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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

「基盤」を整えて その1

Mark Rosewater
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2024年10月28日

 

 『ファウンデーションズ』プレビュー第1週にようこそ。本日と来週の2週にわたって、マジックの入門用製品の歴史を少し語り、『ファウンデーションズ』のデザイン・チームを紹介し、このセットのデザインにまつわる物語を語り、『ファウンデーションズ』の製品ラインナップについて説明し、そしてカードのプレビュー(1枚は再録カード、もう1枚は新規カード)も行っていく。内容盛りだくさんなので、早速始めよう。

 私が好んでよく使う言葉に、「最大の強みも行きすぎれば弱みになる」というものがある。マジックの強みとは、その奥深さだ。マジックには27,000種類を超えるカードがあり、そこからカスタマイズ性の高さやバリエーションの豊かさ、戦略の奥深さが生まれている。それによりこのゲームは常に探検の余地があり、退屈とはほど遠いものになっているのだ。しかしながらその奥深さには、我々デザイン側が「入門の障壁」と呼ぶ代償がともなうのである。

 「入門の障壁」とは、そのゲームのことをまったく知らない人が遊び方を学ぶ難しさを示す。まったく知識がない状態からプレイするのに必要な知識を身につけるまで、どれくらいの時間がかかるか、という意味である。これはそのゲームの上手さの話ではなく、あくまでそれをプレイするのに必要な知識の話だ。我々の経験上、マジックの場合は以下の内容を学ぶことが欠かせないと考えている。

「トレーディングカードゲーム」の概念

 ほとんどのゲームには、必要なゲーム用品がすべて同梱されている。例えば「モノポリー」の箱を開ければ、ゲーム盤やカード、ゲーム内のお金、コマが入っている。プレイに必要なものはそれですべてだ。友人の家で友人が持っている「モノポリー」で遊んでも、同じゲーム用品で遊べる。ほとんどの人にとって、ゲームとはそういうもののはずだ。一方でマジックというゲームは箱1つに収まらず、ゲーム用品を集めてそこから使うものを選んで遊ぶ。これは通常のゲームとは一線を画すアイデアであるため、プレイヤーが早い段階で知るべきことである。

基本的なカード・タイプ

 新規プレイヤーがすべてのカード・タイプを押さえる必要はないが、初めてのゲームにおいても、少なくとも土地とクリーチャーとソーサリーは知ってもらいたい。インスタントやアーティファクト、エンチャントについても、あまり間を置かず知るべきだろう。プレインズウォーカーについてはある程度時間を置いてもよく、バトルと同族については急ぐ必要はない。

基本的な領域

 ライブラリー、手札、墓地、戦場は必須の知識であると我々は考える。追放領域については少し時間をかけ、スタックはさらにもう少し時間をかけたい。統率領域については、統率者戦について教えるまでは必須でないだろう。主要な領域の大部分は、他のカードゲームの知識があればより理解しやすいだろう。

土地の機能と呪文の唱え方

 これは重要な知識なのだが、ほとんどのプレイヤーにとって直観的でないため、教えるのが難しくもある。マジックのこの部分を教える鍵は、土地と呪文のマナ・コストとのつながりを見せることだ。

マジックの5色

 興味深いことに、マジックの5色を学ぶことは呪文の唱え方を学ぶことの対極に位置する。学ぶのは簡単ながら、遊び方を学ぶ上では、マナ・コストにおける色の役割を理解すること以外は必須の知識ではないのだ。それでもこれを早い段階で教えておきたい理由は、マジックの5色がこのゲームで最も人を惹きつける要素の1つだからである。

ターンの各ステップ

 これには、アンタップやドロー、カードのプレイ、そして攻撃の順番ややり方を学ぶことも含まれる。ステップやフェイズについての詳細まで知る必要はないが、ターンの流れを感覚的に掴んでもらいたいところだ。タップやアンタップのタイミングも、初心者の泣き所の1つである。

攻撃のやり方とダメージの扱い

 これが3つ目の、新規プレイヤーが学ぶのに苦労する部分である。どうしても、対戦相手ではなく対戦相手のクリーチャーを攻撃したくなるものなのだ。詳しく教える必要はないものの、クリーチャーがどのようにゲームを終わらせるのかと、攻撃やブロックの基本は押さえておきたい。

 以上の要素をしっかり学べば、あとは遊び方を少し教わるだけでマジックをプレイするのに必要な知識が身につくだろう。

 ゲームの構成要素の複雑さに加えて、もう1つ大きな問題がある。それは、新規プレイヤーがそのゲームを学びだすハードルの高さだ。例えばチェスの遊び方を学ぶのは難しくない。コマは6種類で、基本的なルールは紙1枚に収まるだろう。しかしながら、このゲームは遊び方の基本の先にこそ学ぶことが多くある。ゲーム・デザイナーは、そのゲームをプレイしない人々がどのように受け止めるかを考えなければならない。チェスは高度な知的ゲームであると思われており、学びだすハードルが高いのだ。

 マジックは複雑なゲームでありながら、学びだすハードルも高い。30年以上にわたって積み重なってきたカードと、印刷すれば10cm以上の厚みにもなる総合ルールを学ぶのは、極めて困難なのだ。この記事が公開される頃には、私はマジック開発部での勤続29周年を迎えているだろう。その29年にわたり、我々は新規プレイヤーにこのゲームを教えるための最善の方法を模索し続けてきた。このゲームの難しさを見れば、新規プレイヤーを導くのも難しいことは明らかであろう。

 私がウィザーズへ入社した当時、我々は「ARC system」と呼ばれるものを試した。

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「ARC system」のカード裏面

 このアイデアの根底にあったのは、「マジックのシンプル・バージョン」だった。色は5色ではなく3色で、カード・タイプも土地、クリーチャー、ソーサリー、インスタント(ただし唱えられるのは戦闘中のみ)に相当するものだけだった。我々は「ARC system」を3つ制作した。1つは人気コミック・アーティストのジム・リー/Jim Lee氏によるオリジナル・ストーリー「C-23」をテーマにしたもの。他の2つはテレビ番組「Hercules and Xena」と「Warrior Princess」をもとにしたものだった。ここで初めて、ユニバースビヨンドのようなものに取り組んだとも言えるだろう。

 「ARC system」は失敗し、我々は次に「ポータル」と呼ぶものを試した。これもマジックのシンプル・バージョンを意図したものだったが、今度は実際のゲームに近づけて作った。「ポータル」では色は5色でマジックのマナ・シンボルをすべて揃え、裏面もマジックと同じだった。既存のマジックのセットからの再録カードもあった。「ポータル」のカードは通常のマジックのデッキに入れても機能するようにデザインされていたが、その核となる理念はマジックのシンプル・バージョンを作るというものだった。「ポータル」には、土地とクリーチャー、ソーサリーの3種類のみ収録した(インスタントのように機能するソーサリーもあったが)。また、用語も変更されており、例えばブロックは「迎撃/Intercept」と呼ばれていた。

 収録カードはすべてマジックのデッキで機能するものだったが、新規カードは構築フォーマットで使用できず、「ポータル」のプレイヤーとマジック・プレイヤーは区別された。それから数年後、我々は「ポータル」のカードをすべてエターナル・フォーマットで使用できるようにした。「ポータル」では『ポータル』、『ポータル・セカンドエイジ』、『ポータル三国志』の3つのセットが制作された。『ポータル三国志』はアジア市場向けに制作されたものであり、有名な歴史小説「三国志演義」をもとにしたものだった。中でもこのセットでは、飛行が「馬術/Horsemanship」に変更されている点が有名だろう。

 次に我々が試した初心者向け製品は、「スターター」と呼ばれるものだった。「スターター」もマジックのシンプルな部分に焦点を当てた製品だが、用語も異なる別製品として制作するのではなく、マジックのサブセットという立ち位置だった。土地とクリーチャー、ソーサリー、それから少量ながらインスタントもサンプルとして収録された。クリーチャーは常盤木能力を持ち、タップ能力は持たなかった。ランダム封入のブースターパックについても教えるため、「スターター」はブースターボックス製品だった。たしか、1ターンずつ順を追うティーチングのアイデアが採用されたのはこの製品が初めてのことだったと思う。プレイヤーは互いに特定の順番に並べられたデッキを使い、ガイドブックを見ながら決められた流れに沿ってゲームを学ぶのだ。この1ターンずつ順を追うティーチングの手法は、マジックを教える手段として最大の発見の1つだった。「スターター」は『Starter 1999』と『スターター2000』の2製品が作られた。

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 『第7版』より、基本セットに「スターターセット」が組み込まれた。初めてのゲームのチュートリアルに加えて、『第7版』では同梱のデッキ同士を対戦させられるCD-ROMのチュートリアルも同梱されていた。『第7版』では、コンピューターがデッキをどのようにプレイするかを決めるコードの屋台骨となるロジックを書くことも、私の仕事の1つだった。私はまずコンピューターがカードをプレイする優先順位を決め、それからカードを使う順番のロジックを組み上げていった。例えばクリーチャー1体を破壊するカードについては、破壊対象の優先順位をプログラムへ与えたのだ。これは最新AIを搭載というわけではなかったが、初心者に楽しいゲーム体験を提供する点でうまくいった。CD-ROMのチュートリアルのおかげで、新規プレイヤーはしばらく1人で練習でき、自分のペースで基本的な戦略を学んでから他のプレイヤーとプレイできた。これがのちに、デジタル・チュートリアルへと姿を変えることになるのだった。

 我々はその後も、基本セットとスターター製品でさまざまなことを試した。ティーチング・マニュアルのレイアウトも色々と実験した。驚くことではないかもしれないが、絵や写真を使うのは非常に有益だった。構築済みデッキもさまざまな形を試した。デジタル・ティーチングツールを増やすことを含め、さまざまな媒体を用いてティーチングを提供した。中でも大きな飛躍のきっかけとなったのが、「デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ」と呼ばれるビデオゲームであった。2009年にビデオゲーム機向けにリリースされたこのゲームは、デジタルを活用するティーチング手法に大きな利点があることを示したのだった。

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 「デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ」をプレイすることで、プレイヤーそれぞれが自分のペースでマジックを学ぶことができ、学び方を自己管理しやすくなった。そして特に重要なのが、他に人間の判断を挟まず学べることであった。新しいことを学ぶ際に時間がかかっても、コンピューターは待ってくれる。またビデオゲーム機でプレイするため、家でゆっくりと学べるのだ。

 ティーチング技術の次なる飛躍は、「ジャンプスタート」だった。ジャンプスタートは、ダグ・ベイヤー/Doug Beyerが運用するハッカソン・プロジェクトの1つとして始まった。このプロジェクト発足のきっかけは、デッキ構築をより簡単にする方法を探すことだった。長年の経験から、デッキ構築がマジックを学ぶ上で大きな障壁の1つになっていることを我々は学んでいたのだ。構築済みデッキという手もあるが、我々が目指したのは、プレイヤーが手間をかけすぎずにデッキ構築に関与する方法を見つけることだった。そして(さまざまなアイデアの探検を経て)ダグが提案したのが、さまざまなハーフデッキの中から選んでデッキを完成させるというシステムだった。ハーフデッキを2つ選んで、1つに合わせるのだ。

 コンセプト自体はシンプルだったものの、これを実装するには複雑な工程が必要になることがわかった。どれを組み合わせても成り立つハーフデッキを複数作成し、その上で各ハーフデッキに独自のメカニズム的テーマを持たせるなど、一体どうすればいいのか? たとえ仕組みをすべて築くことができても、そのような製品を印刷する方法を見出すのがまた大変な仕事だった。提携している印刷業者とともに、これまでにない挑戦が求められたのだった。

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 初代『Jumpstart』は2020年に発売され、大ヒットとなった。我々は続けて2年後に、『ジャンプスタート2022』を世に出したのだった。

 さて、こうして入門用製品の歴史を語ったのは、これが『ファウンデーションズ』の制作につながるためだ。

 『ファウンデーションズ』制作の経緯を語る前に、まずはこのセットのデザイナーを紹介しよう。『ファウンデーションズ』は基本セットをモデルとしているため、展望デザインがなく、直接セット・デザインに移行する。いつもの通りチームの紹介はリード・デザイナーにお願いし、今回はブライアン・ホーレイ/Bryan Hawleyに紹介してもらう。彼自身のことも3人称で紹介しているが、それに惑わされないように。

クリックして『ファウンデーションズ』のセット・デザイン・チームを表示


 『ファウンデーションズ』は、ある古いアイデアから始まった。我々は長年にわたり、それこそ私がウィザーズに入社して間もない頃から、常設の基本セットのアイデアを議論していた。我々はそれを「究極のベース・セット」とよく呼んでいた。これまで実現には至っていなかったものの、常設の基本セットのアイデアは数年おきに挙がっていた。ある日、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheと彼の直属の部下たちが、2024年発売の製品の最後の1枠をどうするかについて話し合っていた。

 その当時は、さまざまな問題が渦巻いていた。我々は新規プレイヤーの入門を後押しする製品に挑戦しており、マジック製品の発売数を減らす方法を検討していた。新たな「ジャンプスタート」セットを導入する最適な場所も探していた。会議を重ねる中で、それらの問題を一度に解決する製品があることに気づいた。これまでずっと作ろうと話してきた、常設の基本セットである。

 「いよいよこれを作るというのはどうだろう?」と、アーロンが尋ねたのだった。

 基本セットはこれまで、廃止と再開を繰り返してきた。新規プレイヤーの着地点としては気に入っていたのだが、定期的に基本セットが入れ替わることに問題があった。例えば基本セットが入れ替わる場合、その都度スタンダード環境に合わせ続けなければならない。その点入れ替えのない製品を1つ作るだけなら、入門用製品として一貫したものを作り上げられるのだ。また基本セットに毎年注目しなくてもよくなることで、既存のプレイヤーが力を入れなければならないものが1つ減る。そして新規プレイヤーにとっては、マジックを始めるのに良いスタート地点が常にある状態になるのだ。

 そのような基本セットを作ると決めた我々が次に取り組んだのは、どんな内容にするかだった。ブライアン率いるセット・デザイン・チームは、まずは過去を振り返り、30年にわたるティーチングの歴史から学ぶ必要があると判断した。そこでチームは大きな学びを2つ得ることになるのだが、本日はここまで。来週に改めて語っていこう。

 本日の記事を終える前に、プレビュー・カードを2枚お披露目する。1枚は人気の再録カード、もう1枚は新規カードである。

 早速再録カードから始めよう。

 以下に、そのカードについてのヒントをいくつか掲示する。どのカードかわかった時点で、下の欄をクリックしたまえ。

 ヒント1:何年も前に私がデザインしたカードである。

 ヒント2:私はずっとこのカードのファンであるが、開発部に受け入れられるまでには少々時間がかかった。

 ヒント3:このメカニズム的テーマはプレイヤー人気が高く、開発部は近年、その数を増やしている。

 ヒント4:初出は『ラヴニカ:ギルドの都』である。

 ヒント5:緑のカードである。

クリックしてカードを表示

 2枚目は《忘れ去られし伝承のスフィンクス》という名の新規カードである。

クリックして「忘れ去られし伝承のスフィンクス」を表示

「基礎」の応用

 本日はこれで以上だ。私から見る『ファウンデーションズ』のその1を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、本日の記事や『ファウンデーションズ』に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)TumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、その2でお会いしよう。

 その日まで、あなたが一緒に楽しくマジックを始められる友人を見つけられますように。


 (Tr. Tetsuya Yabuki)

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