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Making Magic -マジック開発秘話-
三度目の正直 その2
2024年5月27日
『モダンホライゾン3』プレビュー第2週にようこそ。先週はこのセットの展望デザイン・チームを紹介し、プレビュー・カードを公開し、デザインの物語を始めた。今日は他のデザイン・チームを紹介し、新たなプレビュー・カードを2枚公開し、このセットの主要メカニズムの歴史を振り返りながらデザインの物語を締めくくろう。
モダン・マスターズ
いつものように、デザインの物語を始める前にこのセットの制作に携わった人々を紹介しよう。先週は私から、展望デザイン・チームを紹介した。今日はセット・デザイン・チームの出番だ。紹介は『モダンホライゾン3』でセット・デザインのリードを務めたマイケル・メジャース/Michael Majorsに(自身の経歴を含め)書いてもらった。
クリックしてセット・デザイン・チームを表示
さて今回は、これまでやったことのないことから始めようと思う。統率者デッキのデザイン・チームも紹介しよう。彼らの仕事ぶりもまた、称賛を受けるに値する。チームの紹介は統率者デッキ・デザインのリーダーを務めたイーサン・フライシャー/Ethan Fleischerに書いてもらった。
クリックして『モダンホライゾン3』統率者デッキ・デザイン・チームを表示
モダン感覚
エリック・ラウアー/Erik Lauerが展望デザインのカード・ファイルをセット・デザイン・チームへ渡した時点で、2つの主要なメカニズム的テーマ(無色/エルドラージとエネルギー)と1つのメカニズム的ツール(両面カード)があった。マイケル率いるセット・デザイン・チームはその3つの要素をすべて残した上で、もう1つメカニズム的テーマ(改善)を加え、4つの要素をこのセットの核心とした。両面カードについては先週語ったため、残る3つのメカニズム的テーマについて、それぞれの歴史を語っていこう。
無色マナ
無色マナの登場は、このゲームの最初期まで遡る。
リチャード・ガーフィルド/Richard Garfieldは5つの色を創造したが、一部の呪文は誰でも使えるというアイデアを気に入った。『アルファ版』ではそのアイデアが、最終的にアーティファクトという形で実現することになった。それから、色付きのマナだけではマナ・コストの取り扱いが難しくなり過ぎる。これらを解決するために、リチャードは今では「不特定マナ」と呼ばれるものを作った。これはマナ・シンボルの部分に数字が書かれたものであり、不特定マナ・コストはどの色のマナでも支払うことができる。
そして不特定マナ・コストというものが存在したからこそ、リチャードは無色マナのアイデアを思いついた。無色マナは色マナ・コストの支払いには使えないが、不特定マナ・コストの支払いには使える。不特定マナ・コストを持つカードがかなりの数になったため、リチャードはマナプールに無色マナを加えるカードを4枚作った。当時は「あなたのマナ・プールに無色マナ2点を加える。」と書かれただけのものだった。
その後マジック3番目のエキスパンションである『レジェンド』にて、我々は不特定マナで使用しているシンボルと同じもの、つまりマナ・シンボルに数字が書かれたものを使い無色マナを示すようになった。そうなった理由は、ルール・テキスト上の色マナの示し方にあると私は思っている。{R}を加えると、それは{R}や不特定マナ1点の支払いに使うことができる。それは無色マナ2点の場合も同じで、{2}を加えれば{2}の不特定マナ・コストの支払いに使うことができ、そこに限りはない。また、この表記は不特定マナと無色マナという2つの異なるものを混同していた。
『ゲートウォッチの誓い』までは、この表記に問題はなかった。無色とエルドラージの奇妙さをこれまでにない方法で捉えるために、『ゲートウォッチの誓い』のデザイン・チームは無色マナをコストに使うというアイデアを思いついたのだ。そのアイデアは斬新で、後方互換性を維持しながらも新しいマナ・コストの概念を生み出す賢い方法だった。だが1つだけ問題があった。マナ・コストに不特定マナを含めたとたん、混乱が発生するのだ。{1}{W}は、不特定マナ1点と白マナ1点も、無色マナ1点と白マナ1点も示せるようになってしまう。
この表記が長きにわたり使われてきたのは、書かれているシンボルがどのマナなのかを示していたからに他ならない。不特定マナ・シンボルが入る部分に無色マナも含めるとなると、不明瞭になってしまうのだ。
その解決策とは、無色マナに新しいマナ・シンボルを用意することだった。我々は多くの時間をかけてそれに取り組み、最終的に{C}というシンボルになった。そして無色マナを生み出す昔のカードもすべて、このシンボルを使用するように遡って変更した。
無色マナは2つの点でデザインが難しいことが判明した。1つは、各能力が1つ以上の色に注意深く割り当てられた、カラー・パイという素晴らしいものがあること。無色は色ではない(私のブログではよく「裸足は靴ではない」と表現している)が、それでもいくつかの特徴が必要だった。我々は無色にできることとできないことついて多くの議論を重ねたのだった。
もう1つは、無色マナをコストに含めることが、当初の認識よりずっと多くの構造上の要件を生み出したことだ。新しい色を加える場合にその色のマナを生み出せるカードを用意する必要があるのと同じように、無色マナにもお膳立てが必要だった。
この2つの点が合わさり、無色マナ・コストの扱いは難しくなった。加えて、無色マナ・コストはエルドラージと密接に結びついたものになった。この点については他でも使い始めれば解消できると信じているが、現時点で扱いが難しい要因の1つにはなっている。
『ゲートウォッチの誓い』の後に新規カードに無色マナを使ったのは、『統率者マスターズ』の統率者デッキ「エルドラージ解放」のみだ。『兄弟戦争』の展望デザインで無色マナを再び使うアイデアが試され、ドラフト・アーキタイプを通常の10種類に各色と無色の組み合わせを加えて15種類にするアイデアまで実験されたものの、それはこのセットの焦点である懐かしさからメカニズム面の中核を引き離すものだった。
本流のセットで再びマナ・コストに無色マナが使われる日は来ると私は信じているが、そのときには次の2つのことをすると確信している。1つはセットの大部分を使って多くのリソースを集中させること。もう1つはエルドラージ以外のものに使うことだ。クリエイティブ面の結びつきを1つに限定する期間が長くなると、他の場所で自由に使うのが難しくなってしまう。無色マナ・コストは、ぜひツールの1つとして備えておきたいと心から思っている。
無色マナ・コストはモダンで見受けられながらもカードが足りないテーマの1つであるため、『モダンホライゾン3』にうってつけだった。クリエイティブ面で他の新しい選択肢を探求したい思いはあったが、「モダンホライゾン」セットは懐かしさに焦点を当てるものであるため、再びエルドラージと結びつけることで、フレイバーに富んだカードの数々を作ることができた。後段のドラフト・アーキタイプの項でも語られている通り、エルドラージ・テーマは青と赤と緑と結びついている。
エネルギー
「エネルギー」が最初にデザインされたのは、初代『ミラディン』のデザイン中のことであった。
このセットには大量のアーティファクトが収録されるため、我々はアーティファクトの感覚をメカニズムで捉えようとしていた。発想の源の1つとなったカードが、『ホームランド』の《鋸刃の矢》であった。3個のカウンターが置かれた状態で戦場に出て、そのアーティファクトを3回使えるというものだ。我々はアーティファクトの使用回数が限られているというアイデアを気に入った。ビデオゲームでもそのように機能するものが多く、探求しがいがある領域だと考えた。
統一感を持たせるために、クリーチャーでないアーティファクトに置かれるカウンターはすべて蓄積カウンターにした。ここから、もう1つ大きなアイデアが生まれた。特定のカードから蓄積カウンターを取り除くのではなく、どのカードからでも蓄積カウンターを取り除けるようにするのはどうだろうか。どちらも蓄積カウンター3個が置かれた状態で戦場に出るカードAとカードBがある場合、合計で6個の蓄積カウンターがあることになるが、それを3個ずつに分ける必要はない。カードAの能力が重要な状況なら、もっと使えるようにするのだ。
何度かのプレイテストを経て、我々は蓄積カウンターが基本的に新しいリソースとして機能していることに気づき、このリソースを実現するためによりスマートな方法がないか探り始めた。カードにカウンターを置く方法は、リソース管理上の複雑さを招いていた。例えばアーティファクトを破壊する呪文1枚ですべてのリソースが吹き飛ばないよう、カウンターの用途は幅広く分散することが推奨されていた。加えて、クリーチャーにカウンターを使う場合は+1/+1カウンターが使えなくなり(リミテッドにおいてクリーチャーに置かれているカウンターが何を示すのかわかりやすいよう、1つのセット内でクリーチャーに使うカウンターは主に1つにするというのが基本である)、アーティファクトをテーマにしたセットではフレイバー面でクールなものが多い+1/+1カウンターの方をぜひ使いたかった。
そこで我々が思いついたのが、プレイヤーにカウンターを持たせるというアイデアだった。それはこのリソースの長所をすべて残しながらも、リソース管理上の複雑さの多くを解消した。そして最終的に、それを表すシンボルを用意するのが最適であると判断し、「E」で表現した。我々は何度もプレイテストを重ね、そのリソースはとても楽しいものに仕上がった。
では一体何が起きたのか? 私が率いるチームと私は、さまざまなデザインを作りすぎてしまったのだ。デザイン・リードを務め始めた頃の私はデザインしすぎの傾向があり、メカニズム的要素を作りすぎていた。当時の主席デザイナーであるビル・ローズ/Bill Roseはそんな私に、ものが多すぎるからどれか手放さなければならないと伝えた。そしてセット内の他の要素との結びつきが最も低いのが「エネルギー」であったため、私はそれを取り除いたのだった。私はよく、マジックは飢えた怪物であると表現している。エネルギーについても、いつか居場所を見つけられるだろうと確信していた。「メカニズムE」と呼んで記事でも取り挙げたところ、それに関する問い合わせが何年も続くことになった。
我々は『アラーラの断片』でもエスパー(白青黒)の主要メカニズムとして「エネルギー」を試したが、ぴったり収まるものではなかった。結局エネルギーの居場所は、初代『ミラディン』から13年後の『カラデシュ』まで見つからなかったのだった。
『カラデシュ』は、メカニズム面でもクリエイティブ面でも「エネルギー」を中心に組み上げた。エネルギー・シンボル({E})を作成し、セット全体にエネルギーのやり取りを広げた。エネルギーは結果的に我々の想定より強く、複数のフォーマットを歪めたため、一部のカードを禁止することになった。そして無色マナ・コストと同様に、しばらくの間再登場の機会がなかった。
「エネルギー」は『Jumpstart: Historic Horizons』でカメオ出演し、マジック:ザ・ギャザリング『Fallout』統率者デッキ「科学の力!」では主要メカニズムとして姿を現した。エネルギーは、再登場を望む声が寄せられ続けていたテーマの1つだった。またモダンで最上位層の下に位置するテーマでもあったため、そこを強化したかったのだ。エネルギーは白と青と赤を中心に存在している。
改善
『ゼンディカーの夜明け』と『カルドハイム』、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』が発売されるシーズンに、私はある実験を行った。その3セットすべてにおいて、メカニズム的要素として「モードを持つ両面カード(MDFC)」を使ったのである。私の上司であるアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheは、それがどういうものなのか把握するために、それぞれのセットごとに1つ、合計3つのデッキの雛形を作るよう私に求めた。その時点でデザイン中だったのは『ゼンディカーの夜明け』だけだったため、私はその時点における知識から各セットの形を予測し、それぞれのセットらしさをデッキに盛り込んだのだった。
『カルドハイム』と『ストリクスヘイヴン:魔法学院』ではモードを持つ両面カードに加えて新規メカニズムを用意し、フレイバーと目新しさを少し加えることにした。そして『カルドハイム』のデッキ用に私がデザインしたメカニズムが、「改善」だった(当時はオーラと装備品のみ参照していた)。我々は過去のオーラと装備品を関連づけようと試みたものの、気に入るものが見つからなかった。このときの私のアイデアは、『ドミナリア』で使った「歴史的」の包括から着想を得たキーワード能力を作るというものだった。
我々が『カルドハイム』のデザインに取りかかったとき、私は「改善」を提案し、それはセットに加えられた。しかしその後わずかなカードに残るのみになるまで削り取られていき、このキーワードは取り除かれることになった。
時は進み、アーティファクトとエンチャントをテーマにした『神河:輝ける世界』へ。我々がその2つを関連づける戦略を求めていたところ、「改善」が完璧に収まった。そしてそこへ、カウンターも加えられた。
その後も何度か単発で登場したものの、「改善」はプレイヤーがもっと多くのカードを求めるメカニズム群に入ることになり、モダンで使用されるものもあった。マイケル率いるセット・デザイン・チームは、ドラフト・アーキタイプの形成に大いに役立つとして『モダンホライゾン3』へ改善を加えることにしたのだった。改善は主に、白と黒と緑に見受けられる。
こうして10のドラフト・アーキタイプが完成した。(以下はアーキタイプの説明文からの引用である。)
白青:エネルギー・フライヤー
エネルギーを手に入れるほど強くなる飛行クリーチャーをプレイしよう。それらのクリーチャーを使って対戦相手を攻撃したり、相手のブロック・クリーチャーをかわすトリッキーな方法を見つけたりしよう。
青黒:カードドロー
様々な方法で追加カードをドローして、それを追加効果に活用して戦場を支配しよう。
黒赤:アーティファクト
小さく始めて大きく戦おう。悪名高い「親和」を含む様々なアーティファクト・シナジーを使って、マジックの過去と未来の強豪たちを召喚しよう。
赤緑:エルドラージ・落とし子
エルドラージは、もっとも小さいものですら恐怖の対象だ。エルドラージ・落とし子トークンの助けを借りて、恐ろしいエルドラージの大群で対戦相手を圧倒しよう。
緑白:改善と授与
授与は、クリーチャーをプレイしたり、他のクリーチャーを強化するオーラとして使ったりする汎用性のある能力だ。高い展開力を発揮し、初動の勢いをしのがれたら対戦相手の対抗策をくじいていこう。
白黒:改善と死亡
生け贄に捧げるというこのユニークな戦略では、長期的なアドバンテージを得るために、カウンターや装備品、オーラでクリーチャーを改善することになる。
青赤:エネルギー・ミッドレンジ
君の内なるマッドサイエンティストが目覚める! エネルギーを使った多彩な戦術で、さまざまなタイプのエンジンのようなパーマネントを管理し、対戦相手に対して圧倒的なアドバンテージを生み出していこう。
黒緑:改善と順応
+1/+1カウンターを使い、クリーチャーに呪文に匹敵する効果を与えて対戦相手を圧倒しよう。
赤白:エネルギー・アグロ
余分なエネルギーをためておいても仕方がない! アグレッシブに、エネルギーが必要なことをどんどん行い、ターンごとに攻め続けよう。
緑青:エルドラージ・ランプ
エルドラージ・落とし子を生成し、それを使ってより巨大なエルドラージの仲間を召喚して、 多元宇宙を貪り尽くそう。
本日の記事を終える前に、プレビュー・カードを2枚公開する。1枚は新規カード、もう1枚はモダン新録となる再録カードだ。まずは後者から始めよう。
私がこのカードをデザインしたのは何年も前のことだ。一部のファンのために、カードを見せる前に予想できるよういくつかのヒントを出そう。
- そのカードは、デザイン・チームが私1人だけだったセットのものである。
- そのカードのオラクルではある常盤木キーワード処理が使われているが、元のカードがデザインされた当時は存在しなかった。それが導入されたのは『基本セット2012』でのことである。
- そのカードは、『第8版』でフレームの色が変わったカード・タイプである。
- そのカードは、他のカード1枚の領域を移動させる。
- そのカードの英語名は2語であり、最初の1語はエクステンデッド・フォーマットで人気だった黒緑白デッキの愛称と同じである。
- そのカードの英語名の2語目は、以下のルール・テキストを持つカードのカード名(英語)から1文字取り除いたものである:「単一の対象をとる呪文1つを対象とする。それのコントローラーが{2}を支払わないかぎり、その対象を変更する。」
- そのカードのフレイバー・テキストは以下の通りである:「ゴミは内、宝は外。」
クリックして答えを見る
もう1枚のプレビュー・カードは、『スカージ』で登場したあるメカニズムを使ったものだ。その名を冠する指標もある。
クリックして「両生類の豪雨」を表示
モダン・タイムス
『モダンホライゾン3』の主な構成要素を振り返る記事も、これで以上だ。いつもの通り、本日の記事や『モダンホライゾン3』に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回。その日まで、あなたが「モダンホライゾン」のデザインと同じくらい贅沢三昧なゲーム体験を味わえますように。
(Tr. Tetsuya Yabuki)
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