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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『兄弟戦争』

Mark Rosewater
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2022年12月12日

 

 各セットごとに、私は、一問一答記事を書くことにしている。今日は、『兄弟戦争』に関する諸君からの質問に応える時間だ。

 私のツイートは次の通り。

 現在、『兄弟戦争』の一問一答記事を書いている。この新セットに関する質問があれば、1問1ツイートで送ってくれたまえ。#WotCStaff

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのプレビューになるなど、さまざまな理由で回答できない話題もある。

 それでは、質問に入るとしよう。

よくある質問です。神話レアの試作カードが、試作コストを持つ大型のアーティファクト・クリーチャーが白以外の色にあって白にないという不完全なサイクルになっています。白の試作はどうなったんですか?

 神話レアでは、各色にそのセット内にあるアーティファクトのキーワード2つのうち1つを持つアーティファクトを置くことにしている。青、黒、赤、緑には試作カードを、白には蘇生カードを置いたのだ。なお、白にはレアの試作カードが2枚あり、他の色のレアよりも多い。

 ほとんどの場合、我々は、4枚がある形で働き、5枚目は別の形で働くという4/1ルールを採用しているが、今回は神話レアの《小隊分配機》が気に入ったので例外としたのだ。

 ここでもう1つ、白は(青と並んで)その色のマナだけがルール文中に存在する2枚目の神話レアのアーティファクトがある色であるということを挙げておこう。

BRO(兄弟)に出会いましたが、他の家族とはいつ会えますか?

 来年MOM(母さん)が出るよ。

つまらない話ですが、BROをセットのコードに使うことにためらいはありましたか、それともこの一致を喜びましたか?

 みんなが「これはすごい」と言ってるのしか聞いていないね。

例えばオニュレットのサイクルみたいにして、セットに《オニュレット》を複数枚入れることを考えたことはありますか?

 深堀りしたジョークなので、解説が必要だろう。East Coast Playtesters(スカッフ・エリアス/Skaff Elias、ジム・リン/Jim Lin、デイブペティ/Dave Petty、クリス・ペイジ/Chris Pageとゲスト・デザイナーのジョエル・ミック/Joel Mickが『アンティキティー』をデザインしたとき、彼らはOnuletsというカードを作った。この名前は、『アルファ版』にある《魂の網》というカードと似ていたことから名付けられた。OnuletsはSoul Netのアナグラムなのだ。残念ながら、届けられたアートにはクリーチャーは1体しかいなかったので、名前をOnuletsからOnuletにしなければならなくなり、アナグラムが崩れてしまった。しかしその響きが気に入っていたので、名前はそのままにしたのだった。

 デザインの観点から、サイクル全体分の空間はなく、5色すべてでライフを直接得ることはできないというカラー・パイ上の問題もあった。

ウルザと仲間たちのもとの話が書かれたときに、現在のスタッフのうち何人がいましたか? その人たちは懐かしかったことでしょうね。

 0人。ウィザーズ歴が一番長いのはチャーリー・カティノ/Charlie Catinoだが、彼の入社は1995年2月だ。2番目がビル・ローズ/Bill Rose、3番目が私で、1995年10月。『アンティキティー』の発売は1994年の3月なので、チャーリーがウィザーズで働き始めるおよそ1年前、ビルや私が入るおよそ1年半前になる。チャーリーとビルはどちらも『アルファ版』プレイテスターだったが、どちらも『アンティキティー』には関わっていない。『兄弟戦争』の小説は我々3人が入社してから何年も後の1998年5月の発売だが、社外の筆者ジェフ・グラブ/Jeff Grubbの手によるもので、我々は何も関わっていない。この物語の創造には誰一人関わってはいないとはいえ、スタジオXの多くは長年のマジック・プレイヤーなので、我々はこの物語に馴染みを感じている。

『灯争大戦』と同じような、「注目点:第X章」を使うことは検討しましたか? 兄弟戦争中のいつのことかとか、現在の何かがあるとかを伝えるために有用だったと思いますが。

 議論はされたと思うが、今回の物語は『灯争大戦』よりもずっと長い期間のことである。あの話は1日が舞台だったので、絵だけを見ても(空の明るさ以外では)それが物語上どのあたりなのかを理解することは難しかったのだ。対照的に、『兄弟戦争』は70年以上に渡る物語である。第1章ではウルザやミシュラは少年であり、第2章では彼らは大人、第3章では老人となる。そのため、『灯争大戦』と違い、物語上のどの時点かを示すのにビジュアルが役に立つのだ。

#MTGBRO デザイン・ポッドキャストで、あなたとアリ/Ari Niehがデザインしたデモ・デッキのことを「試作」と2回呼んでいました。これはデザイン中に使っていた名前なんですか?もしそうなら、この名前からメカニズムの名前につながったんですか?

 作った当時、我々は「デモ・デッキ」と呼んでいたはずだ。『兄弟戦争』について大量の発信をしてきたので、「試作」という単語が脳に染み込んでいたのだろう。

トランスフォーマー・カードで、機能的には同じなのに、変身/transformではなくトランスフォーム/convertという表記を使ったのはなぜですか?

 他のIPを使う場合、我々は相手側の標準を守り、相手側が使う方法でキャラクターを使うようにするために相手側と密に協力する。トランスフォーマーは「transform」せず「convert」するので、こちらのカードでもその同じ用語を使ったのだ。ルール上の問題が起きないようにするため、「transform」と「convert」を同義語にした。

『アンティキティー』のカードを再録するという議論はありましたか? 《ラト=ナムの賢人》など、可能なものもあると思います。

 それについてはかなり話し合った。《ラト=ナムの賢人》やウルザの土地、《ヨーティアの兵》や《羽ばたき飛行機械》などのさまざまなアーティファクトなどの再録について検討した。このセットには最終的に、アーティファクトの再録のボーナス・シートが入ることになったので、セット本体にアーティファクトの再録を入れるのはおかしいと思われたのだ。《ラト=ナムの賢人》は、アーティファクトを生け贄に捧げるのは青ではない(色的にも、セットのテーマ的にもそぐわない)という問題があった。ウルザの土地などは、スタンダードには強すぎるとわかった。可能ならしたいことではあったのだが、その優先度は低く、残念ながら成立しなかったのだ。

『兄弟戦争』で、機体シナジー、あるいは機体に焦点を当てることを計画したことはありますか?それとも、「通常のアーティファクト」に第一の焦点を当てるという計画でしたか?

 デモ・デッキを作ったときも、展望デザイン中にも、機体については議論した。セット内のアーティファクトに古典感を持たせたかったので、機体は現代的すぎたのだ。同様の議論は装備品についてもあった。そちらの場合、『アンティキティー』(もとにしたセット)には《アシュノッドの戦具》や《タウノスの武具》といった装備品同様のカードが存在していて、それらを現在のデザイン水準を用いて入れるほうが許容できると感じられたのだ。

このセットに土地の《荒地》を入れることは検討しましたか?

 展望デザイン中に、(『ゲートウォッチの誓い』でしたように)無色マナをコストとして使うかどうかについて話し合った。無色マナを6「色」目に位置づけた、15個のドラフト・アーキタイプというアイデアまで掘り下げたのだ。最終的に、機体を入れなかったのと同じ理由で、ふさわしくないと判断した。

 無色コストを入れないことにしたので、《荒地》を入れる意味もなくなったのだ。クールなフレイバー(『アンティキティー』には非常に有名で強力な《露天鉱床》があった)は、メカニズム的に意味をなさないものを入れる理由にはならないので、《荒地》は選択肢から外れたのだった。

旧枠アーティファクト・カードを入れるにあたって、フレイバーやテーマ的にふさわしいかどうかとリミテッドでの働きのどちらを先に考えましたか?

 ボーナス・シートに入れるカードを選ぶにあたってはさまざまな因子があるが、その1つがそのカードがリミテッドでどう機能するかである。開封したプレイヤーが手に入れて興奮するがリミテッドでは働かないカードがあってもいいが、ボーナス・シートにあるカードのほとんどはリミテッドで有用であるべきだと考えている。

物語をみたび振り返る上で一番の難点は何でしたか?

 兄弟戦争という物語は、マジックのセットを作る軸とするためにデザインされた物語ではなかった。確かにそれは『アンティキティー』の一要素だったが、今日のセットの作り方とは違い、「これらの品物は大きな物語をほのめかしている」というようなものだったのだ。物語はほとんどが小説で語られるもので、その中では『アンティキティー』のカードの名義借りをしていたが、やはり我々はその物語をもとにしてセットを作れるように最適化はしていなかったのだ。

 例えば、その物語ではカラー・パイの緑に位置するものはあまり扱われていないので、物語の終わりをいじって充分な緑のカードを作れるようにする必要があった。我々は、物語やキャラクターがデザイン中ずっと固定されているので、さまざまな意味で『兄弟戦争』を作ることは『ユニバースビヨンド』セットのをデザインするようなものだ、という冗談を言っていた。通常、セットに必要なものがあれば、それに合わせて世界を調整することができる。実際、初代『イニストラード』では赤と緑に人狼が必要だったので、クリエイティブ・チームはそのように世界を作り変えたのだ。

 利点としては、簡単に採用できる要素が多いことがある。実際、プレイヤーは何年にもわたってアシュノッドやギックスのカードを求めていたので、それらをついにカード化できたことは素晴らしいことだった。

合体カード以外の、ウルザやミシュラの「最終形態」は検討しましたか?このセットのウルザやミシュラの3バージョンにどうまとまったんですか?

 興味深いことに、検討はしていない。アーロン/Aaron Forsytheと私が、兄弟戦争をもとにした本流のセットを作れるかどうかを検討したとき、アーロンは合体のウルザとミシュラを提案してきた。アリと話t師が作った、コンセプトを示すためのデモ・デッキにはそれらが入っていた。それへの反響は非常に良かったので、デザインの変更はあったものの、合体以外の選択肢を検討することはなかったのだ。

パワーストーンがタップ状態で戦場に出るのは、宝物が一見したよりもわずかに強かったからですか?

 メカニズム的テーマでは、プレイでどう使われているかをもとに、近い空間で相互作用するそれ以外のメカニズム的要素のバランスのとり方が変わってくるものだ。

能力を持ち、簡単に誘発できるコモンの組が存在していたので、『異界月』の合体は興味深いメカニズムでした。このメカニズムを再録したのに、必要な組となるカードが神話レアとレアにしか存在しなくしたのはなぜですか?

 プレビュー記事のその1で説明したとおり、展望デザインではコモンの合体カードも実験した。実際、アーティファクト・クリーチャーと各色の呪文が合体するコモンのサイクルを提出したのだ。これが印刷に至らなかったのにはさまざまな理由がある。

 1番目に、コモンの合体カードを成立させるにはかなりの構造上の助けがいる。リミテッドにおいて、プレイヤーがデッキに両方を揃えることが充分出来るようにしなければならない。。さらに、セットにそれら両方を引くための方法となる道具が充分に必要である。また、マジックのセットによくある要素がそれらを邪魔しないようにしなければならない。

 2番目に、このセットは本質的に巨大アーティファクト軍団がお互いに戦うというものであり、セット内のそれ以外の要素はそのコモンの合体カードよりもそのテーマのほうと相性がよくなければいけない。

 最後に、このセットにはすでに複雑さが多すぎ、合体コモンはさらに複雑な側に寄ることになる。いつかコモンの合体カードがあるセットを作るだろうとは思っているが、それはそのセットのすることの焦点とそれに関わりがあることが理由になるだろう。

アーティファクト・セットのバランスを取るための有色アーティファクトの必要性を主張していましたが、このセットには1枚しかありません。なぜそうしたんですか?

 マナ・コストに有色マナを含むアーティファクトは1枚しかない(テフェリーを過去に戻すことができるようにした現代からの機械)。しかし、全力を出すために有色マナが必要なアーティファクトでその隙間は埋めている。過去のアーティファクト・ブロックの問題は、色が何も役に立っていないことだった。どのデッキでも、強力なアーティファクトを好きに使えた。『兄弟戦争』のほとんどのアーティファクトは、色の制約があるので好きなデッキに入れるわけにはいかないので、この問題は低減されている。

試作で、記憶問題を解決する助けとして何らかのカウンターを使うべきだとは思いませんか?

 そのためにパンチアウト・カウンターを作った。ドラフト・ブースターやセット・ブースターに入っている。トークンやDFCヘルパー・カードと同じスロットである。

コレクター番号で見て、文章欄にマナの色があったり基本土地タイプを参照したりするアーティファクトが、通常のアーティファクトのように土地の後ろではなく各色のカードのところにあるのはなぜですか?

 マジックには標準があるが、セットにおいて必要性があればその標準から外れるようにすることはある。今回の場合、本質的に特定の色と繋がりを持つ、つまりリミテッドでも構築でも対応する色を使えなければそれらをプレイすることはかなり減ることになるアーティファクトを大量に作った。プレイテスターは、デッキ作成に当たり、(リミテッドのデッキ作成をするための束の作り方など)組織化にあたって、それらをその色であるかのように扱ったのだ。

ミシュラの工廠》を単純に再録すればよかったのに、なぜ《ミシュラの鋳造所》を作り、「攻撃している組立作業員」と書いたんですか?

 《ミシュラの工廠》はスタンダードには強すぎる。《ミシュラの鋳造所》は基本的には《ミシュラの工廠》を適正なパワー・レベルにしてデザインし直したものだ。攻撃している組立作業員だけを強化できるのは、このカードを防御寄りでなく攻撃寄りにするためである。もとの《ミシュラの工廠》は、3/3としてブロックする(クリーチャー化して2/2、タップして自身を+1/+1する)ことができ、これはプレイデザインが許容できないほど強く盤面を支配する傾向にあったのだ。

『兄弟戦争』に、これほど多くの注目のストーリー・カードがあるんですか?

 このセットは物語を基柱にしたトップダウンのデザインである。注目のストーリーが多くなるセットがあるとしたら、それは『兄弟戦争』のようなセットだろう。

このセットと『団結のドミナリア』の間で、セット内のすべてのプレインズウォーカーを青にするという結論に至ったのはなぜですか?

 このセットのプレインズウォーカー・カードは、物語の鍵である。テフェリーは情報を集めるために兄弟戦争の時代に戻った時魔道士であり、サヒーリは〈ファイレクシア人を止めるために)酒杯をコピーするために必要な工匠であり、ウルザは主役である。この3人すべてが青なのは、計画してそうしたと言うより偶然である。我々はスタンダード環境全体を見て色のバランスをとる。そのため、『団結のドミナリア』には青のプレインズウォーカー・カードがなかったのだ。

このセットのイチオシはなんですか?あなたが必要として、セットに押し込んだものは何でしたか? カード1枚、メカニズム、物語上で起こっている何かをするというフレイバー上の何かにふさわしい何かかもしれない。

 私は、アーティファクトのマナ・コストに有色マナが含まれないように注意していて(現在から来たものが1つある)、『兄弟戦争』をトップダウンで可能な限り多く描写した。両方の目標を達成したと思う。

消火

 本日の質問はここまで。質問を送ってくれた諸君に感謝したい。すべての質問には答えられなかったことを申し訳なく思っている。いつもの通り、今日の記事や質問について、あるいは『兄弟戦争』そのものについての感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、ストーム値の新しい記事でお会いしよう。

 その日まで、あなたとあなたの兄弟がウルザとミシュラよりは仲良くいられますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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