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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

龍の嵐の前の静けさ

Mark Rosewater
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2025年3月31日

 

 2週間かけて(その1その2)、『タルキール:龍嵐録』のデザインについて語ってきた。今日はカード単位で、セットのデザイン・ストーリーを語っていく。


嵐鱗の末裔

 2007年、私は携帯電話のアプリを使って小さなコミックを作り始めた。そのコミックは、最終的に「Tales from the Pit」というタイトルになった。定期連載は数年前にやめてしまったが、今でも不定期に投稿している。コミックを掲載するもっと安定した場所が欲しいと思い、Pit(マジックのデザイナーが働く場所の古い名称)でよいサイトがないか尋ねてみた。そうすると、イーサン・フライシャー/Ethan FleischerがTumblrをおすすめしてくれた。私がTumblrのアカウントの設定を終えると、人々は質問を送ってもよいかと聞いてきた。私は「もちろんです」と返信した。そのとき、私は自分が何に巻き込まれようとしているのか、まったく理解していなかった。18年たったいま、160,000件を超える質問に回答した。質問が来るようになったため、ブログの名前は「Blogatog」に変更した。

 2012年9月23日、次のような質問を貰った。

 「ストームを10とすると、続唱が再録される可能性はどれくらいですか?」

 私の回答は以下だ。

 「続唱のストーム値は3だ(サイクリングが1、ストームが10)」

 この回答を見て、他のメカニズムやゲーム要素がストーム値いくつなのかを知りたいというプレイヤーが急増していった。気が付くと、わたしはストーム値に関する膨大な数の質問に答えていた。ストーム値が人気を博すると、続くように他の値も生まれていった。

  • ラバイア値:次元が再登場する可能性
  • ヴェンセール値:プレインズウォーカーが再登場する可能性
  • ビーブル値:クリーチャー・タイプが再登場する可能性
  • ゴチ値:ドングリ・メカニズムが再登場する可能性

 この流れから、私はストーム値の記事を8本書いている。

 ラバイア値に関する記事も3つ書いた(その1その2その3)。

 2012年にこの話が始まった頃、当時はスタンダードで使用可能なセットに含むことができるものとできないものの線引きが明確になっていた。私は戻ってくる可能性が高いものは何かをよく理解していた。しかし、それ以降スタンダードは大きな変化を遂げてきた。ストーム値の最も大きな変化の1つは、私がカメオ・メカニズムと呼んでいるものだ。

 なぜなら統率者戦は『マジック』のほとんどのカードが使用可能なため、統率者戦用の構築済みデッキに、一度限りで過去のメカニズムを使用したカードを作成しても問題ないと判断した。これは好評だったため、本流のセットでカメオ・メカニズムを、通常はレアまたは神話レアのレアリティで使用し始めることにした。これは構築フォーマット、特にスタンダードにおいて個々のデザインの影響を確実に理解するため、とても意図的に行われたものだ。

 ストーム値はカメオ・メカニズムのことをあまり考慮していない。1度だけ登場させることは、そのメカニズムをセットの主要な要素として再録するよりもはるかにハードルが低いためだ。ストーム値はより意味がある目的、つまり大規模なセット全体で再録する場合の値として値付けを行うことにした。

 さて、ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanが『スカージ』で作成したストームのメカニズムとしての歴史を簡単に遡ってみよう。『スカージ』は「呪文が重要」というテーマを持っており、ブライアンはこれを表現できるメカニズムを探していた。そこで出たアイデアが、このターンに唱えた呪文の数を参照する値メカニズムはどうだろう? それが値に従って自身のコピーを作るとしたら? というものだった。

 ストームは強力なメカニズムとなり、構築フォーマットに大きな影響を与えた。そのパワー・レベルを過小評価していたことは明らかだった。『時のらせん』ブロックではストームを含む多くのメカニズムを復活させた。我々は「『スカージ』以降で多くのことを学んできた」、「ストーム・カードを作成する準備は整っている」と考えていた。

 歴史が明らかにしたように、我々はこう考えた時点で誤っていた。ストーム・カードの第2波もとても強力となってしまった。よって「うーん、もうストームを再録するのはなしにしよう」と我々は言った。

 『時のらせん』ブロックは2007年で終了した。ちょうど私がブロクを開設した時期だ。そして5年後、私は冒頭の質問に答えた。質問に答えるより昔に、私はストームが返ってくる可能性について聞かれたことがあった。開発部としては、ストームを主要なメカニズムとして再録するつもりはないと回答した。そのため、ストームを値の上限として扱っていたのだ。

 

 興味深いことに、私が『時のらせん』ブロックの後にストームを最初に復活させた。『Un~』シリーズの3番目のセットの『Unstable』《〈カラスの嵐雲〉》を入れたのだ。そうした理由の一部は、ストームが通常のマジックのセットに戻るとは思っていなかったことと、このカードはカジュアルプレイで楽しく面白いと思ったことだ。

 

 その後、カメオ・メカニズムが中心となる『モダンホライゾン』を作成した。マジックの新しいストーム・カードは1枚しか作らなかったが、これによってエターナル・フォーマットで使用できるセットに再びストームを再録する標が確立された。『モダンホライゾン2』にはマジックの新しいストーム・カードが4枚あり、そのうち1枚はクリーチャー・パーマネントに関するものだった。『モダンホライゾン3』ではマジックの新しいストーム・カードを1枚作成する予定だ。

 

 そして「ユニバースビヨンド」カードもこの楽しく面白い取り組みに参加し、ストームを持ったカメオ・カードが作成された。

 

 こうした結果、『サンダー・ジャンクションの無法者』のデザイナーは、このセットの統率者戦用デッキに新しいストーム・カードを2枚作成した。このようにして、ダムが決壊し始めている。

 

 ストームがスタンダードに帰ってきたのは『ブルームバロウ』の《轟く機知、ラル》だった。ここでは高コストの忠誠度能力によって生成される紋章にストームが書かれていたが、これはストームがスタンダードで使用なカードとして返ってきたことに変わりはない。当然ながら、私のブログにはストーム値の名前が変わったのかという質問がたくさん寄せられた(答えはNoだ)。

 ここで、《嵐鱗の末裔》について語りたいと思う。『タルキール:龍嵐録』のチームがセット・デザインの過程でこのカードを作成したとき、彼らは『ブルームバロウ』が先手を打っている、つまりスタンダードにストームを持ち込もうとしていることに気付いていなかっただろう。そう仮定すると、彼らはストーム値を打ち破るカードにストーム値(Storm Scale)という名前を付けるのは面白いと考え、〈嵐鱗のドラゴン/Stormscale Dragon〉と名付けたのだろう。我々は、この名前がゲーム内で完全な意味を成していることをとても気に入っている。ストーム値について知っていなければ、このカードの名前に着目はしないだろう。

 話を『タルキール:龍嵐録』のメインの会議へと移す。そこでは、大規模なスライドショーでセットのレビューを行った。開発部はこの会議で、すべてのカードを見てメモを取ることができる。このレビュー中、〈嵐鱗のドラゴン〉の名前が〈嵐血の末裔/Scion of the Stormbrood〉に変更されたことがわかった。開発部のメモには「元に戻す」と書かれた。クリエイティブ・チームはこれを実行してくれたが、末裔の部分はそのまま残った。そのため、私の所に新しい質問として「このカードの名前はあなたが付けましたか?」がよく来るようになった。それに対する回答は「私は付けてない。開発部が私をからかっているんだ」

アンコモンのドラゴンの嵐サイクル

 展望デザインの初期段階で、ドラゴンの嵐がストーリーで大きな役割を担うことがわかっていた。そのため、これを表現する方法に興味が注がれていた。最初のプレビュー記事で話した通り、我々が好んだ答えは、ドラゴン呪文のコストを減少させるエンチャント・トークンだった。これはセット・デザインへと引き継がれた。

 セット・デザインはドラゴンの嵐へのアプローチを再評価し、次の3つを決定した。

  1. コスト軽減を主要なメカニズムとはしないこと。
  2. カウンターやトークンを用いない方法を探すこと(他の複数のメカニズムで使用しているため)。
  3. ドラゴンの嵐はアンコモン・サイクルにするのがちょうどよいということ。

 そこで、ドラゴンとのシナジーを持つ「ドラゴンの嵐」と呼ばれるアンコモンのカード・サイクルを作る必要があった。

 最初の決定は、それらをエンチャントにすることだった。名前が、この方向性へと舵を切らせた。次の課題は、ドラゴンとどのようにしてメカニズム的な相互作用を果たすかだ。明瞭な道は2つあり、ドラゴンへと影響を与えるか、ドラゴンから影響を与えてもらうかだ。

 ここで問題となるのは、ドラゴンは一般的にマナコストが重い大型クリーチャーであることだ。つまり、ドラゴンと相互作用するカードは、ドラゴンが1体だけでもよい能力でなければならない。理想的には、ドラゴンがいなくてもそのカードはデッキに入れる価値がなくてはならないだろう。

 デザイン・チームが問題への解決策を探るとき、通常、過去のセットに似たような問題が無かったか振り返り、そこでの解決策を見て参考にするようにしている。そして、似た問題に直面していたセットがあることがわかった。『アモンケット』だ。

 

 『アモンケット』のストーリー上で重要なポイントは、ボーラスがこの次元をゾンビを作るための次元に変えてしまったことだ。ボーラスはゾンビを作るため、5柱の神の試練を作り出した。試練はストーリー上で非常に重要な役割を担ったため、デザイン・チームはセットの別の部分のカルト-シュと相互作用があるアンコモンのエンチャント・サイクルを作り出した。その解決策は、これらのエンチャントに出たときの効果を与え、ソーサリーのように機能させることだった。その後、カルトーシュが戦場に出るとこれらは手札に戻り、再度ソーサリー的効果をプレイすることができる。

 『タルキール:龍嵐録』のセット・デザイン・チームはこの仕組みを借用してサイクルを作成しました。ドラゴンが出てくるのはカルトーシュよりも難しいことであるため、これらの出たとき効果を強力にする余地が少しだけあった。また、チームはリミテッドでもプレイしたくなるような、一般的に有用な効果を探しもした。氏族ごとのアーキタイプに加えて、特にこのセットを何度もドラフトで遊んでくれるベテランのプレイヤーのため、プレイに多様性をもたらすためにドラゴンに着目したデッキを作れるようにすることに関心があった。

コモンの信奉者サイクル

 信奉者は、セットのデザイン的側面の異なる2つの面と接している。多色テーマを機能させるための側面と、『タルキール覇王譚』ブロック以降、氏族がどのように変化したのかの側面だ。

 まずは多色の面から見ていこう。多色セットのデザインはさまざまな理由で難しいが、最も大きい問題の1つは、プレイヤーにすべての色に簡単にアクセスできるようにするのではなく、必要なマナのみにアクセスできるようにすることだ。デッキに含まれる色の種類が増えれば増えるほど、これは難しくなる。3色セットが最も難しいだろう。4色以上については4色を中心にデザインすると、すべてのデッキが5色ごちゃまぜになってしまうリスクがあるからだ。

 セットはリミテッドと構築の両フォーマットでこの課題を解決する必要がある。リミテッドにおいては、デッキに何を入れるかをプレイヤーがコントロールしきることができないためより困難だ。プレイヤーが安定してアクセスできるよう、開封比の観点で充分な数のマナ調整カードを入れる必要がある。そのため、セットにはコモン・サイクルが2つ存在している。1つはタップ状態で戦場に出て、1点のライフを得る土地サイクルの10枚だ。もう1つが信奉者サイクルだ。

 信奉者の目的は、3色デッキで1色が少ないときにそれを補助しつつ、4色目のタッチを簡単にしすぎないことだ。また、セット・デザインは盤面の構築に役立つ、マナ供給の方法を模索していた。つまり、マナの供給手段をプレイするだけのターンにするのではなく、それをゲームに勝利するためにも役立つものにするということだ。

 さまざまな試行を経た後、セット・デザイン・チームは1ターンに1回の色変換(マナを別の色に変えること)が最も効果的であることを発見した。これらのカードは、少ない供給の色を埋めたり、複数のマナ・シンボルを持つカードをプレイするのに役に立つ。プレイ・デザインは、簡単にタッチしてほしくないカードには、同じ色のマナ・シンボルを多く配置することにした。

 セット・デザインは、それぞれの信奉者を、対応した氏族にとって強力なクリーチャーとなるようデザインした。こうすることで、最もあった色でプレイしたくなるだろう。

 このサイクルのもう1つの興味深い誕生秘話は、氏族が初登場して以降にあった最も大きな変化に関係している。マジックの最初の3色セットは『アラーラの断片』だった。このセットは、我々に3色の勢力にはそれぞれ中心となる色が必要なことがわかった。『アラーラの断片』のような弧3色(有効3色)に焦点を当てているセットの場合、3色の中で残りの2色と友好関係にある色が勢力の中心になるべきだろう。例えば緑白青の勢力のバントは、白が中心となった勢力だ。

 楔3色の場合、これは3色の中で他2色と敵対関係となる色が中心になるべきだ。しかし残念ながら、『タルキール覇王譚』の氏族ではこれを中心色とすることはできなかった。何故なら、『タルキール覇王譚』ブロックには3つのセットがあり、3つのセットすべてに対応したバージョンの氏族がいることが重要だったからだ。そして3つめのセットは友好色のセットになることが決まっていたため、氏族の中心を3色の中の敵対色にすることはできなかった。3セット目では、氏族からその色が削除されてしまうためだ。代わりに、残りの2色から中心色を決めることにした。例えば白黒緑の勢力のアブザンは、黒ではなく色を中心としていた。

 『タルキール:龍嵐録』では、もはやこの制限は存在しないものとなった。ストーリ上で氏族が再編されていくにつれ、氏族のデザイン方法を変更する権利が与えられたのだ。最終的に、我々は勢力の中心を共通の敵対色に変更することになった。これはストーリーにも反映されており、元々は龍王の勢力となっていたが、かつて失われた色を取り戻し、3色の氏族となった世界観で表現されている。この変化はセット全体で見受けられるが、特にこのサイクルは信奉者が元の色へと戻っているため非常に目立つだろう。

 私が述べたい唯一の注意点として、氏族のアイデンティティとシンボルは維持されたままであるということだ。それらの属性は、過去に中心だった色に結び付いている。セットは勢力の中心として敵対色に焦点を当てているが、過去の中心だった色への言及もいくつか残っている。

雷の布告、ズルゴ

 ズルゴには、私のお気に入りの点が2つある。1つ目は、応召メカニズムの歴史を活用していることだ。ご存じのように、応召の最も最初のバージョン(当時は大群/Hordeと呼ばれていた)では、ターン終了時にトークンを生け贄に捧げる必要がなかった。トークンは攻撃を強制されるが、生き残った場合はそのまま残ったままになる。これは強すぎると判明したため、ターン終了時に生け贄に捧げることになった。

 しかし、応召のオリジナルのバージョンは、少し強すぎたとはいえ、プレイして楽しいメカニズムだった。そのため、個別のカード・デザインでは採用する最適な候補だった。マルドゥの氏族の誰か(指導者のズルゴなど)に、我々が作成した当初のメカニズムを書くのはどうだろうか、となった。そうすればプレイヤーにストレスを大きく与えることなく、初期バージョンの応召を体験することができると考えた。

 私が気に入っている2つ目の点は、カードに「奇妙な言葉」を書けることだ。私はこれを「優れたティーザー・テキスト/good teaser text」と呼んでいる。各セットの発売前に、私はブログでティーザーを公開し、他のソーシャル・メディアでも共有し、次のセットのヒントを紹介している。例えば次は『タルキール:龍嵐録』のもので、ルールテキストの抜粋だ。「あなたがコントロールしているすべての戦士・トークンは、『このトークンは生け贄に捧げられない』を持つ。」は、カードに何故これを書くか、意図が明瞭でないため、優れたティーザーになってくれる。

 このようなテキストは、カード・デザインでできることの幅広さを示すため、書いていて楽しいものだ。一見マイナスだと思っていたものをプラスにすることができる。私はマジックのカードをデザインすることは一種の芸術だと信じている。その芸術性の一部には、これまでにないカードを作ることが含まれている。そういった意味で、ズルゴのデザインは私にとって非常に満足のいくものである。


龍の嵐の目

 本日は以上となる。いつも通り、今日の記事や『タルキール:龍嵐録』のセットそのものについての感想やフィードバックを、メールやソーシャル・メディア(BlueskyXTumblrInstagramTikTok)を通じて(英語で)送ってもらえると幸いだ。

 次回までに、『タルキール:龍嵐録』のカードであなたのストーリーを作ってみてくれ。


(Tr. Ryuki Matsushita)

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