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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『指輪』に踏み入る その3

Mark Rosewater
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2023年7月3日

 

 先月、『指輪物語:中つ国の伝承』のカード個別のデザインの話を始めた(その1その2)。今回はその3であり、本シリーズの最後の記事となる。

灰色のガンダルフ
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 ガンダルフは、おそらく指輪物語の中で最も有名なキャラクターだろう。一部のキャラクターには複数のバージョンが必要であり、その中の1人が灰色のガンダルフで、旅の仲間に加わって滅びの山への旅を始めたときのバージョンであることは早期にわかっていた。モリアの鉱山で彼はバルログに殺されそうになり、白のガンダルフ(このセット内の別のカード)として蘇るのだ。

 デザイナーが灰色のガンダルフで再現したいことがいくつかあった。

  • 彼が強力な魔法使であることを示すこと
  • 基柱になるような楽しいカードであること
  • 一旦去って後に戻ってくるという物語にふさわしいこと

 最初の計画では、ガンダルフのカードは灰色のガンダルフと白のガンダルフの2枚だった。途中で、2枚から3枚に変更することになった。物語の最初からのものはアンコモン、中盤からのものはレア、終盤からのものは神話レアになった。そのことはこのカードのデザインを始めた時点ではわかっていなかったが、このカードはレアとしてデザインされたものである。

〈灰色のガンダルフ(バージョン#1)〉

{2}{U}{U}
伝説のクリーチャー —アバター・ウィザード
3/4
あなたのアップキープの開始時に、以下からまだ選ばれていない1つを選ぶ。そうできないなら、カード3枚を引き、その後、これをあなたのライブラリーの一番上に置く。

  • 占術2
  • 飛行を持つ白青の2/2の鳥・クリーチャー・トークン1体を生成する。
  • クリーチャー最大3体を対象とする。それらをタップする。

 我々はこれまでに4回、投票を通してユーザーにマジックのカードを作ってもらうという「カードを作るのは君だ/You Make the Card」という企画をおこなってきた。4回目の「カードを作るのは君だ」で、ユーザーは黒のエンチャントを作ることを選んだ。公衆が選んだカードは《無駄省き》というカードで、『基本セット2015』に採用されたが、開発部が気に入っていたがユーザー投票で選ばれなかったデザインがあった。非常に気に入っていたので、手を加えたバージョンが『マジック・オリジン』に入っている。それが《悪魔の契約》だった。

 『マジック・オリジン』は、最初にゲートウォッチに参加した5人のプレインズウォーカーの歴史を取り上げている。その5人の1人であるリリアナは、4人の悪魔と取引をした屍術師だ。我々は、ゲームに負けるという選択肢を含む4つの選択肢から選ぶというメカニズム的実装が気に入っていた。力を得るが、対処しなければならない、あるいはゲームに負けてしまう、代償を伴うのだ。

 このテンプレートはデザイン上の有用性を証明した。《悪魔の契約》以来、それを使ったカードを追加で6枚作っている。(《囚われの聴衆》、《カルガの威嚇者》、《ヘンリカ・ダムナティ》//《冥府の予見者、ヘンリカ》、《祝祭の出迎え》、《穢れたもの、ソルカナー》、《Gift Shop》)灰色のガンダルフはこれを使う8枚目になる。

 興味深いことに、これを使ったこのカードの一番最初のバージョンは、最後の選択肢がモードの1つであるというテンプレートにはしていなかった。おそらくこれは、カードをすぐに引くことができないようにしたかったからだろう。ガンダルフが仲間に加わり、後で姿を消すという全体的なフレイバーは最初から組み込まれていたのだ。

 第1バージョンは青単色だったので、ガンダルフの能力として選ばれたのは、一般的に有用な青の効果だった。鳥が白青なのは、他のカードでそのトークンを使っていたからだろう。

〈灰色のガンダルフ(バージョン#2)〉

{2}{U}{U}
伝説のクリーチャー —アバター・ウィザード
3/4
あなたのアップキープの開始時に、以下からまだ選ばれていない1つを選ぶ。そうできないなら、カード3枚を引き、その後、これをあなたのライブラリーの一番上に置く。

  • あなたがコントロールしているクリーチャー1体をあなたの指輪所持者として選ぶ。(それは伝説であり、護法{2}を持つ。)
  • 飛行を持つ白青の3/2の鳥・クリーチャー・トークン1体を生成する。
  • クリーチャー最大1体を対象とする。それをタップする。それは次のコントローラーのアンタップ・ステップにアンタップしない。

 モードを持つカードのデザインでは、効果にかなりの時間を費やすものである。1つの能力を変えるだけで、ゲームプレイには大きな影響が出るのだ。このカードが変化していくすべての反復工程は説明しないが、デザインの中でカードが興味深いと言えるだけの大きな変化を遂げた点を取り上げていこう。デザインが効果の1つを変更し、それでプレイして、フィードバックを集め、そして次の変更をするのだ。その変更は能力だけにかぎらず、マナ・コストやパワーやタフネスであることもある。

 このバージョンでは、ガンダルフが指輪メカニズムを持つべきかどうか、そしてプレイヤーに興味深い選択を求めるようにパワーを充分近くできているかを試している。常に同じ効果が選ばれるようなモードを持つカードは、面白みに欠けるのだ。

〈灰色のガンダルフ(バージョン#3)〉

{3}{U}{U}
伝説のクリーチャー —アバター・ウィザード
3/4
あなたがインスタントやソーサリーである呪文1つを唱えるたび、以下からまだ選ばれていない1つを選ぶ。

  • カード2枚を引き、その後、カード1枚を捨てる。
  • 飛行を持つ白青の3/2の鳥・クリーチャー・トークン1体を生成する。
  • その呪文をコピーする。そのコピーの新しい対象を選んでもよい。
  • これをあなたのライブラリーの一番上に置く。

 我々は、効果の条件を少し緩めるべきかどうか考えた。毎ターン誘発するクリーチャーは、プレイヤーはただそのクリーチャーを戦場に保つだけでいい。デッキ構築において意識することはない。何らかのふるまいが求められるようにしたほうが灰色のガンダルフは興味深いカードになるのではないか。ガンダルフは呪文を唱える魔法使なので、インスタントやソーサリーを唱えるのがフレイバー的だろう。軽い条件を課すことのもう1つの利点は、効果の規模を大きくすることができることだ。

 カード3枚を引くのは少しばかりやりすぎだとわかったので、ライブラリーに戻す能力から切り離した。この変更によって、その能力をモードの1つにできたのだ。ガンダルフのカードを引く能力は、モードのパワーレベルを合わせるため、2枚引いて1枚捨てるものになった。インスタントやソーサリーで誘発することにしたことで、モードの1つを呪文をコピーするものにできている。

〈灰色のガンダルフ(バージョン#4)〉

{3}{U}{U}
伝説のクリーチャー —アバター・ウィザード
3/4
これが戦場に出たとき、あなたがコントロールしているクリーチャー1体をあなたの指輪所持者として選ぶ。(それは伝説であり、護法{2}を持つ。)あなたがコントロールしている伝説のクリーチャー1体がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、カード1枚を引く。

 私はこの類の記事を書くとき、データベースを参照してカードの歴史を調べる(そしてそのセットのリード・デザイナーの話を聞くことも多い)。私は展望デザインにしか関わっておらずセットデザインには関与していないので、多くの変更は私がチームを離れた以降に起こっているのだ。彼らが《悪魔の契約》のテンプレートを離れたのを見て、正直なところ衝撃を受けた。初期に見つけて、印刷に到るまで調整を続けていたと思っていたのだ。しかしながら、セットデザイン・チームは疑念を持ち、少し違うことを試したいと考えたのだ。

 ここで言っておくと、違うことを試すのは全く悪いことではない。古いバージョンは記録に残っているので、いつでもそこに立ち戻ることができる。何かがうまく働いているかどうかを見る最高の手段が、それを取り除いて何が起こるかを見ることであることはよくある。指輪メカニズムと相互作用するガンダルフはモードの選択肢の中ではうまく行かなかったので、変更したのだ。

〈灰色のガンダルフ(バージョン#5)〉

{2}{U}
伝説のクリーチャー —アバター・ウィザード
1/3
ソーサリー・呪文を、それが瞬速を持つかのように唱えてもよい。
対戦相手のターンの間、あなたがインスタントやソーサリーである呪文を唱えるためのコストは{2}少なくなる。

 次のこの変化は大きいものだった。まず最初に、このカードはレアからアンコモンに変更された。元々、主要なキャラクターはすべてレアや神話レアになっていた。プレイテストで受け取った最大の記録は、「俺の知っているキャラクターはどこ?」だった。『指輪物語:中つ国の伝承』をプレイするなら、ガンダルフやフロドやアラゴルンでプレイしたいものだ。

 このことから、主要なキャラクターには複数のバージョンが必要だと気付かされた。1枚を構築フォーマット向けにしてレアにし、もう1枚をリミテッド向けにしてアンコモンにすることができるのだ。灰色のガンダルフは、アンコモンになった。(この時点では、ガンダルフはファイルに2枚しか存在していない。)

 その移動を経て、彼らはリミテッドのカードに必要なものを反映してデザインをやり直した。ガンダルフは、レアのバージョンから引き継いだ「インスタントやソーサリー関連」テーマにもっとも相応しいキャラクターだと思われた。この2つの能力は、インスタントやソーサリーをすべて対戦相手のターンに唱えることを推奨している。

〈灰色のガンダルフ(バージョン#6)〉

{2}{U}{U}
伝説のクリーチャー —アバター・ウィザード
3/4
瞬速
ソーサリー・呪文を、それが瞬速を持つかのように唱えてもよい。
あなたでないプレイヤーのターンの間にあなたが唱えてこれでない呪文は打ち消されない。

 前のバージョンへの反響の中で最も大きかったのは、小さすぎるというものだった。リミテッドでプレイしやすいようにコストを変更したが、ガンダルフが1/3なのはふさわしくなかった。このバージョンではそれを修正し、2つ目の能力を変更して呪文が通りやすいようにした。

〈灰色のガンダルフ(バージョン#7)〉

{3}{U}{R}
伝説のクリーチャー —アバター・ウィザード
4/4
あなたがインスタントやソーサリーである呪文1つを唱えるたび、以下からまだ選ばれていない1つを選ぶ。

  • カード2枚を引き、その後、カード1枚を捨てる。
  • あなたがコントロールしているクリーチャー1体を対象とする。それはあなたの指輪所持者になる。
  • 飛行を持つ白青の3/2の鳥・クリーチャー・トークン1体を生成する。
  • これをあなたのライブラリーの一番上に置く。

 この時点で、セットデザイン・チームはガンダルフのカードがアンコモンとレアと神話レアに各1枚あるべきだと判断した。この前のバージョンが、アンコモン版の最初のバージョンである。1つ目の能力はそのまま、指輪能力が追加されている。鍵は、ガンダルフ以外のクリーチャーに与えることを推奨していることである。灰色のガンダルフはレアに戻り、《悪魔の契約》のテンプレートに戻った。おそらく最大にして最重要な変更は、青単色ではなく青赤のカードにしたことだろう。これはフレイバーを加えるだけではなく、能力で使える効果に新しい色が増え、また固有色に2色目が加えられたことになる。

〈灰色のガンダルフ(バージョン#8)〉

{3}{U}{R}
伝説のクリーチャー —アバター・ウィザード
3/4
あなたがインスタントやソーサリーである呪文1つを唱えるたび、以下からまだ選ばれていない1つを選ぶ。

  • {T}:好きな色1色のマナ2点を加える。
  • 1つを対象とする。これはそれに3点のダメージを与える。
  • あなたがコントロールしていてインスタントやソーサリーである呪文1つをコピーする。そのコピーの新しい対象を選んでもよい。
  • これをあなたのライブラリーの一番上に置く。

 ここから先も、セットデザイン・チームは延々とこのカードを調整し続けた。他の能力を試した。しばらくの間は、何かをタップしていて、それからアンタップして、両方も試した。各ターンの自分の最初のインスタントやソーサリーである呪文だけで誘発することも試した。他のマナ総量を試した。他のパワーとタフネスの組み合わせも試した。興味深いことに、結局最初の値に戻った。

 すべてが落ち着いた後で、汎用性が高い《ぐるぐる》効果(タップまたはアンタップする)を採用することにした。直接ダメージ効果もある。赤らしさを再現し、またこのカードにさらなるコントロール能力をもたせるためである。青と赤の両方に位置するコピー能力は維持された。もちろん、最初から再現したかったフレイバーであるライブラリーの一番上に戻る能力は維持されている。

ナズグル
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 『アルファ版』で、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは《疫病ネズミ》というカードを作った。

 このカードの意図は、お互いに強化し合うことになる大量のこのカードをデッキに入れてプレイしたいというものだった。デッキ構築のルールが公式に出来たのは、ウィザーズが1994年1月にDCIを立ち上げたときであることを思い出してもらいたい。最初期は、《》と《疫病ネズミ》だけのデッキというのは一般的だったのだ。

 開発部は何度も《疫病ネズミ》の雰囲気を再現しようとして、その多くでは味方のネズミすべてに基づいて大きくなるようにしていた。

 その後、『フィフス・ドーン』のとき、新しい方法を試みたのだ。単純に、プレイしようと思うだけの枚数を入れることができるようにしたらどうだろうか。《》とこのカードだけを使いたいというのか。それならそうすればいい。「デッキに好きな枚数入れてもよい」技法を手に入れて、我々はこれを身長にではあるが他のカードにも使った。最初は、ネズミではないものもあるが、黒でだけ使っていた。

 『ラヴニカの献身』ではこの能力を青にも導入し、『エルドレインの王権』と『ストリクスヘイヴン:魔法学院』では赤で使った。 色の協議会では、これについて議論した。我々は、そのカードがその色にあっているのなら、どの色でも「デッキに好きな枚数入れてもよい」を使えると決定した。

 『エルドレインの王権』で、私は七人の小人のフレイバーを再現したいと考えた。もとの計画では、セットにちょうど7枚のドワーフ・カードを入れるつもりだったが、枚数が増えすぎるのとカードのコンセプト化に制限が少しばかり多すぎた。解決策は、《七人の小人》という1枚のカードを作り、《執拗なネズミ》のテンプレートの亜種を作ることだった。好きな枚数入れられるのではなく、特定枚数まで入れることができるのだ。この場合、その枚数は7枚だ。

 我々はこの技法を『指輪物語:中つ国の伝承』でも使った。ナズグルを入れる必要がある。彼らは物語上の強大な敵の1つだが、七人の小人同様、9枚分の場所はない。幸いにも、我々はその問題をもう解決していた。ナズグルは《七人の小人》の技法を使い、デッキに9枚まで入れることができる初のカードになったのだ。

一時の猶予》(白の打ち消し呪文)
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 先に述べた色の協議会とは、カラー・パイが正しく扱われるようにするためカードすべてのデザインを監督するグループである。(それについての記事はこちら。)その色がすべきでないことをしているカードが印刷されないようにすることがその仕事である。興味深いことに、他の開発部員が、ある色では現在扱っていないが可能な効果に気づくようにすることも、この協議会の仕事なのだ。それらのカードが実際に作られるかどうかは、カードを作るチームの判断である。色の協議会はアイデアを提案でき、そのメンバーの多くはいくつものデザイン・チームに所属しているが、そのグループが作りたいと思わなければ我々が作らせることはできない。

 この一例と言えるのが、白の打ち消し呪文である。白は課税ができるので、「呪文1つを対象とする。対戦相手が[コストを支払わ]ないかぎり、それを打ち消す。」という文章をもたせることができる。ここで、コストはプレイヤーが大抵支払えるものでなければ、「呪文1つを対象とする。それを打ち消す。」と非常に似通ったものになってしまう。課税では、対戦相手がその税を支払うかどうかを選べるが、その支払いがそのプレイヤーにとって選択肢にならなければならないのだ。

 加えて、白は遅らせることができる。つまり、白には呪文を一時的に止める呪文がありうる。そのための方法の1つが、呪文をオーナーの手札に戻すことである。(実質打ち消しだ。)その呪文のオーナーは再び唱えることができるので、その脅威を永続的に除くというよりはその呪文が唱えられるのを遅れさせるということになる。

 課税と遅延という2つのことは、カラー・パイ上で白に位置している。すでに何年もの間そうである。それなら、なぜ、印刷された白の打ち消し呪文はこんなに少ないのか。それは、開発部がそれを作ろうと思わなかったからである。打ち消し呪文は賛否が大きく分かれるものであり、この能力を2色目に持たせることには注意が必要だと考えられていたのだ。それではなぜ《一時の猶予》が作られたのか。

 『指輪物語:中つ国の伝承』のリード・セット・デザイナーだったグレン・ジョーンズ/Glenn Jonesが、このセットにとっていい追加になると判断したからである。彼はモダンで実用的なカードを作る任務を帯びていて、彼の調査結果からこれがふさわしいとなったのだ。まず、彼は色の協議会を訪れた。我々は彼に、「それは白のパイの中だ。ずっとそうだった。我々はこの効果のカードを誰かが作ることに心を躍らせている。」と伝えたのだ。その後、彼はセットデザインやプレイデザインと協力して明確化した。いくらかの議論はあったが、最終的に、グレンは勝利してこのカードが印刷に到ったのだった。

皆に聞こえる『指輪』の響き

 この三部作もそろそろ終りとなる。中つ国のカードの伝承を楽しんでもらえていれば幸いである。いつもの通り、この記事や話題にしたカード、あるいは『指輪物語:中つ国の伝承』そのものについて、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『統率者マスターズ』のプレビューが始まる火曜日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが『指輪物語:中つ国の伝承』をプレイする時間が滅びの山ではなくホビット庄のようなものでありますように。


(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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