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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

任務完成化 その2

Mark Rosewater
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2023年2月6日

 

 先週、『ファイレクシア:完全なる統一』の何枚かのカード個別のデザインの話をした。私が取り上げるのが高レアリティのカードに偏っているという意見があったのを受けて、その1ではコモンのカードだけを取り上げた。今日は、また別の読者からの意見を反映してカードデザインの話をしようと思う。これまでかなりの時間を掛けて各カードのデザインの進化を語ってきたが、より広い歴史から見た文脈の話が好きだという意見が届いていたので、今回はその方向で語っていくことにする。

完成化したプレインズウォーカーたち

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 プレインズウォーカーはそもそも、マット・カヴォッタ/Matt Cavottaが私の席にやってきて「考えがあるんです」と言ったことから始まった。マットは『未来予知』のデザイン・チームに属していて、当時はクリエイティブ・チームの一員だった。彼らは『時のらせん』ブロックの物語の、大修復と呼ばれる出来事を手掛けていた。それは神のような力を持つキャラクターを扱うのが難しいことからプレインズウォーカーを弱体化させるために考えられた出来事だった。マットは、十分弱体化させているのでプレインズウォーカーをカード・タイプとして作るべきだと提案してきたのだ。

 私は同意し、我々は作れるかどうかを検討し始めた。まず、『未来予知』チームで、ミライシフト・シートに3人のプレインズウォーカーを入れることを検討したが、デザイン期間内に充分なものを仕上げることはできなかった。そこで、時間を掛けて作り上げて、入れるのにふさわしいセットに入れることにした。ただし、その登場は、《タルモゴイフ》の注釈文で匂わせたのだった。

 その後、私はプレインズウォーカー・ミニチームを編成し、リードを務めた。このチームの最初のバージョンは、後に英雄譚に進化するようなデザインだった。最終的にデザインが出来上がり、プレインズウォーカー・カードは『ローウィン』で初登場した。

 プレインズウォーカー・カードのデザイン空間が限られているのはわかっていたので、ゆっくりと追加していくように気をつけていた。例えば、常在型能力は(両面カードのあのへんを除いて)『灯争大戦』まで使わせなかった。この話は、私が『神河:輝ける世界』の展望デザインをリードしていたときに始まる。

 ファイレクシアの物語の大枠は決めていて、『神河:輝ける世界』ではタミヨウが、『団結のドミナリア』ではアジャニが、そして『ファイレクシア:完全なる統一』では他の5人のプレインズウォーカー(誰かはまだ決まっていなかった)がファイレクシア化する予定だった。私は、ファイレクシア化したプレインズウォーカー・カードをどのようなものにするか決める任を帯びていた。

 最初の、私が一番興奮していたアイデアは、ファイレクシアの忠誠度で、忠誠度の代わりにライフを支払えるというものだった。プレイデザインは、それは根本的に壊れていると言ってきた。私は最終的に、それぞれいくつかの調整を添えて他の方法5つを提案した文書を作った。その5つの提案と、関連する提案をここで初めてお披露目しよう。

提案#1:毒を使う

 ファイレクシアは毒と関わりが深いので、毒を制限として使ったものをいくつかデザインした。

  • すべての忠誠度能力が、自分に毒をもたらす。
  • いくつかの能力、特にプラスの忠誠度能力が、自分に毒をもたらす。
  • 強制の増殖で少し毒をもたらす。
  • 忠誠度能力を強化することを選ぶと、毒をもたらすことがある。
  • (何かが起こっている場合)忠誠度能力によって毒がもたらされることがある。
  • 長期的に戦場に残せないように、常在型能力によって毒をもたらす。
提案#2:ライフの喪失を使う

 『ミラディンの傷跡』ブロックで、ファイレクシアとライフの喪失を関連させたので、これも掘り下げたテーマである。使い方の多くは、毒と同じようなものになっていた。

提案#3:生け贄を使う

 生け贄も『ミラディンの傷跡』ブロックでのファイレクシアのテーマの1つなので、これをコストとして使うことも実験した。これも、毒と同じような構造になっていた。

提案#4:増殖を使う

 (毒やファイレクシア・マナと並んでファイレクシアの3Pと呼ばれる)増殖はファイレクシアと深く関わっていたので、テーマとして掘り下げた。

  • 全プレインズウォーカーが「[+0]:増殖を行う。」を持つ。
  • 全プレインズウォーカーが何らかのカウンターを参照し、1つ以上の能力で増殖を行う。
  • 増殖で必ず自分の毒カウンターを増やさなければならず、戦場に出るときに毒をもたらすものもいる。
提案#5:ライブラリーをリソースとして使う

 ライブラリーはファイレクシアと関係はないが、使う頻度が上がっているリソースだったので、コストとしての柔軟性をもたらしてくれた。これらのバージョンでは自分のライブラリーからカードを追放していて、その中から使う方法があることが多い。

 これらのさまざまなアイデアは掘り下げられたが、最終的にはどれも採用されなかった。彼らは、ファイレクシア・マナを使えるようにするために追加のコスト(忠誠度の減少)を加えることを見つけたのだ。これは、アイデアの中には妥当な答えを見つけるために多くの時間や注意を必要とするものがあるという好例と言える。私はこの仕上がりに満足している。

ダニ

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 『アルファ版』が発売された当時、インターネットは未成熟だった。ワールド・ワイド・ウェブはできたばかりで、オンラインでの会話は主にUsenetと呼ばれるもの(掲示板のようなもの)を使うことがほとんどだった。加えて、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldの最初の展望では、どんなカードがあるかをプレイヤーが知るのは他人とのプレイを通してとなっていた。そのため、初期の頃は、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストはカードリストを公開していなかったし、イベントのデッキリストも公開していなかった。つまり、何が強いかを判別する技術も公表された専門家の評価もまだなかったので、『アルファ版』の初期に最も人気だったのは、実際のパワーレベルに関わらず単に派手なカードだった。

 私がどうしても欲しかったが誰もトレードに出してくれなかったのでブースターで引くしかなかったカードがあった。(もちろんそうした。)そのカードは何か。想像してからクリックして答えを見てくれたまえ。

クリックして正解を表示

マイア

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 私が初代『ミラディン』のデザインを始めたとき、最初に作ったものの1つがマナ・マイアのサイクル(《金のマイア》《銀のマイア》《鉛のマイア》《鉄のマイア》《銅のマイア》)だった。このアーティファクト・テーマの次元ではコモンのマナ・アーティファクトがクリーチャーだというアイデアが気に入ったのだ。クリーチャーは破壊しやすいので、これらを2マナにすることができた。

 これらのクリーチャー・タイプとして、私はノームを選んだ。なぜノームか。ノームは奇妙にもアーティファクト・クリーチャー・タイプになっており、マジックの初期には小型のアーティファクト・クリーチャーに使われていた。そして一般的に、私自身からも、好かれていたのだ。

 そんなある日、ブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthが私の元を訪れた。ブレイディは後にクリエイティブ・チームのクリエイティブ・ディレクターになるが、これはそれよりも前のことである。ここで、会話をドラマ仕立てでお見せしよう。

ブレイディ:ノームだって!?
私:それがどうかしたか?
ブレイディ:セットにノームを出すのか?
私:ああ。
ブレイディ:なぜだ?
私:かわいらしくてプレイヤーも好きだからだ。
ブレイディ:つまり、このアーティファクト次元が作られたとき、誰かが「必要なものはわかっているだろう?ノームだ。」と言ったのか?
私:つまり、これがノームなのが気に入らないと。
ブレイディ:物語的に筋が通ってないと言っているだけだ。なぜこれをノームにしたいんだ?
私:可愛らしさが欲しくて、つまりプレイヤーが愛せるものを見つけられるようにしたいんだ。
ブレイディ:わかった。それなら愛されるような新しいアーティファクト・クリーチャーを作ればどうだ。この次元の新しいやつだ。それなら問題ないだろう?
私:もちろん。

 

 そしてブレイディは立ち去り、1ヶ月ほど後にマイアの初期デザインを携えて現れたのだ。ブレイディはギリシャ神話のミュルミドンに影響を受けたことから、マイアと呼んでいたと思う。(発音は「ミア」だった。)私はそれを素晴らしいと思った。そこで我々はファイルにそれをさらに追加した。『ミラディン』が世に出て、マイアは大ヒットになった。

 『ミラディン』ブロックが終わって、ミラディン次元だけの存在であるマイアはいなくなった。次に登場するのは、『未来予知』の《サルコマイトのマイア》になる。マジックの未来の可能性を示す、ミライシフト・カードの1枚だった。

 このカードは、次にミラディンを訪れたときに何が起こっているかを強く示唆していた。我々は最初の訪問時にファイレクシアの侵略を微妙に準備していた。(例えば、小説の最初で《メムナーク》は文字通り奇妙な油に出会っている。)そして《サルコマイトのマイア》は来るものの示唆だったのだ。興味深いことに、これは初の単色アーティファクトである。再訪時に単色アーティファクトを主なメカニズム的テーマにするつもりだったが、このアイデアが実際に初登場したのは『アラーラの断片』のエスパーだったのだ。

 マイアは『ミラディンの傷跡』ブロックで再登場した。ミラディンの多くの住人同様、マイアの一部はファイレクシアの軍門に下った。新ファイレクシアを舞台にしたカードで『モダンホライゾン2』に登場したものもある。さて、そして『ファイレクシア:完全なる統一』である。

 新ファイレクシア、かつてのミラディン、唯一マイアが棲息している次元に戻るので、新しいマイアが必要なのはわかっていた。このセットには大量のものがあるので、最終的に、入れられる場所は本体セットに3枚、統率者デッキに1枚だけしかなくなった。統率者のカードは、5色の固有色を持つマイアの基柱カードにした。4枚のマイアすべてが無色で、1枚だけをファイレクシアンにした。多くのマイアがファイレクシアの軍門に下ったが、すべてではないということを示したかったのだ。

 唯一のファイレクシアのマイア、《マイアの改宗者》を毒性メカニズムと紐づけ、初代のマナ・マイアのサイクルを思い出させ、ファイレクシアらしく感じられるライフの支払いを加えた2つ目の能力を持たせた。《マイアの守衛》はどんなデッキでも使える、デッキを流暢にする助けとして作られた。《マイアの同族鍛冶》はマイアと相互作用し、リミテッドで汎用性を加えるように作られていたが、マイアの選択肢が広い、広いフォーマットではずっと強力になる。

 振り返ってみると、私がノームを作るのをブレイディが止めてくれたことは何よりだった。

球層

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 球層の話は、2012年の『ラヴニカへの回帰』のデザインに遡る。ラヴニカを再訪するので、初代『ラヴニカ:ギルドの都』を再確認して、何を進化させられるかを考えた。第1に挙がったのが、色基盤だった。ラヴニカはいろいろな面で革新的だったが、すぐにこれが浮かんだのは『ラヴニカ』ブロックで、特にブロックの第2第3セットを加えたドラフトにおいて推奨していた3色デッキをプレイするのが難しいことが多かったことからである。

 我々はこれ(と『ギルド門侵犯』)にコモンの2色土地のサイクルとレアの2色土地のサイクルを入れる必要があると判断した。コモンの2色土地の最適な選択肢はタップランド(タップ状態で戦場に出る2色土地。初登場は『インベイジョン』ブロック)であり、レアの2色土地に最適な選択肢はショックランド(2点のライフを支払わなければタップ状態で戦場に出る2色土地で。初登場は初代『ラヴニカ』ブロック)である。問題は、レアの2色土地がコモン土地の「完全上位互換」、つまりコモンの2色土地ができるすべてのことができてさらに強化されたものになっていることである。完全上位互換のサイクルを作ることは問題ではないが、同じセットでは避けることにしているのだ。

 ここから生じた疑問が、タップランドにどんな調整ができるかだった。いくらか弱い側に位置するので、何か能力を追加する余地はある。どんな能力がいいだろうか。また、特にラヴニカらしいと感じさせるものにできるだろうか。

 その答えは、クリエイティブ・チームからもたらされた。彼らは次元を構築していて、この再訪に際して、各ギルドに門があるという概念を思いついたのだ。門は、大きな物語において役割を担っていた。各2色土地を門だとフレイバー付けるのはどうだろうか。

 次の疑問は、メカニズム的にどう差をつけるかだった。我々は様々な選択肢を掘り下げたが、土地のサブタイプにするという考えに落ち着いた。最初は土地のサブタイプは基本土地タイプ5種だけだったが、時とともに、もっと活用するようになっていった。ルール上の問題を解決するため、『基本セット第8版』でカードのタイプ行に書かれるようになった。また、ウルザトロンのようなカードがメカニズム的に機能するようにするためにもサブタイプを使った。単純な目印としてではなく、カードそれぞれを機能させるために時折使ってきたのだ。(ただし砂漠はあとからそうなった。)

 コモンの2色土地を門にして、何枚かのカードで門を参照するようにすることで完全上位互換ではないようにする計画だった。当時はいくらか賛否両論だったが、これが最も簡明な実装だと思われたので、全員が理解してくれたのだ。門は成功を収めた。

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ファイレクシアの大地図》 アート:Illustranesia


 そして『ファイレクシア:完全なる統一』である。新ファイレクシアは、旧ファイレクシアを模すべく、9つの球層を作った。これは物語上重要なので、可能ならセット内で再現したいと考えた。そこで生じた疑問が、どうすれば新ファイレクシアに9つの球層があることを示せるかということであった。フレイバー・テキストやカードの名前で示すことはできるが、どちらも重要性が足りない。解決策は、門で使った同じ手法を持ってくることだった。

 ファイレクシアにはこの次元の9つの球層を示す9つの土地があるのだ。そして、1枚、《完全化記念碑》で、メカニズム的にそれらを参照する。5枚は長期戦でカードの流れを助ける、コモンのサイクルになっている。各1枚が5色それぞれを表している。そのために9つの球層を見て、5色それぞれの性質を最もよく表していると思われるものを選んだ。残りの4枚はその後でトップダウンでデザインされ、レアになった。

完成化成功

 本日はここまで。これらの話を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『ファイレクシア:完全なる統一』の展望デザイン提出文書をお見せする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが新ファイレクシアの9つの球層を訪れられますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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