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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『マジック:ザ・ギャザリング | マーベル スパイダーマン』マジック・ミーツ・マーベル

Mark Rosewater
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2025年9月1日

 

 本日より、『マジック:ザ・ギャザリング | マーベル スパイダーマン』のプレビューがスタートする。このセットのリード・デザイナーであるコーリー・ボーウェン/Corey Bowenと、次席者のエリック・エンゲルハルト/Eric Engelhardがこのセットについての記事を執筆し、セットの具体的なメカニズムについて解説する。私は全体像について話し、最後にはプレビュー・カードをお見せする。また、コミックブック的な演出として、今回は回想が満載である。『マジック』のマーベル・セット、特にこのセットがどのようにして誕生するのかという物語は、過去と深く結びついているのである。


ユニバースビヨンドの誕生物語

 最初の回想は数年前に遡ったところだ。アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheが私を自身のオフィスに呼びつけた。アーロンは取り組んでいるあるプロジェクトがあり、私の意見を求めていた。そのプロジェクトこそが、今ではユニバースビヨンドと呼ばれているものの最初のアイデアであった。アーロンは、それがどういうものになりうるのか、どのように実行するのか、そして『マジック』の未来にとってどういう意味を持つのかを説明してくれた。彼はおよそ30分かけてアイデアを語り尽くした。考えを整理するためのパワーポイント資料まで作っていて、私が最初の聞き手だったと思う。最後に彼はどう思うかと尋ねてきて、私の答えはこうだった――「マーベルは私がやる」。

 物心ついた時から、私はアメコミのファンだった。9歳のある日、父が勤め先の近くで何冊かのコミックを買ってきて、台所に置いてくれていた。その中の1冊がスパイダーマンのコミックで、私が初めて所有したコミックだった。そこから私は収集を始め、手に入るコミックはすべて読んだ。図書館で借り、コミックショップで何時間もかけてバックナンバーを探し、買えるだけ買い漁った。一生の情熱をかけて読んでおり、今でも毎日最低1冊はコミックを読んでいる。

 ここで少し余談を挟む。アーロンがユニバースビヨンドを最初に提案したとき、私はそのコンセプトのファンになった。実のところ、私が30年前にウィザーズに入った頃から、開発部では他の作品を『マジック』に取り入れる話がされていたのだ。初期の試みのひとつとして「ARC system」があり、他作品に『マジック』風のメカニズムを搭載した製品だった。しかし私がユニバースビヨンドの真の力を理解したのは、マーベル・ユニバースを描いたカードで初めてリミテッドを遊んだときだった。過去にさまざまな作品を扱ったユニバースビヨンドを楽しんできたが、マーベルは別格だった。それは、私が「情熱を注げる作品」と呼ぶものだった。

 情熱を注げる作品とは、単に楽しむだけでなく、自分のアイデンティティを形成するほど深く関わっている作品のことである。その作品のファンであることが、自分と言う存在を作る助けになっているのだ。例えば、私の「見た目」を説明させれば、多くの人はこう答えるだろう――「スーパーヒーローのTシャツに、上にフランネルシャツ、そしてジーンズ」。私は200枚以上のスーパーヒーローTシャツを持っており、その多くがマーベルである。マーベルの映画やテレビ作品もほぼすべて見てきた。MCU作品はもちろん、それ以外も含めてである。私は筋金入りのファンなのだ。この情熱を持つ作品は『マジック』を除けば他にない。だからこそ、この2つの愛をひとつの製品に融合させる機会を得られたことは至福であった。

 その瞬間こそ、私がユニバースビヨンドを真に理解したときであった。マーベルという私にとってかけがえのない作品のキャラクターたちが『マジック』のカードに描かれ、それをゲームで遊べる――私の2つの愛がひとつに結実する、この純粋無垢な喜びは、何にも代えがたい楽しさであった。ユニバースビヨンドが体現する「奇跡の一瞬」を、私はそこで理解したのだ。

 それから数年後、アーロンが私の机にやってきてこう言った「君が気に入りそうなプロジェクトがある」。我々はマーベルに提案を行うため、見せるサンプルカードが必要だったのだ。アーロン自身もマーベルの大ファンであったが、この仕事に最適なのは私だとわかっていた。彼はさまざまな種類のカードを作るように頼み、いくつかの伝説のクリーチャーも含めるよう指示した。大半は定番のキャラクターでよいが、ひとつだけ「ディープカット(通好みのマニアックな選択)」を加えるようにとも言われた。私はそのディープカットにとても満足している。それはマーベルのファンとマジックのファン、双方を満足させる完璧な選択であった。私はそれを2番目のマーベル・セット(私がリードを務めたもので、詳細は後述する)に入れ、このカードは社内のレア投票でも非常に高い評価を得た。皆がそれをプレイできる日が待ち遠しい。

 通常、ビジネス・チームがライセンサー(この場合はマーベル)と話す前に、開発部はその作品が『マジック』に適しているかどうかを検討する作業を行う。扱える題材が十分にあるか? セットを作るのに必要な奥行きがあるか? クリーチャーのサイズは十分な多様性があるか? 魅力的でクールなカードを作るための素材があるか? そして、その調査の結果、私たちは2つの重要な問いに答えることになる。すなわち「どれだけ多くのユニークな『マジック』カードを作れるか?」「それを使ってどんな種類の製品を作れるか?」である。

 マーベルを調査した結果、私たちは3つの大きな結論に至った。1つ目は、マーベル・ユニバースという作品世界は、『マジック』のカード化に理想的であるということだ。キャラクターの多くは固有の能力を持ち、互いに明確な差別化がなされている。そして、彼らが身にまとう色鮮やかなコスチュームは、視覚媒体であるコミックにおいて強烈な魅力を放つように意図されてデザインされている。また、マーベル・ユニバースは『マジック』の多元宇宙と同じく魔法に満ちている。すべての登場人物が魔法を操るわけではないが、魔法は多元宇宙における根源的な存在であり、登場人物たちは日常的にそれと関わる必要があるのである。

 2つ目は、尽きることのない題材があることである。マーベルは60年以上(前身を含めるともっとだ)にわたり巨大な共有世界を作り続けている。数万冊に及ぶコミック、そして数え切れないほどの他メディアの作品が存在する。そこには何千ものキャラクターや物語に加え、膨大な量の魅力的なアイテム、場所、名場面が詰まっている。

 3つ目は、題材の幅があまりにも広大であるため、ゲームデザイン上必要となる要素をほぼすべて満たせるということだ。例えば多くのユニバースビヨンド作品で常に問題となるのは「飛行を持つ存在が十分いるかどうか」である。しかしマーベルではまったく逆の問題があった。飛行可能なキャラクターがあまりに多いため、「このクリーチャーは本当に飛行を持つべきか?」と自問することがしばしばあったのである。

 私たちはマーベルのセットを作るというアイデアには非常に楽観的で、そのアイデアをハッカソン・チームの題材にするほどだった。ハッカソンは定期的に開催しているイベントで、他のデザイン作業を一週間止め、チームで特定の製品に集中するイベントである。たとえば『モダンホライゾン』や『ジャンプスタート』はどちらもハッカソンから生まれた。マーベルを題材にしたハッカソンの成果は、マーベルが『マジック』にとって素晴らしいパートナーになる未来を決定づけた。

 これをきっかけとして、我々はマーベルと複数製品にわたる契約を結んだ。ランダム・ブースター・セットをいくつか作り、さらにSecret Lairドロップのような追加製品も展開する予定となった。ランダム・ブースター・セットはマーベルのコミックブックに焦点を当てることになった。これは重要な点である。なぜなら、コミック以外の媒体では、キャラクターがコミックブックと異なる場合があるからだ。このセットではコミック版に準拠したキャラクターになっている。

 ユニバースビヨンドでは毎度だが、我々はパートナーと相談する。彼らこそが自分たちの作品の専門家だからである。意見を参考にした結果、最初のセットはスパイダーマンに焦点を当てるのが最適だと決定した。スパイダーマンは知名度が高く、あらゆる世代に普遍的な魅力を持つからである。マーベルへの入門として理想的だった。そして複数製品を作る予定であったため、セットの規模も柔軟に調整できた。この話をした理由は、スパイダーマンをテーマにしたセットは当初は小型セットとして始める予定だったからだ。ここでいう小規模とは100枚のカードのことであり、コモンは1枚も存在しなかった。

 セットのサイズと構造はいくつかの影響を及ぼした。最も大きい問題は、100枚のセットではリミテッド・フォーマットを遊ぶのに不十分という点である。今までで単体でドラフト可能な最小のセットは『コールドスナップ』であり、それでも155枚で、リミテッドができるギリギリのサイズであった。さらに、コモン・カードの欠如もリミテッドを楽しめなくする大きな要因となっていた。そのため当初のアイデアは、すべてのフォーマットで使用可能でありつつ、統率者に焦点を当てるというものであった。

『マジック:ザ・ギャザリング | マーベル スパイダーマン』の構築

 ここまでくると、なぜ私が大のマーベルファンでありながら、このセットのデザイン・リードを務めなかったのか、という疑問に答えられるかもしれない(そもそも「マーベルは私がやる」と宣言したのに、である)。第2のマーベルセットが大型セットになる予定だったため、私はそちらの展望デザインを担当することになったのだ(プレビュー記事が出たら、語るべきことが山ほどある)。そのため、『マジック:ザ・ギャザリング | マーベル スパイダーマン』はリミテッド・フォーマットを想定しない小型セットとして始まった。たとえば、このセットに統率者デッキが存在しないのもそれが理由である。だがデザイン・チームが作業を始めると、あることに気づいた。セットはもっと大きくする必要がある、と。

 スパイダーマンには膨大な脇役陣が存在する。彼はコミック界でも屈指のローグ・ギャラリーを持ち、数多くの仲間や恋人、家族、友人がいる。そしてそれは彼の故郷の次元に限った話である。スパイダーマンのマルチバースに存在するさまざまなスパイダーピープルを加えれば、セットに収録できる候補は膨大になる。スパイダーマンとその仲間たちを収録したセットを作るのなら、なぜ全員を収められるだけのサイズにしないのだろうか?

 だがその話に入る前に、別の話をしなければならない。マーベルのセットに関していずれかのデザイン・チームが作業を始める前に、私たちは一連の会議を開き、「マーベル・セットであるとは、具体的にどういう意味なのか?」という問いを投げかけていた。というのも、マーベルのセットは、ユニバースビヨンドにおいて同じ作品で複数のセットを作る初めての事例であったからだ。その意味を探る必要があった。作品間で一貫した要素を持たせるのか? メカニズムは重複するのか? ユニバースビヨンドでひとつの作品で複数セットを作るとは、いったい具体的にどういうことなのか?

 その会議において、私たちはいくつかの結論に至った。まず、各セットはそれぞれ単独で成立するべきだと決定した。すなわち、各セットは独自のメカニズム・アイデンティティを持つということである。マーベルのセット間でメカニズムが重複することは許容されたが、それはセットが同じメカニズムを使いたいからそうなるのであって、必須ではない。ただし、複数のマーベルセットに共通して登場させたい要素がいくつかあると判断した。

クラシック・コミックのストーリーを表現する英雄譚

 英雄譚は物語という概念を表現するためにデザインされたカードだ。コミックは連続した物語を特徴としており、実際、スパイダーマンのようなキャラクターを語る際、有名なストーリーラインを抜きにするのは難しい。『マジック:ザ・ギャザリング | マーベル スパイダーマン』セットには英雄譚サイクルが存在する。今年、サンディエゴ・コミコンのマジック・パネルでそのうちの1枚を公開した。

 マーベルのハッカソンでは、コミックという媒体性を活かして英雄譚をデザインするクールなアイデアを思いついた。私たちはそのアイデアをマーベル・セットのブースターファンで出現するカードの仕様の一部として採用している。以下をクリックすると、それを見ることができる。

クリックして「クレイヴンの最後の狩り」を表示

 ご覧のとおり、カードをコミックページ風にし、各章をひとつのコマとして表現したのである。この特別な仕様の英雄譚は、マーベルのすべてのセットで使用する予定だ。

二つの状態を表す両面カード

 両面カードを初めて作成したのは、初代『イニストラード』ブロックにおいて闇への変身を表現するためであった。しかし両面カードは、二面性を持つあらゆるクリエイティブ要素を表現するのに非常に適していることが判明した。そして、二面性はコミックでも頻繁に描かれる要素である。その最も典型的な例が「秘密の正体」という発想である。スパイダーマンは犯罪と戦っていないときには、ピーター・パーカーとして生活している。ピーター・パーカーとスパイダーマンを同時に表現するカードがあったらクールではないだろうか? 以下はサンディエゴ・コミコンで公開したもう1枚のカードである。

クリックして「ピーター・パーカー」//「アメイジング・スパイダーマン」を表示

 『マジック:ザ・ギャザリング | マーベル スパイダーマン』に収録される両面カードは、これまでの両面カードでは前例のないことを行っている。通常、両面カードは変身カード(A面を唱え、その後B面に変身できる)かモード・カード(A面かB面を選んで唱え、変身はしない)のどちらかである。新しい両面カードは、その両方を兼ね備えている。プレイヤーはピーター・パーカーとしてプレイし、その後アメイジング・スパイダーマンに変身させることもできるし、最初からアメイジング・スパイダーマンとして唱えることもできる。ただし、アメイジング・スパイダーマンからピーター・パーカーに変身させることはできない点には注意してほしい。

 マーベル・ユニバースのカードをデザインするにあたり、両面カードのクールなデザインをいくつも実現できると気づいた。したがってすべてのマーベル・セットは、必要に応じてこのデザインを利用するつもりだ。

インフィニティ・ストーン

 プレイヤーは『マジック』のカードを集めるのが大好きである。そこで、私たちは自問した。マーベル・ユニバースにおいて、コレクションの対象とすべきものはあるだろうか? その答えは「ある」である。そう、インフィニティ・ストーンだ。そのうちの一つ《ソウル・ストーン》がこのセットに収録されている。

クリックして「ソウル・ストーン」を表示

 ここで開発中の語に戻ろう。コーリーと彼のデザイン・チームは、再現したい題材が数多く存在することに気づいた。さらに、セットには私が先に語った要素(英雄譚、両面カード、そしてインフィニティ・ストーンのひとつ)が必要だった。100枚のセットでは、それらを収めるには窮屈すぎた。解決策はセットを大きくすることであった。指針となった哲学は「セットが最良の姿になるようにする」というものだった。最終的に、セットの大きさは100枚から188枚へと拡大されたのである。セットが188枚になると、次の大きな問いが浮上した。それは「このセットはリミテッド・フォーマットに対応できる大きさになった。では、どのようなリミテッド環境を目指すのか?」ということである。

 ここで再び回想の時間だ。クリス・ムーニーは第3回グレート・デザイナー・サーチのファイナリストであった。新しい人材を開発部に迎える際、最初は必ずデザイン・チームに配属する。これはチームの仕組みを学ばせ、徐々にスキルを磨き、最終的に自らチームを率いることを目標とするためである。この過程の一部として、新人デザイナーに小規模なチームのリードを任せ、自信を育てつつ能力を示してもらうのである。

 新人デザイナーが最初にリードすることになるチームは「ミニチーム」であることが多い。これは特定のデザイン課題を解決するために編成されるデザイン・チームである。たとえば、あるメカニズムがうまく機能せず、その代替案を探るためにチームを組む、といった具合である。クリスの場合、彼が監督したチームに与えられた課題は「ドラフトを改善する方法を見つけること」であった。『マジック』の元主席デベロッパーであるエリック・ラウアー/Erik Lauerが、クリスの「次席者」を務めた。

 チームはさまざまなアイデアを探った。様々な種類のマナ基盤(《謎めいた尖塔群》はその成果である)、異なるパック構成、そしてブースター・ドラフトを調整する様々な方法などだ。その課題のひとつとして「ブースタードラフトの弱点をすべて挙げる」ことを行った。最も大きな弱点は2つあり、ドラフトには8人が必要なこと(多くの場合店舗で行われるが、8人を集めるのは難しい)、そしてドラフトには時間がかかること(店舗で遊ぶ際、時間的拘束は大きな要因となる)という点であった。果たしてその2つの問題に対処する方法はあるのだろうか?

 ここから、新しいタイプのドラフト――私たちが「ピック2・ドラフト」と呼ぶ方式が生まれた。基本的には従来のブースター・ドラフトと同じだが、二つの変更点がある。第一に、必要人数が8人ではなく4人であること。第二に、1枚ずつではなく2枚ずつカードをピックすること。過去に『ダブルマスターズ』という製品で2枚同時にピックする仕組みを導入したことがあり、そのプレイ感を私たちは気に入っていた。そこで、クリスのチームはそれを参考にしたのである。ピック2・ドラフトは好評で、クリスが提出したレポートでも「ドラフトを改善する方法」のリストの最上位に挙げられていた。

 さて、このセットのデザインに話を戻そう。このセットは通常のセットとはやや異なり、デザインチームは新しい試みをしてみたいと考えていた。コーリーはアドバイザーとしてエリック・ラウアーをチームに招き、議論はピック2・ドラフトへと移った。スパイダーマンがテーマに選ばれたのは、入門製品として非常に優れていたからである。そもそも8人ドラフト自体が多くのプレイヤーにとって参入障壁である。では、このセットをピック2・ドラフト専用にデザインされた最初の製品にしたらどうなるだろうか?

 それは具体的にどういうことを意味するのか? まず、通常の8人ドラフトは10のドラフト・アーキタイプ(多くは2色)を基盤に構築されている。このセットは通常のセットよりやや小規模であったため、プレイヤーが半分ならドラフト・アーキタイプも半分にできないか、という発想が生まれた。デザイン・チームは友好色ペアに焦点を当て、そこからアーキタイプを構築することを選んだ。アーキタイプの詳細についてはコーリーの記事に記されている。

 次に、他に根本的な変更を加えられるかがデザイン・チームで議論された。大きな検討点のひとつは「すべてのカードを同じ方向に回す」というものであった。通常のブースタードラフトでは「左、右、左」と順番に回すが、「左、左、左」の方が単純である。しかし、ピック2・ドラフトを「左、左、左」でしばらくテストしたところ、メッセージの明確化による利益はわずかである一方、従来のブースター・ドラフトとの3点目の違いは混乱を招いた。違いは少ない方がよい、という結論に至った。8人ドラフトと4人ドラフトを行き来する際にプレイヤーが適応しやすくなるからである。

 ピック2・ドラフトにセットを適応させるには、いくつかの工夫が必要であった。第一に、ドラフト・アーキタイプ間の融合を重視すること。どの色を早めに選んでも、その後にピックしたカードに応じて成立するようにしたかった。第二に、ピック2・ドラフトではプレイヤーが自分のアーキタイプに早く固まる傾向があるため、複数のアーキタイプで使用可能なカードを豊富にし、プレイヤー同士が取り合うカードを確保することが重要であった。その結果、デザイン・チームは混成マナの採用を積極的に進めた。混成マナの呪文は5つのアーキタイプのうち4つで使用可能であるためだ。

 長い間、このフォーマットを私たちは「4人ドラフト/Four-Person Draft」と呼んでいた。4人で行うという点が最も重要な変更に思えたからである。MagicConでテストした際には、そのスピード感を強調するため「ライトニング・ドラフト/Lightning Draft」と呼んだ。だが最終的に「ピック2・ドラフト」という名前に決定した。というのも通常のドラフトとの違いとして、プレイヤーが最も知っておくべきなのは2枚同時にピックするという点だったからだ。確かに4人用というのは重要ではあるが、プレイヤーは自然とこれに気づく。だがプレイテスターの多くが忘れていたのは「2枚ピックできる」ことだった。「ピック2・ドラフト」という名称にすることで、その核心的な違いをプレイヤーの頭に定着させられると考えたのだ。

 もうひとつ、このセットに起きた大きな変化は、デザインの過程で開発部がユニバースビヨンドがどのフォーマットで使用できるかを見直したことである。ユニバースビヨンドのセットは『マジック』への優れた入り口である一方で、それらが使用できる構築フォーマットは新規プレイヤーにとって参入しづらいものだった。この問題に対処するため、ユニバースビヨンドのセットを「すべてのフォーマットで使用可能」とする大きな変更が加えられ、本セットもそれに適応した。これにより、スタンダードを意識したカードと統率者を意識したカードを両方収録できるようになった。

 コーリーとエリックの記事では、セット・デザインに関する詳細が語られることだろう。私の最後のエピソードは、このセットでの私の役割についてである。ユニバースビヨンドのセットでは「SME(発音はスミー)」と呼ばれる専門家を配置しており、これはSubject Matter Expert(専門分野の知識を持つ者)の略である。前述の通り、私は大のマーベルファンであり、マーベルのSMEとして理想的な人材であった。つまり私は定期的にセット(後には他のマーベルセットも)を確認し、メカニズムやフレイバー要素がコミックと噛み合っていない箇所に注釈を残す役割を担った。また、コーリーと頻繁にやり取りし、彼の質問にすべて答えていた。実際、私は彼を説得して、当初セットに含まれていなかったキャラクターを追加させたのである。

 そのキャラクターとは誰か? 実は今日のプレビューカードである。エゼキエル・シムズは、作家J・マイケル・ストラジンスキーとアーティストのジョン・ロミータ・Jr.によって2001年に生み出されたキャラクターである。彼はピーター・パーカーの前に突如現れ、スパイダー的な能力を持つ一連のキャラクターたちを結びつける「スパイダートーテム」の網の一部であることを彼に告げるという、謎めいた人物だった。

クリックして「蜘蛛のトーテム、エゼキエル・シムズ」を表示


スーパーパワー『マジック』セット

 以上が、私たちがマーベルのセット、そしてとりわけ『マジック:ザ・ギャザリング | マーベル スパイダーマン』の開発が始まった経緯である。繰り返すが、メカニズムやサイクル、個々のカード・デザインの詳細はコーリーやエリックの記事を読んでほしい。私は常にフィードバックを楽しみにしているが、今回は特にマーベル・セットについての意見を聞けることを楽しみにしている。感想やフィードバックをメールやソーシャル・メディア(XTumblrInstagramBlueskyTikTok)を通じて(英語で)送ってもらえると幸いだ。

 来週も「Making Magic」をお楽しみに。

 それまで、『マジック:ザ・ギャザリング | マーベル スパイダーマン』で遊ぶことが、私にとってそうであるのと同じくらい、あなたにとっての喜びとなりますように。


(Tr. Ryuki Matsushita)


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