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Making Magic -マジック開発秘話-
『指輪』作り その1
2023年5月30日
『指輪物語:中つ国の伝承』プレビュー第1週にようこそ。今週は、このセットの展望デザイン・チームを紹介し、工程について説明し、クールな新カードをプレビューする。早速はじめよう。
指輪所持者の紹介
デザイン・チームについて話す場合、まずはその紹介をすることにしている。通常は、チームのリードに紹介をしてもらう。『指輪物語:中つ国の伝承』の展望デザインにおいては、リード・デザイナーはベン・ヘイズ/Ben Hayesだったが、彼はもうウィザーズを離れているので私が紹介することにする。
クリックして展望デザイン・チームを表示
旅の始まり
アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheが最初に『ユニバースビヨンド』のアイデアを提案したとき、我々がまず気にしたのは、マジックのIPからそれほど遠く離れない、ハイファンタジーを舞台とした最初の大型セットを作ることだった。アーロンの最初の文書にも、「指輪物語のようなもの」と書いてあったと思う。最初の大型セットを作ることが近づいてきて我々が自問自答したのは、「指輪物語のようなものとは具体的に何か?それは指輪物語だ。」だった。我々はミドルアース・エンタープライズ/Middle-earth Enterprisesと接触し、幸いにも折り合いをつけることができたので、我々もまだ知らなかったが、『指輪物語:中つ国の伝承』のデザインが始まったのだ。
ここで指摘しておくべきことは、我々が許諾を得たのは映画ではなく小説版のことだけだったということである。これが、例えばアート上のキャラクターが映画の俳優に似ていなかったり、カードで再現されている出来事が映画ではなく小説のものだったりする理由である。(映画では描かれていないが小説にはある、ホビット庄の荒廃がカードで描かれているのはその一例である。)
ほとんどの場合、私が手掛けるのは本流のセットだが、これは初めてのドラフト可能な大型『ユニバースビヨンド』セットなので、展望デザイン・チームに入るように頼まれたのだ。時期的にはコロナ禍が始まったばかりで、これは誰もが家にいることを前提とした初めての展望デザイン・チームだったと思う。展望デザイン・チームには、指輪物語の主題専門家からほとんど知らない人まで様々なデザイナーがいた。私は中間だった。映画は見ていて、遠い昔に小説もいくらかは呼んだが、専門家というには程遠かった。
我々はこのセットを手にする様々な種類のプレイヤーを代表するために、詳しさの幅が広くある必要があったのだ。長年のファンのための掘り下げは必要だったが、同時に、指輪物語に全く触れたことのないプレイヤーから見ても単体でクールなカードも必要だった。一言でいうと、指輪物語のファンもマジックのファンも両方のファンも、誰もが満足できるようにしたかったのだ。
最初に、我々は3段階に分けた知識ピラミッドを描いた。ピラミッドの基底部は、一番広い、指輪物語についてほとんどの人が持っているであろう知識を表す。このグループは、映画はいくらか見ているが小説は読んだことがないだろう人が対象だ。指輪物語について知っているなら、ここにある内容は知っていると思われる。
ピラミッドの中層部の対象は、映画を見ていて小説をいくらかあるいは全部読んだことがある指輪物語のファンで、基底部のグループよりもいくらか深いことになる。
ピラミッドの最上部は、大ファンに対応している。映画を見ていて小説を読んでいて、それも一度ならず二度三度というグループだ。指輪物語に本当に入れ込んでいなければ知らないような詳細が含まれる。この指輪物語の知識ピラミッドに基づいて、我々はキャラクターやクリーチャー、瞬間や出来事、場所や物を垂直方向に3つに分けた。
この基底部のものがすべてセットに入るようにしたいと考えたので、このピラミッドは重要である。そこにあるのは、ほとんどの指輪物語ファンが認識しているものなのだ。中層部や最上部からも多くのものが必要だったが、それらは高いレアリティになることが多かった。長年の間に、芳醇な要素をコモンに置き、最も掘り下げた部分をレアや神話レアに置くのがもっともうまくいくことが多いとわかってきたのだ。(ただし伝説のクリーチャーをアンコモンより下げることはない。)例えば、ギリシャ神話を元にした『テーロス』では、ミノタウルス、ペガサス、ケンタウルス、ニンフはコモンに必要だったが、《百手巨人》のようなものはレアが最適だった。ピラミッドに書き出したことは、物語の要素を割り当てる助けとなったのだ。
知識ピラミッドに加えて、展望デザイン・チーム、後にはセットデザイン・チームも、チェックリスト2つを作った。1つ目のチェックリストには、小説からのセットに入れたいあらゆるものが重要性順に記されていた。それらは指輪物語ファンにとって必須のもので、素晴らしいマジックのカードを作るものでもある。そこにはピラミッドにあるあらゆるものが含まれ、さらに加えて小説3冊の何処かで触れられていたキャラクター、怪物、場所、物品、出来事の膨大なリストを加えたものになっていた。ほとんどのマジックのセットでは、予想外の驚きを生み出すために手を尽くすが、『ユニバースビヨンド』セットでは、プレイヤーが期待するものがセットにあるようにすることが中心になる。それが、このチェックリストが重要な理由なのだ。
2つ目のチェックリストには、マジックのセットを作るために必要なものが含まれている。つまり、1つ目のチェックリストで可能な限り多くの指輪物語由来のものを入れることを優先し、一方2つ目のチェックリストではセットを成立させるために必要な要素を優先していたのだ。『ユニバースビヨンド』セットを作る上で最大の課題の1つが、その世界はマジックのセットのために作られたものではないということである。通常、我々が次元を作る場合、マジックのセットを作るために必要な要素を揃えるように注意する。『ユニバースビヨンド』セットでは、重要なメカニズム的条件を満たすものを、わかりにくいものであったとしても、見つけることが必要になるのだ。
指輪物語での好例となるのが、飛行である。飛行はマジックのセットにおいて重要だ。例えば、『機械兵団の進軍』には飛行クリーチャーが34枚ある。一方、指輪物語には、小説を通して、空を飛ぶ怪物は多くない。0ではないし、物語上重要なものもいるが、マジックのセットのために作られたのだとしたら少なすぎる。そこで我々は、飛行クリーチャーの必要量を満たすため、物語上重要でないものも含めて、ありとあらゆる空飛ぶ生物を探し出さなければならなかった。(このセットに鳥が多い理由はそれである。)それが、2つ目のチェックリストの役割だったのだ。
すべてを「つなぎとめ」る
チェックリストを作ってセットに必要なカードをよりよく理解したら、次の工程はメカニズム的に表現したい最重要側面を決めることであった。かなりの議論を経て、掘り下げるべき3つの分野がわかった。一つの指輪、旅の仲間、そして悪とその軍勢である。
それらそれぞれについて見ていこう。
一つの指輪
一つの指輪は、指輪物語の物語の中心である。それをカード1枚にとどまらない何らかの形で表現する必要があった。出発点を説明するために、ここで『Salad』の話をする必要がある。『ドミナリア』のコードネームは『Soup』であったが、最初は付随する小型セットがあってそのコードネームが『Salad』だった。『ドミナリア』を作っている最中に、開発部は2ブロックモデル(組み合わせてドラフトされる大型セットと小型セットからなるブロック2つという構成)をやめて3−1モデル(それぞれ個別にドラフトされる大型セット3つと基本セット1つという構成)に切り替えることにした。この変更によって、『Salad』は『基本セット2019』になったのだ。
これが起こるまでに、我々は、騎士の侵略軍らしさを再現する『Salada』のデザインの工程を進めいた。(騎士は物語上の役割を持っていて、敵は城で、ドミナリア軍が協力して当たるのだ。)我々は採用する能力として、1人の人物が率いる軍勢という必要な雰囲気を再現した、指揮者というメカニズムを思いついていた。その物語は『Salad』では使われなくなったので、我々は指揮者を次のセットに温存することにした。カードの実例を見せよう。
〈塔の番人〉
{1}{W}
クリーチャー — 人間・兵士
2/2
指揮者(これが戦場に出たとき、クリーチャー1体を指揮者として選ぶ。)
指揮者は警戒を持つ。
カードが指揮者を選び、それを何らかの形で強化するのだ。指揮者カードをプレイするたび、指揮者を選び直すことができるが、強化を受けるのは1体だけである。
〈塔の番人〉を例に取ってみよう。あなたの第2ターンに、最初のクリーチャーとしてプレイする。これ自身を指揮者として選ぶ。そうすると、警戒を持つ2/2になる。あなたの第3ターンに、指揮者を持ち、その指揮者に+1/+1する、緑の3/2のクリーチャーをプレイした。ここで選択肢が2つある。〈塔の番人〉を指揮者として選び警戒を持つ3/3にするか、この緑のクリーチャーを指揮者として選び警戒を持つ4/3にするかである。この緑のクリーチャーを指揮者として選んだなら、〈塔の番人〉はバニラの2/2になる。
指揮者を思いついたのは、複数のクリーチャーが他のクリーチャーを強化するというアイデアが気に入ったが、その把握が難しくなることを危惧したからである。すべての強化が常に1体のクリーチャーに与えられるなら、把握するのは簡単だ。また、強化されていたクリーチャーが死んだ場合、次の指揮者カードで新しい指揮者を選ぶことができる。『Salad』が中断されたとき、指揮者は私の「いつか居場所を見つけたい好きなメカニズム」箱に入った。
そして『指輪物語:中つ国の伝承』のデザインの時期になる。指輪は一つの指輪なので唯一であることは当然重要なので、我々は複数のカードが持ててかつ指輪が1つだけであるという思想を表現できる方法を掘り下げていた。私は「まさにそれをするメカニズムを作ったことがある」と言い、指揮者メカニズムを紹介したのだ。つまり、指輪の最初のバージョンは、指輪所持者というメカニズムだった。そのカードをプレイしたとき、指輪所持者なるクリーチャー1体を選び、それに能力を与えるのだ。それは、指揮者メカニズムの名前を変えただけのものだった。
我々はそのメカニズムが単一のクリーチャーに焦点を当てることは気に入ったが、フレイバー的には、戦場にあるカードによって指輪のすることが変わるのはふさわしいものではないと感じられた。また、このメカニズムは強化することを望む傾向にあったが、フレイバー的な理由からこのメカニズムにはいくらかの不利益がある必要があった。複数の反復工程を経て、我々は最終的に指輪を物理的なものにすると決めた。装備品・トークンが最もフレイバー的だと思われた。指輪は様々な反復を経たが、我々がセットデザイン・チームに提出したものは、装備しているクリーチャーに潜伏(より大きなパワーのクリーチャーにはブロックされない)を持ち、対戦相手に戦闘ダメージを与えたときに1点のライフを支払うとカード1枚を引ける、というものだったと思う。
当時、指輪メカニズムは、まだ存在していないなら指輪・トークンを生成し、そうしたならそれを新しいクリーチャー1体にただでつけられる、というものだった。指輪を生成する呪文はたいていその指輪所持者を伝説にした。その2でセットデザインの話をする時に話す通り、指輪はそれ以降も何回も変更されている。
さて、一つの指輪の話をしたところで、今日のプレビュー・カードをご紹介しよう。
「一つの指輪は、すべてを統べ」をご覧あれ。
旅の仲間
旅の仲間は、フロドが一つの指輪を壊すのを助けるという任務を持った9人のキャラクター(ホビットのフロドとサムとメリーとピピン、魔法使のガンダルフ、エルフのレゴラス、ドワーフのギムリ、人間のアラゴルンとボロミア)の共同体である。非常に重要なので、小説第1巻の表題にもなっている。我々は、プレイヤーが自分自身の旅の仲間を集められる可能性を掘り下げた。
我々は、自分の旅の仲間として何体かのクリーチャーを選び、それらに何らかの能力を与えるメカニズムを試した。これにはいくつもの問題があった。1つ目に、これは当時の指輪メカニズムと似すぎていた。2つ目に、旅の仲間にふさわしい数がうまく決められなかった。もちろん物語のフレイバー的には9なのだが、戦場に9体以上のクリーチャーがいる状況はどれほどあるだろうか。9体という数はつまり「あなたがコントロールしているすべてのクリーチャーは」というのと同じであり、そこに新奇性はなかった。3つ目に、悪のキャラクターを旅の仲間に入れるのは奇妙だし、少なくとも善悪両方のキャラクターを同じ旅の仲間に入れるのはおかしいが、すでに成立させるために充分な数のキャラクターを揃えるだけでも問題があった。4つ目に、自分なりの物語を作るのは楽しいが、実際の物語を作るというのはありえないと思われた。レゴラスとギムリを旅の仲間に揃えたとして、それは面白いけれども、それは単純に本来の旅の仲間の中から2人を旅の仲間にしただけなのだ。最終的に、我々はこれは我々がメカニズムで再現すべき物語要素ではないと判断した。
悪とその軍勢
物語で重要なのは、敵にオークやゴブリンの大軍団がいることである。小説では、この2種はあまり区別されていないが、マジックにはこの2種のクリーチャー・タイプがあるのでこの2種の見た目が異なるようにするためにいくらかの時間をかけた。最終的に、オークを黒に、ゴブリンを赤にした。この軍団をメカニズム的に表現する方法はあるだろうか。この問題は数年前のセットにもあったとわかった。
『灯争大戦』で、ニコル・ボーラスは永遠衆と呼ばれるゾンビの軍団を組織している。かつては、我々は大集団を表すために大量のクリーチャー・トークンを作っていたが、戦場に大量に詰まってしまうことになり、そのゲームプレイは素晴らしいものではなかった。ゲームを停滞させるのではなく終局に向かわせるような、強化されていく軍勢を表す方法はあるだろうか。
あったのだ。我々は、動員というメカニズムを作った。動員には数がついている。ゾンビ・軍団・トークンをコントロールしていなければ、黒の0/0のクリーチャー・トークンを生成してから、そこにその数の+1/+1カウンターを置く。ゾンビ・軍団をコントロールしていれば、そこにその数の+1/+1カウンターを置く。軍団を成長する単一のクリーチャーにすることで、時とともに強化して攻撃することができるのだ。
動員はまさに我々が求めているものだったが、1つだけ小さな問題があった。『灯争大戦』にいた軍勢の性質上、動員メカニズムはゾンビ・軍団を作る。『指輪物語:中つ国の伝承』では、軍団はオークやゴブリンからなるのだ。我々は新しい名前で同じようなメカニズムを作ることを検討したが、動員という単語はふさわしく、また将来このメカニズムを再利用する場合、その時も軍団のタイプが異なる可能性があるので、オーク動員N(Nは数)を作ることに決めたのだ。ゾンビ・軍団でなくオーク・軍団という点を除いて、動員と全く同じように作用する。ゴブリンでなくオークを選んだのは、動員のルール上黒のクリーチャー・トークンを使っていたことと、上述の通り、オークを黒にしたからである。この変更によって、我々は将来どんなクリーチャー・タイプでも使うことができるようになった。ただし、軍団・トークンは黒である。
展望デザインを終える前に、我々には解決すべき問題が1つあった。白緑には大量の人間、ホビット、エルフがいた。黒赤には充分なゴブリン、オークン、レイスがいた。問題は、青だった。ガンダルフは青にふさわしく、インスタントやソーサリーになる魔法の呪文も大量にあった。問題はクリーチャーだった。青にいくらかの人間を割り当てることはでき、クラーケンのような1体限りのものもいた。
最終的に、我々が選んだ解決策は、エルフを緑と青にすることだった。青は伝統的にエルフの色ではないが、理念的に、中つ国で一部が青であるというのは筋が通ると考えたのだ。我々が次元ごとにすることの1つが、フレイバー的に筋が通るならクリーチャー・タイプを通常の色の外にずらすことであり、『指輪物語:中つ国の伝承』においてエルフは青にふさわしいのだ。
展望デザインが終わって、我々は指輪メカニズム、オーク動員、緑青のエルフを提出したが、まだすべきことは大量に残っていた。それについては来週、その2にお話ししよう。いつもの通り、今日の記事や『指輪物語:中つ国の伝承』、その他今日語ったメカニズムについての感想を期待している。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『指輪物語:中つ国の伝承』のセットデザインについて語る日にお会いしよう。
その日まで、あなたが2度目の朝食を楽しんでいますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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