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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『指輪』作り その2

Mark Rosewater
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2023年6月5日

 

 『指輪物語:中つ国の伝承』プレビュー第2週にようこそ。先週、展望デザイン・チームを紹介し、このセットの展望デザインについて語った。今週は、セットデザイン・チームを紹介して、セットデザインの工程について語り、さらにこのセットの新カード2枚をお見せしよう。

セットの仲間

 セットデザインの話に入る前に、まずセットデザイン・チームをご紹介しよう。いつも、チームのリードに紹介してもらうことにしている。『指輪物語:中つ国の伝承』では、リードはグレン・ジョーンズ/Glenn Jonesだった。彼自身のものも含む、すべての紹介は彼に書いてもらったものである。(彼は三人称的に自分のことを書くのが好きなのだ。)

クリックしてセットデザイン・チームを表示

さらなる指輪の伝承

 このファイルが展望デザインから提出された時点で、オーク動員と当時のバージョンの指輪メカニズムはファイルに含まれていた。まずこれら2つのメカニズムについて解説し、セットデザイン・チームが追加したいくつかのメカニズムについて論じよう。

指輪があなたを誘惑する

 展望デザイン提出文書の時点で、指輪所持者になるというのは〈一つの指輪〉をクリーチャーにつけることを意味していた。当時の〈一つの指輪〉は、アーティファクト・装備品・トークンだった。指輪がその時点で存在していないなら、まず生成して、それから新しい指輪所持者につけるのだ。このバージョンでは、クリーチャーには2つの能力が与えられていた。潜伏(自身よりもパワーが大きいクリーチャーにはブロックされない)と、「対戦相手1人に戦闘ダメージを与えるたび、あなたは1点のライフを支払ってカード1枚を引く。」である。

 セットデザインは、このアーティファクト・装備品・トークンのバージョンでプレイした。フレイバーに富んではいたが、いくつかの問題があった。1つ目に、文章が長い。2つ目に、楽しい以上に混乱を招くような複雑さの問題がある。3つ目に、アーティファクトであるということから、色ごとにそれへの相互作用の大きさが全く異なる。4つ目に、単純なアーティファクト除去呪文で破壊できてしまうのはふさわしくない。

 次のバージョンでは、チームはオブジェクトでなく状態にすることを試みた。クリーチャーが指輪保持者になったとき、それは伝説になり(セットデザインは「伝説のクリーチャー関連」テーマを取り入れた)護法{2}を持つ。後に、伝説と、護法{1}と、潜伏になった。最終的に、我々が役馬メカニズムと呼んでいる、うまく働くがつまらないメカニズムになった。これは、一つの指輪としてはふさわしくない。小説のまさに中心にあるものなので、平凡であってはならないのだ。

 次に試したバージョンのメカニズムは、『フォーゴトン・レルム探訪』のダンジョン探索をもとにしていた。一組の能力を与えるのではなく、指輪が時とともに成長するとしたらどうか。ダンジョンと違い、1体のクリーチャーにつくものであり、そのクリーチャーだけに能力を与えるのだ。これは指輪がその能力を強めながらあなたを誘惑し続けるという雰囲気を再現していた。指輪を手に入れるたび、望むならそれを新しいクリーチャーに動かすことができるのだ。この効果は「指輪を所有する」と呼ばれていた。フレイバー通り、指輪が時とともにそのクリーチャーを傷つけることも検討したが、使わないようにしようと考えることになりゲームプレイが良くなかった。

 最初のレベルは、基本的に状態を決めるものだった。変更した時点では、伝説と潜伏だけだった。指輪所持者は透明になるので護法{1}はフレイバーに富んでいたが、プレイ感が悪かった。セットデザイン・チームが潜伏を採用したのは、パワーが低いクリーチャーとの相性が良かったからである。例えば、ホビットはどれもパワーが2以下である。黒のクリーチャーと組み合わせることもできるが、時とともにパワーが成長していくオーク・軍団とは特に相性が悪い。セットデザイン・チームは自分以外が指輪所持者であるなら指輪所持者に能力を与える登場人物(アラゴルン、ファラミア、ガラドリエル、ガンダルフ)をデザインした。

 セットデザイン・チームは、能力に4段階が必要だと判断して様々な選択肢を試した。ゲームを終局に向かわせる助けとして、またゲーム中に指輪所持者が変わる機会を増やすために、指輪所持者はいくらか攻撃的にしたかった。また、プレイヤーが多くのカードを見ることができるように潤滑化メカニズムも必要だった。最後に、フレイバーを正しく再現すべく、指輪を使うことは邪悪なことだという雰囲気を求めた。

 暫くの間、2つ目の能力は占術1だった。最終的に、弱すぎることがわかった。次に占術2を試したが今度は強すぎた。また、エルフの「占術関連」テーマともの相性が良すぎた。そこで、ルーター効果(カード1枚を引き、カード1枚を捨てる)を試すことにした。バランスを取って攻撃を推奨するため、攻撃誘発にしたのだ。

 3つ目の能力は、暫くの間《好奇心》効果(戦闘ダメージを与えたとき、カード1枚を引く。)だった。これは潜伏と相性がよく、指輪を小型クリーチャーにつけることを推奨していたのはよかったが、カードを引くことにはあまりにも振れ幅が大きかった。最終的に、戦闘終了時にすべてのブロック・クリーチャーを破壊する接死の変種にした。指輪所持者に接死を与えるようにしなかったのは、指輪所持者がそのクリーチャーにダメージを与えなかった場合にも有効にしたかったからである。これによって、いくらか強化され、恐ろしいものになった。

 4つ目の能力は元々、攻撃が通ったら対戦相手のライフを半分にするというものだったが、それはやりすぎだということがわかった。対戦相手のライフを3点減らすだけにした。また、この時点で、状態ではなくパーマネントに変更されている。破壊されにくいように、紋章にすることにした。カードのテンプレート化にはかなりの時間がかかった。また、望ましい雰囲気をよりよく再現するため、名前が変更された。「指輪を所有する」から「指輪があなたを誘惑する」になったのだ。

オーク動員

 このメカニズムは、ほぼほぼ展望デザイン提出文書から変わっていない。セットデザイン・チームは、『灯争大戦』と同じ色である青、黒、赤のままにすることに決めた。これらの色が『灯争大戦』で選ばれたのは、ニコル・ボーラスの3色だったからである。『指輪物語』の悪の勢力も、この3色になる傾向があった。増殖やプレインズウォーカーがないことで、このメカニズムは同じ色であってもかなり違う振る舞いをすることになる。セットデザイン・チームは「インスタント速度」での動員を試した。『灯争大戦』では増殖があったためにその必要がなく、つまりこれは掘り下げるべき新しいデザイン空間だったのだ。

 動員がオーク(やゴブリン)・軍団のメカニズムであることから、セットデザイン・チームはメカニズム的に違う方向に進めることができた。オーク・軍団は育てると1体の巨大クリーチャーを作ることになるが、人間の軍勢は大量の小型クリーチャーを横に並べるものだ。これによってそれぞれの陣営のメカニズム的雰囲気は、我々が可能な限り常に望んでいるような、お互いに対立するような異なるものになる。我々は対立における2つの陣営を、理想的にはフレイバーとメカニズムの両面において、お互いに対照的なものにしたいのだ。

食物・トークン

 展望デザイン・チームはトップダウンのフレイバー(ホビットは食べるのが好きだ)のために食物を使うカードを少々作っていたが、食物を大きなメカニズム的テーマとして使うことを決めたのはこのデザイン・チームであった。食物・アーティファクト・トークンを導入した『エルドレインの王権』からの重要な教訓として、食物・トークンを使うカードはプレイヤーを攻撃的にするようにしなければならないとわかっていた。ライフを得ることは食物の予備の使い方だが、食物を使いゲームを終局に向かわせる選択肢を大量に必要とするのだ。食物は、『エルドレインの王権』同様緑が中心になり、緑白のアーキタイプ(後述)で一番多く、次に多いのは黒緑のアーキタイプになる。

伝説のクリーチャー関連

 『ユニバースビヨンド』セットの最大の売りの1つは、プレイヤーがそのIPのキャラクターを使えるということである。このことから、我々は平均的なマジックのセットよりも多くの伝説のクリーチャーを作ることになる。『指輪物語:中つ国の伝承』では、伝説のクリーチャーは75枚(アンコモン40枚、レア26枚、神話レア9枚)ある。テーマを考えるとき、数が多いメカニズム的要素は何かを見ることが多い。ここから、「伝説のクリーチャー関連」はこのセットで魅力的なテーマとなった。また、登場人物にメカニズム的な意味をもたせる巧みな効果は、フレイバー的にも優秀だ。

 伝説のカードをコモンには作らない傾向にあるので、「伝説のクリーチャー関連」をテーマとして使うために必要な開封比を満たせないという問題がある。しかし幸いにも指輪があなたを誘惑するの第1段階でクリーチャーは伝説になるので、このテーマが成立した。構築や統率者戦の多くでは、これまでより多くの伝説のクリーチャーがあるので、それをメカニズム的に関連付けることはいい機会になった。セットデザインが「伝説のクリーチャー関連」テーマを加えたとき、誰が指輪所持者であるかを参照する効果を減らした。今日のプレビュー・カードの1枚は「伝説のクリーチャー関連」カードなので、ここでお見せしよう。《白の木に花開く》をご覧あれ。

クリックして「白の木に花開く」を表示

歴史的

 「伝説のクリーチャー関連」テーマの延長として、セットデザイン・チームは『ドミナリア』の歴史的メカニズム(アーティファクト、伝説、英雄譚)を使うカード3枚を増やすことにした。そのフレイバーは色濃く、このセットに自然に合致している。本日2枚目のプレビュー・カードは、その3枚(これはアンコモンの1枚で、他の2枚はレアだ)のうち1枚だ。

クリックして「伝説の彼方へ」を表示

伝説のクリーチャー

 セットデザイン・チームにはもう1つ解決すべき、有名な登場人物は何種類作るべきか、という問題があった。1種類だけにすると、派手な構築用レアを作ってリミテッドでは見かけられなくするか、リミテッドの基柱となるアンコモンを作って(リミテッドと構築のパワーレベルは大きく異なるので)構築で使えないような弱いカードにしてしまうかのどちらかになるだろう。

 取った解決策は、多くの有名な登場人物についてそれぞれ最低2種類のカードを作ることだった。このセットでは、アルウェン、エルロンド、エオメル、エオウィン、ファラミア、フロド、ギムリ、ゴラム、レゴラス、メリー、ピピン、サウロン、サムはそれぞれ2枚ずつ伝説のクリーチャー・カードがある。アラゴルン、ガンダルフ、サルマンはそれぞれ3枚だ。本体セットに1枚しかない人物の一部も含む多くの登場人物は、統率者デッキのような他の製品に他のバージョンが入っている。もう1つ、複数枚のカードを作ることの利点は、物語の異なる部分から選ぶことでその人物の進化を描くことができることである。

リミテッドのアーキタイプ

 他のセット同様、セットデザイン・チームは主なドラフト・アーキタイプの一覧をまとめている。通常、2色の組10個について作っており、LTRもその例外ではない。各色の組み合わせは以下の通り。

(注:この節では何回か「タイプ系/typel」という表記を使っている。これは、クリーチャー・タイプを参照するカードを指す開発部語である。)

白青

 このアーキタイプは、「2枚目を引く」テーマを持ち回避能力を勝利条件として使うことが多いミッドレンジのデッキである。

青黒

 このアーキタイプは、コントロールの動員デッキである。切削を使い、自分のライブラリーを削って利益を得るか、対戦相手をライブラリー切れに追い込むことができる。また、軽い人間タイプ系要素を持つ。

黒赤

 このアーキタイプは、アグロの動員デッキである。生け贄要素と、オークやゴブリンのタイプ系要素を持つ。

赤緑

 このアーキタイプは、「パワー関連」テーマを持つランプデッキで、大型の赤のクリーチャーと緑のツリーフォークを組み合わせている。また、このセットの野生動物要素も扱っている。

緑白

 このアーキタイプは、アグロのホビッド・デッキで、食物・トークンを使う。

白黒

 このアーキタイプは、「伝説のクリーチャー関連」デッキで、指輪があなたを誘惑するメカニズムを使っている。伝説のクリーチャーや生け贄要素が多い。指輪があるので、他のアーキタイプよりも色を散らしやすい。

青赤

 このアーキタイプはウィザード・テーマに寄っていて、「インスタントやソーサリー関連」を中心としている。大量の呪文を唱えることで利益を得るコントロール・デッキである。

黒緑

 このアーキタイプは、生と死のテーマを持つ。つまり、生け贄とカードの再利用である。これも、食物・トークンを使うアーキタイプである。

赤白

 このアーキタイプは、広く並べる人間デッキである。どのカードをドラフトしたかによって、アグロからミッドレンジまで変動する。

緑青

 このアーキタイプは、テンポのエルフ・デッキである。エルフのタイプ系要素を持ち、占術で利益を得る。

「旅はここでは終わらない」

 以上が『指輪物語:中つ国の伝承』のセットデザインの話となる。いつもの通り、今日の記事や『指輪物語:中つ国の伝承』、その他今日語ったメカニズムについての感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『指輪物語:中つ国の伝承』のカード個別のデザインの話を続ける日にお会いしよう。

 その日まで、「終わり良ければ全て良し」。


(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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