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Making Magic -マジック開発秘話-
落葉樹
2022年3月28日
今日は、開発部で長年使われているがこの記事で掘り下げたことのない単語、「落葉樹/deciduous」について掘り下げていきたい。それが厳密に何を意味するのか、そしてセットをデザインする上でどんな影響があるのか。そういった質問に答えていこうと思う。
まず最初に、もう1つのキーワード「常盤木/evergreen」の話をする必要がある。この用語はマジックの歴史上かなり早くから(誰が言い出したの思い出せないが)すべてのあるいはほとんどのマジックのセットで使われているメカニズムを表すために使われていた。これには、飛行、接死、トランプルなどがある。我々がいつでお使う、名前のあるメカニズムのことである。初心者向きのセットでは、これらのメカニズムには注釈分が添えられることが多い。常盤木メカニズムの歴史について詳しくは、私の書いた記事「常磐木な日常」を参照のこと。
(おそらく私が言い出した)「落葉樹」という用語は、常盤木ではないが必要に応じてどのセットでもデザイナーが使えるメカニズムを表すために作られた。私は落葉樹メカニズムを、必要であれば使えるがほとんどのセットにあると想定されてはいない専門的道具でいっぱいの道具箱だと考えている。これから見ていく通り、落葉樹メカニズムが使われる頻度はバラバラだ。常盤木メカニズムと同様、落葉樹メカニズムも必要なだけ使うことができるので、1枚のときも大量のときもある。
今日は、現時点で落葉樹メカニズムとされているものすべてを見、その歴史となぜ落葉樹なのか、そしてどのように使っているかを説明していく。
固定語
今日これから説明していくさまざまなもの同様、固定語はメカニズムというよりも道具であるが、どのセットでも使えるデザイン上のリソースである。固定語は、モードを持つ呪文の選択を区別するために使われる説明文である。(訳注:これは「フレイバー語」と呼ばれ、厳密には区別されています。)これまでに、その使われ方は3種類ある。
1つ目が、対立を描写するため。カードは対立の各陣営を描写することがあるが、対立そのものを描くのは難しいことがある。固定語は2つの陣営をフレイバーづけする役に立つ。初めて固定語を使った『運命再編』では、カンと龍の対立を軸としたサイクルが作られている。
2つ目が、プレイヤーが次にすることを選ばなければならない分岐に物語性を持たせる役にも立つ。『フォーゴトン・レルム探訪』は、この2種類目の素晴らしい使い方をしていた。
3つ目が、後で使うモードをプレイヤーが参照しやすくするための道具としても使える。『Unstable』の《Buzzing Whack-a-Doodle》では、各プレイヤーがどのモードを選んだかを比べ、それによってどの効果が発生するかが変わる。それぞれの能力を1語で表せることでずっと使いやすくなっているのだ。
固定語はフレイバーに富んでおり、カードを直感的にしてくれるので、これは落葉樹になっている。
血・トークン
アーティファクト・トークンは、セットのフレイバーを強める単純な道具として好評を博している。その鍵となるのは、多くのデッキに適用できるコストとして単純な仕事1つをする一般的に存在する品物というコンセプトづけをすることである。
血・トークンは『イニストラード:真紅の契り』で導入されたので、まだ再録の機会は来ておらず、いずれ落葉樹になるかどうかは時間が示してくれることだろうと思うが、将来のデザインで少しだけ使えるようにデザインされているのだ。戦闘を中心にしたゲームでは、フレイバー的に血を参照する呪文を作るのは難しくない。そして、赤ルーター(カードを捨ててから引くこと)もまたメカニズムとして一般的なものである。
キャントリップ
キャントリップは、そのカードの主たる効果に加えておまけとしてカードを引くカードを指すスラングである。基本的に、キャントリップは代わりのカードを引くので手札が減らない。
キャントリップの初登場は『アイスエイジ』だが(ただし1枚だけでいいなら『アラビアン・ナイト』の《宝石の鳥》が初出である)、それらはカードを手に入れるのが次の自分のターンの開始時だったのでは今は「スロートリップ」と呼ばれている。興味深いことに、単純に「カード1枚を引く」ことを初めてやったセットは『ポータル』で、効果を単純化して記憶問題を取り除くためだった。(『ポータル』は入門レベルの製品だった。)それがうまくプレイされたので、開発部は『ウェザーライト』で通常のキャントリップに舵を切ったのだ。
キャントリップを落葉樹に入れたのは、すべてのセットに入るように努力するようなものではないからである。必要な時に使うが、使わなければならないものではないのだ。
手がかり・トークンと調査
手がかり・トークンは最初、問題を解決するための道具だった。調査をキーワードにしようと考えたが、直接カードを引かせるのはあまりにも強力すぎることがわかったのだ。我々は、カードを半分引くようにする方法はないかと考えた。そして、カードを手に入れるためにマナを支払う必要があるアーティファクト・トークンというアイデアにつながったのだ。
手がかり・トークンは大成功したので、単純でフレイバーに富んだ名前で基本的な効果を持つトークンを基柱にセットを作れるデザインの道具としてのアーティファクト・トークンへの扉が開かれた。後発のアーティファクト・トークンと違い、手がかり・トークンは名前のあるメカニズムである調査と結びついている。厳密に言えば、「調査」しなくても手がかり・トークンを造ることはできるが、調査して手がかりを得るのは非常にフレイバーに富んでいる。
有色アーティファクト
アーティファクトは『アルファ版』からずっとあるが、長い間、すべてのアーティファクトは無色だった。後に『未来予知』で、我々は将来有色アーティファクトが登場しうることをほのめかす《サルコマイトのマイア》を作った。興味深いことに、我々がこのカードを作ったとき、ファイレクシアが支配しているミラディンへの帰還をほのめかしており、そこで有色アーティファクトの「お披露目」をする予定だったが、結局大量に使ったのは『アラーラの断片』でエスパーのクリーチャーをメカニズム的に表すためが最初だった。
初期の計画では有色アーティファクトは控えめに使う予定だったが、3個めのアーティファクト・ブロックとなった『カラデシュ』ではプレイデザイン上の大問題が生じ、強力な無色アーティファクトを作り続けることは(非常に狭い活用法に縛るのでなければ)できないとわかり、その問題を解消する方法を考えなければならなかったのだ。いくらかの議論を経て、開発部は有色アーティファクトを頻繁に使うことにした。最近では有色アーティファクトを非常によく使っているので、この分類は常盤木になる可能性が高い。
呪い
『Unglued』で私は、他のプレイヤーに手の甲でカードのバランスを取らせる《Volrath's Motion Sensor》というカードを作った。文字通りプレイヤーに触れるもので、銀枠セットだったので、私はそれを「エンチャント(プレイヤー)」にしたのだ。当時は、それだけの話だった。それから数年が経ち、私は初代『イニストラード』のデザインを手掛けていた。デザイン・チームは呪いをエンチャントで表すというアイデアが気になっており、私はそれをエンチャント(プレイヤー)にすることを推薦したのだ。全体としてフレイバー的であること、そしてその使いやすさから、呪いはそれらしい世界では再登場するものになったのだった。
サイクリング
リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldが作ったサイクリングは、最初『テンペスト』のデザイン中に登場したが、そのセットには入れるものが多すぎたので取り除かれることになった。その後、1年後の『ウルザズ・サーガ』では、そのセットやブロックの主なメカニズム2つのうち1つとして印刷されるに到った。そして、『オンスロート』で、史上初めて、常磐木でない名前のあるメカニズムが再登場することになったのだ。その後、常盤木でも落葉樹でもないメカニズムの中で最も使われたものになった。『時のらせん』ブロック、『アラーラの断片』ブロック、『アモンケット』ブロック、『イコリア:巨獣の棲処』、その他『モダンホライゾン』など数多くのサプリメント・セットで登場している。
それがここで何をしているのか。サイクリングは落葉樹ではない。時は来た。『ニューカペナの街角』で、我々はサイクリングを落葉樹に加えたのだ。弧/断片版のトライオームが必要で、サイクリングの存在する3色セットが来るまで待てなかったので、そのサイクルを作り、サイクリングをその5枚にだけ登場させることにした。この決定は、開発部内での大きなうねりの兆しだった。それについてはこの記事の最後で語ろう。
両面カード
両面カードは最初、ウィザーズが作っている別のトレーディング・カードゲーム、「デュエル・マスターズ」で登場した。人狼をどうメカニズム的に実装するか考えていたとき、「デュエル・マスターズ」で働いた経験のある『イニストラード』のデザイン・チームのメンバーだったトム・ラピル/Tom LaPilleが両面カードを提案したのだ。もともとの計画では、デッキに入れて両面カード版を呼び出す片面カードを造るというものだったが、印刷上、ブースターパックでその2枚が常に同時に出るようにはできなかったので、両面カードだけにして、不透明スリーブがない時に代わりにデッキに入れることができるチェックリスト・カードを作ったのだ。
最初はウィザーズの内外で賛否両論だったが、プレイヤーの間では人気になっていった。『イニストラード』は、必ず第1面でプレイし、第2面に変身する方法が存在し、場合によってはもとに戻ることもある、変身する両面カード(TDFC)を導入した。
両面カードは『マジック・オリジン』で、伝説のクリーチャーでプレインズウォーカーに変身できる5枚で再登場した。(『基本セット2019』ではこれを《破滅の龍、ニコル・ボーラス》でもした。)その後、『イニストラードを覆う影』ブロックで再登場し、『異界月』では新しい両面カード、合体カードも導入された。正しい2枚を同時に戦場に並べることができたら、それらは1体の巨大パーマネントに変身するのだ。(《B.F.M. (Big Furry Monster)》が元になっている。)
土地に変身する新しいTDFCは、『イクサラン』ブロックで登場した。『ゼンディカーの夜明け』では、カードのどちらの面ででもプレイできるが変身することはない、モードを持つ両面カード(MDFC)が登場した。
MDFCは『カルドハイム』や『ストリクスヘイヴン:魔法学院』でも登場している。TDFCは『イニストラード:真夜中の狩り』や『イニストラード:真紅の契り』で再登場し、『神河:輝ける世界』ではクリーチャーに変身する英雄譚が登場している。
両面カードは、非常に深いデザインを持ち、素晴らしいフレイバーの可能性を持ち、プレイヤーの人気も高い、三拍子揃ったカードである。そのことから開発部は最近多用している。(直近の本流のセット7つのうち6つで使っている。)この量は減っていく(例えば『ニューカペナの街角』には1枚も出てこない)が、開発部が何度も使う道具になるだろう。
食物・アーティファクト・トークン
手がかりや宝物・アーティファクト・トークンの成功を元に、『エルドレインの王権』で食物・トークンは初登場した。食物は多くのおとぎ話素材で重要な役割を果たすので、このセットにあるのは筋が通っていたのだ。これがライフと関連しているのはフレイバー的に素晴らしいことだった。時を経て、食物がフレイバー的に納得できるいくつものセットが見つかって、食物・トークンは開発部が喜んで再利用するものになった。あまりに多くのライフを得るとゲームが非常に遅くなるので、ライフを得る方法が多すぎないように注意する必要があった。
混成マナ
混成マナは、2種類の色マナからなるマナ・シンボルで、2色のどちらでも支払える。初出は、初代『ラヴニカ:ギルドの都』ブロックだった。その後、『シャドウムーア』ブロックでは大テーマとして、セットの半数ほどで登場することになった。
混成マナは多くのセット(『アラーラ再誕』『運命再編』『エルドレインの王権』『イコリア:巨獣の棲処』『ゼンディカーの夜明け』『Jumpstart』『ストリクスヘイヴン:魔法学院』)で使われており、非常に汎用的なデザインの道具であることがわかっている。カードや能力で、複数色を扱うことができるようになるのだ。また、色の制限を増やすことなく、固有色に色を増やすことができる。フレイバーをほのかに表すことができる。これは大きなデザイン上の問題を解決する助ける便利な機能を持ち、すべてのデザインに必須というわけではないので、落葉樹メカニズムの最高の例だと言えるかもしれない。
プロテクション
プロテクションは『アルファ版』が初出の複雑なメカニズムで、自分のものを一部のカードから守る助けとなる。(最新の注釈文では、「この[オブジェクト]は[性質]であるものには、ブロックされず、対象にならず、ダメージを受けず、エンチャントされず、装備しない。」である。)
プロテクションは長年の間常磐木だったが、複雑さのせいで落葉樹になった。数年前、常盤木に戻ることになりそうだったが、使うのが散発的だったので常盤木にするか落葉樹にするかはわからなかった。私の直感は現時点では落葉樹というよりも常盤木だと感じているが、この記事の一貫性のため、ここに加えておく。
果敢
果敢は、クリーチャーでない呪文を唱えるとターン終了時まで+1/+1されるという能力である。最初は、『タルキール覇王譚』のジェスカイのメカニズムとして登場した。そして、主に青と赤のメカニズムとして、すぐに常盤木になったのだ。やがて、これはある種のデザインと相性が悪いことがわかり、落葉樹に変更になった。すべてのセットに必要ではないが、必要なセットでは非常に有用なのだ。
英雄譚
英雄譚は、複数ターンかけて発生するさまざまな効果を持つエンチャントのサブタイプである。このメカニズムの初出は『ドミナリア』で、物語をカード1枚で伝えるためのものだった。メカニズム的に、初期バージョンのプレインズウォーカーのデザイン(ボツになったのは、プレインズウォーカーの主体性が感じられなかったからであるが、それは物語のフレイバーにはうってつけだった)をもとにしている。
英雄譚は大成功をおさめ、何度も(『テーロス還魂記』『カルドハイム』『神河:輝ける世界』、『モダンホライゾン2』でも1枚)再登場を果たしている。物語というフレイバーはトップダウンの物語を元とした次元や、前回の探訪で起こったことの物語を伝えられる再訪でうまく作用する。人気と柔軟性から、これは落葉樹に昇格した。
分割カード
分割カードは、1枚のカードに2つの呪文が書かれており、そのどちらかで唱えることができる。最初は印刷に至らなかった銀枠セットの『Unglued 2』のためにデザインされたものだったが、『インベイジョン』で友好色の呪文2つを持つカードとしてお目見えすることにになった。
分割カードはさまざまな調整を受けて何度も再登場している。『アポカリプス』では敵対色の分割カード。『Planechase』では同じ色の分割カード。『ディセンション』では違う2色の金色カードの分割カード。『ドラゴンの迷路』では融合メカニズムを持つ分割カードで、一方のカードでも両方のカードでも唱えることができた。『ラヴニカのギルド』と『ラヴニカの献身』には、同じ2色の組み合わせで、一方は伝統的金色、一方は混成カードな分割カードが存在した。『アモンケット』には余波というメカニズムがあり、分割カードを手札から一方、他方は墓地から唱えるというものだった。
分割カードには熱烈なファンがいて、モードを持つ楽しいカードを造る上でいい働きをしている。
宝物・アーティファクト・トークン
宝物・アーティファクト・トークンは、生け贄に捧げて好きな色1色のマナ1点を加えることができる。初代『テーロス』ブロックには《黄金の呪いのマカール王》と《金箔付け》の2枚、宝物と似た働きをする(ただしタップする必要はなかった)金・アーティファクト・トークンを生成するカードがあった。『イクサラン』ブロックをデザインするにあたって、我々は(『霊気紛争』のメカニズム即席との相互作用を考えて)金・トークンを調整することに決め、タップをコストとして追加し、いろいろなものを表すことができるように名前を宝物に改めた。
宝物・トークンは『ラヴニカの献身』で再登場し、その後『基本セット2020』でも再登場した。その後者で、宝物・トークンは定義済みトークンになり、能力の記述はルール文でなく注釈文として扱われるようになった。宝物は、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』、そして宝物が初めてアーティファクト・クリーチャー・カード(《ミミック》)に描かれ、パーマネントを宝物に変えることができるカード(《幽閉》)を作った『フォーゴトン・レルム探訪』でも登場した。
宝物はメカニズム的にもフレイバー的にもシナジーを持ち、開発部が今後もいくつものセットで使うであろう道具でることがわかっている。
機体
機体は、通例クリーチャーをタップすることで(つまり搭乗させることで)一時的にクリーチャーになることができるアーティファクトである。『カラデシュ』ブロックのメカニズムとして初登場したが、ほぼすぐに落葉樹になった。コンセプト上、機体はすべての世界の中心にあるわけではなく、フレイバーに富んでいる場合にのみ使うことから常盤木にはなっていないが、ほとんどのセットで使われている。
未来に目を向けて
今日の記事を終わる前に、落葉樹メカニズムについての開発部の理念の変化について少し語らせてもらいたい。語彙があふれることを警戒しているので、我々は落葉樹化についてはいくらか慎重な態度を取り続けている。しかし、マジックのテーブルトップにおける中心が広いフォーマットになり、狭いフォーマットは情報を増やせるオンラインが中心になっていることから、全体的な理念を再考することになった。これの好例は、かつて落葉樹にしないと判断した、サイクリングを落葉樹にしたことである。この記事が、どのメカニズムを落葉樹にして欲しいかというユーザーとの意見交換の入り口になることを望んでいる。
我々が配慮しているいくつかのことについて触れておきたい。
- 目標は、落葉樹にする膨大なメカニズムのリストを造ることではない。先述の通り、このリストのほとんどのものは非常に機能的で、デザイナーがデザイン上の特定の必要性を満たせるようにするものである。開発部は、少しだけ増やすことを検討しているのだ。
- 何かを落葉樹にすることの実用性の多くは、少しだけセットに入れることができることである。これを意識してもらいたい。
- 我々が検討している方向性の1つは、何かを表すキーワードがあるがほとんどの場合書き下しているもの、である。
- 最後に、落葉樹メカニズムは、広い機能性と多用性を持つものであるべきである。どの道具があれば、デザイナーはセットでクールで繊細なことができるようになるだろうか。
私や他の開発部員は、この話題についての諸君の意見を聞きたいと思っている。普段も私は諸君からのメールを楽しんでいるが(ここから送れる)、今回はプレイヤー間で意見交換がされるよう、公共の場で議論を深めたい話題なのだ。各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で話をしよう。何が落葉樹であるべきだと思うか、教えてくれたまえ。
それではまた次回、『ニューカペナの街角』のプレビュー記事で来週の後半にお会いしよう。
その日まで、世間があなたの考えを聴けますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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