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Making Magic -マジック開発秘話-
「2in1」の歴史 その2
2024年10月21日
先週、1枚のカード用紙で2枚分のカードが表現された「2in1」カードの物語を始めた。「2in1」カードの定義を「カード名が2つあり、アートも一部例外を除いて2つあるもの」とし、2015年の『マジック・オリジン』で登場した変身するプレインズウォーカーまで振り返った。本日は続きを語ることにしよう。
『イニストラードを覆う影』と『異界月』
2016年の『イニストラードを覆う影』では、イニストラード次元を再訪した。両面カードは初代『イニストラード』の市場調査で最も人気を集めた「メカニズム」となっていたため、我々が再びそれを必要としたのは必然だった。今回も両面カードには独自のシートが用意され、変身する両面カード33種類が収録された。このセットでは変身する両面カードの可能性を押し広げ、第1面がエンチャントや土地、ソーサリーであるものが登場した。またこのセットでは狼男のプレインズウォーカーである《アーリン・コード》が初登場し、人間の面と狼男の面が用意された。
続く『異界月』でも、全15種類の変身する両面カードが収録された。うち14種類は無色のパーマネントに変身し、イニストラードへ引き寄せられたエムラクールによる影響が表現されていた。ここで導入された大きな革新が、「合体」と呼ばれるメカニズムを用いる3組のカード群だ。どちらもパーマネントである2枚が1組になっており、組を成す2枚が両方戦場にあるなら、それらを追放して第2面を「合体」させ、巨大なクリーチャー・カードにして戦場に戻すというものである。合体カードはコモンとレアと神話レアに1組ずつ用意された。
「合体」は、 分割カードの発想元である『Unglued』の《B.F.M.》の派生である。「2in1」カードの元祖とも言える《B.F.M.》は『Unglued』で最も高い人気を集め、開発部はエターナルで使用できる形で同様のものを実現するべく実験を重ねた。これに熱心に取り組んだのが、デザイナーのケン・ネーグル/Ken Nagleだった。彼はもともと『新ファイレクシア』で、他のクリーチャーと結びつけられる「接続/link」と呼ばれるメカニズムに挑戦していた。クリーチャー同士をつないで、各カードの要素をあわせ持つ1つのクリーチャーにするメカニズムだった。しかしそのアイデアを実現するための適切なルールを見い出せなかったため、ケンは諦めざるを得なかった。
両面カードが導入されたのは、まさにその次のブロックでのことだった。それはケンの心を奮い立たせた。エターナルで使用できる《B.F.M.》を作るなら、2枚を手札に揃えるのではなく変身する両面カード2枚の第2面を使うのはどうか? ケンがその発想に至った頃には、もう『イニストラード』と『闇の隆盛』は世に出ていた。だから彼は、そのアイデアを試すためにイニストラードへの再訪を待たねばならなかった。幸運にも『異界月』にはエルドラージ化のテーマがあり、クリエイティブ面も「合体」のアイデアと結びついた。
特定の2枚を同時に戦場に存在させるというのは容易でないことがわかり、ケンは最終的にこのメカニズムをレアリティの異なる3組に絞った。「合体」カードは大いに好評を集め、特に《悪夢の声、ブリセラ》となる2体の天使は人気だった。
デザイン史の観点から見ると、「合体」はそれまでデザイナーが手を出せなかったリソースを両面カードが供給することを見せてくれた。それによりさらなる革新の余地が生まれ、新たなデザインを実現できるようになったのである。
『アモンケット』と『破滅の刻』
2017年の4月に、エジプトの神話と歴史に影響を受けた『アモンケット』が発売された。このセットのテーマの1つが墓地であったため、我々はその領域を扱う新たなメカニズムをデザインした。「余波」と呼ばれるそのメカニズムは、分割カードから着想を得た。分割カードから変えた部分は、どちらの側をプレイするか選ぶのではなく、上側を手札から、下側は墓地から唱えるようにしたことだった。これにより、順番は決まっているものの両方の呪文をプレイできた。余波カードには新たなフレームが用意され、上側が縦向きに、下側が横向きに印刷された。墓地では横向きにすることで、そこに唱えられる呪文があることを忘れないようにできたのだ。余波のゲームプレイ面はおおむね好評だったが、レイアウトが大きな誤りであると多くの顧客に受け止められた。『アモンケット』には、対抗色のアンコモンのサイクル1つとレアのサイクル2つ(1つは両方とも同じ色のサイクル、もう1つは友好色のサイクル)で全15種類の余波カードが収録された。
反転カードや「余波」に見受けられるように、「2in1」カードの作成には「フレームをどのようにするか」という議題がつきものだった。2枚目のカードをフレームに収めるためにフレームのデザインがよく間違いを起こし、見た目が悪くなったりゲームプレイ上で混乱を生んだりしてきたのだ。
続くセット『破滅の刻』ではさらに2つの「余波」サイクルが登場した。友好色のアンコモンのサイクルと、対抗色のレアのサイクルである。その後も余波は、『モダンホライゾン2』と『ニューカペナの街角』統率者の2度にわたり、それぞれ1枚ずつ新たなデザインで姿を見せている。
『イクサラン』と『イクサランの相克』
変身する両面カードは我々が作るたびに大ヒットを飛ばした。その様子を見た開発部は、自由に使える貴重なリソースを得たのだと気づいた。我々は、両面カードをもう少し頻度を上げて使えると判断した。両面カードは我々が「落葉樹」と呼ぶ、あらゆるセットで使えるわけではないもののデザイナーが必要としたときにいつでも使えるメカニズムとなったのだった。両面カードには管理上の問題が多くあるため、使う時と場所には慎重になることが求められた。
2017年の6月に、『イクサラン』が発売された。このセットは探検を中心に据えたセットであり、我々はエキサイティングな土地を求めたが、強力な土地はバランスを取るのが難しいことを理解していた。土地にはマナ・コストがないからだ。我々の探究の目玉となったのは、『ウルザズ・サーガ』の《ガイアの揺籃の地》だった。オーバーパワーにならないよう制限をかけながらも、《ガイアの揺籃の地》のようなカードを使えるようにする方法はあるだろうか? その答えが変身する両面カードだった。第1面はパーマネントで、達成すべきタスクが書かれている。それを達成すれば、そのカードは強力な土地に変身するのだ。これは探検のフレーバーと強力な土地を使える感覚をよく捉えた。このセットには最終的に10種類の変身する両面カードが収録された。すべてレアで、土地に変身するものだった。
これは、両面カードというツールをより限定的に用いた例である。『イクサラン』の変身する両面カードは、『マジック・オリジン』の変身するプレインズウォーカーの先例にならい安定感よりも派手さを重視した。時を重ねるほどに、我々は両面カードのデザイン領域の広さを知っていったのだ。
『イクサラン』に続く『イクサランの相克』では、この次元の「ランドマーク」を表現した変身する両面カードが7種類登場し、いずれも特別な土地を発見することを表現していた。うち6枚はレアで、1枚は神話レアだった。
『基本セット2019』
2018年には、『基本セット2019』で基本セットが帰ってきた。セット名を1年先にしたのは、1年後も販売が続いているからである。ここで我々が挑戦した新しいことの1つは、前回の基本セット『マジック・オリジン』でやったようにセット全体のテーマを強く推し出すことだった。『基本セット2019』では、ニコル・ボーラスがテーマだった。このセットには彼の生涯に関わるキャラクターが多数登場した。そしてニコル・ボーラス自身も可能な限りエキサイティングなものにするため、デザイン・チームは『マジック・オリジン』のプレインズウォーカー・サイクルと同じく両面カードにした。このカードの変わった点は、これがセット全体で唯一の両面カードであることだった。この1枚のために印刷シートを増やし、適切にデザインされた変身する両面カードの可能性を示したのである。
『ラヴニカのギルド』と『ラヴニカの献身』
2018年の後半には3度目のラヴニカ訪問となる『ラヴニカのギルド』と『ラヴニカの献身』が発売され、2セットにまたがる10枚の分割カードのサイクルが2つ登場した(アンコモンとレアに1つずつ)。このサイクルは、カードの片方が混成マナの2色カードで、もう片方が混成でない2色のカードだった。混成マナの側の呪文はコストが低く設定されていた。
『エルドレインの王権』
2019年、『エルドレインの王権』が発売された。エルドレインはアーサー王伝説やヨーロッパのおとぎ話に着想を得た次元であり、おとぎ話の出来事を表現するコンセプトを生み出すべく我々は多くの時間をかけた。展望デザインでもいくらかの試みを行ったが、先にインスタントやソーサリーとして唱えることができるクリーチャーのメカニズムは、セット・デザインが編み出したアイデアだった。プレイヤーに2つの選択肢を与える点は分割カードに似ているが、このメカニズムでは常に片方がインスタントやソーサリーで、もう片方がクリーチャーだった(とはいえ片方がパーマネントであること以外に決まりはない)。「当事者カード」では、我々がこれまで取り組んできた「2in1」カードの要素を取り入れた。「融合」のように2つの呪文を両方プレイでき、「余波」のようにプレイする順番が決まっているのだ。
「当事者カード」はまずインスタントやソーサリーの側を唱えると、そのカードは追放され、後でクリーチャーの側をプレイできる。『エルドレインの王権』では、コモンに単色のサイクル2つと白と緑にもう2枚ずつの全14種類の「当事者カード」が登場した。白と緑は、「当事者」のドラフト・アーキタイプを構成する2色だった。それからアンコモンに9種類、レアに5種類、神話レアに2種類の当事者カードが収録された。当事者カードのインスタントやソーサリーの側を他のカードで参照できるよう、「出来事」のサブタイプが使われた。
市場調査によると、「当事者カード」は『エルドレインの王権』で最も高い評価を受けたメカニズムだった。このことにより我々は、「2in1」カードはプレイヤーに受け入れられやすいと認識を新たにしたのだった。
『ゼンディカーの夜明け』、『カルドハイム』、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』
2020年の『ゼンディカーの夜明け』にて、新型の両面カード「モードを持つ両面カード(MDFC)」が登場した。変身する両面カードでは常に第1面を唱え、その後第2面に変身できた。モードを持つ両面カードは両方の面にマナ・コストが設定されており、片方の面を唱え、残りのゲームの間はそちらの面であり続けるというものだった。モードを持つ両面カードのアイデアは、『イニストラード』のデザインにおいて我々が初めて変身する両面カードを扱っていたときに思いついていた。
モードを持つ両面カードが分割カードに着想を得ているのは明らかだが、分割カードにはできないこともできる。分割カードで使えるのはインスタントやソーサリーに限られるが、モードを持つ両面カードはどのカード・タイプでも作れるのだ。我々はモードを持つ両面カードをただの分割カードにしたくなかったため、片方の面は常にパーマネントにするというルールを定めた。分割カードには収められない長いテキストを持つインスタントとソーサリーを両面に配することも理論的には可能だが、いまだそのようなデザインは作られていない。
モードを持つ両面カードは当初『ストリクスヘイヴン:魔法学院』のために作られたものだったが、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheがそのデザインへの理解を深めることに興味を示した。彼は私に、モードを持つ両面カードの可能性を探るミニ・デザイン・チームを率いてほしいと求めた。ミニ・チームはモードを持つ両面カードのデザイン領域の広さを探るため、マジックの1年間に発売される基本セットを除く3セットすべてにおいて、それぞれ異なる形でモードを持つ両面カードを収録することにした。それは、同じ年に発売されるセット全体にまとまりを持たせる実験の一環でもあった。この実験は、私が期待したほどの成功は収められなかった。メカニズム的な統一感が欠けておりつながりが感じられず、ブロック構造を辞めるに至ったときの感覚を思い出すものだったのだ。
『ゼンディカーの夜明け』収録のモードを持つ両面カードはすべて、第2面がマナを生み出す土地だった。アンコモンとレアに、第1面が呪文で第2面がタップ状態で戦場に出る土地のサイクルがあった。それからレアにはもう1つ、どちらの面もアンタップ状態で戦場に出る2色土地のサイクルもあった。そして神話レアには、第1面が呪文で第2面は3点のライフを支払うことでアンタップ状態で戦場に出る土地のサイクルが用意された。いずれも第1面が呪文の面となっており、土地を持ってくる呪文で持ってこられないようにしていた。モードを持つ両面カードの土地は、大好評だった。
続く『カルドハイム』では、12体の神々にモードを持つ両面カード(のほとんど)が使われた。また、『ゼンディカーの夜明け』で始まった2色土地のサイクルもここで揃った。神はそれぞれ第1面が伝説のクリーチャーで、第2面はその神とフレイバー的に結びつくパーマネントになっていた。神々はレアと神話レアにのみ用意された。プレイヤーたちは神々を気に入ったが、モードを持つ両面カードの土地ほどのヒットとはならなかった。一般的に土地の方が有用であり、シンプルであったことがその理由の一端であろう。
この年3つ目の基本セットでない本流のセットである『ストリクスヘイヴン:魔法学院』でも、モードを持つ両面カードが使われた。全16種類で、11種類はレア、5種類が神話レアである。このセットではインスタントやソーサリーに焦点を当てていたため、モードを持つ両面カードもそれに合わせて、片方の面がパーマネントでもう片方がインスタントやソーサリーになっていた。またこのセットには、どちらの面も単色で、両面で対抗色を成す伝説のクリーチャー「学部長」のサイクルもあった。さらに、双子のローアンとウィルを表現したモードを持つ両面カードや、相棒の動物を片面に据えたモードを持つ両面カードのプレインズウォーカー、ルーカもいた。学部長は、開発部にとって良い学びの機会となった。モードを持つ両面カードは、第2面の情報量を制限して第1面を見たときに第2面も思い出せるようにできたときこそ最大の効果を発揮することがわかったのだ。これも「2in1」カード全体に言えることであり、2枚のカードを把握すること自体が難しいため、複雑さには気をつけなければならないのである。
『イニストラード:真夜中の狩り』と『イニストラード:真紅の契り』
2021年の『イニストラード:真夜中の狩り』で、我々は再びイニストラードを訪れた。変身する両面カードが初登場したのがイニストラードであり、この舞台ならではの要素の大きな部分を占めているため、それを再び使わない理由はなかった。初代『イニストラード』には変身する両面カードで表現された狼男のメカニズムがあったが、それには名前がついていなかった。『イニストラード:真夜中の狩り』では、変身する両面カードで表現される新規メカニズムが2つ登場した。1つは「日暮//夜明」。ついに狼男のメカニズムに名前がつき、狼男以外にも使える名前が与えられた。
「日暮//夜明」には、実装上の問題がいくつもあった。もともとは人間が狼男に変身する(あるいはその逆の)メカニズムとして作り上げたため、『イニストラード:真夜中の狩り』に限らず人間や狼男に強制的に変身するデザインだった。その仕組みを取り除こうとした我々は昔の狼男を修正する計画だったが、それは果たされず、新旧の狼男が共存する奇妙な状況になった。我々はまたルール・テキストを最小限に抑えるため、「日暮//夜明」が関わるカードがない状態では日暮と夜明を記録するマーカーが出ないようにした。しかしそれは、メカニズム的な理由がなくとも記録はしなければならない状況を作り出すことになった。
もう1つのメカニズムは、両面カードで『アモンケット』の「余波」に似た機能を持つ「降霊」である。「降霊」は第1面は手札から唱え、第2面はあなたの墓地から唱えることになる。降霊は、白青のスピリットと結びつく「幽霊」のメカニズムだった。『イニストラード:真夜中の狩り』では、第1面が常にスピリットでないクリーチャーで、第2面がスピリットのクリーチャーとなっていた。
『イニストラード:真夜中の狩り』では他にも闇夜の変身を表現した変身する両面カードがいくつか個別にあり、合わせてコモンにサイクル2つの10種類、アンコモンに23種類、レアに11種類、神話レアに5種類が収録された。
続く『イニストラード:真紅の契り』でも、引き続きイニストラードが舞台となった。我々が2セット連続でイニストラードを舞台にしたのは、変身する両面カードをかつてのブロック構造のときと同じように扱っていたからだった。狼男は引き続き「日暮//夜明」を持つなど2セットにまたがり続く要素もありながら、「降霊」メカニズムではオーラになるスピリットが表現されるなど新しい要素もあった。また『イニストラード:真夜中の狩り』と同じく、『イニストラード:真紅の契り』にも独立した変身する両面カードがあった。各レアリティにおける収録枚数は、『イニストラード:真夜中の狩り』と同じだった。
『神河:輝ける世界』
2022年、『イニストラード:真紅の契り』に続くセット『神河:輝ける世界』でも変身する両面カードが使われた。当初はこのセットで変身する両面カードは使われていなかったが、セット・デザイン・チームが、展望デザイン・チームから渡されたコンセプトを実現するのに変身する両面カードが最適だということに気づいた。全23種類の変身する両面カードはすべて英雄譚であり、最後の章能力の後に生け贄に捧げるのではなくクリーチャーに変身するものだった。それらの英雄譚はこのセットの焦点となる「伝統と革新」のうち「伝統」側に属し、白と黒、緑を中心にクリーチャーに命を吹き込む物語のフレイバーを表現していた。全23種類のレアリティの内訳は、コモンが6種類(1つのサイクルと白にもう1枚)、アンコモンが8種類(1つのサイクルと白、黒、緑にもう1枚ずつ)、レアが6種類、神話レアが3種類である。
『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』
2022年6月には、ダンジョンズ&ドラゴンズとの2つ目のコラボセットである『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』が発売された。「当事者カード」はD&Dのフレイバーに完璧にフィットするように感じられた。このセットではクリーチャーではなくアーティファクトである当事者カードが登場し、冒険の中で見つけた宝物が表現された。このセットには、コモン13種類、アンコモン10種類、レア7種類の全30種類の当事者カードが収録された。
『兄弟戦争』のトランスフォーマー・カード
2022年には、『兄弟戦争』の一部として「トランスフォーマー」のキャラクターに注目したユニバースビヨンド・カードを世に出した。トランスフォーマー・カードは、変身する両面カードとモードを持つ両面カードを組み合わせた新規メカニズム「見た目以上のもの」を持っていた。どのカードもトランスフォーマーのロボット状態と機体状態が両面カードで表現されていた。機能的にはどちらの面で唱えることもでき、そこからもう一方の面に変えることもできた。トランスフォーマーの変形する性質を捉えるのに、両面カードは完璧なツールだった。なお機能としては同じだが、これらは「変身」ではなく「トランスフォーム」するということは特筆しておきたい。
『機械兵団の進軍』
2023年の『機械兵団の進軍』では、各ブースターに変身する両面カードの出現枠が2つ用意され、広い範囲で使われることになった。2枠のうち片方は新たなカード・タイプ「バトル」専用の枠で、そこから我々がこのセットで導入した「包囲戦」のバージョンが出現した。包囲戦はすべて、対戦相手1人が第1面を守る形になっており、守備値に対応した守備カウンターが置かれる。守備カウンターは攻撃によって取り除かれ、最後の1個が取り除かれるとそれは「倒された」ことになり追放され、第2面を唱えることができる。バトルは、史上初となる横向きのパーマネントだった。
我々はバトルを落葉樹であると公言しているが、新たなバトルはいまだに印刷されていない。現在デザイン中のセットにはバトルの採用を検討しているものもあるが、包囲戦とは限らないだろう。『機械兵団の進軍』ではアンコモンに20種類(単色のサイクル2つと2色10枚のサイクル1つ)、レアに11種類、そして神話レアに5種類のバトルが収録された。
このセットでは他にも変身する両面カードが使われ、さまざまな次元の住民が完成化しファイレクシアンになったことが第2面で表現された。それらはすべて、カードの色とは別の色のファイレクシア・マナを含む起動コストを持ち、それを支払うことで変身した。第2面は混成カードのようにデザインされており、起動コストの色を感じさせるものでありながら、厳密には元のクリーチャーのマナ・コストのカラー・パイに沿っている。これらの両面カードは、ファイレクシアによる侵攻の結果を表現するために使われた。変身するファイレクシアン・クリーチャーはコモンに5種類、アンコモンに10種類、レアに5種類収録され、すべて単色のサイクルを構成していた。各色とも、他の4色を起動コストに含むものが4枚ずつあった。
それからもう1つ、神話レアの伝説のファイレクシアン・法務官のサイクルでも変身する両面カードが使われた(すべて単色)。それぞれ起動型能力を持ち、英雄譚に変身することができた。その英雄譚の最後の章能力が解決されると、再び法務官に変身するデザインだった。
『エルドレインの森』
2023年の9月発売の『エルドレインの森』では、エルドレイン次元を再訪した。「当事者カード」は初出時に最も人気を集めたメカニズムであったため、再登場は必須であると我々も理解していた。『エルドレインの王権』の当事者カードはすべてクリーチャーであった。『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』でアーティファクトのバージョンが導入された。そして『エルドレインの森』では、エンチャントの当事者カードが登場した。このセットには、それまでで最多となる51種類の当事者カードが収録された。コモンに14種類、アンコモンに17種類、レアに13種類、神話レアに7種類あり、単色のエンチャントのサイクルもあった。なお当事者カードは数が少なくても人気を集めることが証明されており、『Unfinity』や『Doctor Who』統率者デッキ、『イクサラン:失われし洞窟』、『カルロフ邸殺人事件』、『Fallout』統率者デッキ、『モダンホライゾン3』、『ブルームバロウ』統率者デッキでも姿を見せている。
『イクサラン:失われし洞窟』
2023年の『イクサラン:失われし洞窟』で、我々はイクサランを再訪した。以前のイクサランを舞台とするセットにも変身する両面カードがあったため、当時採用した土地に変身するパーマネントという実装方法を再び使うことにし、今回はアンコモンに3つ用意した。このセットには他にも13種類の変身する両面カードのレアがあり、合計で16種類の「ランドマーク」両面カードが収録された。
このセットでは、「作製」と呼ばれる変身する両面カードならではの新たなキーワードが登場した。作製メカニズムはマナ・コストを持ち、追加コストとして特定のカードを追放することが求められる。作製を持つカードはすべてアーティファクトに変身し、さまざまな材料からアイテムを作製するフレイバーが表現されており、地底世界のフレイバーも加わっていた。作製はコモンに5種類(単色のサイクル)、アンコモンに9種類、レアに4種類、神話レアに1種類収録された。
『カルロフ邸殺人事件』
2024年の『カルロフ邸殺人事件』にて4度目のラヴニカ訪問を果たした我々は、分割されたカードが両方混成カードである新たな分割カードを作成した。それらは左側がコストの軽いインスタントで、右側はコストの重いソーサリーになっていた。分割されたカードはそれぞれ異なる色の組み合わせだが1色を共有し、合わせて楔3色を構成していた。
『モダンホライゾン3』
『モダンホライゾン3』は、初めて両面カードが採用された「モダンホライゾン」セットだった。また変身する両面カードとモードを持つ両面カードが両方収録されたのも初めてであり、それぞれの両面カードの特に評価が高いものが使われた。変身する両面カードでは「変身するプレインズウォーカー」が採用され、伝説のクリーチャーからプレインズウォーカーへ変身する新たな神話レアのサイクルが作られた。変身するプレインズウォーカーをもっと作ってほしいという声は数年にわたり寄せられていたため、このセットで実現することにしたのだ。「モダンホライゾン」ならではの幅広さを活かし、人気のプレインズウォーカーを選ぶことができた。
モード持つ両面カードでは、『ゼンディカーの夜明け』と同じく第1面が呪文で第2面が土地であるものが収録された。これは全20種類で、すべてアンコモンだった。それから単色のものが2種類と、混声カード10枚のサイクルもあった。
『ダスクモーン:戦慄の館』
こうして、私が今回の記事を書くきっかけとなったメカニズム、「部屋」へたどり着いた。ダスクモーンは、次元全体に広がる呪われた館である。そのためこのセットでは、先行デザインの段階から部屋に関わるメカニズム的コンセプトを捉えることが求められた。デザイン初期には、別デッキを用意したり、複数の部屋が描かれたカードの上を人型のコマで移動したりなど、奇抜なアイデアをいくつも試した。その中で「複数の部屋」という部分が最後まで残った。このセットには部屋が必要であり、カード1枚に1つの部屋では十分に思えなかったのだ。
それを解決したのが、最初の「2in1」メカニズムである分割カードだった。戦場に2枚分のカードのパーマネントを展開するのはどうだろうか? モードを持つ両面カードが似たようなものではあったが、パーマネントの分割カードはこれまでやったことがなかった。最大の問題は2枚のカードが物理的につながっている点で、片方だけ動かすというのができないことだった。さらに重大なことに、どちらの側もタップができなかった。だが幸運にも『ダスクモーン:戦慄の館』の主要なカード・タイプはエンチャントであり、エンチャントはタップの必要がなかった。
「部屋」は他の「2in1」カードでやっていたものの分割カードでは難しいことを実現できた。片方を唱えて、後でもう片方を唱えるという動きもその1つだ。閉鎖されているドアという考えをもとに、我々は分割された2枚を個別に使えるメカニズムを作り上げた。その後「エンチャント重視」のメカニズムである「違和感」を調整しドアを開放することも参照するようにして、部屋で違和感を2回誘発させられるようにした。
『ダスクモーン:戦慄の館』には23種類の「部屋」が収録された。レアリティの内訳はコモンに7種類(単色のサイクル1つと、部屋のアーキタイプである青赤にもう1枚ずつ)、アンコモンに6種類、レアに5種類、神話レアに5種類(単色のサイクル)である。部屋の多くは分割された2枚とも同じ色だが、異なる色になっているものが3種類ある(これも青と赤に集中している)。『ダスクモーン:戦慄の館』統率者デッキには、別途5種類の部屋が収録されている。
こうして記事を書きながら振り返ってみると、時を経て成長していく「2in1」カードの発展ぶりに興味が尽きない。最初のものが世に出るまで7年の歳月がかかり、2つ目はそれから4年後、3つ目はまた7年後というペースだったのが、その後は定期的に姿を見せるようになっていったのだ。
その理由は3つ挙げられる。1つはプレイヤーに人気であること。2つ目はマジックが発展するにつれて、我々がカードフレームをデザイン・ツールとして使うことに積極的になっていったこと。3つ目は、30年以上マジックを作っている我々は未踏のデザイン領域を探し求めており、目を向ける範囲を広げていることだ。「2in1」カードのデザインは、今後も探検と発展を続けていく領域であると私は予想している。
タンゴは1人じゃ踊れない
以上、今回は「2in1」の歴史を振り返った。マジックのデザインの進化の一端を見る2編のコラムを楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、本日の記事や私が取り挙げた「2in1」カードに関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『ファウンデーションズ』のプレビュー開幕でお会いしよう。
その日まで、あなたが用途の広いカードを楽しくプレイしますように。
(Tr. Tetsuya Yabuki)
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