READING

開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

30年目を迎えて その3

Mark Rosewater
authorpic_markrosewater.jpg

2025年11月17日

 

 過去2週間(その1その2)にわたり、私がウィザーズで1995年10月30日から働き始めてからの30年間で、マジックのデザインに生じた「30の大きな変化」を振り返ってきた。今回はこのシリーズの第3回目にして最終回だ。21番目の変更から始めよう。


21. 両面カード(『イニストラード』、2011年9月)

回転

 

 イニストラードの開発を始めたとき、我々は他のトップダウン・セットと同様に、デザインで表現しようとしているフレイバーについて、プレイヤーが期待するであろう要素をすべてリスト化するところから着手した。ゴシックホラーであれば、モンスターが最重要要素である。『マジック』には吸血鬼、ゾンビ、スピリットは多数存在したが、狼男はほんの数枚しかない状態であった。イニストラード以前にも2枚の狼男カードを作成したが、どちらも印象に残る出来ではなかった。ゆえに、狼男をメカニズムとしてどう表現するかが重要になると確信していた。

 私がチームに提示した条件は次である。狼男カードには「人間」と「狼男」という2つの状態を持たせ、その間を行き来できる方法を用意したいということだった。デザイン・チームの一員であるトム・ラピル/Tom Lapilleは、日本向けのTCG『デュエル・マスターズ』の開発に携わったばかりで、そこでは両面にイラストやテキストを持つ「両面カード」が実装されていた。そのテクノロジーを狼男に応用するのはどうだろうか? と提案してきた。

 トムが最初にこのアイデアを持ち込んだとき、私は正直なところ懐疑的だった。しかし私は「実際に試してから判断する」主義である。実際にプレイしてみると良い手応えがあった。数回のプレイテストで、デザイン・チーム全員が両面カードの導入に賛成するようになった。私は初期デザインでは通常やらないことだが、印刷チームに相談しに行った。『デュエル・マスターズ』では両面カードが可能でも、『マジック』は印刷規模が桁違いであるため、追加の検討が必要だった。他のゲームではできても、『マジック』の規模では成立しないことが多々あるのだ。

 結果として、完全に当初の構想どおりではないものの、両面カードは実現可能だと判明した。初期案では、片面カードをデッキに入れ、それがゲーム外の両面カードを参照する形を採用していた。しかし、その両方のカードが同じブースターに封入される保証ができなかったため、「チェックリスト・カード」を導入する方向に切り替えた。

 社内では両面カードに対する強い反対も多かった。当時、これを印刷するのは間違いだと感じていた開発部メンバーも複数人いた。しかし我々は実行し、結果として両面カードは大成功を収めた。

 両面カードには膨大なデザイン空間があることも証明された。我々はまず「変身する両面カード」から始め、その後「モードを持つ両面カード」を作るようになった。『マジック:ザ・ギャザリング | マーベル スパイダーマン』からは、変身可能なモードを持つ両面カードも登場するようになった。


22. 金色の指標(『テーロス』、2013年9月)

 

 先週、私はエリック・ラウアー/Erik Lauerが「10通りの2色ドラフト・アーキタイプ」をセットの標準構造にしたいと望んでいたことについて語った。これはデザイナー側には良い方針だった。彼は目標を示し、主席デベロッパーとして各セットがそれに従うことを保証できたからだ。しかし別の問題があった。その10通りの2色アーキタイプに同意し、受け入れなければならない存在がもう1ついたのだ――そう、プレイヤーである。我々がセットにアーキタイプを組み込むことはできても、プレイヤーがそれに気づかなければ、その潜在力を十分に発揮することはできない。

 『ラヴニカへの回帰』ブロックはアーキタイプを上手く表現していたが、それはギルド構造のおかげである。金色(多色)カードの開封比が高く、2色アーキタイプを強く打ち出す仕組みになっていた。『タルキール覇王譚』は3色セットであり、10通りのアーキタイプのうち5つが3色だった。そこでエリックは、対抗色の5つのドラフト・アーキタイプを伝えるために「アンコモンの金色カード」を採用した。『テーロス』は陣営がない状態で10通りの2色アーキタイプを持つ初のセットであり、エリックはここで独自の解決策を見出した。

 デザイン上の問題への解法には、繊細なアプローチが必要な場合もあれば、もっと単純明快で力業な解決が必要な場合もある。これは後者だった。2色のペアが何をしているのか、どう伝えるか? 答えは、その組の色のドラフト方針を明確に示すアンコモンの2色カードを10枚、サイクルとして作ることだった。それらをアンコモンにしたのは、リミテッドで適度な頻度で出現してほしかったからであり、しかしデッキの軸となるカードであるため、コモンに置くには適していないと判断したためだ。

 狙いは、プレイヤーがこれらのカードのいずれかをドラフトすると、以降のピックでもその2色に合ったカードを優先するよう誘導することにあった。『テーロス』は、エリックが『イニストラード』ブロックで始めた取り組みの自然な発展形だった。そしてこの「アンコモンの金色指標」は、現在に至るまで続いている。


23. 先行デザイン(『タルキール覇王譚』、2014年9月)

 

 2010年の秋、我々は「グレート・デザイナー・サーチ2」を開催した。イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerが1位、ショーン・メイン/Shawn Mainが2位となった。最終的に、我々は両名を開発部の6ヶ月インターンとして迎え入れ、これは彼らのフルタイム勤務へとつながった。このコンテストは主に世界構築に焦点を当てており、ファイナリストたちはそれぞれ独自の「『マジック』ブロックのアイデア」を提出した。課題もまた、その仮想ブロックの第1セットの要素作成に集中していた。コンテスト後、私はこの分野で2人と協働することに強く興味を抱いた。

 ちょうどその頃、私は次のブロック、すなわち『タルキール覇王譚』ブロックに向けた大きなアイデアを持っていた。そこで私は早い段階で彼らとチームを組み、その構造をブロックとしてどう扱うべきか検討することにした。構想としては、「第1セットと第3セットは大型セット」「第2セットは小型セット」とし、小型セットは両方の大型セットと組み合わせてドラフトするが、大型セット同士は一緒にドラフトされない、というものだった。この仕組みは気に入っていたが、ではそれに自然に適合するブロックがどんな形なのかは、当初まったく見えていなかった。

 私はこのチームを「先行デザイン・チーム」と名付け、『タルキール覇王譚』ブロックの構造がどう機能し得るのか、多くの月日をかけて模索した。このチームが生み出したのが、第1セットは現代、第2セットは過去、第3セットは改変された現在という「時間旅行」テーマである。また、後にセットで使用される複数のメカニズム(主に予示など)もこの段階で開発された。このチームが非常にうまく機能したため、私は次のブロックの『テーロス』でも同様の取り組みを行うことにした。

 先行デザインとは、セットの設計図を本格的に作り始める前に、その新セットが抱えるあらゆる課題をチームが自由に探索できる機会である。そしてその有用性は極めて高いことが証明されたため、今ではデザイン・プロセスの中核的部分となっている。


24. 規律あるサブグループ(色の協議会、2015年8月)

 

 このシリーズの第1回で述べたように、初期の『マジック』は各カード単体の興奮度を最大化することを第一にデザインされていた。だが『マジック』が成長するにつれて、開発部はゲームの構成要素を統合し、製品をまたいでも一貫性が保たれるよう整理する必要が生じた。すでにルール面については語ったが、同様に大きな調整を要した領域がカラー・パイである。カラー・パイの理念の中核となる概念は最初から存在していたものの、色はどう機能すべきか、一貫したルールをつくる作業は膨大なものだった。私はカラー・パイの守護者として、その作業の主担当となった。

 私は長い時間を費やし、各色のメカニズムの定義を整理し、カードの効果を適切な色に割り当てる作業を行った。長年にわたり、私は「カラー・パイを守る最後の砦」として、カラー・パイを逸脱するカードを印刷しないよう見張り続けた。しかしそこには2つの大きな問題があった。1つ目は、それが正式な権限ではなかったことだ。私が「これはやるべきではない」と言っても、別のデザイナーが「でも私はやりたい」と言えば、それで議論は振り出しに戻ってしまっていた。2つ目は、セット数が増えるにつれ、私は主席デザイナーとして多くの製品をリードする立場になり、責務が増大したことだ。その結果、いくつかの事柄が取りこぼされ始めた。

 そこでマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebが、カラー・パイを監視する専任グループを作るというアイデアを提案した。こうして結成されたのが「色の協議会」である。各色には担当者が割り当てられた。色の協議会の詳細な歴史については、以前書いた記事を読んでみてほしい。

 このグループが成長し、進化し、私が強い情熱を持つ領域を監督する開発部の重要機能へと発展していく様子を見ることは、本当に素晴らしい経験であった。

 色の協議会の成功は、他の多くの「分科会」誕生のきっかけとなった。それぞれがゲームの重要な要素を監督・統括する役割を持っている。現在も、統率者、ユニバースビヨンド、カジュアル・プレイ、新規ユーザー獲得などのチームが活発に活動している。これらは、重要なゲーム要素をグループで監督することの効果を明確に示している。


25. 展望デザイン、セット・デザイン、プレイ・デザイン(『ドミナリア』、2018年4月)

 

 私がウィザーズに入社した当初、セットのデザインは外部チームが担当していた。当時、開発部はその後の「開発」工程を受け持っており、セットにさらなる手を加える「第二の眼」として機能していた。私はよく、「デザイン・チームは本の著者、デベロップメント・チームはその本を最大限に良くするために大胆な加筆修正を行う編集者」という比喩を使っていた。

 『ウェザーライト』の頃から開発部がデザインも担当するようになったが、我々はデザインと開発のプロセスを分けたままにした。フェーズごとに担当が変わることで、より良いセットが生まれると考えたからである。この方式は20年以上続いた。しかし、エリック・ラウアーが得意とする「長年続くプロセスへの疑問」がここでも発動した。もっと良い方法はないのか、と。

 彼の提案の鍵は、従来の「2段階プロセス」を「3段階プロセス」に変更するというものだった。なお、移行において唯一変更されなかったのが先行デザインであり、ここではプロセスとしてカウントしていない。改革後の構造は次のようになった。デザインの初期段階は展望デザイン、デベロップメントの後期段階はプレイ・デザイン、そしてデザインの後期とデベロップメントの初期段階はセット・デザインになった。

 この新プロセスは非常に整理されており、長年のあいだ蓄積していた個々の問題点を解消するものとなった。そしてこれは、現在に至るまでセットをデザインする際の基本的な流れとなっている。


26. デザイン要素としての印刷順序(『ドミナリア、2018年4月』)

 

 カードを作る際には、その物理的な製造、つまり印刷についても考慮する必要がある。あまり知られていないが、カード(『マジック』に限らず、多くのトランプやトレーディングカード)は大きなシートにまとめて印刷される。『マジック』で最も一般的なのは11×11枚のシートである。このシートから個別のカードに裁断し、フィーダーと呼ばれる装置に投入される。各ブースターパックには、各フィーダーからそれぞれ決まった枚数のカードが挿入されて構成される。フィーダーごとに封入されるカードのレアリティが異なるのが一般的である。

 どのカードをどのシートに配置し、ブースターパックの各スロットに何を入れるか、この決定プロセスを印刷順序/Collationと呼ぶ。マジックのデザイン作業の一部は、印刷順序がセット・デザインにどのように影響するかを理解することである。シート上の組み合わせ計算を利用し、レアリティごとに何枚のカードを用意できるかを決める。また、ビジネスとしては「印刷しなければならないシートの枚数を最小化したい」ため、慎重な検討(と膨大な計算)が必要になる。

 マジックの初期の長い期間は、印刷順序は単に「作りたいカードを作るための手段」でしかなかった。もちろん、経験を積むにつれ印刷順序のやり方は改善され、セット・デザインにも影響を与えるようになったが、印刷順序自体をデザイン要素として活用してはいなかった。『ドミナリア』は伝説のクリーチャーをテーマとしていた。しかしコモンの伝説のクリーチャーは通常ほとんど作らないため、伝説テーマはしばしば開封比問題を抱えていた。アンコモンの伝説のクリーチャーを増やせば修正できるが、『ドミナリア』でセット・デザイン・リードを務めたデイヴ・ハンフリー/Dave Humpherysには、まったく異なるアイデアがあった。

 『イニストラード』では両面カードを導入した。裏面が特殊であるため、両面カードは専用のシートに印刷する必要があった。その結果、ブースターパック内に両面カード専用スロットを設けることができた。『時のらせん』のタイムシフト枠でも似たような仕組みを採用したが、イニストラードでのケースは、欠点を機能へと転換したにすぎなかった。

 デイヴは「各ブースターに必ず特定の種類のカードが1枚入っている」という構造は特別であることに気付いていた。これは強烈なメッセージ性を持ち、パック開封時の楽しさを生むのだ。そこで彼は「伝説のクリーチャー専用スロットを作れば、開封比問題は解決するのでは?」と考えた。これはセットの別要件から強制されたものではなく、まさに印刷順序を能動的に使う発想だった。我々は印刷順序を調整し、ブースターパックの内容を調整することで、各パックに「注目させたいカード」を必ず1枚配置できるようにした。結果は成功であり、以後これはテーマを強く打ち出したいときのデザイン上の有力手段、として定着することになった。


27. 包括化(『ドミナリア』、2018年4月)

 

 ドミナリアは、マジック初期の約10年間にわたり、主要な舞台として扱われていた。やがて我々は多元宇宙の各地を定期的に訪れるようになり、世界観の作り方も再検討するようになった。多くの次元を創造していく中で、それぞれに固有の雰囲気を持たせる必要があったのだ。ラヴニカは多色の巨大都市世界。イニストラードはゴシックホラー世界。ゼンディカーは冒険世界。テーロスはギリシャ神話世界。という具合である。

 それから長い年月を経て、ついにドミナリアへ帰還する時が来た。我々の目標は、他の次元と同様に「明確なテーマ」を持つ世界として提示することだった。しかしドミナリアは、あまりに多くの拡張セットが舞台として利用してきたため、統一感のあるテーマが存在しなかった。それゆえ、この次元をひとつに束ねるテーマを探し出す必要があった。熟考の末に辿り着いたのが歴史である。ドミナリアは、舞台設定としても、ゲームとして見ても膨大な歴史を抱える世界だ。そこで、我々は最終的に「過去によって形作られた現在の世界」というキャッチフレーズに落ち着いた。

 展望デザインは、「歴史」というテーマをメカニズムでどう表現するかに多くの時間を費やした。最も分かりやすいのは墓地である。過去の呪文が行き着く場所であり、クリーチャーが死んで向かう場所でもある。しかし前年のブロックと翌年のセットに墓地テーマが存在したため、採用できなかった。そのため、最終的にアーティファクト(過去の遺物)、伝説(過去の人物や場所)、物語(過去の逸話)に焦点を当てることにした。特に「物語」を表現するために、新たなエンチャントのサブタイプである英雄譚を創り出した。

 以下はこれら3つの要素に焦点を当てている、ジョイラの初期デザイン案である。

ウェザーライトの艦長、ジョイラ
{2}{U}{R}
伝説のクリーチャー ― 人間・工匠
3/3
あなたがアーティファクトや伝説の呪文や英雄譚である呪文1つを唱えるたび、カードを1枚引く。

 プレイテストでの問題は、プレイヤーが「なぜこの3つが関連しているのか」を理解できなかったことである。当時開発部のバイスプレジデントであったビル・ローズ/Bill Roseはセットを試し、このカード群を気に入らず、私に削除するよう求めてきた。私は「これこそがテーマを支える接着剤だから重要だ」と主張した。ビルは私に1か月の猶予を与え、「解決できなければ削除し、新たな接着剤を探すように」と告げた。これは非常に困難な課題だったが、私は必ず解決すると決意した。

 まず、カード名にクリエイティブ的な補足を入れる方法を試した。

〈歴史を愛する者、ジョイラ〉

 しかしこれは上手くいかなかった。次に、能力語を使う方法も試した。

歴史的 ― あなたがアーティファクトや伝説の呪文や英雄譚である呪文を1つ唱えるたび、カードを1枚引く。

 だがプレイヤーは能力語を読み飛ばしてしまった。何を試しても、プレイテスターは歴史というフレイバーを理解してくれなかった。

 残り1週間となり、私は思い切ったアプローチを試すことにした。3つの要素をルール・テキストで列挙するのではなく、まとめてキーワード化し、注釈文で説明するという手法だ。

あなたが歴史的な呪文を唱えるたび、カード1枚を引く。(歴史的とは、アーティファクトや伝説や英雄譚のことである。)

 この形でテストしたところ、全員がすぐに理解した。プレイヤーは列挙された3つではなく、それらをつなぐ概念的な言葉(歴史的)に注目してくれた。言葉がうまく機能すれば、リストを読んで「なるほど、そういうことか」と納得できたのだ。

 

 こうして誕生したのが、今では「包括」と呼ばれている仕組みである。包括とは、複数の異なる要素をひとまとめにした集合のことだ。これはカード・タイプ、特殊タイプ、サブタイプを混在させることもできる。歴史的のほか、パーティー、改善、無法者といった包括がすでに登場しており、今後も増えていく予定だ。包括化の魅力は、フレイバー豊かなだけでなく、既存の『マジック』の要素を組み合わせて新しい概念をプレイヤーに提示できることにある。


28. プロデューサー職の創設(2018年10月)

 

 長年にわたり、開発部は「サービス部門」と呼ばれる存在だった。我々の仕事はカードをデザインすることであり、『マジック』のビジネス面は別のチームが担当していた。しかし2018年の秋、この体制が変わった。『マジック』を作る複数のチームが別々に存在するのではなく、それらすべてを「プロダクト・チーム」という1つの組織にまとめることになったのである。この新しいグループは仮称として「Studio X」と呼ばれていた。名前はいずれ変わる予定だったが、気に入られてこのまま定着した。

 この体制変更の一環として、開発部にプロデューサーという新しい役職が創設された。プロデューサーは、デザイナーがマジックのセット・デザイン以外で行っていた多数の業務を肩代わりする役割を担う。例えばスケジュールの設定、会議室の予約、プレイテスト用カードの印刷、その他これまで各デザイナー個々が処理していた無数の雑務など。私が挙げたデザインの変化30項目の中で、これだけが外向けの変化ではない。つまり、プレイヤー側にはこの変化が起きたことは見えていない。しかしこの改革はデザイン・プロセスにおいて極めて重要かつ有益であり、取り上げる責務があると感じた。M.K.、ニコ、サム――あなたたちのおかげで、我々の仕事は本当にずっと楽になった。心から感謝している。


29. プロジェクト・ブースター・ファン、コレクター・ブースター、Secret Lair(『エルドレインの王権』、2019年10月)

 

 マジックはトレーディングカードゲームである。我々はゲーム部分に多くの時間を費やしているが、「トレーディングカード」であることそのものも極めて重要である。『マジック』のカードを収集することそのものを楽しむ人々がいる。では、ゲームの収集性(コレクタビリティ)をさらに向上させるにはどうすればよいのか? 『マジック』はこれまでもこの領域で細かな拡張はしてきた(フォイル・カード、フルアートの一部実装など)が、本格的かつ集中的な取り組みは行ってこなかった。

 アイデアはシンプルだった。『マジック』のカードを、視覚的にどこまでクールにできるか? 新しいカード加工は可能か? 従来とは異なるアートスタイルのアーティストを起用できるか? 検討を重ねるうちに、できることが非常に多いことがわかった。この新しい取り組みを「ブースター・ファン」と名付け、『エルドレインの王権』で本格的にスタートさせた。厳密には、『ラヴニカの献身』でコレクター・ブースターを先行テストしていたが、ブースター・ファンによってコレクター・ブースターは完全に次の段階へ押し上げられた。

2289286FC7B4E7415C332CE27E72783E60B70C6E22D54A695C0ED15BBAE47F8D.png
 

 また、この領域に深く関わる取り組みとしてSecret Lairについても触れておきたい。Secret Lairはファンへ直接販売する方式を採るため、小ロットでの印刷が可能になった。その結果、商業的に成立するために必要な、潜在的な購買層が最小限でよくなり、ニッチな層に向けた実験的なカードを作ることができるようになった。

 これら3つの取り組みは、いずれも驚くほどの成功を収めている。


30. ユニバースビヨンド(『Secret Lair x The Walking Dead』、2020年10月)

B5AC1553C58C3F2F1BAAA18F6AEFDEF45F667A9A65B90EDCD58404C1EEFEA807.png
 

 アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheは、プレイヤーたちが「自分の好きなキャラクターがマジックのカードだったらどうなるか」を語りたがることに頻繁に気づいた。私のブログには「有名キャラクターはマジックでどの色になるか?」という質問が無数に届いていた。こうした状況を受けて、アーロンはマジックに新たな製品ラインを設けることを提案した。それがユニバースビヨンドである。これは他IPのキャラクターや世界観を『マジック』のカードとして具現化するシリーズだ。

 この構想は2020年春、『イコリア:巨獣の棲処』で試験的に導入された「ゴジラシリーズ・カード」として初めて形になった。イコリアのカードにゴジラのキャラクター名を重ねて表示させたカードである。その年の秋、ついに最初の正式なユニバースビヨンド製品である『Secret Lair x The Walking Dead』が登場し、ここで初めて『マジック』の新規カードが他IPのキャラクターとともに投入された。

 次の段階として、これは統率者デッキにも拡大され、最初の製品が『統率者デッキ:Warhammer 40,000』であった。そこからさらに進んで、フルセット展開も行われるようになり、その第1弾が『指輪物語:中つ国の伝承』である。この製品ラインは一部のファンから賛否両論を呼んだものの、結果としては圧倒的な成功を収めた。

 私はよく、マジック最大の弱点は参入障壁の高さであると語っている。ルールを知らない状態からプレイできる状態に至るまでの道のりは非常に長い。チェスも同様に壁が高いゲームだが、チェスの駒は6種類しかない。一方マジックには3万枚以上の駒(カード)が存在する。しかし一度覚えてしまえば、マジックの楽しさに強く引き込まれる。ユニバースビヨンドは、新規プレイヤーを取り込むための極めて有効なツールであることが証明された。なぜなら、プレイヤーが愛するIPがカード化されることで、最初の参入障壁を乗り越える助けとなるからだ。一度プレイ方法を理解すれば、マジックが提供する他のすべての要素にも容易にアクセスできる。また、このシリーズは『マジック』から離れていたプレイヤーを呼び戻す効果も大きいことがわかっている。

30を終えて

 以上、およそ9,000語をもって、私がウィザーズで働き始めてからの30年間における30の主要なデザイン革新を振り返ってきた。楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、この記事や紹介した内容に関するフィードバック、あるいは単に私の周年を祝いたいという気持ちがあれば、メールやソーシャル・メディア(XTumblrInstagramBlueskyTikTok)を通じて(英語で)送ってもらえると幸いだ。

 来週は、私のライターとしての自分の中心的テーマについて語る予定だ。

 その日まで、あなたが愛することを30年続けられることを願っている。


(Tr. Ryuki Matsushita)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索