READING

開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『ローウィン』をプレイする その1

Mark Rosewater
authorpic_markrosewater.jpg

2025年12月8日

 

 冬休みが終わると、『ローウィンの昏明』のプレビューが始まる。だから年が明ける前に、1年の最後の2週間を使って、『ローウィン』ブロックがどのようにして生まれたのかを振り返って語ろうと思ったのである。自分はマジック歴史家として、過去を振り返り、現代の文脈とともに昔の物語を語ることが大好きである。この2回構成の記事は、まさにそれを行うためのものなのである。

始まりは『コールドスナップ』

 この物語は、実は我々が『ローウィン』の開発に取り掛かる2年前から始まっている。当時、『マジック』の発売スケジュールは次のようになっていた(なお、ここで言う四季はすべて北半球基準である)。秋に、その年の最新ブロックを開始する大型セットが発売される。冬には、そのブロックの2番目のセットが発売され、これは常に小型セットであった。続いて春には、そのブロックの3番目のセットが発売され、これもまた常に小型セットであった。隔年の夏には、再録のみからなる大型セットとして基本セットが発売されていたのである。

 つまり『マジック』の発売スケジュールは、その年によってメインのセットが3セットの年と4セットの年の間を行ったり来たりしていたのである。デュエルデッキや『From the Vault』のような別製品は存在していたが、いわゆるサプリメント・セットはこの頃はまだ珍しかった。ビジネスとしては、年間の収益をおおむね均したいところであり、3セットの年と4セットの年を行き来する状態は、ビジネス面を担当する『マジック』ブランド・チームにとって常に頭痛の種であった。

 当時の開発部担当副社長であったビル・ローズ/Bill Roseは、どのようなセットを作るべきかについて、しょっちゅうブランド・チームと話し合っていた。我々は2006年に発売される製品に取り組んでいたところだったので、この会話が行われたのはおそらく2004年頃であったと推測している。

 

 私はちょうど主席デザイナーになったばかりであった。2005~2006年のブロックは『ラヴニカ:ギルドの都』ブロックである。我々は2006年に『ギルドパクト』『ディセンション』『時のらせん』の3セットを出す計画を立てていた。2005年に基本セットがあったため、次の基本セットは2007年まで予定されていなかったのである。その6ヶ月ほど前、ビルは2006年に4つ目のセットを入れるかどうかをブランド・チームに相談しており、その時点では必要ないという結論になっていた。ところが2004年8月になって、ビルが自分のところに来てこう言ったのである。「ブランド・チームが考えを変えた。4つ目のセットが欲しいそうだ」

 その時点で我々はすでに『時のらせん』ブロックの仕事にどっぷり浸かっていた。ビルが6ヶ月前に確認していたのは、本来ならそのタイミングで4つ目のセットの開発を始めるはずだったからである。そこで我々は大慌てで新たなセットのデザインに取りかかった。『ラヴニカ:ギルドの都』ブロックに4つ目のセットを足し、10のギルドすべてのためのカードを詰め込む案も検討したが、我々が構築したブロック構造とはうまく噛み合わないと判断した。その代わりに、小型の独立セットを作ることに決めたのである。

 そのセットこそが、お察しの通り『コールドスナップ』である。古いテレビ番組の「失われたエピソード」に着想を得て、我々は『アイスエイジ』ブロックの失われた第3セットというフィクションの物語をでっちあげた。『アイスエイジ』は1994年の夏に発売された大型の独立セットである。セット同士のつながりを強めるため、開発部は次のセットも同じデザインチーム――スカフ・エイリアス/Skaff Elias、ジム・リン/Jim Lin、デイブ・ペティ/Dave Petty、クリス・ペイジ/Chris Pageという、東海岸プレイテスターズとして知られる面々――に担当させ、そのセットを『アイスエイジ』の続編として扱うことにした(もっとも、デザイン・チーム自身はその意図でデザインしてはいなかったが)。その次の大型セット『ミラージュ』から、現在のような「ブロック」という概念が本格的に始まったのである。

 こうして『アイスエイジ』は、一応ブロックのような存在ではあったものの、奇妙なことに大型セットと小型セットの2つしかない形になっていた。そこに「失われた」マジックのセットを差し込むのは、実にうってつけに思えたのである。我々は、このセットを古い書類キャビネットの中から発見して手直ししたのだ、という、いささかおどけた作り話を仕立てた。『コールドスナップ』のデザイン期間は1ヶ月と非常に圧縮されていたが、開発期間は通常どおりであった。その結果『コールドスナップ』はセットとしてはいささか物足りない出来で、周囲から浮いてしまい、あまりふさわしいセットには感じられなかった。この話で重要なのは『コールドスナップ』のデザインが終わったあとで、私はビルのところへ行き、こう言ったことだ。「次に1年の中で4つ目のセットが必要になったときには、先に私に言ってくれ。ブロックの構造の中にあらかじめ組み込んでおくから」

 それからおよそ1年後、我々が『ローウィン』ブロックについて初期の話し合いをしていた頃、ビルが自分のところにやって来て、こう言ったのである。「よし、このブロックには4つのセットが必要だ。君がどう料理するのか楽しみにしているよ」

2組×2組

 私は大型セット1セットと小型セット3セットを同じ世界にただ並べるだけではうまくいかないと気づき、発想の枠を外れて考え始めた。いろいろなアイデアをブレインストーミングしたのだが、私がとりわけ気に入ったのは、「小さなミニブロックを2ブロック作る」という案であった。それぞれのミニブロックは、大型セット1セットと小型セット1セットから構成される。この話の詳しいバージョンについては、私の「Two Plus Two」記事を読んでもらいたい(リンク先は英語)。

 

 私はクリエイティブ・チームのリードであったブレイディ・ドマーモス/Brady Dommermuthと話し合い、世界が急激な変化を経験する、というアイデアを思いついた。我々は二元性というコンセプトで遊ぶのが気に入ったので、まずは最も分かりやすいところ、光と闇から始めることにした。最初のセットでは世界が陽気で優しい姿をしており、それが次のセットでは暗く意地悪な世界へと変わってしまったらどうだろうか? 我々は「影の世界」を2番手に置くことにした。当時、マジックの基本的な感性はややダーク寄りであり、明るい世界から暗い世界への移行の方が、社内的に説得しやすいと分かっていたからである。

 当時はどのブロックにも核となるメカニズム上のフックがあり、ローウィンは「タイプ的」ブロックにする予定が組まれていた。『オンスロート』ブロックが我々の最初のタイプ的ブロックだったが、これは上手くいったので、そろそろ再度使用してもよい頃合いだと判断したのである。私は2つのミニブロックそれぞれに独自の個性を持たせたいと考えており、それぞれが異なるメカニズム的テーマを持ちながらも、互いに上手く噛み合うようにしたかった。

 タイプ的というテーマは、ここに上手くハマった。最初のミニブロックは、メカニズム的にクリーチャー・タイプを参照することを扱う。2番目のミニブロックも同じクリーチャー・タイプが登場するが、それらのタイプをメカニズム的に参照するカードは持たない、という形にするのだ。そうすれば『ローウィン』が出たときにタイプ的デッキを組み、『シャドウムーア』が出たときにそこから新しいカードを追加していくことができる。我々に必要だったのは、マジックの基本的な構成要素を使った、もうひとつのテーマだった。

 

 最終的に我々は解決策を見つけた。『ラヴニカ:ギルドの都』のデザインの初期段階で、私は多色を別のやり方で表現できないかと考え、混成マナを思いついた。従来の多色カードは、赤と緑のように2色の「組み合わせ」であったが、混成マナはその重なり合う領域、赤「または」緑を扱うものであった。私は混成マナのプレイ感がとても気に入り、2番目のミニブロックにそれを入れることにした。

 私が『ラヴニカ:ギルドの都』のファイルをデベロップメントに引き渡したとき、彼らはファイルから混成カードを抜いてしまった。このセットにはすでに多くの要素が詰め込まれており、それを整理しようとしていたからである。私は混成マナにすごくワクワクしていたので、次のセット『時のらせん』でこれを導入する方法を探した。このセットのフレイバー的には、「時間がひどく乱れてしまったせいでマナまでおかしくなっている」というものだった。やがて『ラヴニカ:ギルドの都』のデベロップメント・チームが、混成マナをファイルに戻したいと決めたので、私は『時のらせん』から混成マナを削除した。そして『ラヴニカ:ギルドの都』が発売されると、混成マナはセットの中で最も高く評価されたメカニズムとなったのである。

 我々はしばしば、メカニズムを「派手さ」と「機能性」でグループ分けする。「派手さ」とは、そのメカニズムがどれだけ人々の注意を引くかということである。人々がセットについて語るとき、最も話題や議論を生みやすいのは多くの場合、この派手なメカニズムである。一方で「機能性」とは、そのメカニズムがどれだけセットのプレイ感を支えているかということである。機能的なメカニズムは、あまり目立たないことも多いが、セットをきちんと機能させるうえで不可欠な存在である。中には、派手さと機能性の両方を備えたメカニズムもある。コツは、最初の登場では派手に見せ、その後の再登場では機能的な役割を担わせることにある。

 混成マナは、その好例である。混成カードを初めて見たとき、これは強く印象に残るだろう。これまで見たことのない新しいマナ・シンボルと新しい枠があるのだ。多色というコンセプトを、これまでとは違うやり方で見せている。「~と~」ではなく「~または~」の論理を使っている。『ラヴニカ:ギルドの都』は、混成マナを派手なメカニズムとして用いていた。大量に入っているわけではなく、各ギルドに1つずつの垂直サイクルとしてあるだけであり、主に何か新しいものを見せるための機会として配置されていた。

 

 私は、混成マナを機能的なメカニズムとして用いることで何ができるかに、非常に強い興味を抱いていた。このことをあれこれ考えた結果として、『シャドウムーア』のテーマにたどり着いたのである。『ローウィン』はマジックのカードに本来備わっているもの――クリーチャー・タイプ――を参照することを扱っていた。『シャドウムーア』は、マジックのもうひとつの基本要素である「色」について、同じようなことをするセットにできるのではないだろうか。混成マナについて興味深い点のひとつは、それを唱えるのにどちらか一方の色さえあればよいにもかかわらず、そのカードはあらゆる領域において両方の色を持つ、という点である。これはつまり、あなたが山だけで構成された単色赤デッキを使っていても、「黒のカード」を持っていることを参照できる、ということである。

 ここまで長々と説明してきたが、要するに我々は『シャドウムーア』の核となるメカニズム・テーマを「色が重要」にする、というアイデアにワクワクしていたのである。もっとも、これらすべてが『ローウィン』のデザインに取りかかる前に完全に固まっていたわけではない。我々が分かっていたのは、ブロックの大きな構造として、大型セットと小型セットからなるミニブロックを2つ含めるということ、光と闇という二元性のアイデアを扱うこと、そして2つの舞台が同じ次元の異なる姿であるということだった。しかし、それだけ分かっていれば『ローウィン』のデザインを始めるには十分であったのである。

ローウィンの心と精神

 何年も昔、ビル・ローズが私のところにある仕事を持ってきた。マジックのブランド・チームは、当時のマジックはオンライン上での存在感が足りていないと感じていた。そこで彼らは、我々にウェブサイト向けのコンテンツを作り始めてほしいと依頼してきたのである。その仕事はビルに割り当てられ、ビルはそれを、私が開発部の中で文章とコミュニケーションのバックグラウンドを持つライターだったことから、私に回してきた。こうして、私が元祖DailyMTGサイトを立ち上げることになったのである。その立ち上げの一環として、私はサイトの編集長を探さなければならなかった。その人物こそ、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheであった。

 『ミラディン』ブロック3番目のセット『フィフス・ドーン』のデザインを私がリードしたとき、私は2つの理由からアーロンをデザイン・チームに加えた。ひとつは、記事のネタとして面白くなるだろうと思ったからである。もうひとつは、アーロン本人がきっと楽しめるだろうと感じたからである。私が知らなかったのは、彼がどれほどデザインに向いていたかということだ。アーロンはデザイン・チームのスーパースターとなり、このセットのメカニズムの大半を生み出した。あまりに優秀だったので、最終的に我々は彼を開発部に採用することにした。今では彼は私の上司なのだから、この判断がうまくいったことは言うまでもない。

 私がこの話を持ち出したのは、ローウィンがアーロンにとって初めての大型セットのデザインだったからである。彼はこれまでに数多くのチームに参加し、『ディセンション』のデザイン・リードも務めていたが、私はそろそろ開発部で最大の挑戦である、新しい次元を舞台にした大型セットのデザインも任せられると感じていた。デザイン・チームは、ミニブロック構造とタイプ的テーマという、少数の前提条件だけを抱えた状態でスタートした。また私は、どのタイプ的テーマも最低2色にまたがっていなければならないと強く主張した。

 

 この最後のポイントは私にとって非常に重要であった。新しいタイプ的ブロックで何をしたいかを考える一環として、我々はまず、前のタイプ的ブロックが何をしていたかを振り返ることにした。デザインが始まる前に『オンスロート』のブースターを使ってリミテッドのプレイテストを行ったのである。我々が見つけたのは、タイプ的テーマ自体はかなり薄いものの、多くのクリーチャー・タイプに、リミテッド環境を支配してしまいがちな、非常に強力で直線的なコモンのカードが存在していた、という事実であった。そのおかげで、開封比が示す以上に「タイプ的らしさ」をセットに感じられていたのである。タイプ的なコモン・カードのパワーレベルを抑えるためには、セットへのアプローチを別の形で考え直す必要があった。

 また我々は、タイプ的テーマが単純すぎることにも気づいた。多くのクリーチャー・タイプが1色にしか登場しないため、テーマの実態は、その色が普段やっていることを強調しているだけになっていたのである。たとえばゴブリン・デッキを組めば、単に「赤らしいこと」をするだけだった。クリーチャー・タイプを2色目に広げることで、タイプ的テーマに多くのニュアンスと柔軟性を持たせることができる。さらにそれは、その色の強みをなぞるだけでなく、プレイ体験そのものをタイプ的テーマで組み上げていくことを可能にしてくれる。

 

 アーロンは、デザインとクリエイティブの認識をきちんと揃えておきたいと考え、マジックの元クリエイティブ・ディレクターであるブレイディ・ドマーモスをデザイン・チームに加えた。まず我々は、セットの中心となるクリーチャー・タイプを固めるところから始めた。『ローウィン』と『モーニングタイド』を差別化するため、私は『ローウィン』は種族のクリーチャー・タイプを、『モーニングタイド』では職業のクリーチャー・タイプを中心に据えたいと考えていた。

 デザイン・チームは、まずは各色の中心となるクリーチャー・タイプが何か考えるところから始めるべきだと決めた。最初は緑である。プレイヤーはエルフが大好きであり、我々もエルフが光と闇の両面を見せるのに適したクリーチャーだと感じていた。次は青だ。『マジック』はある時期、意図的にマーフォークをゲームから減らす方向に動いていたが、プレイヤーはそれを好んでいなかった。私は『ローウィン』でマーフォークを推すことで『オンスロート』との差別化になると主張した。結果として、チームは青の中心のクリーチャー・タイプをマーフォークにすることに同意した。

 赤については、ゴブリンが明白な選択肢であった。しかしアーロンはこれに異議を唱えた。ゴブリンは『オンスロート』におけるタイプ的テーマの顔そのものであり、もう一度ゴブリンを据えると、2つのセットがあまりに似通って感じられてしまう、とアーロンは考えたのだ。そこでブレイディが「炎の民」、つまりエレメンタルの一種としての炎族のアイデアを出した。チームはこれをクールなアイデアだと考えた。

 白は厄介であった。他の4色のような「いかにもその色」という種族が存在しなかったからである。白は大半を人間に頼っていたが、このセットではそれはしっくりこないと感じられた。また『ミラディン』でクリーチャー・タイプ「人間」が導入された際、開発部は「人間」を軸にしたタイプ的カードは作らないと約束していた。我々は後に『イニストラード』でこの約束を破ることになるのだが、『ローウィン』のチームはそこまでして人間を使う必要性を感じてはいなかった。そこでブレイディが『レジェンド』で1枚だけ登場したキスキンを提案した。キスキンは、ハーフリング風の雰囲気を持っており、チームのお気に入りとなったので、この案を採用した。

 また我々は「大型のクリーチャー」を何のタイプにするかについても話し合った。『オンスロート』ではビーストを使っていたが、今回は何でもかんでも押し込める「何でも枠」のクリーチャー・タイプを使いたくはなかった。そこで巨人が提案され、全員が気に入ったので、これもリストに加えることにした。我々がどのクリーチャー・タイプを入れるかを決めていく中で、ブレイディは常に、指針となる現実世界の神話や伝承がないかを探していた。コンセプトとして、エルフ、マーフォーク、エレメンタル、キスキン、巨人はいずれもケルト神話寄りのモチーフを持っていた。そこからさらにフェアリーとツリーフォークへとつながった。フェアリーは飛行を持つクリーチャーが必要だったことから選ばれ、ツリーフォークは大型クリーチャーとして巨人を補完する役割を持たせるために選ばれた。

 

 そうなると、黒に穴があいた。吸血鬼やゾンビは、我々が目指している雰囲気とは噛み合わなかったので、再びケルト神話を当たることにした。黒にふさわしいものはないだろうか? ボガート? ボガートは、いつもトラブルを起こしているいたずら好きの小さなクリーチャーである。我々が調べれば調べるほど、それはほとんどゴブリンそのものだと分かってきた。そこで、ゴブリンを黒の中心に据えることで、『オンスロート』とはかなり違った印象にできると判断し、ファイルに加えることにした。

 こうして我々は、8つのクリーチャー・タイプ、キスキン、マーフォーク、ゴブリン、エレメンタル、エルフ、フェアリー、巨人、ツリーフォークを得た。我々は、それぞれが少なくとも2色にまたがるようにした。キスキンは主に白で第二の色が緑。マーフォークは主に青で第二の色が白。ゴブリンは主に黒で第二の色が赤とし、『マジック』における赤のゴブリンの歴史に結びつけた。エレメンタルは主に赤だが、全色に登場させることにした。エルフは主に緑で第二の色が黒。我々は、エルフがローウィンでもっとも性格の悪いクリーチャーである、という位置づけを気に入っていた。フェアリーはトリックスターであり、飛行を持つ必要があったため、青と黒にした。巨人は赤と白。ツリーフォークは主に緑だが、白と黒にも登場させることにした。

 セットには9つ目のクリーチャー・タイプも登場することになるが、それはデザインの途中で加わることになる。ドラフトにおいては、プレイヤーが「取り合う」カードが存在することが重要である。あるカードが、たった1種類のドラフターにしか魅力的でないなら、そのプレイヤーはそのカードをドラフトするたびに毎回確保してしまう。それはドラフトの展開がワンパターンになることを意味する。我々には、複数のドラフターにとって魅力的であり、取り合いの対象となる何かが必要だった。自分はこの欠けた要素を「タイプ的接着剤」と呼んだ。タイプ的セットにおけるバラバラな構成要素をひとつにまとめ上げる「糊」となる、全プレイヤーがドラフトしたくなるものが必要なのだ。

 私の解決策は、『オンスロート』ブロックのカードで昔デザインしたアイデアを借用することだった。そのセットには、霧衣/Mistformと呼ばれる一連の青いクリーチャーが存在し、自身のクリーチャー・タイプを起動型能力で変えることができた。私はそのリーダーとなる伝説のクリーチャーをデザインしていたので、霧衣の能力を極端に押し広げたバージョンを探していた。その解決策として行き着いたのが、「常にすべてのクリーチャー・タイプである」という能力だった。そのカードは《霧衣の究極体》であり、大きな話題を呼んだ。

 

 私は《霧衣の究極体》の能力をキーワード化し、それは最終的に「多相」という名前を与えられることになった。自分がこのメカニズムをブレイディに提案したところ、彼は、ケルト神話とのつながりもあることから、「多相の戦士」に持たせるのが最も理にかなっていると言った。ただし、ストーリーをかき回しすぎないようにする必要があった(どんなクリーチャーにも変身できる存在がたくさんいると、物語上はかなりややこしい)。そこでブレイディは、彼らは姿形を変えられるものの、見ればすぐに「多相の戦士だ」と分かる見た目をしている、という設定にしようと提案した。その結果として生まれたのが、ゼリー状の姿であり、誰の目にも「これは多相の戦士だ」と分かる見た目になったのである。最終的にはごく少数の例外を除き、『ローウィン』に登場するクリーチャーは、この9つのクリーチャー・タイプのいずれかになった。

ローウィン的コンビネーション

 本日は以上となる。来週は『ローウィン』のすべてのメカニズムを解説し、『モーニングタイド』、『シャドウムーア』、『イーブンタイド』のデザインについて語る。いつもの通り、この記事や紹介した内容、または『ローウィン』ブロックに関するフィードバックを、メールやソーシャル・メディア(XTumblrInstagramBlueskyTikTok)を通じて(英語で)送ってもらえると幸いだ。

 来週はその2をお届けする。

 その日まで、あなたには『ローウィン』ブロックの何が『ローウィンの昏明』で再登場するのかを予想してみてほしい。


(Tr. Ryuki Matsushita)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索