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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『指輪』に踏み入る その1

Mark Rosewater
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2023年6月12日

 

 これまで2週に渡って(その1その2)『指輪物語:中つ国の伝承』(LTR)の展望デザインとセットデザインについて語ってきた。これから2週をかけて、そのセットのカードのデザインの話をしていく。早速はじめよう。

一行のリーダー、アラゴルン
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 『アモンケット』で、ブースターに入れることができ、プレイヤーが打ち出してゲームプレイ時にカウンターなどとして使うことができるパンチアウト・カードが登場した。『アモンケット』のデザイン中にすでにキーワード・カウンターのアイデアは出ていたが、そのセットにはすでに充分な内容があったので進めないことにしたのだ。キーワード・カウンターではなかったが、クリーチャーにカウンターを置いてキーワード能力を与えた最初のカードは『ビジョンズ』のキマイラだったということを指摘しておこう。(当時キーワード・カウンターの技術があれば、もちろん使っていたことだろう。)そしておよそ1年後、将来のデザイン空間を探るハッカソンを行ない、私はキーワード・カウンターを試すためにそれを使ったカードを大量にデザインする小チームを率いた。そして、うまく働いたのだ。

 私は最終的に『イコリア:巨獣の棲処』の展望デザインでそれらを変容を成立させる中核的道具として採用した。変容は変更されたが、『アモンケット』と『イコリア:巨獣の棲処』のセット・リードだったデイブ・ハンフリーズ/Dave Humpherysがたいそう気に入っていてセットに残したのだ。『イコリア:巨獣の棲処』には、プレイヤーが変更を追跡する助けとなるパンチアウト・カードがあった。このセットで、9種のキーワード・カウンター(接死、先制攻撃、飛行、呪禁、絆魂、威迫、到達、トランプル、警戒)が登場した。『イコリア:巨獣の棲処』と同時に発売された『統率者(2020年版)』ではさらに2種(二段攻撃、破壊不能)が登場している。これによって、当時の常盤木キーワードは3種(防衛、瞬速、速攻)を除いてすべてカウンター化されたことになる。防衛は不利益なメカニズムであり、残り2種もカウンターにしてもうまくは働かない。後に追加された護法は、まだキーワード・カウンターにはなっていない。近日発売予定の、マジック:ザ・ギャザリング『ドクター・フー』統率者デッキのプレビューされた次元カードは、 常磐木でない初めてのキーワード・カウンターであるシャドー・カウンターを使っている。

 『カルドハイム』では、デイブ・ハンフリーズはアンコモン1枚とレア2枚の合計3枚のカードでキーワーード・カウンターを採用することにした。このセットにはパンチアウト・カードはなかったが、デイブは低い開封比なら問題ないと感じたのだ。これによってキーワード・カウンターは落葉樹になった。つまり、どのセットでも採用できるが、パンチアウト・カードがないセットでは開封比は低くする必要があるということである。デイブはその後、『神河:輝ける世界』でも採用した。

 キーワード・カウンターを使う頻度が上がっていくにつれ、その使い方も広がっていった。《一行のリーダー、アラゴルン》はその好例である。以前にも、誘発してカウンターを自軍のクリーチャーに置くカードを作ったことはあり、様々なカウンターから選べるようにすることも多かったが、それらを独立した「カウンター関連」能力に統合したことはなかった。今回の場合、《一行のリーダー、アラゴルン》の上に置かれたカウンターを他のクリーチャーの上に複製できるのだ。この能力はこのカードに書かれているキーワード・カウンターだけに限るものではなく、セット内の他のカードとも組み合わせてプレイできることに注意。

 《一行のリーダー、アラゴルン》は、自分以外のクリーチャーを指輪所持者として選ぶことで利益をもたらすわずか4人(アラゴルン、ファラミア、ガンダルフ、ガラドリエル)しかいないキャラクターの1人である。《一行のリーダー、アラゴルン》の効果は、4つのキーワード・カウンターのうち1つを与える。2つ目の能力は、1つ目の能力とシナジーがあり、このカードを楽しい基柱カードにするものが選ばれた。

 キーワード・カウンターは実用的でフレイバーに富んでいることがわかっていて、今後もその使われ方が進化していくと予想できる。キーワード・カウンターを大量に使えて、メカニズムに組み込むことすら出来うる、パンチアウト・カードのあるセットは時々作られるだろう。それ以外では、時折、主にレアや神話レアでこの種のデザインが見かけられるだろうし、デイブ・ハンフリーズがセットデザイン・リードを務めるほとんどのセットでは可能性があるだろう。

ブリー村の詐欺師、ビル・ファーニィ
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 「ユニバースビヨンド」セットを作る上で重要な部分の1つが、主な登場人物全員のカードをデザインすることである。多くのプレイヤーにとって、それが一番興味のあるカードなのだ。しかし、熱烈なファンにとっては、最も重要なカードは深掘り、つまり彼らしか知らないようなマイナーな登場人物を扱うカードであることがある。そこから、我々はビル・ファーニィ(や次の《小馬のビル》)をデザインするに到ったのだ。LTRのプレビュー記事1本目で触れた知識ピラミッドで言うなら、ビル・ファーニイや小馬のビルはそのピラミッドの最上部に位置している(つまり、最も熱心なファンだけが知っている)。

 ビル・ファーニィは悪漢である。彼はサルマンやサウロンの代理人で、ほぼいつでも利己的である。物語上の一箇所で、彼はビルという小馬をアラゴルンに売る。もちろん、かなり高く売りつけるのだ。我々は最初から、この両者をセット内でカード化すべきだとわかっていた。ビル・ファーニィは青か黒である。青にはもっとクリーチャーが必要だったので、ビル・ファーニイは青になった。

 初期における彼のデザイン上の試みは、そのほとんどが悪漢のトップダウン・デザインする様々な方法に関するものだった。

強襲 — これ、またはあなたがコントロールしていてこれでないクリーチャー1体が戦場に出るたび、このターンにあなたが攻撃していた場合、カード1枚を引き、カード1枚を捨てる。

クリーチャー1体があなたのコントロール下で戦場に出るたび、プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカード1枚を切削する。そのクリーチャーが伝説なら、代わりに、そのプレイヤーはカード2枚を切削する。

これ、またはこれでない人間1体があなたのコントロール下で戦場に出るたび、パーマネント1つを対象とするそれをタップまたはアンタップする。

 同時に、ビル・ファーニイの主たる原動力が欲望なので、宝物を絡ませるのが重要だと我々は判断した。

これが戦場に出たとき、あなたがコントロールしているクリーチャー1体を指輪所持者として選ぶ。(それは伝説であり、護法{2}を持つ。)1体以上の伝説のクリーチャーがブロックされた状態になるたび、宝物・トークン1つを生成する。(それは「{T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を加える。」を持つアーティファクトである。)

あなたがコントロールしている1体以上の伝説のクリーチャーがプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、宝物・トークン1つを生成する。(それは「{T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を加える。」を持つアーティファクトである。)

これが戦場に出たとき、あなたがこれを唱えていた場合、あなたがコントロールしている人間1体につき1つの宝物・トークンを生成する。(それらは、「{T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を加える。」を持つアーティファクトである。)

 その一方で、チームは《小馬のビル》も作っていた(詳しくは後述)。そして、ビル・ファーニィは何らかの形で馬に言及しなければならないと気がついた。

これが戦場に出たとき、あなたがこれを唱えていた場合、あなたがコントロールしていて馬や人間である1体につき1つの宝物・トークンを生成する。(それらは、「{T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を加える。」を持つアーティファクトである。)

あなたが各ターンのあなたの2つ目の呪文を唱えるたび、プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカード2枚を切削する。プレイヤー1人が1枚以上のクリーチャー・カードを切削するたび、あなたは宝物・トークン1つを生成する。それらのカードのうち1枚が馬なら、代わりに、宝物・トークン3個を生成する。(それは「{T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を加える。」を持つアーティファクトである。)

これがプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、そのプレイヤーはその点数に等しい枚数のカードを切削する。対戦相手1人が1枚以上のクリーチャー・カードを切削するたび、あなたは宝物・トークン1つを生成する。そのプレイヤーが1枚以上の馬・カードを切削したなら、代わりに、宝物・トークン3つを生成する。(それらは、「{T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を加える。」を持つアーティファクトである。)

 デザインが進化するにつれ、セットデザイン・チームはただ馬を参照するだけでは足りないと判断した。ビル・ファーニィは馬を売らなければならない。

{3}{U}, {T}:対戦相手1人と、あなたがコントロールしていて宝物でないパーマネント1つを対象とする。そのプレイヤーはそのパーマネントのコントロールを得る。
対戦相手1人があなたがオーナーであるパーマネント1つのコントロールを得るたび、あなたはカード1枚を引き宝物・トークン1つを生成する。そのパーマネントが馬だったなら、代わりに、あなたはカード3枚を引き宝物・トークン3つを生成する。(それらは、「{T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を加える。」を持つアーティファクトである。)

これでないパーマネント1つがあなたのコントロール下で戦場に出るたび、対戦相手1人を対象とする。あなたがこれをコントロールし続けているかぎり、そのプレイヤーはそれのコントロールを得る。そうしたなら、あなたは宝物・トークン1個を生成する。そのパーマネントが馬だったなら、代わりに、あなたは宝物・トークン3つを生成する。(それらは、「{T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を加える。」を持つアーティファクトである。)

これがプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、あなたがコントロールしていてこれでないパーマネント1つを選んでもよい。そうしたなら、次のあなたのターンの終了時まで、そのプレイヤーはそのパーマネントのコントロールを得る。あなたは宝物・トークン1つを生成する。これにより馬が選ばれたなら、代わりに、あなたは宝物・トークン3つを生成する。(それらは、「{T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を加える。」を持つアーティファクトである。)

 最終的に、セットデザイン・チームはこのカードが馬を売るという意図からあまりにも離れていると判断した。解決策は、このカードに基本的な機能1つを与え、効果をモードを持つものにして、馬を売ることが利益ではあってもカードの主な機能ではないようにすることだった。そうして出来たのが、《ブリー村の詐欺師、ビル・ファーニィ》の最終的なデザインである。

小馬のビル
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 初期から、小馬のビルという名前のカードがほしいと誰もがわかっていた。馬のサブタイプを持つ伝説のクリーチャーで、白系でなければならない。厳密に何をするのか、大きさはどうか、などはかなりの変遷を経た。この記事のためにデザインの進化を調査する中で、印刷された最終盤に到る前に15種類の異なるバージョンを見つけた。

 ビルは有用な小馬なので、有用な「戦場に出たとき」の効果を持っているかもしれない。旅することを表すように土地を持ってくるかもしれないし、仲間を連れてくるかもしれない(最初から白単色だった)。

これが戦場に出たとき、あなたのライブラリーから平地・カード1枚か伝説のクリーチャー・カード1枚を探し、公開し、あなたの手札に加える。その後、ライブラリーを切りなおす。

 旅を忘れれば、彼は単に仲間を連れてくるだけになる。

これが戦場に出たとき、あなたのライブラリーから伝説のカード1枚を探し、公開し、あなたの手札に加える。その後、ライブラリーを切りなおす。

 彼は生活必需品を運ぶ。食物と相互作用させたいかもしれない。白にはアグロのアーキタイプがあるので、攻撃誘発にできる。仲間が好きだが、今度は仲間全員だ。

これが攻撃するたび、食物・トークン1つを生け贄に捧げてもよい。そうしたなら、以下から両方を選ぶ。そうしないなら、以下から1つを選ぶ。

  • あなたがコントロールしているすべての伝説のクリーチャーは+1/+1の修整を受ける。
  • あなたがコントロールしているすべての伝説のクリーチャーをアンタップする。

 我々は歴史的テーマに寄せていて、彼に直接食物を参照しはしないが食物とシナジーのある能力を与えた。

あなたがコントロールしていてこれでないすべての伝説のクリーチャーは+1/+1の修整を受ける。あなたがライフを得るなら。代わりに、その点数に1を足した点数のライフを得る。

 彼は仲間とともに攻撃することをより直接的に推奨することもありうる。

あなたがコントロールしていて攻撃している伝説のクリーチャーが受けるすべての戦闘ダメージを軽減する。

 食物とのシナジーが正解かもしれない。それを使って自軍のクリーチャーを助けることができるのだ。

食物・トークン1個を生け贄に捧げる:あなたがコントロールしているクリーチャー1体を対象とする。それをオーナーの手札に戻す。あなたのターンの間、かつ各ターンに1回だけ起動できる。

 食物を忘れて、クリーチャーを救うことに焦点を置く。

あなたがコントロールしている1体以上のクリーチャーがブロックされた状態になるたび、それらのクリーチャーのうち1体をあなたの手札に戻してもよい。

 いや、彼は荷馬だ。食物と相互作用すべきだ。食物を食べることで、ビルが大きくなる助けになるかもしれない(この時点で、彼は緑白だった)。

これが戦場に出たとき、食物・トークン1つを生成する。(それは、「{2}, {T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:あなたは3点のライフを得る。」を持つアーティファクトである。)
あなたがライフを得るたび、これの上に+1/+1カウンター1個を置く。

 いや、食物はビルではなく他のクリーチャーを助けるものであるべきだ。

これが戦場に出たとき、食物・トークン1つを生成する。(それは、「{2}, {T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:あなたは3点のライフを得る。」を持つアーティファクトである。)
これが攻撃するたび、ターン終了時まで、あなたがコントロールしているすべてのクリーチャーは+1/+1の修整を受ける。このターンにあなたがライフを得ていたなら、代わりに、それらの各クリーチャーにそれぞれ+1/+1カウンター1個を置く。

 ビルはホビット(あるいはそれらの小型クリーチャー)を助けるべきかもしれない。

各終了ステップの開始時に、このターンにパワーが2以下のクリーチャーがあなたのコントロール下で戦場に出ていた場合、食物・トークン1つを生成する。(それは、「{2}, {T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:あなたは3点のライフを得る。」を持つアーティファクトである。)

 ホビットを忘れて、ビルが食物を使って攻撃を推奨するとしたらどうなるか。

これが戦場に出たとき、食物・トークン1つを生成する。(それは、「{2}, {T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:あなたは3点のライフを得る。」を持つアーティファクトである。)
食物・トークン1つがあなたのコントロール下で戦場に出るたび、対戦相手がコントロールしているクリーチャー1体を対象とする。それをタップする。

 食物を食べて自軍のクリーチャーを大きくする助けにすることに戻ろう(ビルは白単色に戻っていた)。

これがクリーチャー1体に戦闘ダメージを与えるたび、食物・トークン1つを生成する。(それは、「{2}, {T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:あなたは3点のライフを得る。」を持つアーティファクトである。)
これが攻撃するたび、これでない攻撃クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは+X/+Xの修整を受ける。xはこのターンにあなたが得たライフの合計に等しい。

 食物をホビットと結び付けられるかもしれない(緑白にホビット/食物アーキタイプがある)。

これがクリーチャー1体に戦闘ダメージを与えるたび、食物・トークン1つを生成する。(それは、「{2}, {T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:あなたは3点のライフを得る。」を持つアーティファクトである。)
各終了ステップの開始時に、このターンにあなたが2つ以上の食物・トークンを生け贄に捧げていた場合、「あなたのライブラリーからハーフリング・カード1枚を探し、公開し、あなたの手札に加える。その後、ライブラリーを切りなおす。」を選んでもよい。

 デザインの鍵は食物のようだ。土地を取ってくることに立ち戻ろう。旅はいいフレイバーだ。

これがクリーチャー1体に戦闘ダメージを与えるたび、食物・トークン1つを生成する。(それは、「{2}, {T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:あなたは3点のライフを得る。」を持つアーティファクトである。)
各終了ステップの開始時に、このターンにあなたが2つ以上の食物・トークンを生け贄に捧げていた場合、「あなたのライブラリーから基本土地・カード1枚を探し、公開し、あなたの手札に加える。その後、ライブラリーを切りなおす。」を選んでもよい。

 だめだ。食物とホビットのテーマは維持しよう。

これが戦場に出たとき、食物・トークン2つを生成する。(それらは、「{2}, {T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:あなたは3点のライフを得る。」を持つアーティファクトである。)
食物・トークン1つを生け贄に捧げる:ハーフリング1体を対象とする。ターン終了時まで、それは二弾攻撃を得る。ソーサリーとしてしか起動できない。

 このカードのデザインの話は、特別なものではない。必要なものの大枠はあっても、微調整する方法は大量にあり、セット全体が変わるに連れてデザインは代わり続けるものなのだ。少しずつ、我々は採用するテーマを選び(食物が意味を持つべきだ)、そしてやがて最終系へと収束していくのだ。

 プレイヤーが食物・トークンと引き換えにクリーチャーでタフネス分のダメージを与えられるようにしたのは、セットデザイン・チームが『エルドレインの王権』で食物・トークンを登場させたときの失敗を回避するために尽力したからである。彼らは食物を攻撃を推奨するものに、そして防御よりもゲーム終了に向かうものにしたかったのだ。そのため、彼らはクリーチャーに(特に白や緑では)3点のライフよりも平均して価値が高い能力を持たせた。これによってプレイヤーに、長引かせるよりも勝利に向かうように食物を使うことを推奨しているのである。

 《小馬のビル》には多くのフレイバーがあるが、同時にゲームプレイ上の重要な機能があるのだ。小馬のビルのファンが喜んでくれれば幸いである。

ドゥネダインの刃
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 装備品が初登場したのは『ミラディン』で、その次元に初めて訪れたときのことだった。内部での評価が非常に高く、後には外部での評価も高かったので、次のセットから常盤木に格上げした。初期に、我々は、特定のクリーチャー群にしかつけられない装備品・カードはどうかと考えた。ゴブリンだけが使える刃があるかもしれない。我々は、それはあまりに制限が強すぎると判断した。代わりに、どのクリーチャーにでもつけられるが特定のクリーチャー・タイプではボーナスが得られるものを作った。

 初代『イニストラード』で、人間につけると強くなる装備品がある。フレイバー的には、武器や日用品を使うのがその次元の怪物よりも得意だという人間の長所を再現していた。当時、我々はありうる利点として、人間には装備コストが軽くなるというものを検討していた。ルールに確認したところ、扱えるという回答を得た。我々は装備品が強くなるというフレイバーを気に入っていたので、その時は最終的に「〇〇に装備」技術は採用しなかった。

 次にその採用を検討したのは、『イクサラン』のときだった。《海賊のカットラス》は暫くの間海賊に装備だったが、最終的に、戦場に出たときに海賊につくようにすることにした。

 最終的に、『ドミナリア』の《再鍛の黒き剣》で代替装備コストを使うことを決めた。これは一番明瞭で語数が少ない書き方だったのだ。テストの結果、これを使うことは直感的だとわかった。我々は、〇〇に装備を使う場合、(ほとんどの場合)通常の装備コストも持たせている。これによって、そのカードは通常の装備品としても働くが特定のテーマを推奨していると明らかになる。次に来た《チームのペナント》は『ストリクスヘイヴン:魔法学院』だった。このセットには濃いクリーチャー・トークン・テーマがあったので(インスタントやソーサリーの「クリーチャー」カードが作れる)、我々はこの技術を使ってトークン・クリーチャーに装備しやすくした。次の登場は『統率者レジェンズ』の《統率者の板金鎧》である。この製品は統率者戦に焦点を当てていたので、代替装備コストは自分の統率者向けのものになっていた。

 『ニューカペナの街角』は、史上初にして現在唯一の、複数種類の「〇〇に装備」が存在するセットである。《儀礼用シャベル》は、軽い「市民に装備」コストを持つ。《ジアーダの贈り物、ラクシオール》は、もう少し複雑なことをしていて、その空間は新しい。プレインズウォーカーに装備できて、これは通常の装備品には(クリーチャーでない限り)できないことだった。「プレインズウォーカーに装備」能力はそれを可能にした。つまり追加の機能を与えたのである。『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』の《ローブ・オヴ・ジ・アーチマギ》は、複数のクリーチャー・タイプ(シャーマン、邪術師、ウィザード)を扱う装備コストの初の例である。『兄弟戦争』の《古参兵の魔力刃》は、「兵士に装備」の初の例である。

 そして《ドゥネダインの刃》に到る。ドゥネダインはヌーメノールの中つ国の人類の一種で、長命である。指輪戦争の間、ゴンドール人と北のレンジャーがドゥネダインであった。例えば、アラゴルンはドゥネダインである。《ドゥネダインの刃》は、彼らの武器の1つを表している。メカニズム的に人間とつなげるため、セットデザイン・チームは人間に装備を使うことを決めたが、興味深いことに今日の話を最初から繰り返していた。このカードはコモンで、人間をテーマとしたデッキ(赤白のドラフト・アーキタイプは「並べる」人間である)に最適になるようにデザインされている。このカードはリミテッドで人間でないデッキでも使えるようにコスト付けされているが、もちろん人間と組み合わせたときに最もよく働く。つまり、赤白をドラフトしているプレイヤーは、このカードを他のプレイヤーよりも少し早く取ることが推奨されることになる。また、このカードをドラフトしたなら、人間をいくらか優先して取りたくなるだろう。

 私は、「〇〇に装備」はまだ進化の序盤にあると考えている。これでまだまだ多くのことができる。クリーチャー・タイプでも色々なことができるが単にクリーチャー・タイプだけでなく、プレインズウォーカーに装備でやったような大きな実験が可能である。これは、装備品・カードにちょっとした風味を加える、フレイバーに富んでいて明瞭な方法なのだ。

『指輪』の外へ

 本日はここまで。いつもの通り、この記事や話題にしたカード、あるいは『指輪物語:中つ国の伝承』そのものについて、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、その2でお会いしよう。

 その日まで、あなたが『指輪物語:中つ国の伝承』のプレイや自分自身の物語づくりを楽しみますように。
 

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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