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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『ダスクモーン』に服す その1

Mark Rosewater
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2024年9月2日

 

 『ダスクモーン:戦慄の館』プレビュー第1週にようこそ。本日はこのセットの先行デザイン・チームと展望デザイン・チームを紹介し、『ダスクモーン:戦慄の館』のメカニズムがどのように作られていったのかの話を始めよう。それからクールな新規カードも2枚公開する予定だ。その2枚はどちらも、このセットのエキサイティングな新規メカニズムを持っている。

偲ぶ人々

 伝統に則り、展望デザイン・リードを務めたデザイナーに先行デザイン・チームと展望デザイン・チームを紹介してもらおう。『ダスクモーン:戦慄の館』の展望デザイン・リードは、アニー・サルデリス/Annie Sardelisである。数多くの製品でデザイン・リードを務めた経歴がある彼女だが、本流のセットの展望デザイン・リードは『ダスクモーン:戦慄の館』が初めてであった。

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呪われた館を建てる

 マジックは現在、クリエイティブ面が伸びている段階にあり、我々は限界を押し広げようとしている。『神河:輝ける世界』の成功を受けて、我々はより近代的な部分の探索に興味を持つことになった。ハイファンタジーでは伝統的に、技術レベルは何世紀も前のものが登場するものだが、他の技術レベルが存在できない理由はない。より近代レベルの技術を持つ舞台で、探索したいところはあるだろうか?

 マジックはまた、さまざまなサブジャンルを探索してきた。ホラーは我々がこのジャンルを中心にした舞台の作成にまた挑戦できると感じるほど、プレイヤーに人気のジャンルである。イニストラードではゴシック・ホラーに注目し、新ファイレクシアでは「異星人」ホラーとでも呼ぶべきものに注目した。他に探索できるホラーのサブジャンルはあるだろうか?

 これら2つの焦点が合わさった結果、70年代から80年代のホラー映画に注目した「モダンホラー」を中心にした次元というアイデアが生まれた。そしてそこへもう1つ、我々が検討していたアイデアが加わった。「すべてが屋内のセット」である。あり得ないほど巨大な館というアイデアは、我々が探求していたホラーの素材と噛み合っていた。こうして、以下のアイデアにゴーサインが出たのだった。

  • 新規次元
  • 70年代から80年代のホラー映画から着想を得た世界(技術レベルもそれに合わせる)
  • 1つの建物の中だけを舞台にしたセット

 先行デザインにて、我々は最初の疑問を投げかけた。「この世界がイニストラードや新ファイレクシア次元をメカニズム的に侵食しないように保つには、どうすればいいか?」である。我々は初期の段階で、今回我々が呼び起こしたいホラーは独特な雰囲気の中で生まれるものであることに気づいていた。テーマとなるホラー映画では、実際に怪物が登場するずっと前から不気味な雰囲気が漂っているのだ。では、そういう雰囲気を表現するのに最適なカード・タイプはどれか? 答えは明白、エンチャントである。他のパーマネント・タイプはより有形であり、実物や場所を表現している。エンチャントはより存在が不明瞭で、無形のものなのである。

 エンチャントに焦点を当てるというのは、イニストラードや新ファイレクシアのメカニズム的特徴から離れるという点でも良かった。パーマネントの観点で見れば、イニストラードは人間がかつて人間であった怪物と対峙するという体験が中核となっており、非常にクリーチャーに寄っている。新ファイレクシアのクリーチャーは始めから異星人寄りであり、アーティファクトは異星人ホラーで想起される現代性を感じさせる。もちろんエンチャントも登場する(イニストラードにおける「呪い」など)が、それは主要な役割を担っていなかった。エンチャントに焦点を当てることで、ダスクモーン次元に独自のメカニズム的感覚を与えることができたのだ。

 セットの焦点をエンチャントに当てるためには、2つのことが求められる。第一に、エンチャント(理想を言えば新しいもの)を作らなければならないこと。第二に、メカニズム面でエンチャントに関連するものを作る必要があることである。まずは前者の話をしていこう。

 この次元が巨大な館の中であることを初期の段階で知っていた我々は、部屋の概念をどのようにデザインへ落とし込むかをじっくり考えた。過去に土地やエンチャントで場所を表現したことはあるが、独特な雰囲気を出すために「部屋」であることが求められ、ゲームに影響を与える効果を持たせたいため、エンチャントであることが望ましかった。(また、土地にマナを生み出す以外の機能をどれだけ持たせるかについては、慎重にならなければいけなかった。)カードに「部屋」という言葉を書けて、メカニズム面でも関連するものにするため、我々は「部屋」というエンチャントのサブタイプを作ったのだった。

 次に、我々は「部屋」カードがどのようなものなのか自問した。特定の感覚が必要であり、ゲームに影響を与える効果が求められた。部屋カードはエンチャントであるため、常在型能力も誘発型能力も、起動型能力も持つことができる。それから我々は移動を表現するアイデアも好んでいたため、部屋から部屋へ移動する方法を試してみることにした。

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 先行デザインにおけるこのアイデアの探求は、「屋敷」と呼ばれるデッキを扱うところから始まった。それは「からくり」や「アトラクション」のような別デッキで、「部屋」はそのデッキに入れられるカードだった。部屋カードには、設置する枠が3つあった。メインデッキの方に採用するカードは「屋敷探検/explore the mansion」と呼ばれるメカニズムを持ち、部屋カードを表向きにできた。各部屋カードはエンチャントであり(からくりやアトラクションはアーティファクトだった)、ゲーム上の効果を持っていた。

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 エンチャントを一度に3つ得られるのは少々やり過ぎだったため、プレイヤーを表現する人型のコマを加えた。部屋から部屋へ移動し、今いる部屋の効果のみゲームへ影響を与えるのだ。コマを移動させるカードや、どの部屋にコマが置かれているかを参照するカードなどがあった。人型のコマは我々が求める移動の感覚を加えてくれるため、我々は心から気に入った。

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 しかし移動が起こるのは部屋が2つ以上開放されてからになるため、このメカニズムの面白いところを味わえるまで時間がかかった。そこで次のバージョンでは「部屋」カードごとに複数の部屋を持つようになった。最初期のバージョンでは1枚のカードに部屋が4つあった。一度に設置できる部屋カードの枚数は3枚で変わらないため、最大12の部屋が広がることになる。人型のコマが部屋を移動する際のルールも作った。移動は開放されているドアを通らなければならず、つまり縦か横に隣接している部屋間のみ移動できる。また扱う部屋数が増えたため、複数の部屋を一度に移動できるようにした。

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 1枚のカードに4部屋は少々多すぎた。次に3部屋を試し、最終的に2部屋になった。この段階で、我々は部屋が閉鎖されている状態についての能力を模索し始めた。部屋の配置は、ドミノ・ゲームのようなものになった。

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 次の大きな問題は、別デッキと人型のコマだった。どんぐりシンボルのセットなら別デッキを扱うこともできるが、それはトーナメントで使うには多くの問題を抱えていたため、我々は「部屋」カードをメイン・デッキへ入れられる方法を模索した。空間的な移動を重視するのは非常に難しかったため、人型のコマは取り除かれることになった。次の反復では分割カードやモードを持つ両面カードを用いて、1枚で2種類のカードを扱えるようにした。それらはエンチャントであるため、戦場に置きたいものだろう。カードの両面に部屋を広げることも実験した。

 このバージョンは最終的に分割カードに似た見た目になったが、どちらの半分もインスタントやソーサリーではなくエンチャントだった。どちらかを唱えることでその部屋が「開放」され、すぐに効果が発揮される。もう1つの部屋へのドアは「閉鎖」されているが、そのマナ・コストを支払うことで開放できる。もう片方の半分を開放できるという能力は、部屋カードの機能性を高めた。これによりドアを開放したときに誘発する誘発型能力も作れるようになり、ソーサリーに似た効果を持たせることができるようになったのだ。

 本日私から公開するプレビュー・カードは「部屋」カードであるため、ここで公開するのが良いだろう。

クリックして「煙たい談話室//霧がかった応接間」を表示

 《煙たい談話室》はアンコモンである。もう1枚のプレビュー・カードは神話レアだ。

クリックして「鏡の間//砕けた世界」を表示

 「部屋」以外にも、我々はこのセットにより多くのエンチャントを収録するためさまざまな方法を模索した。楽に見つかったのは、クリーチャー・エンチャントだった。特定のカード・タイプを扱うセットを作る上で鍵となるのは、そのタイプの開封比を上げることである。そうするためには、そのタイプをクリーチャーに持たせるのが簡単だ。我々が探求したのは以下の通り。

エンチャントの効果を持つクリーチャー・エンチャント
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 我々が今回捉えようとしている時代のホラー映画の多くは、その場に影響を与える実体を持たない怪物が描かれている。その典型的な例が、部屋が寒く感じることや普通は見えないものが見えるようになることである。これは、クリーチャー・エンチャントで表現すれば最高のトップダウン・デザインになるように思えた。それはパワーとタフネスを持ちプレイヤーや他のクリーチャーに影響を与えることができながら、その場の環境に影響を与える効果も持つ。戦場に出たときの効果や死亡したときの効果を持つものもあるだろう。鍵となるのは、ホラー映画の怪物の不気味さを捉えることだった。

 展望デザインはこのアイデアを活かしてさまざまな方向のデザインを作った。セット・デザインはクリエイティブと連携して、さまざまな恐怖を表現したクリーチャーを作り上げた。それらはみな、ナイトメアのクリーチャー・タイプを持っている。

エンチャントになるクリーチャー・エンチャント
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 我々はまた、死してなお存在を保つクリーチャーのアイデアも探求した。死亡しても、その影響は終わらない。我々はそれを、死亡したらクリーチャーでないエンチャントになるクリーチャー・エンチャントで表現した。我々は「憑霊/possess」と呼ばれるメカニズムを作成した。それを持つクリーチャーが死亡したらオーラになり、あなたがコントロールしているクリーチャーにつける、というものだった。以下はその例である。

〈果てなく落ちるもの〉

{3}{U}
クリーチャー・エンチャント ― ナイトメア
3/3
憑霊(このクリーチャーが死亡したとき、あなたはそれをエンチャント(クリーチャー)を持つオーラとして戦場に戻してもよい。エンチャントしているクリーチャーは以下の能力を持つ。)
飛行

 セット・デザインはこのアイデアを気に入ったが、最終的にはオーラではないエンチャントになる形になった。オーラのバージョンは、対象がいないという状況や対象はいても良いつけ先ではないという状況が多発したのだ。現在のバージョンはゲームとの関連性がより高まっている。

クリーチャー・エンチャントになるエンチャント
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 それから、「何かがそこにいる」という感覚も捉えたいと思った。映画の登場人物たちが何かおかしいと感じながらも、目には見えない。するとやがて怪物が姿を現す、というものだ。展望デザインはこれをメカニズムの枠を割いて表現しようとは想定しておらず、個別のカードで表現しようとしていた。その後セット・デザインはそのアイデアを、戦場に出たときに効果を発揮して、時間カウンターが置かれ、時間カウンターがなくなるまでクリーチャーにならないという神話レアのサイクルにした。セット・デザイン・チームは当初「待機」を検討していたが、待機ではこのアイデアを表現しきれず、時間カウンターがなくなるまでエンチャントである方がずっとフレイバーに富んでいた。

クリーチャー・エンチャント・トークン
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 クリーチャー・エンチャントの開封比を上げるもう1つの手段は、クリーチャー・エンチャント・トークンを作成することである。生存者の助けとなるクリーチャー・エンチャント・トークンというアイデアは、最初期の頃から気に入っていた。恐ろしい存在は闇に潜むという考えから「明かり・トークン」と呼ばれていたそれは、行く先を照らす微かな光のクリーチャーであった。明かり・トークンは白の1/1のクリーチャーであり、我々はそこへ「このクリーチャーが攻撃したとき、占術1を行う。」の文言を加えた。

 占術を加えた理由は2つある。役に立つクリーチャーとしてのフレイバー面の理由と、プレイヤーがゲームに関連するカードをスムーズに引く助けになるメカニズム面の理由である。『ダスクモーン:戦慄の館』のように墓地関連のメカニズムがあるセットでは「諜報」を使うのが常ではあるが、このセットの展望デザイン時点では存在しなかった。また、我々はこのセットがイニストラードにならないように努めていたため、メカニズム的に特にイニストラードが有名なものは避けた。墓地との相互作用があるものもその1つであった。

 セット・デザインは、ホラー・ジャンルにおける墓地はフレイバー豊かであり、とにかく使うべきだと判断した。このセットの他のアイデアはイニストラードと十分に異なるものであるため、墓地の部分は重なっても問題ないという判断だった。これにより「明かり」クリーチャーは大きく変更され、もとの能力を失うことになった。このセットが墓地を扱うようになると、占術の多くが「諜報」に変更された。フレイバーの観点から、明かり・トークンやそれらを生成するカードの多くは白であることが望まれた。だが白は占術の第2位の色であるが墓地に何かを送ることは得意でなく、諜報は第5位の色であった。そこで単に占術能力が取り除かれることになったのだが、それによる利点もあった。明かり・クリーチャーはその後、光霊・クリーチャーに変更されたのだ。

 光霊・トークンの姿は、これから目にすることになるだろう。クリーチャー・エンチャント以外にエンチャントの開封比を上げる手段は、単純にエンチャントの数を増やすことである。我々はそちらの手法もいくつか行った。

スペルの効果を持つエンチャント
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 デザインの極意の1つは、同じ効果をさまざまな方法で実装できることにある。セットが特定のもの(今回の場合はエンチャント)を扱う場合、そのタイプで多くの効果を作ることができるのだ。例えば《逃げ場なし》は除去呪文である。ほとんどのセットでは恐らくインスタントの効果だが、『ダスクモーン:戦慄の館』では瞬速を持つエンチャントで同様の機能のものを作り、エンチャントの開封比を上げた。さらに常在型能力も持たせることで、クリーチャーを除去した後でも戦場で何かしらの効果を発揮する形にした。

人気エンチャントへの再訪
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 我々は過去に人気を集めたメカニズムやサイクルに目を向けることも好んだ。「呪い」を使うことも検討したが、イニストラードを感じさせたくないという思いから断念した。「力戦」が加わったのは、セット・デザインでのことだった。力戦とは、初期手札に引いていればコストなしで戦場に出せるエンチャントである。『ギルドパクト』で登場し、その後も『基本セット2011』や『基本セット2020』で姿を見せた。

 今回のエンチャント問題を解決する最後のピースは、メカニズム的にエンチャントに関連するカードを用意することだった。我々はまず、テーロス関連セットの「星座」に目を向けた。エンチャントが戦場に出たときに誘発する能力である。しかし「星座」という名前が合わなかったため、我々はこのセットの他の要素との相互作用を持つ能力を求め、エンチャントに関連する新たな能力語を作ることに決めた。さまざまなバージョンを経て展望デザインから提出されたのは、以下のようなものだった。

恐れ(このターン、あなたがコントロールしているエンチャントやホラーやナイトメアが戦場に出るか攻撃したなら、すべての対戦相手は恐れを抱く。)

 このバージョンはエンチャントだけでなく、このジャンルを特に体現すると我々が感じたホラーとナイトメアとも関連するものだった。このセットには攻撃が推奨される「明かり」トークンを含めクリーチャー・エンチャントがあり、取り挙げた3つとも攻撃できるものであったため、攻撃も誘発条件に加えた。

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 セット・デザインはエンチャントでないクリーチャーを含めるのは不要だと判断し、ホラーとナイトメア、それから攻撃誘発も取り除いた。このセットのナイトメアがすべてクリーチャー・エンチャントになったことも、その判断に影響した。その頃には「部屋」も片方を唱えるときに開放し、のちにもう片方を開放するという形に変更されていた。「恐れ」は「違和感」となり、部屋の開放も能力の誘発条件になった。違和感の大半は、白と青と黒に見受けられる。

「おっと、懐中電灯を忘れた。すぐ戻ってくるよ」

 本日はこれで以上だ。いつもの通り、本日の記事や取り挙げたメカニズム、『ダスクモーン:戦慄の館』に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)TumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回……を諸君が迎えることができれば、『ダスクモーン:戦慄の館』のデザインの物語を続けることにしよう。

 その日まで、グループを分けないように。


(Tr. Tetsuya Yabuki)

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