つまり「一周して何が取られたのか?」を知ることができるからです。
この9手目を迎える準備として私がよくやるのは、初手から自分の取るカードを除外した上で、さらにそこから消えるであろう7枚を推測すること。この7枚がどのような色の配分なのか? 強さの順位は? それらを確認し、覚えておきます。
実際に9手目では、予測通りの結果ではなくて微妙にずれている結果の方がありがたいですね。
なぜ予測とずれてしまったのか? 自分のカード基準が間違っていないのであれば、カードの強さとは別の要素でカードを選択したプレイヤーがいるということになります。例えば本来なら取られるであろう強さのカードが残っており、もっと弱い他の色のカードが取られていたとしたら? そしてそれが10手目以降にも続くとしたならば......。
初手から消えたカードとこれまでの流れを総合し、自分が選んだ色の立ち位置を知る。これが、9手目にやることであり、最も重要な手番となりえる理由です。
そしてこれもまた、8人視点で2色ドラフトが支持される理由です。「自分が選んだ色の立ち位置を知る」という行為を2色ではなく3色でやろうとするとどうでしょう? 3色とも立ち位置を検討しようとすると情報量が多すぎるため、対応が追いつきません。
自分がやりたい色とドラフト卓の自分が座る席近辺で空いている色の2つ。これだけで充分なのです。
ここまでのまとめ
- ドラフトをするにあたって
- どういうデッキを組むかイメージ作りが必要。
- デッキは土地17枚、クリーチャー16枚、その他呪文が7枚が基本
- それにマナカーブを意識してデッキを組む
- →早い、ビートダウン型
- →遅い、コントロール型
- →別軸、コンボ型
- ドラフト中に考えること
- カードの選択基準は代替性をメインに考える
- 爆弾>除去>クリーチャー>その他
- ドラフトのデッキ構築は2色が基本
- ドラフト中は3つの視点で考える必要がある
- 自分視点
- 8人視点
- デッキ視点
- 初手だけを考えるならただ一番強いカードか一番使いたいカードを取ればこと足りる
- ドラフトには手を狭めると広げるという2通りの考え方がある
- 9手目は追加の卓内情報を得られるチャンス
- ドラフトをするにあたって
- どういうデッキを組むかイメージ作りが必要。
- デッキは土地17枚、クリーチャー16枚、その他呪文が7枚が基本
- それにマナカーブを意識してデッキを組む
- →早い、ビートダウン型
- →遅い、コントロール型
- →別軸、コンボ型
- ドラフト中に考えること
- カードの選択基準は代替性をメインに考える
- 爆弾>除去>クリーチャー>その他
- ドラフトのデッキ構築は2色が基本
- ドラフト中は3つの視点で考える必要がある
- 自分視点
- 8人視点
- デッキ視点
- 初手だけを考えるならただ一番強いカードか一番使いたいカードを取ればこと足りる
- ドラフトには手を狭めると広げるという2通りの考え方がある
- 9手目は追加の卓内情報を得られるチャンス
第2回では、ドラフトの前半、1パック目の9手目までのお話をしました。次回の第3回では、それ以降からドラフトが終了するまでのお話をしていきます。
それでは次回、またお会いしましょう。
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