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Making Magic -マジック開発秘話-
『契り』から その1
2021年11月1日
『イニストラード:真紅の契り』プレビュー特集にようこそ。今日は、このセットのデザインについての話を始めて、展望デザイン・チームの紹介をして、そしてクールなプレビュー・カードをお見せする。それではさっそく、話を始めよう。
ほとんどの期間、展望デザインは次から次へと行なわれるので、ある週の終わりに展望デザインの作業が完了し、次の週の初めに次の展望デザイン・チームを立ち上げるのは珍しいことではない。イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerが『イニストラード:真夜中の狩り』の展望デザイン・リードだったので、私はそのデザイン・チームには参加しているだけだった。しかし、私は次のセットの展望デザインのリードだったので、イーサンが『イニストラード:真夜中の狩り』をセットデザイン・チームに引き渡す準備をしている時期に、私は新しい展望デザイン・チームを立ち上げる準備をしていたのだ。諸君にそれをプレイしてもらうことを思うと心が躍る――来年の話だが。私が『イニストラード:真夜中の狩り』の直後に手掛けた展望デザイン・チームは、『神河:輝ける世界』だったのだ。
その経緯はどのようなものだったのか。つまり、もともとは、イニストラードへの3回目の訪問は、1セットだけの予定だったのだ。これはセットのコードネームからもわかる。『イニストラード:真夜中の狩り』が「Colf」で、『神河:輝ける世界』は「Hockey」だ。
一体何が起こったのか。いくつかのことがあったのだ。1つ目、『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ:フォーゴトン・レルム探訪』によって、その枠についての考え方が変わった。最初は基本セットに適用されるクリエイティブ的テーマだったが、デザインが進むにつれて、通常の本流のセットに近づいていった。新しいメカニズムがあり、複雑さのレベルも高くなったのだ。
一方、我々は初代『Jumpstart』を手掛けていて、これは新しいプレイヤーをマジックに導く方法の大きな革新になるとわかってきた。これは、『マジック:ザ・ギャザリング アリーナ』が初心者に関して成功を示しているチュートリアルによってさらに人気を増していることへの補強である。
後期のセットをもっと長い期間スタンダードで使えるようにするために本流のセットの発売をずらすべきかどうかという議論もあって、あるアイデアが浮かび上がってきた。夏の基本セットに代わり、その枠でもっと普通の本流のセットを晩秋に出すことはできないか、というものだった。(ここでいう晩秋は北半球の季節に基づいている。)
新しいアイデアを掘り下げるときの通例通り、我々はそのアイデアを実行するということがどういうことなのか、あらゆる影響を検討していく。当時「Hockey」(『神河:輝ける世界』)は、展望デザインの中期だった。我々は、作業を止めて数か月先送りにすることができた。(スケジュールには調整の余地があった。展望デザイン・チームは時々、さまざまな理由から、必要よりも早く始まることがあるのだ。)新セットには、先行デザインや先行世界構築の時間はなかった。つまり、新しい次元はありえないということである。しかし、展望デザインをすぐに始めるならその時間は取れるという状況だった。
あらゆる条件を考慮して、イニストラードでの第2セットが非常に筋が通っていたのだ。展望デザインや世界構築の作業が非常に簡単になるだけでなく、我々は同じ次元での第2セットを増やそうと話していたのだ。イニストラードは最も人気の高い次元の1つであり、連続したセットを作ればユーザーは喜ぶだろうと考えた。
このセットには先行デザインがないなどのいくつかの挑戦点があったので、私が展望デザイン・チームのリードを務めるのが最も妥当だった。これが、私が集めたチームである。(チームの紹介はリードに任せることにしている。この場合、私だ。)
『イニストラード:真紅の契り』の展望デザイン・チーム(クリックで表示)
我々が最初に取り組まなければならなかった問題が、この2つのイニストラードのセットをどう差別化するかだった。どちらもイニストラード全体を表現しているが、我々はそれぞれがセットの売り込みができるように、そしてプレイヤーに独自の特徴を与えるようにしたいと考えたのだ。私はここで、『イニストラード:真夜中の狩り』でしたことを振り返った。その中心が人狼にあったことは明らかだった。人狼の数が史上最多で、新しい色に人狼がおり、主なメカニズムである日暮/夜明は「狼男メカニズム」の調整版であり、物語の中心には人狼がいた。
つまり、『イニストラード:真紅の契り』もまたイニストラードの主要クリーチャー・タイプの1つを中心にすべきだということになる。残っているクリーチャー・タイプは、人間、スピリット、吸血鬼、ゾンビだった。すぐに人間は候補から外れた。人間はほとんどどの世界にもいて、取り上げるのは怪物にすべきだと思われたからである。
次に、スピリットを検討から外した。幽霊は世界観に合っているが、吸血鬼やゾンビに比べて部族の中心にしたときに心躍るものにならないだろうと考えられたのだ。あとは、どちらにすべきかだけだった。
展望デザイン・チームは会議を開き、吸血鬼でできるあらゆるクールなことをブレインストーミングし、そして、次の会議ではゾンビでできるあらゆるクールなことをブレインストーミングした。両ブレインストーミングから、クールなものが出てきた。甲乙つけがたかったので、私はどちらが正解かわからなかった。そこでダグが口を開いた。私は彼に、吸血鬼とゾンビに関する質問をクリエイティブ・チームに持っていって並行でブレインストーミングをしてもらうように伝えていたのだ。そのチームには、決定的な優先度があった。彼らは吸血鬼の結魂を中心にしたクールなアイデアを思いついたのだ。その会議の結果はこのようなものだったと記憶している。
私:ああ、吸血鬼にもゾンビにも、クールなメカニズム的アイデアが本当にたくさんあるな。本当に難しい。ダグ、そっちのチームのブレインストーミングは何と言ってた?
ダグ:吸血鬼の結婚。
私:じゃあ吸血鬼で行こう。
一口どうぞ
セットの中心が吸血鬼に決まると、我々はブレインストーミングの結果を取り上げ、それを広げていった。
最も説得力のあるアイデアの1つが、興味深いことに、前回のイニストラードへの訪問でマジックに導入されたあることをもとにしていた。調査というフレイバーを再現する方法を見つけようとしていたのだ。カードを引くことは知識を得ることを現しているので、調査をカードを引くことと結びつけることにした。問題は、カードを簡単に引けるようにすることには注意が必要だということだった。そこで、手掛かりを使うというアイデアが思いついたのだ。カードを手に入れるのではなく、カードを手に入れるためにマナを支払って使えるアーティファクト・トークンを得るのはどうか。こうすれば、調査カードを大量に作ることができる。
手掛かりの副次効果として、クリーチャーでないアーティファクト・トークンの使い方を開発部に再考させてくれた。『イニストラードを覆う影』より前には、我々はクリーチャーでないアーティファクト・トークンは、クリーチャーでないアーティファクトをコピーするために使うのがほとんどだった。手掛かり・トークンは、クリーチャーでないアーティファクト・トークンにもクリーチャー・トークンと同じように多くの可能性があると示したのだ。つまり、同じ基本機能を持った大量のトークンを作るということである。『イクサラン』では、マナを出す宝物・トークンを作った。『エルドレインの王権』では、ライフを得られる食物・トークンを作った。これらの、クリーチャーでないアーティファクトは非常にフレイバーに富んでおり、芳醇なデザインを作ることができるようになったのだ。
吸血鬼のブレインストーミングの中で、私は、吸血鬼らしさを最もよく再現する要素は何が作れるかと質問した。いくらかのブレインストーミングの後で出た結論が、血だった。血をどうすれば表現できるか。吸血鬼が血を必要とするというアイデアは面白かった。血・カウンターを吸血鬼に置くということも話し合ったが、それは+1/+1カウンターの使用に問題が生じる。プレイヤーに血・カウンターを置くことも考えたが、奇妙だと感じた。最終的に、我々が一番気に入ったアイデアは、血・トークンだった。手掛かり、宝物、食物のトークンで培った技術を使うのだ。
吸血鬼を強化するために使える、使い方が組み込まれたリソースにしたいと考えていたので、血・トークンというのは完璧な選択だった。吸血鬼に血・トークンを食べさせる、というのは、他の選択肢を掘り下げるのに時間をかける必要がないほどの正解だった。しかしながら、血・トークンが実際に何をするのかを決めるのにはかなりの時間を要した。手掛かりはカードを引く。宝物はマナを出す。食物はライフを得る。そこで、それら以外の効果を探すことにした。
条件は以下のようなものだった。
一般的に有用でなければならない
手掛かり、宝物、食物のトークンが成功したのは、それらがほとんどのゲームにおいて一般的に望まれることをしたからである。それを基柱にする必要はなく、ほとんどのデッキで作用する。
効果があまりにも大きすぎるものでない
手掛かりから学んだことの1つが、カードを引くことは非常に有用なのでプレイヤーは手掛かりを他の用途に使いにくいということだった。血・トークンの主な目標の1つが吸血鬼に食べさせることなので、効果は充分小さい、引き換えにできるようなものでなければならなかった。
血らしさと矛盾しない
これが一番難しいことである。宝物や食物と違って、血による利益のフレイバーが何なのかは明らかではないのだ。かなり考えた後で、我々は、「血らしく感じられる」よりも「血でないとは感じられない」ことを重視するという結論に到った。
これらの条件を踏まえて、我々は血・トークンの機能を探していった。我々が最初に掘り下げたのは、クリーチャー1体を対象として、それの上に+1/+1カウンター1個を置くということだった。これは一般に有用で(ほとんどのデッキにはクリーチャーが入っている)、フレイバーに富んでいる(血を注入したら強くなる)と思った。しかし、これにはいくつかの反対意見があった。
- 1つ目に、これは吸血鬼を時とともに強化するが、それは狼男の主なゲームプレイを真似たもので、結果としてプレイも非常に似通ってしまう。
- 2つ目に、いつでも使えるようにすると少しばかり強くなりすぎ、(特にリミテッド・フォーマットで)盤面の複雑さを大きく引き上げることになる。つまり、「起動はソーサリーとしてのみ行う。」に制限する必要がある。
- 3つ目に、クリーチャーが必要というのは構築フォーマットでは我々が認識していたよりも大きな制約であるとわかっている。つまり、スタンダードで使えるものにするのは難しい。
- 4つ目に、プレイヤーが複数作ると想定されるアーティファクト・トークンに求められる、スムーズなゲームプレイを助けるという役にはあまり立たない。
- 5つ目に、自分の吸血鬼を強化するために血を生け贄に捧げたいと思うような能力を作るのが難しくなる。吸血鬼を永続的に強化するか、一時的に他の能力を与えるかを選ぶことになる。あまりにも多くのプレイテスターが、その前者を選んでいた。
次に我々が試したのは、占術、具体的には占術1だった。血は未来を覗く呪文(血占い)に関わってきたので、フレイバー的にも関係があると言える。この効果は一般的に有用で、+1/+1カウンターと違ってスムーズなゲームプレイの助けになる。
しかし、この占術バージョンにもいくつもの問題があった。
- 1つ目に、うまく重ならない。血トークンを使って占術し、そのカードをデッキの一番上に残すことを選んだなら、もう1つ血・トークンを使おうとは思わない。
- 2つ目に、+1/+1カウンターとは逆の問題があり、プレイヤーは血・カウンターをその第1の用途である占術のために使おうとはほとんどしなかった。
- 3つ目に、効果が小さすぎるが、占術数を増やすと考えることがかなり増えることになって時間がかかってしまう。占術2や占術3を1回だけ行うことには問題ないが、プレイヤーに複数出してもらいたいトークンに持たせるとなれば話は別だ。
占術のプレイテスト中に、しばらくの間占術の代わりに諜報(ライブラリーの一番上に置かないカードをライブラリーの下でなく墓地に置く)を試した。『イニストラード:真紅の契り』は、他のイニストラードのセット同様、いくらかの墓地シナジーが存在するので、このメカニズムもその前段として働くようにするというアイデアを採用したのだ。ここでこの話をするのは、墓地にカードを置くということが次に試すことに繋がったからである。
手掛かりについて開発部内でよくある批判の1つが、アーティファクト・トークンに求められる価値よりも少しばかり良すぎるというものである。代わりに何ができたかについて時間をかけて話し合った。その議論上にいつも浮かぶのが、「ルーター効果」(カード1枚を引き、その後、カード1枚を捨てる)や「赤ルーター効果」(カード1枚を捨て、その後、カード1枚を引く)である。では、血・トークンでルーターなり赤ルーターなりするのはどうだろうか。重宝で求めた墓地の相互作用が得られ、セットのあらゆる要素のプレイを向上させる助けとなる、カードの流れを良くする方法も手に入ることになる。
最終的に、血メカニズムとしてルーターでなく赤ルーターを試したのは、効果が小さくなること、そして血魔法の雰囲気をよく再現していると思われたからである。起動コストを1マナにしたのは、2マナでは手掛かりと比較されたときに、単なる弱体化した手掛かりだと感じられるからである。プレイテストの結果は素晴らしいものだった。唯一の問題は、フレイバーとの繋がり方だけだった。+1/+1カウンターほど、どんぴしゃなフレイバー的繋がりがあるわけではないが、血はいくらか漠然としたものであり、血占いを素材とすれば占術バージョン同様に充分フレイバーに富んでいると言えた。血についてもっともフレイバー的に重要なのは、それを生成するトップダウンのカードと、それを使って強化する吸血鬼である。
いかにして血・トークンができたかについて語ってきたところで、血・トークンを使うプレビュー・カードをお見せしよう。下をクリックして、《ファルケンラスの先祖》をご覧あれ。
血・トークンを採用すると決まると、我々は吸血鬼がそれでどんなクールなことをできるかを考え始めた。まず最初に、吸血鬼の色のカードで通常できることを見ていった。(その色がどの色かはこのあと触れる。)
黒で、通例レアで、よくすることの1つが、自力で墓地から戦場に戻ることができるクリーチャーである。カードを捨てて血・トークンを得て、それを使って戻すことができるので、これはうまく働く。自分をリアニメイトするクリーチャーは、通例それほど大きくなく、またそれらのクリーチャーで戦場を膠着させたくはないので、ブロックできないことがほとんどである。我々は最終的に、《ファルケンラスの先祖》を3/1の飛行クリーチャーにした。これは、回避能力のために戦場に戻したい一方で簡単に死ぬような弱さにしてリアニメイトをさらに有効にするためである。サボタージュ能力で血・トークンを生成するようにしたのは、このカードで血・トークンを溜めてあとで使って戻せるようにするためである。このカードは最初は戻ってくるのに血・トークン3つを必要としたはずだが、プレイデザインが2つでいいと考えたのだ。こうして、《ファルケンラスの先祖》ができたのだった。
白の婚姻
もう1つ、吸血鬼について議論しなければならないことがあった。『イニストラード:真夜中の狩り』で、人狼に中心を置くための方法の1つとして、3色目で登場させる(そして4色目5色目にも散らす)というものがあった。『イニストラード:真紅の契り』の中心が吸血鬼なのだから、これにも3色目が必要だと考えたのだ。
3色目は、黒と赤以外で既に大量の吸血鬼がいる唯一の色、白を選ぶべきなのは明らかだった。『イクサラン』ブロックの吸血鬼部族テーマでは白黒で、つまり白の吸血鬼が大量にいて、その中には部族メカニズムを持つものもいた。加えて、イニストラードの主な吸血鬼であり今回の結婚式の花婿であるエドガー・マルコフは、『統率者(2017年版)』で白黒赤のカードとして登場しているのだ。そのため、白単色の吸血鬼数枚と赤白や白黒の伝説の吸血鬼を作ることができた。(『イニストラード:真夜中の狩り』同様、多色カードはすべて2色である。)
我々は、3色目に広げるだけでなく、思いつく限りの吸血鬼の素材の長大なリストを作った。メインストリームの文化における吸血鬼の人気のおかげで、手がけられる吸血鬼の素材はかなりの量に登った。使われたことのなかったもの多く(そして使われていたものも少し)は、個別のトップダウンのカードのデザインになった。諸君がそれらを見て、プレイするのが楽しみである。
最後に強調しておきたいことが、『イニストラード:真夜中の狩り』同様、『イニストラード:真紅の契り』はイニストラードのセットであり、我らがゴシックホラー次元を訪れるときに見かけれる通常の要素が含まれており、たださらに吸血鬼に焦点が当てられているのだということである。このセットにも人狼やゾンビやスピリットや人間はいる。それについてはまた来週お話ししよう。
棺に戻る時間
本日はここまで。いつもの通り、今日の記事や血・トークン、吸血鬼、『イニストラード:真紅の契り』全体についての諸君の考えを聞かせてもらいたい。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『イニストラード:真紅の契り』のデザインの話その2でお会いしよう。
その日まで、あなたが必要な血を手に入れられますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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