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Making Magic -マジック開発秘話-

プレイヤーに終端を その2
2025年7月14日
『久遠の終端』プレビュー第2週へようこそ。先週は、セットの展望デザインについて語った。今週はセット・デザイン・チームと統率者デザイン・チームを紹介し、『久遠の終端』セット・デザインの物語を語っていく。最後にワクワクするようなプレビュー・カードもお披露目する。
「終端」で生きる
いつも通りセット・デザイン・リードに紹介をお願いした。本セットではアンドリュー・ブラウン/Andrew Brownがチームの皆を紹介してくれる。
クリックして『久遠の終端』セット・デザイン・チームを表示
今日の本題に入る前に、『久遠の終端』統率者デザイン・チームの2名を紹介したいと思う。紹介文は、統率者デザイン・リードのキャメロンが書いてくれた(三人称で自己紹介してくれている)。
クリックして『久遠の終端』統率者デザイン・チームを表示
先週は、展望デザインから引き継いだ段階ではメカニズムがどのような状態であったかを説明した。今回はその話を引き継ぎ、セット・デザインの過程で各メカニズムがどう変化していったかを紹介する。
コズミック・カード
「バレーボール/Volleyball」展望デザインによる、プレイテスト・コズミック・カード
〈ヴォイドの大聖堂〉
伝説のコズミック・アーティファクト ─ 宇宙船あなたのターン中にあなたがライフを失うたび、各対戦相手は1点のライフを失い、これのトラックにカウンター1個を置く。
1,2,3,4,5,6
四角形(3)―あなたが攻撃するたび、あなたがコントロールしている攻撃クリーチャーすべてはターン終了時まで+X/+Xの修正を受ける。Xはこのターンにあなたが失ったライフの合計に等しい。
六角形(6)―あなたの終了ステップの開始時、黒の飛行を持つX/Xのアバター・クリーチャー・トークンを1体生成する。Xはこのターンにあなたが失ったライフの合計に等しい。
最もボリュームのある話から始めよう。展望デザインの段階で、我々はSF作品の持つスケール感をどう表現するかを考えていた。物語には巨大な宇宙船や巨大な惑星が登場する。それらをカードでどう表現すればよいのか? 展望デザインはこの問題に多くの時間を費やし、「コズミック・カード」という解決策を生み出した。コズミックは特殊タイプであり、さまざまな種類のパーマネントが持つことができた。そして、それは巨大なカードとして表現された。我々はこれを「トランスフォーマーTCG」で実現しており、それを『マジック』にも持ち込みたかったのだ。このセットのブースターパックは通常より大きくなり、各パックに1枚コズミック・カードが封入される、という構想だった。
コズミック・カードには「トラック」が付いていた。カードは、どうやってそのトラックを進めるか、どのタイミングでどんな効果が発生するかを示していた。このデザインは、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldがデザインした初期の英雄譚の試作案からインスピレーションを受けたもので、ボードゲームのようにトラックがあり、それぞれ特定の効果を表すアイコンがあった。
展望サミットでは、巨大なカードの実物を作成し、実際に使ってみてプレイ時の感覚がどうなるかを全員で体験した。サイズが大きいため、通常のライブラリーには入らず、セット内の他のカードがゲーム外から呼び出す形になっていた。皆がそのプレイ感を気に入り、セットの目玉となる派手な要素としてふさわしいと感じた。
だが、セット・デザインが始まってから何か月も経った頃、この巨大カードは実現不可能であることが判明した。『マジック』のセットは非常に膨大な量のカードを製造するため、小規模なゲームにはない制約が存在する。そこでセット・デザインはスペース・オペラ的スケールを表現する新たな方法を探さなければならなくなった。別の解決策を見つける必要があったのだ。
こうした問題に直面した時、まずやるべきことは制約条件を洗い出すことである。我々は一体、何の問題を解決しようとしているのか? 以下がデザイン上の制約だった。
- 宇宙船や惑星といった、巨大スケールの存在を表現するカードでなければならない。
- カードサイズは標準的な『マジック』のカードと同じでなければならない。
- マナ総量はさまざまであり、段階的に進行するメカニズムを組み込む必要がある。
セット・デザイン・チームは、コズミック・カードのデザインが気に入っていた。カードが時間をかけて徐々に進化していく点が特に好評だった。この「進行」の要素を残せないか考えた。そこで、既存の似たメカニズムを振り返った。レベルアップ・クリーチャー、クラス、返信する両面カードなどだ。
これらはすべて、カードが複数の状態を経て進化する仕組みを持っていた。ただし、その進化方法は大抵マナだった。今回はマナ以外のコストで進化させる方法がないか検討した。
最初期の代替案では、「クリーチャーが特定の場所に訪れる」ことを表現しようとしていた。この新しいメカニズムでは、プレイヤーが宇宙船に乗ったり、惑星を訪れたりする体験を表していた。その一例が、アンタップ状態のクリーチャーをタップするという方法だった。クリーチャーをタップすることはワープとも相性が良く、チームはクリーチャーをタップすることをコストとするメカニズムを模索し始めた。
最終的に、時間をかけて「積み上げる」カードにたどり着いた。クリーチャーをタップする動作は、宇宙船を建造したり、惑星を訪れたりしている感覚を演出した。これは機体と似たリソースを使ってはいるが、より長期的なクエストのように感じられる。
いくつかの試行錯誤を経て、セット・デザイン・チームは「配備」メカニズムを生み出した:
配備(あなたがコントロールしていてこれでないクリーチャー1体をタップする:それのパワーに等しい個数の蓄積カウンターをこの宇宙船の上に置く。配備はソーサリーとしてのみ行う。[N個以上なら、これはアーティファクト・クリーチャーである。])
配備を持つカードはすべてパーマネントである。『久遠の終端』では、宇宙船・アーティファクトと、神話レアの惑星土地サイクルに配備メカニズムを使用した。
配備を持つカードの中には、配備以外の効果も持つものがある。これには戦場に出たときの誘発型能力や、起動型能力が含まれる。戦場に出たときの誘発型能力を持つカードは呪文のような即時効果を生むため、マナ総量に見合う効果が期待でき、デッキに採用しやすくなる。起動型能力を持つカードは、パーマネントをタップして効果を得ることができ、場合によっては追加のマナ・コストが必要なこともある。
配備を持つパーマネントは、1段階または2段階の進行段階を持つ。それぞれの段階で、常在型能力、誘発型能力、または起動型能力が追加される。進行することで、宇宙船はクリーチャーとなり、惑星は起動型能力を得る。
ここで、配備カードの具体例を紹介したい。幸い、今回のプレビュー・カードがちょうどそれだ。
クリックして「ルーメン級フリゲート艦」を表示
ワープ
展望デザインからセット・デザインに引き継がれた時点でのワープの定義は以下の通りだった。
ワープ[コスト](あなたの手札にあるこの呪文を、あなたの戦闘前メイン・フェイズ中に手札からワープ・コストで唱えてもよい。そうしたなら、戦闘終了時にこれを追放する。追放されている間、あなたはこのカードを唱えてもよい。)
『マジック』のデザイン作業は、多くが反復的なループである。試してみて、フィードバックを得て、そのフィードバックをもとに変更する。その繰り返しだ。ワープの変更も、セット・デザインの過程で行われたプレイ感向上のための調整だった。小さな変更を積み重ねることで、より良いプレイ体験を実現する。こうした変更を行う際には、デザイン初期段階での決定を見直すことになる。この効果は本当に適切なタイミングで起きているのか? このプレイパターンは最も楽しいものを促しているか? もっと相互作用の余地を作れる変更はないか? より良く、より分かりやすいテンプレートにするための調整は可能か?
ワープは、セット・デザインにおけるこのプロセスを体現している良い例である。展望デザインがワープの核となる仕組みを開発したが、細かい部分の決定はまだこれからだった。展望デザインの時点では、ワープを使えるのは戦闘前メイン・フェイズのみだった。なぜなら、戦闘終了時にカードが追放されるため、戦闘後メイン・フェイズにはワープできなかったからだ。しかし追放されたカードは、その後ならいつでも唱えてよかった。
ただし、プレイバランスの観点から、セット・デザインは「同じターン中に2回唱える」動きを避けたいと考えた。そのため、「ワープしたターンに再び唱えることはできない」という制限を加えた。また、カードを戦闘終了時に追放する仕様についても再考した。代わりに「次の終了ステップの開始時」に追放することで、戦闘後メイン・フェイズ中にもカードと相互作用できるようにした。これによりメカニズムの柔軟性が高まり、楽しくないと判断したプレイパターンを防ぐことができた。以下が最終的なワープの定義である。
ワープ[コスト](あなたの手札にあるこのカードをワープ・コストで唱えてもよい。そうしたなら、次の終了ステップの開始時にこれを追放し、その後、後のターンに、これを追放領域から唱えてもよい。)
ヴォイド
展望デザインからセット・デザインに引き継がれた時点でのヴォイドの定義は以下の通りだった。
ヴォイド ― このターンにアーティファクトやクリーチャーが墓地に置かれるか戦場から追放されている場合、[効果]。
ヴォイドの変遷も、展望デザインとセット・デザインの違いを示す良い例である。家づくりの比喩を使うなら、展望デザインは「設計図」を作り、セット・デザインは「実際に家を建てる」役割だ。そのため展望デザインは「可能性の提示」を重視する。メカニズムのデザインは「この領域には面白いデザイン空間がある」という概念実証である。一方で、セット・デザインは実際に印刷されるすべてのカードを作らなければならない。その際には、メカニズムが持つ制約や限界を見極める必要がある。
例えば、展望デザインはワープとヴォイドの相互作用を示していた。ワープはカードを追放し、ヴォイドは「何かが追放されること」に注目する。そこにはシナジーがある。しかし、セット全体のカードをデザインし始めると問題が見えてくる。ワープの最終版では、カードは「終了ステップの開始時」に追放される。このタイミングだと、ヴォイドの効果を活かすのが難しくなる。例えば、ヴォイド効果で呪文のコストを軽減したいとしよう。しかし、その場合、インスタントや瞬速を持つカードでなければ効果は適用できない。終了ステップ中は通常の呪文は唱えられないからだ。この問題を解決するために、セット・デザインは「ワープしたこと」を明示的に参照する形に調整した。ただ「追放された」ことだけを条件にするのではなく、「ワープした」という事実も直接見るようにしたのだ。
また展望デザインは「セット内の環境」や「セット内での相互作用」を重視する。しかしセット・デザインは「このセットがスタンダードや他のフォーマットでどう機能するか」を考えなければならない。そのため、メカニズムが『マジック』全体と整合性が取れているかを再評価する。ヴォイドもその例だ。最初は「アーティファクトやクリーチャー」だけを参照していたが、セット・デザインの段階で「土地でないパーマネントすべて」を参照する形に拡張された。
着陸船・トークン
展望デザインからセット・デザインに引き継がれた時点での着陸船・トークンは以下の通りだった。
着陸船・トークンを生成する。(それは「{2}, {T}:このアーティファクトを変身させる。」を持つアーティファクトである。それは「{T}:あなたがコントロールする土地が生み出すことのできる色1色のマナ1点を加える。」を持つ居住地 ・アーティファクト・土地・トークンに変身する。)

「着陸船・トークン」
着陸船・トークンは、「機能が斬新さに勝る」ことの好例である。展望デザイン・チームは、スペース・オペラの「発見」という要素を表現しようとした。『機械兵団の進軍』の培養メカニズムに触発され、シャッフルを必要としないランプ・メカニズムを考案した。そのために両面トークンを用いた。土地はトークンの裏面にあるため、着陸船が変身した先の土地はすべて同じものにならざるを得なかった。我々の解決策は、「他の土地が生み出せる任意の色のマナを生み出す土地」にすることだった。これは《反射池》をモデルにしたものである。
しかしセット・デザインが必要としたのはマナ基盤の補填、つまり「持っていない色のマナを得る手段」だった。そのため《反射池》型の土地では役割を果たせなかった。これが、両面トークン方式が問題になる原因だった。解決策は、トークンを単純に「基本土地をライブラリーから持ってくる」効果にすることだった。シャッフルは必要になるものの、セットに必要な役割はきちんと果たせた。確かにデザインには「派手さ」も大事だが、すべてのメカニズムが派手である必要はない。中には「縁の下の力持ち」のようなメカニズムもある。注目はされなくても、実用的な役割を担うものである。
両面の着陸船をやめたことで、「名前が異なる土地」を参照する小テーマを加えることもできた。《反射池》型の土地をなくしたことで、デジタル環境における懸念も軽減できた。過去に《反射池》やその類似カードはデジタル版『マジック』で問題を起こしてきたからである。総じて、着陸船・トークンはセットとデザインのニーズにより適したものに生まれ変わったと言えるだろう。
再録メカニズム
展望デザインは、改善を再録メカニズムとして引き継いだ。我々はスペース・オペラには多くの装備品が登場するのが自然だと考えていた。さらに展望デザインは+1/+1カウンターのテーマも追加しており、これは『神河:輝ける世界』での改善の実装方法と共通の手法だった。しかしセット・デザインでの度重なるテストの結果、改善を単体のメカニズムとしてセット内でサポートするのは難しいと判断された。必要とする構造が、セット全体の他の要素と適合しなかったからである。
そこで、装備品中心の改善の代わりに、別のテーマを試すことになった。それが「探検」テーマである。スペース・オペラ作品は、冒険者たちが宇宙を旅して新しい場所を発見する物語だ。その感覚を最もよく表現できるメカニズムは上陸だった。上陸はフレイバー面でも優れており、プレイ感も良く、セット内の他の要素ともシナジーを生んだ。セット・デザインは上陸をセットに追加し、緑を中心に配置することにした。
「終端」を超えて
これで『久遠の終端』のセット・デザインについての話は締めくくりとなるセット・デザインがどのように行われているかを示す良い例になったと思う。セット・デザインは展望デザインが作成した設計図を受け取り、実際にセットを構築するための細部を詰めていく。主要な要素は多くが残るが、徹底的なプレイテストを通じて、最適な形を模索する。その結果、全てのプレイヤーにとって最高のプレイ体験を作り上げることができるのだ。
今日の記事への感想やフィードバックをメールやソーシャル・メディア(X、Tumblr、Instagram、Bluesky、TikTok)を通じて(英語で)送ってもらえると幸いだ。
来週は『久遠の終端』展望デザイン提出文書の第1回をお届けする予定だ。
それまでの間、どうか宇宙の探検を楽しんでほしい。
(Tr. Ryuki Matsushita)
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