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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

巣穴の開花 その1

Mark Rosewater
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2024年7月9日

 

 『ブルームバロウ』プレビュー第1週にようこそ。今週と来週にかけて、『ブルームバロウ』のデザインの物語を伝え、クールなプレビュー・カードをお見せしよう。

生き物を支える生き物たち

 今週は先行デザイン・チームと展望デザイン・チームを紹介しよう。伝統に則り、チームの紹介は展望デザイン・リードにやってもらう。『ブルームバロウ』の展望デザイン・リードは、ダグ・ベイヤー/Doug Beyerだ。

クリックして展望デザイン・チームを表示


始まり

 『ブルームバロウ』は、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheの「動物の世界をやりたい」という言葉から始まった。「動物の擬人化」ジャンルの物語では、人間のようにふるまう動物が人間の役割を代わりに担うことになる。擬人化した動物は直立し、服を着用し、人間が使う物を使う。動物としての資質は残すものの、それは人間で言うところの癖というレンズを通して表れる。動物のレンズを通して、人間の特徴が描かれるのである。

 このジャンルは、アニメーションや漫画に多く見受けられる。この種の物語を実現するのに最適な媒体だからだ。

 こうして、擬人化した動物の次元というアイデアが生まれた。ファンタジーには人型の動物が登場しやすい傾向があるため、ファンタジーが近しいと感じられた。我々は衣装や世界構築をファンタジーの方向へ寄せた。それはいつかやるだろうと常に感じていたアイデアだった。そしてアーロンが決意を込めて「よし、やろう」と言うと、正式にスケジュールへ乗せられたのだった。

 発売決定を受けて私は少し早めに仕事に取りかかり、私自身がこのジャンルに慣れておくことにした。そしてこのジャンルは、伝統的に2つの手法で成立していることに気づいた。

 手法1――動物が人間の集団を表現している手法。ハツカネズミの集団がいて、アナグマの集団がいて、カワウソの集団がいる。各動物はそれぞれの集団内で共通した性質を持ち、通常は現実世界におけるその動物を感じられるものになっている。この手法では基本的に1つの生態系が舞台となり、登場する動物はすべてその生態系内で生きる。動物たちの存在は、現実世界に準拠したものになる。

 手法2――動物が個人を表現している手法。この人は心配性だからカエル。この人は狡猾だからキツネ。この人は物事に突っ込んでいくからサイ、という風に、それぞれの動物が個人の性質を表現している。この手法では構造上舞台が人間寄りになり、多くの場合都市が描かれ、動物の種類もずっと多くなる。登場する動物も生態系に縛られず、現実世界では通常見受けられない組み合わせの動物を共生させることができる。動物の大きさはゆるく関係している(アライグマはゾウより小さい)ものの、サイズ差は現実世界より小さくなっている。

 手法1は、世界構築がやりやすい。動物の種類が多くないため、クリーチャー・タイプでまとめられる。動物たちが人間の集団を表現しているため、エルフやゴブリン、マーフォークといった種族を示す伝統的なクリーチャー・タイプと同様に機能させやすい。この手法は、我々をタイプ的テーマの陣営へ向かわせることになるだろう。

 手法2は、デザインがやりやすい。デザイナーがより多くの動物を取り挙げることができ、個別にクールなデザインを作れるからだ。例えば12枚目のハツカネズミのカードは、1枚目のキリンのカードよりも他との違いを出すのがずっと難しいのだ。この手法は、我々をより大きな動物テーマのメカニズムへ向かわせることになるだろう。さまざまな動物を一緒に使う環境を作る可能性が高く、個別のトップダウン・デザインが多くなると思われる。

 アーロンが興味を示したのは手法1の方だったが、私は手法2の方に興味を引かれた。そこで我々は市場調査を重ねたが、結果はまったくの互角だった。手法1も手法2もちょうど半数の支持を集めたのだ。両者が拮抗する中で、最終的にはアーロンの当初のビジョンが勝り、我々は手法1を採用することにした。(社内では手法1がより多くの支持を集めていたと思う。)どちらの手法でもクールなセットに仕上がったであろうことは強調しておきたい。ただ進む道が異なるだけであり、メカニズム面もクリエイティブ面も大きく異なるところへたどり着くだろう。

動物を集めよ

 手法1は我々をタイプ的テーマの陣営へ向かわせるため、我々はそれに従った。10通りの2色のドラフト・アーキタイプが、それぞれ異なる動物を表現するというのはどうだろうか? 我々は10通りの2色の組み合わせから取りかかり、動物を選んでいくことにした。

白青
青黒
黒赤
赤緑
緑白
白黒
青赤
黒緑
赤白
緑青

 はじめから採用したいと考えた動物は2種類いた。このジャンルの中核を成す2種だ。擬人化した動物の物語の主人公として特に人気なのがハツカネズミである。ハツカネズミのクリーチャー・タイプがマジックに初めて登場したのは、『エルドレインの王権』でのことだった。ほとんどが白で、『Unfinity』で一度だけ赤や緑白に登場した。「ハツカネズミの兵士」はこのジャンルでよく使われる表現であり、我々もそれを取り入れたかったので、赤白のハツカネズミが最適に思えた。

 ハツカネズミの共通の敵はネズミである。ネズミはマジックの最初期から存在し、ほとんど黒のクリーチャー・タイプとなっている。『ブルームバロウ』で注目したこのジャンルにおいて、ネズミは狡猾な存在として描かれるのが典型的だ。そのため青黒に収めるのが良いと我々は思った。

白青
青黒:ネズミ
黒赤
赤緑
緑白
白黒
青赤
黒緑
赤白:ハツカネズミ
緑青

 次に、この次元を組み立てる上で我々が取り入れたい生態系に生きる動物を見ていった。先述の手法2は、我々を牧歌的な生態系(池や森林、平野など)へ向かわせる。それと我々が探求しているジャンルを組み合わせて考えた結果、兎やカエル、鳥といった動物が思い浮かんでいった。

 2色の動物の陣営をデザインする上で欠かせないのは、その動物らしさを感じられるようにすることである。このジャンルにおける兎の個性は明白で、現実世界の兎の性質に寄ったもの、つまり兎は多くの兎を生むことだ。そこで我々はクリーチャー・トークンを横展開する陣営を求め、おそらく緑白であろうと当たりをつけた。兎の初登場は、『ポータル三国志』収録の緑のカードだ。見た目は恐ろしいが『テンペスト』の《ケザードリックス》が最初の兎ではないかという意見もあるが、それは当初、兎のクリーチャー・タイプを持っていなかった。『統率者レジェンズ』では久しぶりに、兎のクリーチャー・タイプを持つ《巡歴の干渉者、クウェイン》が登場した。兎はほとんどが白と緑にあるため、その2色が適していると思われた。クリーチャー・トークンを生成する色の上位2色に兎があったことで、この選択は固いものとなった。

 マジック初のカエルは、『アイスエイジ』の《チャブ・トード》だった。当初のクリーチャー・タイプはヒキガエルだったが、のちにカエルに変更された。最初にカエルのクリーチャー・タイプを持ったクリーチャーは、『エクソダス』の《舌長カエル》である。水陸両生のカエルは、緑と青に自然と収まった。緑と青の多色のカエルもあるくらいだ。我々は可能な限り、その動物がマジックの歴史の中で持ってきた色に合わせられるよう努めた。カエルが必要なら、緑青で決まりだろう。

 本日私から公開するプレビュー・カード2枚もカエルであるため、ここで披露するのが良いだろう。

クリックして「心配潮、クレメント」と「夢露の幻惑者」を表示

 カエルが決まったので、次は鳥とともに空へ飛び立つときだ。

 史上初の鳥・カードは、『アルファ版』に収録された《極楽鳥》である。このカードは当初、クリーチャー・タイプが「Mana Birds(マナ・バード)」の2語である珍しいカードだった。鳥はやがて個別のクリーチャー・タイプとなっていった。私はメカニズム上で鳥を扱うカードを作れるようにしたかったため、クリエイティブ・チームを説得してすべての鳥に鳥のクリーチャー・タイプを持たせるようにした。それ以来、鳥は5色すべてに存在するようになった。特に多く見受けられるのは、飛行の主要色である白と青である。カエルと同様に、我々は最も強力なサポートを受けられる色の組み合わせに鳥を収めることにした。常に飛行を持つクリーチャーにタイプ的テーマを与えることには懸念もあったが(『ローウィン』におけるフェアリーからの教訓だ)、今回の舞台に鳥がいるのは非常に自然なことだと感じたため、採用に至った。

 こうして、以下のように半分が埋まった。

白青:鳥
青黒:ネズミ
黒赤
赤緑
緑白:兎
白黒
青赤
黒緑
赤白:ハツカネズミ
緑青:カエル

 我々は続けて、プレイヤーには人気だが数が少なくてできることがない動物のクリーチャー・タイプを、この環境で作れるかどうかを考えた。

 アライグマのクリーチャー・タイプは、『Unstable』の《Squirrel Dealer》で初めて登場した。『ニューカペナの街角』では初めてエターナルで使用できるものが登場したが、わずか2枚だった。アライグマは非常に好評だったので、我々はより多くのカードを出せる場所を探っていた。アライグマが入り得る色は、赤緑か青赤か黒緑だ。青と赤は盗む色であるため、アライグマの泥棒としての性質を表現できる。しかしこれまで青にアライグマがなく、中心色なら緑の方が自然だと感じられた。次に黒緑を検討したものの、最終的にその枠にはより良い選択肢があると判断した(詳しくは後段で語ろう)。こうして、アライグマは赤緑に収めることになった。

 カワウソのクリーチャー・タイプは、『イコリア:巨獣の棲処』と同時発売の『統率者(2020年版)』に収録された《永劫にはしゃぐもの》で初めて登場した。カワウソの遊びたがりな性質から、カワウソのカードは青赤への収まりが良かった。加えて、我々がこのセットのプレインズウォーカー枠をラル・ザレックにしようと計画していたところへ、クリエイティブ・チームがこの次元にプレインズウォークしたプレインズウォーカーは動物に変わる、というクールなアイデアをもたらしたのだった。

 我々は数が少ないアライグマやカワウソのようなクリーチャー・タイプに特に気を配っており、メカニズム上で扱うセットよりも先にそれらを収録する機会を伺っていた。『エルドレインの森』にアライグマとカワウソがあるのは、そういう経緯だったのだ。

 それらを入れて、アーキタイプは以下のようになった。

白青:鳥
青黒:ネズミ
黒赤
赤緑:アライグマ
緑白:兎
白黒
青赤:カワウソ
黒緑
赤白:ハツカネズミ
緑青:カエル

 残るアーキタイプは3つ。ここまでのリストを眺めていると、カードが少ないクリーチャー・タイプがそこそこあることに我々は気づいた(アライグマ、兎、カワウソ、ハツカネズミ、カエル)。そこで残る枠には、もう少し歴史あるクリーチャー・タイプを選ぶことにした。それから、我々が築いていた生態系にはそこに適したクリーチャーの数が少なく、もう少し増やしたいと考えたことも付記しておこう。

 緑黒に収める動物は、明らかだった。完璧に合うクリーチャー・タイプがあり、プレイヤーからの人気も高く、緑と黒のクリーチャーとしての歴史もある。そのクリーチャー・タイプとは無論、リスである。

 リスは初期の頃からマジックのカード・アートに姿を見せていたが、クリーチャー・タイプとして登場したのは『オデッセイ』が初めてだった。私がリスをこよなく愛するのは、『オデッセイ』でクリエイティブ・リードを務めたことも関係しているのかもしれない。リスはブランド・チームによってしばらくの間黒枠のマジックから締め出されることになったため、初の伝説のリスである『Unsanctioned』の《Acornelia, Fashionable Filcher》を含め、私は『Un』セットでリスを出し続けた。のちにリスは黒枠セットへの帰還を果たし、『モダンホライゾン2』ではドラフト・アーキタイプの1つにもなった。

 コウモリのクリーチャー・タイプは、『レジェンド』の《吸血コウモリ》で初めて登場した。コウモリは長い時間をかけてゆっくりと数を増やし、クリーチャー・タイプの常連となっていった。色はほとんど黒が独占している。コウモリには飛行を与えたかったので、白黒が文句なしだと感じられた。すべて飛行を持っているクリーチャー・タイプを2種類にすることについては議論が起こったが、クリエイティブ面でコウモリが本当に気に入ったため、アーキタイプとすることに決めた。

 残るは黒赤だけだ。理想を言えばバラエティの豊かさを見せられる少し変わったもので、過去にも数多くのカードがあるクリーチャー・タイプが欲しかった。調査を重ねた結果、我々はトカゲにたどり着いた。初めて登場したのは『ホームランド』の《Leaping Lizard》だが、トカゲはまたたく間に赤の主要クリーチャーの1つになっていった。他の動物のクリーチャー・タイプと異なり、トカゲには140枚を超えるカードがある。何もなければ歴史を見てトカゲを赤緑にするところだが、そこに収まるのはアライグマの方が良いと我々は思った。この世界ではトカゲに少し闇の面のフレイバー付けをして、黒にカードがあることを正当化できると感じたのだ。

 我々が最終的に組み上げたアーキタイプは、以下の通りだ。

白青:鳥
青黒:ネズミ
黒赤:トカゲ
赤緑:アライグマ
緑白:兎
白黒:コウモリ
青赤:カワウソ
黒緑:リス
赤白:ハツカネズミ
緑青:カエル

 そして我々は、他にもクリーチャーを単独で収録する計画を立てた。その多くは、アーキタイプとして検討したものの何らかの理由で採用されなかった動物だ。

jp_5db38326f0.png

 この次元における怪物をより大きなクリーチャーとして収録するというアイデアも、我々は気に入った。通常の次元では熊は2/2かもしれないが、ブルームバロウ次元では巨大な怪物になるだろう。展望デザインの間、我々はそれを「捕食者」と呼んだ。当初は知性なき怪物だったが、セット・デザインはそれらを自然の力そのものとし、エレメンタルのクリーチャー・タイプを与えたのだった。

 我々はタイプ的テーマを強化するために、展望デザインにおいて2つのことを行った。1つは「同朋/fellowship」と呼ばれるタイプ的メカニズムの作成。そしてもう1つは「動物/animal」の大包括の作成である。だがどちらも印刷には至らなかった。2週間後に公開予定の「『ブルームバロウ』展望デザイン提出文書」にこれら2つの詳細が書かれているので、そのときにまた改めて語ることにしよう。

 最後に、今回のタイプ的テーマの扱いについての最終的な回答を伝えておこう。セット・デザインは各アーキタイプを、それぞれの動物を感じられるように築き上げた。そしてそこへ、その動物のタイプ的カードを少しだけ振りかけた。つまりカエルのアーキタイプをドラフトすれば、一貫したプレイ・パターンを持つ緑青のデッキが完成する。実際に「カエル」と書かれたカードも数枚あるものの、開封比は低いためリミテッドに大きな影響は与えない。タイプ的テーマによる恩恵の多くは高いレアリティに用意されるため、タイプ的テーマを楽しみたい場合は構築デッキで、ということになるだろう。

 「振りかけた」の意味をわかりやすくするため、カエルのタイプ的テーマによる恩恵を以下に書き出しておく。

  • あなたがカエルをコントロールしていたらコストが減るコモン
  • あなたがカエルをコントロールしていたら追加効果を得るアンコモンのソーサリー
  • カエルの助けになる効果を持つアンコモンの土地
  • このターンにカエルが戦場に出たかを参照するアンコモンの土地やレアのクリーチャー
  • カエルに能力を付与するアンコモンのクリーチャーやレアのクリーチャー
  • カエルを唱えることを参照するレアのクリーチャー

 タイプ的カードの枚数はアーキタイプによってわずかに異なるが、先ほど話した開封比についておおよその見当がつくだろう。

急いで逃げろ

 本日はこれで以上だ。来週は、このセットのメカニズムについて語り、10のドラフト・アーキタイプも紹介しよう。いつもの通り、本日の記事や動物の選択、『ブルームバロウ』に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)TumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、デザインの物語その2でお会いしよう。

 その日まで、あなたに語りかけてくる動物をあなたが見つけられますように。


(Tr. Tetsuya Yabuki)

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