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Making Magic -マジック開発秘話-
『ダスクモーン』に服す その2
2024年9月9日
先週は『ダスクモーン:戦慄の館』の先行デザイン・チームと展望デザイン・チームを紹介し、クールなプレビュー・カードを公開し、このセットのデザインの始まりを語った。今週はセット・デザイン・チームと統率者デザイン・チームを紹介し、さらなるプレビュー・カードを公開し、このセットのデザインの物語を締めよう。
「その1」では、このセットの雰囲気を捉えるためにエンチャント・テーマを作り上げたことを語り、「部屋」カードから「違和感」の能力語、「兆候」を持つクリーチャーのサイクル、「光霊」クリーチャー・エンチャント・トークンなどまで、エンチャント・テーマと関連するさまざまなデザインを語った。本日はこのセットのエンチャント以外の部分を語っていこう。
さらに多くの偲ぶ人々
だがその前に、このセットの実現に尽力した人々を諸君に紹介しよう。通常であればリード・デザイナーにセット・デザイン・チームを紹介してもらうのだが、『ダスクモーン:戦慄の館』でセット・デザイン・リードを務めたジュール・ロビンス/Jules Robinsはウィザーズを去っているため、セット・デザイン・チームの一員でありこのセットのプレイ・デザインの監督も務めたジェイディーン・クロンパレンズ/Jadine Klomparensに紹介してもらう。
クリックしてセット・デザイン・チームを表示
セット・デザイン・チームに加えて、『ダスクモーン:戦慄の館』統率者デザイン・チームも紹介する。このチームを率いたのはアニー・サルデリスであるため、彼女に紹介してもらおう。
クリックして統率者デザイン・チームを表示
戦慄に満ちた予示
それではいよいよ、エンチャントに関連しないメカニズムの話をするときだ。最初に取り挙げるのは、我々展望デザインから提出された「戦慄予示」である。
ホラー・テーマのセットを制作する上で鍵となることの1つは、恐怖を呼び起こすデザインのカードである。理想を言えば、メカニズム1つか2つがまるごとその役目を担うのが最高だ。初代『イニストラード』には、恐ろしい存在に変身する「変身する両面カード」と、何かが死亡することで恐ろしいことが起こる「陰鬱」メカニズムがあった。『イニストラード』でやらなかったことの1つは、ミステリーの感覚を生み出すことだった。変身する両面カードは確かに恐ろしいが、少なくともそれが恐ろしいことはわかるのだ。我々は、対戦相手が何と対峙することになるのかわからないメカニズムを作りたかった。そうすることで、そのクリーチャーは「戦慄」に満ちた存在になるのである。
そのために、我々は過去のメカニズムを振り返りその感覚を捉えられるものを探した。はじめに思い浮かんだのは「変異」だった。しかしそれはさまざまな存在に変異する2/2をプレイできるが、完全なサプライズとは言えなかった。何に変わるかを完全には把握できないにしても、出てくるものは限られていた。では何が出てくるかまったくわからないものはあるだろうか? そうして我々は、「予示」にたどり着いたのだった。
「変異」は、『アルファ版』収録の2枚(《Camouflage》と《Illusionary Mask》)をルール上で機能させる方法を探していたルール・チームによって作られた。変異が私のもとへ提案されたとき、私は『オンスロート』に収録する新規メカニズムを探しているところで、タイプ的テーマとよく合うメカニズムだと感じた。そうして世に出た変異は人気を博し、のちに『時のらせん』ブロックで再録されることになった。
「変異」は『タルキール覇王譚』にて二度目の再録を果たした。タルキール・ブロックは「大型 - 小型 - 大型」の通常とは異なるブロック構造をしており、小型セットが両方の大型セットとドラフトできるようになっていた。我々はその構造にする理由を必要とし、物語をタイムトラベルものにするという結論を出した。主役であるサルカン・ヴォルがウギンを救うため過去へ戻り、その結果タルキールの龍がすべて救われるというストーリーだ。第2セットが過去を舞台にするため、「原初の変異」のようなメカニズムを作ったらクールだろうと我々は考えた。
このとき初めて組織された先行デザイン・チーム(イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer、ショーン・メイン/Shawn Main、そして私)が、「予示」のアイデアを生み出した。基本的にあなたのライブラリーからカードを裏向きの状態で無色の2/2のクリーチャーとして戦場に出し、それがクリーチャーであるなら、そのマナ・コストを支払うことで表向きにできる能力だ。「変異」と異なり、予示されたカードはあなたのデッキ内のどのカードでもあり得るため、対戦相手はそれが何なのか把握できない。それこそ、我々が追い求めた感覚だった。
「予示」が抱えていた問題の1つは、このメカニズムのクールな部分が十分に発揮されないことだった。通常、デッキの40%は土地あり、少なくとも10%はクリーチャーでないカードであることが多い。つまり予示された裏向きのカードがクリーチャーである確率は50%ほどなのである。「予示」というメカニズム名はホラー・セットに合っていたが、我々は普遍的なプレイパターンを好んだ。このメカニズムのクールな部分がもっと発揮されるようにする方法はあるだろうか?
我々が今回の展望デザインで提出した予示の調整版は、以下の通りである。
邪悪予示(あなたのライブラリーの一番上にあるカード3枚を見る。それらのうち1枚を2/2のホラー・クリーチャーとして裏向きで戦場に出し、残りをあなたのライブラリーの一番下に置く。それがクリーチャー・カードなら、そのマナ・コストで、いつでも表向きにしてよい。)
このバージョンは、最終的に印刷されたバージョンとは大きく異なるものだった。主に変更されたのは以下の4点である。
最終的に「昂揚」がこのセットに加えられたことで、「戦慄予示」が墓地へカードを置くことが昂揚達成を助けることになった。また、テンプレートを短くすることもできた。我々は常に、テンプレートを短くできるよう心がけている。
プレイヤーがこのメカニズムでクリーチャーを引き当てられるよう、展望デザインではライブラリーの一番上にあるカード3枚を見るところから始めた。のちにその目的は2枚でも十分に達せられることがわかり、カード2枚を墓地に置くのは「昂揚」達成が少々簡単になりすぎると判明した。
展望デザインは、先週語った能力語「恐れ/afraid」と結びつけるためにこのメカニズムの裏向きのクリーチャーをホラーにした。短い期間ながら、クリーチャー・エンチャントだった時期もあった。のちに恐れが「違和感」になりホラーであることがメカニズム的に重要でなくなると、クリーチャー・タイプは取り除かれた。『カルロフ邸殺人事件』の裏向きのクリーチャーに合わせて「護法」を持たせることも検討したが、プレイ・デザインからその必要はないと意見を受け、持たせないことになった。
このメカニズムでさらなる恐怖を表現したいと考えたクリエイティブ・チームによって、メカニズム名が変更された。
- 「ライブラリーの一番下」を「墓地」に変更
- 「3枚」を「2枚」に変更
- 裏向きのクリーチャーが「ホラー」でなくなった
- メカニズム名を「邪悪予示/manifest evil」から「戦慄予示/manifest dread」に変更
次のメカニズムの話へ移る前に、「戦慄予示」を持つプレビュー・カードを公開しよう。
クリックして「鏡の間//砕けた世界」を表示
墓地への大きな関心
展望デザイン・チームは、イニストラードを舞台にしたセットとメカニズム的にはっきり異なるセットを制作することに挑戦し、そのために少なくとも墓地を使うことに依存したメカニズムは避けていた。だがファイルがセット・デザインへ渡る頃にはこのセットも独自性を多く備えるようになり、セット・デザイン・チームはイニストラードと比較されることを心配しなかった。墓地テーマは人気があり、セットに多くの含みを加えてくれる。さらに墓地とホラー・ジャンルが起こす共鳴は非常に強く、セット・デザインはそれを使うべきだと感じた。
何かを加えようとするときにデザイン・チームが最初に取り組むのは、すでにあるものの検証である。「車輪の再発明」という慣用表現がある通りだ。セット・デザイン・チームがあらゆる可能性を一覧にしたところ、ひときわ目立つものがあった。それが「昂揚」だった。
第一に、メカニズム名がホラー・ジャンルにぴったりだった。第二に、扱うカード・タイプが多いセットにおいて「昂揚」は最高のパフォーマンスを発揮する。『ダスクモーン:戦慄の館』はエンチャントのセットであり、クリーチャー・エンチャントやエンチャントに変わるクリーチャー、クリーチャーに変わるエンチャントが多数登場する。エンチャントであるカードの開封比が高いのである。また、このセットにはアーティファクト・クリーチャーを含むアーティファクトも十分に収録されている。もちろんエンチャントほどではないものの、デッキの軸にできるくらいはあるのだ。
第三に、「戦慄予示」の存在がある。展望デザイン当時は裏向きで戦場に出さなかったカードはライブラリーの一番下に置かれていたが、そうしなければならない理由はなかった。それなら戦慄予示するたびにカードをライブラリーから墓地へ送るというのはどうだろうか? それにより墓地へ土地を置くのがかなり楽になる。通常なら生け贄に捧げる効果を持つ土地や土地を生け贄に捧げるカードでなければできないことだ。以上の理由から「昂揚」が合っているように見えたため、セット・デザイン・チームはプレイテストの対象に加え、そこからファイルを離れることはなかった。昂揚は最終的に、黒と赤と緑に使われることになったのだった。
生存者を演じる
我々がデザインにおいて繰り返し行うことの1つが、プレイテストである。デザイン初期では頻度が少なく3~4週間ごとになるが、デザインが進行するにつれて頻度は増えていき、通常はセット・デザインが終了する頃までに毎週1回以上行われるようになる。あるプレイテストの終了後、ジュール率いるセット・デザイン・チームは議論を行った。ジュールが「何かが足りない」と言ったのだ。私たちは呪われた館やそこにいる恐怖の存在を表現するメカニズムは揃えたが、館に閉じ込められた人々についてはどうだろうか、と。ホラー映画には恐怖を受ける者が必要である。このセットには、生存者を表現するものが必要なのだ。
生存者はクリーチャーなので、何であれクリーチャー関連のメカニズムが欲しいところだ。セット・デザイン・チームは、行動を促すメカニズムのアイデアを気に入った。生存者が生存しているのは、何か行動を起こしたからであろう。消極的な姿勢では生存できないだろう。それなら、行動を起こすことで誘発する能力はどうだろうか?
セット・デザイン・チームが最初に試したのは、初代『イクサラン』の恐竜のメカニズムである「激昂」の亜種であった。あなたのクリーチャーが呪文や能力の対象となり、その上で生き残った場合に誘発する能力である。だがこれは誘発させるのが難しく、自身のクリーチャーを危険にさらすことが多かったため、しっくりこなかった。
セット・デザインは最終的に、以前から検討されていたもののセット実装には至っていなかったメカニズムを使うことにした。このメカニズムは決められたタイミングで誘発するものの、そのパーマネントがタップ状態である場合のみというものだった。タップ状態という条件は、クリーチャーに適している。クリーチャーは「攻撃」というタップ手段を自前で備えているからだ。セット・デザイン・チームは戦闘以外にもクリーチャーをタップする面白い手段をあれこれと考え出し、その多くはそのクリーチャーが隠れているというフレイバーだった。誘発タイミングは、戦闘直後の第2メイン・フェイズの開始時がうまく機能した。「生存」はデッキ構築もプレイも楽しかったため、生存者テーマのメカニズムとして採用されるに至ったのだった。生存は主に緑と白に用意された。
「すきま風かな」
最後に、10通りのドラフト・アーキタイプを見ていこう。
違和感テンポ(白青){W}{U}
白と青のアーキタイプは「違和感」メカニズムを中心としたもので、違和感を2回誘発させられる「部屋」を含むさまざまなエンチャントのプレイを推奨する。白青はコントロール・デッキになることが多いが、今回はテンポ寄りのアーキタイプで、ダメージを通して素早くゲームを奪うことを狙う。デッキの速度は高速~中速である。
違和感コントロール(青黒){U}{B}
白青が「違和感コントロール」にならないのは、青黒がそれだからである。このデッキは白青と同様にエンチャントを多く活用するが、対戦相手の行動を縛りゲームを長期にわたってコントロールする方へ向かっている。このアーキタイプには黒が含まれるため、クリーチャー除去や手札破壊の手段も豊富だ。デッキの速度は低速である。
生け贄(黒赤){B}{R}
『ダスクモーン:戦慄の館』での黒赤のアーキタイプは、黒赤に馴染み深いものだ。この色の組み合わせは多くのリソースを生み出し、それらを生け贄にクリーチャーや呪文を強化する。生け贄テーマはモダンホラーのセットにも収まりがよく、このセットで黒赤が原点へ回帰しないわけにはいかないと感じた。デッキの速度は低速である。
昂揚アグロ(赤緑){R}{G}
赤緑のアーキタイプは、アーティファクトやエンチャントでもある軽量クリーチャーで攻勢をかけていく。アグロ・デッキらしくそれらのクリーチャーはよく死亡するが、今回の赤緑のアーキタイプは「昂揚」メカニズムを使うため、死亡したクリーチャーが燃料となり次の攻勢をさらに強化し、対戦相手を圧倒する。デッキの速度は高速である。
生存(緑白){G}{W}
緑白のアーキタイプは、「生存」メカニズムを活かしたものだ。攻撃によって生存能力を機能させるが、盤面が膠着してもクリーチャーをタップする手段は他にも豊富にあり、対戦相手をじっくり追い詰めていくことができる。デッキの速度は中速~低速である。
リアニメイト(白黒){W}{B}
黒白のアーキタイプはリアニメイトに注目したものだ。ゲーム序盤~中盤は対戦相手の動きを止めながら大型クリーチャーを墓地へ送り、その後それをリアニメイトしてゲームに勝利する。デッキの速度は低速である。
部屋コントロール(青赤){U}{R}
青赤のアーキタイプは、エンチャント全般に注目している他のアーキタイプと対照的に、「部屋」のサブタイプに集中している。デッキの速度は中速~低速である。
昂揚消耗戦(黒緑){B}{G}
黒緑のアーキタイプはさまざまなカード・タイプを盤面に広げ、最終的に「昂揚」の達成を目指す。その後は墓地をリソースとして使い、消耗戦を制するのだ。デッキの速度は低速である。
パワー2以下アグロ(赤白){R}{W}
赤白のアーキタイプは、いつも通りアグロ・デッキである。このデッキは小型クリーチャーを大量に展開し、特にパワー2以下のクリーチャーに注目した効果でアドバンテージを得ていく。デッキの速度は高速である。
戦慄予示(緑青){G}{U}
緑青のアーキタイプは、「戦慄予示」メカニズムでアドバンテージを取っていく。裏向きの2/2クリーチャーが並び、その中にはより巨大で厄介な怪物になるものもあるだろう。デッキの速度は中速である。
「もう大丈夫そうだな」
呪われた館とそのデザインをめぐる最初のツアーはこれで以上だ。『ダスクモーン:戦慄の館』の成り立ちを見るのを楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、本日の記事や取り挙げたメカニズム、『ダスクモーン:戦慄の館』に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『ダスクモーン:戦慄の館』展望デザイン提出文書を見ていく日にお会いしよう。
その日まで、後ろに気をつけるように。
(Tr. Tetsuya Yabuki)
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