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Making Magic -マジック開発秘話-
『ニューカペナの街角』を狙え その2
2022年4月11日
『ニューカペナの街角』プレビュー特集第2週にようこそ。今日は諸君に展望デザイン・チームとセットデザイン・チームを紹介し、このセットのデザインの話の続きをし、そしてクールなプレビューカード、伝説のクリーチャーをお見せする。
犯罪のパートナー
常にそうであるように、チーム・メンバーの紹介をチーム・リーダーにしてもらうことにしている。通常は展望デザイン・チームとセットデザイン・チームを別々に紹介するのだが、このセットでは展望デザイン・チームは私以外全員がセットデザイン・チームにも所属しているので、ジュール・ロビンス/Jules Robinsにセットデザイン・チームを紹介してもらい、誰が展望デザイン・チームにも所属していたかを書き加えることにしよう。私についての紹介はされないが、私はすべての展望デザイン・チームに所属してきたので、何年もの間に不公平になるほどの紹介をしてきている。
『ニューカペナの街角』のセットデザイン・チーム(クリックで表示)
ファミリーの抗争
先週、マーク・ゴットリーブが展望デザイン・チーム(そしてマークはデザインの中盤で最も能力を発揮するので、セットデザインの最初)のリード・デザイナーに任命され、『タルキール覇王譚』の構造をこのセットの起点として用いることになったところまで話した。我々が取り組まなければならない大仕事は、5つの陣営それぞれ、今回の場合ファミリーに、独自のキーワード・メカニズムを含むメカニズム的特徴を与えることだった。
加えて、このセットは多色の陣営セットなので、陣営がお互いにどう相互作用するのかも意識しなければならなかった。各陣営は3色なので、2つの陣営と2色が共有され、別の2つの陣営と1色が共有されることになる。結果として、それぞれの色が3つの陣営で使われることになり、どの陣営にもその3色内に5つのファミリーのメカニズムが存在することになるのだ。
これは弧3色(1色とその友好色2色)のセットなので、陣営を設定するにあたっては2つ目のテーマとなる友好色の組み合わせについても、特にキーワード・メカニズムのメカニズム的重なりを考える際には考慮する必要がある。それはつまり、我々は各陣営を単体でプレイできるようにするだけでなく、セット内の他の陣営とどう相互作用するかも考えなければならないということである。このデザインには堅牢で複雑な構造が必要になるのだ。
もう1つ、3色セットであることも複雑化の原因である。カラー・ホイールは、単色や2色のテーマを簡単に扱えるようにできている。各色にはそれぞれの特徴があり、2色の組み合わせそれぞれにメカニズム的重なりがあるようにするために尽力しているのだ。しかし、3色になると、どの効果も3色すべてにとっての中核的な存在でないことが多い。成立することもあるが、多くの場合、1色にとっては曲げになるのだ。我々の戦略は、メカニズムがその陣営の中心色の中核になり、他の色のどちらかでは使えて、第3色から見ても折れにはなっていない、ようにすることだった。
どのように各陣営をデザインしたかの話を始める前に言っておきたいことは、変更できる部分は多くあり、一見して思うよりも陣営をメカニズム的にどう取り扱うかという決定をずっと難しくするセット全体の考えも存在するということだ。それでは、ファミリーについて1つずつ見ていこう。
斡旋屋一家(緑白青)
これは白中心のファミリーであり、構造と秩序を用いた犯罪に関わっている。彼らは都市の広い地域を、法律を好きに曲げる能力で支配する法律事務所なのだ。我々はこのファミリーを、攻撃よりも防御に中心を置いたものにすることにした。秩序を武器として使うという中には、敵がこちらを傷つけることを難しいものにすることも含まれる。
マジックは長年に渡ってこの分野を大量に扱ってきた。『アルファ版』にはプロテクション、再生、ダメージ軽減が存在した。クリーチャーが対象にされないようにする方法(被覆、呪禁など)や、クリーチャーを対象にしにくくする方法(護法)、少なくとも対戦相手のクリーチャーは対象にしたくなくする方法(死亡誘発、英雄的、激昂など)、クリーチャーが死ぬのではなく小さくする方法(幻影メカニズム)、そして死亡したクリーチャーを戻せるようにする方法(フェニックス、頑強、不死など)を作ってきた。
斡旋屋一家に関しては、これらの考えを組み合わせて新しいものを作った。盾カウンターである。盾カウンターの元になったアイデアは、事前にクリーチャーを守るというものだった。クリーチャーがダメージを受けたり破壊されたりするなら、そのダメージや破壊の代わりに、そのクリーチャーは盾カウンターを失う。フレイバー的には、斡旋屋一家はその権力でその特定のクリーチャーを守るのだ。
興味深いことに、盾カウンターは印刷されたメカニズムの中で最初にファイルに追加された。マーク・ゴットリーブは過去のセットで入れようとしたことがあり(『フォーゴトン・レルム探訪』のデザイン中にファイルに入っていたことがあったと思う)、そのメカニズムを使う場所を探していたのだ。展望デザインの初日に、マークはファミリーのメカニズムとしていくつか提案してきて、盾カウンターは斡旋屋一家に提案されたものだった。我々は盾カウンターのコンセプトは気に入ったが、その実装には懸念があった。クリーチャーを殺しにくくはしたいが、ほぼ殺せないようにはしたくなかったのだ。我々は、盾カウンターと+1/+1カウンターの区別しにくさが少し不安で、実際よりも弱く感じられることを懸念していた。幸いにも、プレイテストの結果、これらの懸念はすべて杞憂でこのメカニズムは楽しいものだということがわかったのだ。
常夜会一家(白青黒)
これは青中心のファミリーであり、情報と操作を用いた犯罪に関わっている。彼らは魔法を詐欺や策略のために使う魔術師なのだ。このファミリーについては、我々は知識を力にする方法を見つけることにした。(そして最終的に、文字通りそうした。)
このファミリーのメカニズムの最初のバージョンは、精神ハックと呼ばれていた。クリーチャーが持つ能力で、そのクリーチャーをタップ状態で戦場に出してルーター効果(カード1枚を引きカード1枚を捨てる)を得られるというものだった。問題は、ルーター効果はあまりに有効で、95%の割合でそのクリーチャーをタップ状態で戦場に出すことになったのだ。選択できるメカニズムは、必ずどちらか一方を選ぶのであれば面白くないので、我々は調整する方法を探した。
そうして我々は、ルーター効果を含むメカニズムを作る他の方法を探すことになったのだ。探検(あなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を公開する。それが土地であるなら、そのカードをあなたの手札に加える。そうでないなら、このクリーチャーの上に+1/+1カウンターを1個置き、その後、そのカードを戻すかあなたの墓地に置く。)をもとに、我々は謀議を試した。ルーター効果ではなく自分のライブラリーの一番上にあるカード1枚を見るようにすることで、必要な時に+1/+1カウンターを得ようとするという主体性をプレイヤーに持たせることができた。これはこのファミリーらしさを再現する助けとなる知性と操作の要素を加える上で良い働きをしたと思う。土地でないカードを捨てることで+1/+1カウンターを得られるようにしたのは、長期戦で意味がないことが多くなる土地と違い、唱えることのできる呪文を諦めるということだからである。
さて、今日のプレビュー・カードは常夜会一家のカードである。
《賢明な車掌、トルーズ》は、カードを捨てることを基柱にしたデッキを組むことを推奨する統率者としてデザインされた。手札を捨てることを必要とする、謀議などの青や黒の能力で組むことができる。
貴顕廊一家(青黒赤)
これは黒中心のファミリーであり、無慈悲さと殺人を用いた犯罪に関わっている。彼らは自分たちの障害となるものを取り除くため、あるいはいくらかの利益を得るために殺しを厭わない暗殺者である。このファミリーのために、我々はあらゆる手段を取る意思を再現しようと考えた。
初期には、我々は陰鬱(このターンにクリーチャーが死亡していたなら……)を再録することを検討した。陰鬱は死に焦点を当てたメカニズムであり、暗殺者にはフレイバー的にふさわしいと思われたのだ。このメカニズムには2つ問題があった。1つ目が、隣接するファミリーとうまく噛み合わなかったこと。このセットを成立させるための鍵は、ファミリー間のシナジーを持たせることである。2つ目に、必要な無慈悲さを再現してはいなかった。
それを受けて出来たのが、スプラッタというメカニズムであった。我々は、クリーチャーを生け贄に捧げて呪文に何らかの変化を及ぼすことができるというメカニズムのアイデアが気に入った。我々はいくつかの変種(呪文を強化するとか、対戦相手にクリーチャーを生け贄に捧げさせるとか)について話し合ったが、結局のところ、その呪文をコピーできるというアイデアがいいとなったのだ。プレイデザインで、名前が犠牲に変わったこのメカニズムに数字がついた。この数字は、呪文をコピーするために生け贄に捧げることができるクリーチャーに制限をつけるものである。(その数字以上のパワーを持つクリーチャーしか生け贄に捧げることはできない。)数字が必要になったのは、呪文が重くてもその支払いが同じままであれば呪文のコストづけが難しくなることからである。プレイデザインが調整できる新しいツマミを作るか、このメカニズムを同じようなマナ域の呪文に制限するか。前者のほうが、クールなカードを多く作ることができるようになるのだ。
土建組一家(黒赤緑)
これは赤中心のファミリーであり、威嚇と暴力を用いた犯罪に関わっている。彼らは必要だと感じるあらゆるものを得るために拳を振るう街の職人である。このファミリーのために、その情熱的精神を扱うメカニズムが必要だった。
我々が最初に考えたメカニズムは「喧嘩」と呼ばれるもので、2点のライフを支払うことで1/1のクリーチャー・トークンを生成するという呪文のおまけだった。(元になったのは『イクサラン』の初期のデザインにあった、マナを支払って1/1のクリーチャー・トークンを生成するという呪文のおまけのメカニズムである。)当時考えたのは、このファミリーは人々と街角が中心であり、つまり数が増え続けるのはフレイバー的だというものであった。
しかし、結局それには多くの問題があった。1つ目に、舞台座一家のほうがメカニズム的に数を揃えることを扱っているので、間違ったメッセージを伝えることになる。2つ目に、このメカニズムは隣接するファミリーと非常によく噛み合う(犠牲で生け贄にするクリーチャーにも団結でのクリーチャーにもなる)が、土建組一家の特徴を生み出してはいない。
さまざまなアイデアについて話し合ったが、最終的に、『運命再編』と『タルキール龍紀伝』から、疾駆メカニズム(この呪文を疾駆コストで唱えてもよい。そうしたなら、これは速攻を得て、次の終了ステップの開始時に、これを戦場からオーナーの手札に戻す。)を再録することにした。我々はこの衝動的性質を本当に気に入っているが、喧嘩ほどは隣のファミリーとうまく噛み合いはしない。
このことから、デザイン中には「疾走」と呼ばれていた疾駆の変種が生まれた。疾走は、手札に戻るのではなく、ターン終了時に生け贄に捧げてカード1枚を引くというものであった。「戦場に出たとき」と死亡誘発と組み合わせることで、プレイヤーに興味深い選択をもたらす洒落たデザインを作ることができたのだ。
舞台座一家(赤緑白)
これは緑中心のファミリーであり、共同体や伝統の力を用いた犯罪に関わっている。彼らは世界の主な娯楽を司るドルイドの教団員である。このファミリーのために、集団の力を扱い横に並べる戦略を可能にする必要があった。
我々はまず、クリーチャー版の金属術である「カルテル」というメカニズム(3体以上のクリーチャーをコントロールしていれば呪文が強化される)から始めた。しかしながら、このメカニズムは魅力に乏しく、誰も惹きつけられなかったので、我々は他の選択肢を探し始めた。
私は長年セットに入れたいと思っていたメカニズム、「上クリーチャー」と通称していたものを強く推した。上陸と同じように、クリーチャーが戦場に出たときに誘発するのだ。上陸や星座の成功を考えると、上クリーチャーも大成功するメカニズムのように思われた。人々はクリーチャーをプレイするのが好きだ。そうすることで利益が得られるようにしよう。
上クリーチャーは私が『ラヴニカのギルド』でセレズニア(緑白)ギルドに提出したものだったが、セットデザイン中に変更されていた。これは他のメカニズムの単なる拡張であり、このメカニズムは退屈だという懸念がチームにあったのだ。私はプレイ感がよくて他の人気のメカニズムと組み合わせればプレイヤーはもっと気にいると主張した。
デザインはうまく行っていたので、マーク・ゴットリーブは各ターンに2体目に戦場に出たクリーチャーでだけ誘発する変種を提案した。これはまた別のプレイパターンを生み出し、効果も大きくすることができた。
プレイテストの結果、この新バージョンにはいくつかの問題があることがわかった。1つ目に、発生する頻度が低い。2つ目に、長期戦で手札が尽きたあと、誘発させるのが非常に難しくなって苛立つ。3つ目に、通常の上クリーチャーに比べて楽しくない。このメカニズムは元に戻され、団結という名前がついた。
ファミリーの集合
ファミリーをまとめていく中でのもう1つの問題が、ファミリー感のテーマがあるようにすることだった。これがもっとも重要になるのは、友好色の組み合わせである。セットを作るとき、我々はドラフトの主なアーキタイプ5種とそれに次ぐアーキタイプ5種を作ることが多い。『ニューカペナの街角』の場合、その前者には3色陣営が含まれることになる。後者には、ファミリー2つに存在しうる友好色2色の組み合わせが含まれる。こうすることで、ドラフト時には友好色のドラフトをしながら、その2色にとどまるか他の2色のうちどちらかを加えてファミリーにするかの自由度が得られるのだ。
各2色の組み合わせは、以下のように作られた。
白青
斡旋屋一家は盾カウンターを、常夜会一家は+1/+1カウンターを生み出す謀議メカニズムを使うので、このアーキタイプはカウンターが置かれたクリーチャーを扱うものになる。
青黒
常夜会一家はルーター効果(カードを引いて捨てる)を含む謀議メカニズムを、貴顕廊一家はクリーチャーを生け贄に捧げる犠牲メカニズムを使うので、このアーキタイプは5種類のマナ総量が墓地にあるかどうかを扱うテーマを持つ。境界条件を満たすのに時間がかかるので、これは少し遅めのテーマである。
黒赤
貴顕廊一家は生け贄を含む犠牲を、土建組一家はこちらも生け贄を含む奇襲を使うので、このアーキタイプにはクリーチャーを生け贄に捧げることを扱うカードが存在する。
赤緑(5色の要素を含む)
このアーキタイプは少しばかり難しいことがわかっている。よくあるとおり、隣の陣営の組み合わせすべてのメカニズムがうまく重なり合うようなシステムを作るのは難しい。土建組一家は奇襲を、舞台座一家は団結を使うので、どちらもクリーチャーの相互作用はあるが、セットデザイン・チームはこのアーキタイプを宝物に関するものにすることにした。赤と緑は他の色のマナを生み出すことに最も馴染みがある2色なので、どちらも宝物生成を助けることができる。宝物や宝物のさまざまな使い方を扱うカードも存在する。宝物を使うことで、このアーキタイプは他の色を簡単に散らすことができる唯一のアーキタイプになった。宝物というフレイバーはこのファミリーの中心にある豪華な雰囲気ともうまく噛み合う。
緑白
舞台座一家は大量のクリーチャーを必要として、斡旋屋一家はクリーチャーを盾カウンターで守るので、セットデザイン・チームはこれを市民・クリーチャー・トークンを扱う部族アーキタイプにすることにした。緑と白はクリーチャー数が最も多いので、部族テーマとの相性がいい。
ファミリーの集合
こうして『ニューカペナの街角』ができあがった。諸君がこの話を楽しんでくれていたら幸いである。また、この記事や取り上げたメカニズム、あるいはセット全体についての反響を聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、このセットのカード個別の話をする日にお会いしよう。
その日まで、あなたが自分にふさわしいファミリーを見つけられますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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