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Making Magic -マジック開発秘話-
『ニューカペナの街角』を狙え その1
2022年4月7日
私の1本目の『ニューカペナの街角』プレビュー記事にようこそ。今日はまずこのセットのデザインの話をしてから、クールなプレビュー・カード2枚をお見せしよう。楽しみにしてもらえれば幸いである。
全ては一家のために
『ニューカペナの街角』のデザインの話は、この絵から始まった。
アート:Anna Steinbauer |
クリエイティブ・チームは新しい次元のアイデアのブレインストーミングをして、それから我々が「アート図版」と呼んでいるものを作る。これは次元の雰囲気を伝えるための、基本的にはクールな一枚絵である。このアートはセット内で使うためのものではなく、コンセプトを視覚的に示してその次元の全体像を感覚的に掴めるようにするためのものだ。私はこれを、ありうる新次元のティーザーのようなものだと思っている。この絵につけられていた名前は、「悪魔の暴力団の世界」であり、その最初のアイデアは、天使と悪魔が抗争を続ける1920年代のアール・デコ風の次元だったと思う。
将来について話し合う会議の場で、(テーブルトップ・マジック担当副社長)ビル・ローズ/Bill Roseが、その時手掛けていたものの次の数年のセットに向けてのスライドを提示した。それは暫定のものだったが、どう進んでいくかを想像できるものだった。マーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebは悪魔の暴力団の世界の絵を見て、強い発想を掴み、会議中にテーブルトップ・マジックの日々の進行を監督しているケン・トループ/Ken Troopにメールを送った。その全体はこのようなものだった。これから読み進む中で、状況説明のために筆を挟むことにしよう。
これはビルの3色の示唆に基づいた提案です。
ヴリンのセット1をFにします。(ヴリンのセット2はIのままです。ヴリンのセット2つが分かれるのは問題ないと思います。)
悪魔の暴力団をHにして、イニストラードとヴリン2の間に入れます。
先述の通り、この計画のかなりの部分は暫定的なものであった。計画の中には、ジェイスの地元であるヴリンを舞台にした2連続のセットが含まれていた。結局、それはボツになった。アルファベットで書かれているのは本流のセットのことである。Fは『Fencing』、後に『ストリクスヘイヴン:魔法学院』になった。Iは『Ice Skating』、これは『ニューカペナの街角』になることになる。Hは『Hockey』で、『神河:輝ける世界』になった。
ここで、遠い未来のことについてかなり変動するのは普通なのだと強調しておきたい。何か大局的なアイデアから始めて、どうすべきかについて考えを進めていくうちに進化していくものである。具体的なアイデアを得るために必要な議論のために、それぞれの枠に何かを入れて置くのが最善だとわかってりうのだ。今回の場合、中心のアイデアはクリエイティブ的なものだったが、アイデアの起点がメカニズム的なものであるセットも存在する。例えば、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』は呪文とMDFC(そのほとんどは片面は呪文である)に焦点を当てた敵対色の陣営の次元であることが起点だった。
悪魔の暴力団はイニストラードとは異なり、部族セットではありません。陣営の次元です。3色の陣営が5つあり、それぞれが異なる犯罪組織なのです!
曖昧な最初の提案では、この次元は悪魔や天使を扱うので部族に関する次元となっていた。暫定的に3色のセットとなっており、弧3色(アラーラで「断片」と呼ばれていた)だったはずだ。会議で持ち上がった懸念の1つが、このセットの雰囲気がイニストラードに近すぎないかというものであり、ビルはその2つを差別化する方法を考えたいと言っていた。これまでに多くの次元を作ってきたので、新しい次元を考える時に必ず発生する懸念である。既存の次元と違う、単に拡張したものではないと感じさせる方法を見つけられるだろうか。
以下は、マーク・ゴットリーブの5つのファミリーについての初期案である。彼が思いついたものと基本の陣営とのち傘に注目してもらいたい。それぞれごとに、マークの説明と、製品になったファミリーの説明、そしてそれぞれについての検討をお見せしていこう。
白青黒 情報ブローカー
商品としての知識の販売業者であり伝達手段。前線での戦いには近づかないが、舞台裏で影響力を持つ。脅迫と、柔らかな支配。
常夜会一家(才能ある魔術師)
常夜会一家は、その能力を詐欺や脅迫に用いる才能ある魔術師や神秘主義者である。妨害や幻影や隠された技法を用いて、シナリオを紡ぎあげ、自分たちの利益のために結果を操作するのだ。彼らは意図的に普通の日常を装うことで、妨害されることなく計画を推し進めているのだ。
これは青を中心としたファミリーなので(そう、このリストはマークがメールで書いた順番になっており、中心色でなくマナ・コストに基づいているので私のカラー・パイ感は悲鳴を上げている)、情報をもっとも意識しているファミリーであり、それを販売目的で使っているのだ。マークは、これが犯罪の次元であり、各陣営はそれぞれ異なる犯罪に手を染めていなければならないと本能的に理解していた。常夜会一家は、最初、(映画「オーシャンズ11」のように)強奪するファミリーだったが、盗みよりも情報の売買を中心にするようにした。彼らは舞台裏から操るのだ。
青黒赤 殺人部隊
完全に無慈悲で暴力的。中級幹部はトップに上り詰めるために策を練り争うので、内輪での対立が多い。
貴顕廊一家(精鋭暗殺者)
貴顕廊一家は、美しいものを好み、それを得るために殺しもためらわない資産家の吸血鬼である。彼らは、旧カペナの芸術や文化を保護することを目的とした芸術愛好家の善良な組織としての外面を保っている。その磨かれた表面の裏で、彼らは権力、影響力、富の維持に焦点を当てた、精鋭暗殺者からなる陰の組織なのだ。
黒中心のファミリーなので、必ずではないにせよ多くの場合、金銭のために人を殺す犯罪に焦点を当てている。(映画「ジョン・ウィック」のように)5つのファミリーの中で最も無慈悲である。クリエイティブ・チームが彼らに芸術や文化への愛を持たせたことで、生活を区分する犯罪という元ネタを扱うことができている。仕事中は人殺しもするが、時間外にはそれぞれの情熱を傾けるものがあるのだ。
黒赤緑 街の喧嘩屋
破壊者、街ずれた無法者。あまり組織的なリーダーシップはないが、縄張り意識が強い。衝動的で、頭に血が上りやすく、喧嘩騒ぎを起こす。
土建組一家(破壊作業員)
土建組一家は膝小僧ほども簡単に建物を壊すことができる頑健な職人である。乱暴で暴力的犯罪の陣営で、製造業や建築におけるその技量は、破壊や威嚇にも活かされている。腕のたつ職人なので、彼らは都市の下層部をドラゴンのリーダーの巣穴に改装している。
赤中心のファミリーなので、慎重に計画を練るのではなく瞬間の熱で犯罪を犯す人々が中心である。マークはこのグループを街の犯罪の元ネタに合わせていた(映画「ウォリアーズ」など)が、避けるべきステレオタイプを強調するような街のギャングではなく、職人や建築業者といった都市の基盤を作る人々へと変更された。
赤緑白 ファミリー
ここでは全員が(文字通り?)家族だ。組織犯罪に「組織」が関わる。忠誠が評価される。結束。
舞台座一家(パーティの怪物)
舞台座一家は、街で最もホットなパーティを開く、面白いこと好きなドルイドのカルトである。彼らは街の上流階級であり、誰もが彼らの催事や舞踏会に招かれたいと思っている。彼らは古の魔法を使って大衆の意見を揺り動かし、光素の流れを保っているのだ。支払いさえ途絶えなければパーティが終わることはないが、立ち止まったときには抜け出せないことに気づくだろう。
これは緑中心のファミリーなので、歴史や伝統の風のある巨大犯罪組織に焦点を当てている。初期には、もっと組織犯罪寄りだった(映画「ゴッドファーザー」のような)が、街の娯楽の中心となるナイトクラブを運営するグループであることに比重が置かれるようになった。全体として、我々は不必要なステレオタイプに頼らずに犯罪という素材を再現することを心がけている。
緑白青 汚職警官
表向きは法の執行力として、その権限で可能な限り支配する。(その中で自身に利益をもたらす。)
斡旋屋一家(悪魔の法律家)
斡旋屋一家は、光素が干上がってニューカペナが滅びる、破滅の日の予言を密かに信じている悪魔的法律家である。所有権係争や物理的抗議のような世間の法的問題を取り扱う一般的法律事務所を営んでいるが、積極的な職員がどこにでもいて街のあらゆる犯罪に口を出すことに定評がある。
さて、ここで最大の変更点がある。これは白中心のファミリーなので、犯罪を犯すために秩序を使うということになる。最初の反復工程では、この陣営は汚職警官(映画「L.A.コンフィデンシャル」のような)をもとにしていたので、街の警察機関であった。現実世界や様々な警察との関わりを見て、我々は警察から法律家に移行することに決めた。自身の犯罪計画のために法を悪用する法律家という素材(「Angel」(「バフィー ~恋する十字架~」のスピンオフ作品)のウルフラム&ハートなど)はあるので、その方向で行くことにしたのだ。
私がこの文書を目にしたのは、この記事を書くためにゴットリーブと話してこれを送ってもらったときが初めてである。(自分でなければ、私は、リード展望デザイナーと話をするのが通例である。)私は、彼がその一時に得た展望、全体として、基本的にセット全体の枠組みになったものに圧倒されている。先行デザイン、展望デザインの焦点になったものは、それぞれの陣営/ファミリーをどうメカニズム的に具体化するかだった。(デザインのこの側面については来週話そう。)
街路を拓いて
各セットで、私はほとんどのデザイナーを監督しているブレイディ・ベル/Brady Bellとともに、誰を展望デザイン・チームに入れるか話し合う。そこで、誰がリードするかの決定も行なう。『ニューカペナの街角』では、それは簡単だった。このセットの展望は、マーク・ゴットリーブの脳から出たものだ。それを実行するのは彼でなければならなかった。
私は各セットの先行デザインと展望デザインのチームに所属しているが、誰か他の人が運営するということになれば、私は週1回、1対1の会議を行い、デザインの進捗について話し合うことにしている。展望デザイン全体の責任者として、私は、各展望デザインのリードがそのセットで果たさなければあならないタスクを理解させることにしているのだ。私の仕事は、彼らに何をしなければならないかを伝えることであり、どのようにしなければならないかを伝えることではない。
ゴットリーブと私が最初に話し合ったことの1つが、このセットの構造をどうするかだった。新しい次元では、我々はその次元で重視されるものを反映した新しい構造を作ることが多いが、ニューカペナでは、過去に使った3色陣営のセットという手段を取ることにした。ゴットリーブと私は、『タルキール覇王譚』が堅牢なセット構造(当時のリード・デベロッパーのエリック・ラウアー/Erik Lauerの手によるところが大きい)を作ったので、車輪の再発明をする必要はなかったのだ。計画では、ゴットリーブが『タルキール覇王譚』のセット構造で立ち上げ(弧3色と友好色を楔3色と敵対色にする)、セットの必要に応じて変更していくというものだった。交渉には小さな修正が加えられたが、デザインの間ほぼ同じままだった。
次にゴットリーブと私が話し合ったのは、このセットの素材空間だった。色に基づく陣営セットなのでボトムアップのデザインだが、セットに魅力をもたらすものの多くは犯罪ジャンルの芳醇さによるものだった。先行デザインの初期に、我々はかなりの時間をかけて犯罪というジャンルの素材の小分類について話し合い、大量の素材を見つけた。目的は、初期からファミリーと呼んでいた5つの陣営それぞれに、成立させられるだけの元ネタを割り振ることだった。
また、我々は時間をかけて犯罪関連といえるものの長いリストを作った。人々、物品、出来事、場所、何が予想されるだろうか。カード名にできる単語や言い回しは何があるだろうか。マーク・ゴットリーブのデザイナーとして最大の長所は、芳醇さを扱ってセットをフレイバーでいっぱいにする能力だと信じている。個のセットのプレイテスト中に彼がよく受けていたメモは、プレイテスト・カードの名前を称賛するものだった。彼率いるデザイン・チームは、このセットに求められていたものを満たす素晴らしい仕事をして、今日の2枚のプレビュー・カードを作ったのだ。
どちらのプレビュー・カードも、このセットに必要だとわかっている名前がつけられている。鍵となるのは、それをどう再現するのが最良かであった。興味深いことに、この2枚はそれぞれ異なる手法の例となっている。我々が初期にクリエイティブ・チームと話し合って決めたことの1つが、この次元の技術レベルを(多くの素材の前提となっている)「狂騒の20年代」のアメリカに存在する技術にする、ということだった。つまり、例えば自動車は存在する。さて、車があって、犯罪をテーマとしたセットなら、逃亡用の車はなければならない。
このカードは、名前からトップダウンでデザインされた。逃走用の車なら、一瞬の気付きで逃げる必要があるので搭乗が簡単であるべきだが、そうなると搭乗以外のコストがなければならないことになる。搭乗したクリーチャーのうち1体を手札に戻すのは、このセットにはコストや欠点を利点に変えるさまざまな方法があるので面白いデザインだった。
2枚目のプレビュー・カードもフレイバーに富んだ名前をしているが、トップダウンのデザインではなく、メカニズム的にクールなカードとして作られ、後に名前が与えられたものである。展望デザインで、クールなカード名の長いリストを作ったので、気に入ったカードができたらリストを見て、ふさわしい名前がないか探した。それでは、クリックして《一切れの利益》をご覧あれ。
このカードは、貴顕廊一家のメカニズムである犠牲をレアで実行するクールな方法を探していてできたものである。(このメカニズムの成り立ちについては来週語ろう。)この犯罪ジャンルの素材空間の素晴らしいことの1つは、うまい言葉や言い回しが大量にあることである。
本日はここまで。『ニューカペナの街角』の情報を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事や今回した話、あるいはこのセットそのものについて、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、私が各ファミリーをどうメカニズム的に作り上げたかについて語る日にお会いしよう。
その日まで、ニューカペナの闇に踏み込みすぎることがありませんように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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