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Making Magic -マジック開発秘話-
『狩り』は楽し その1
2021年9月2日
『イニストラード:真夜中の狩り』プレビュー特集第1週にようこそ。まずこのセットのデザインの話をしてから、クールで新しいプレビューカードをお見せしよう。狼男だ! 衆知の通り、いつもと同じで、ただ狼男が多いだけだ。おそらく、イニストラードの「いつも」だろう。
狼たちの居場所
今日の話は、1994年の夏に遡る。『レジェンド』と呼ばれる新セットが世に出た頃のことである。つまり、私はゲーム店の前で開店1時間前から並ばなければならなかった。マジックのセットを発売日に買わなければ、それを手にするのはかなり難しくなると知っていたからである。私はUCLAのある街ウェストウッドで、『レジェンド』を大量入荷するゲーム店を見つけていたので、そこに行ったのだ。私はブースター・ボックスを4箱購入して、そのうち3箱をその日のうちに開封し、1箱をクローゼットに仕舞ったのだった。私が開封した中に、このカードがあった。
このカード名を見て興奮したのを覚えている。「うわ、小さな人狼ってどんなんだ?」 しかしその後、私はルール・テキストを読んだのだ。「ふむふむ、充分なマナがあれば、これを使ってこれをブロックしてたりこれにブロックされたりしているクリーチャーを倒せるんだな。」しかし、なぜパワーが一時的に減るのか。そして、デザインにおいて、これはどう変身を表していると言えるのか。私はマジックにクールな人狼が本当に欲しいと思っていたので、このただの空振りだと感じたものに失望した。
それから1年近くの時が流れて、1995年の初頭。私が興味深いメールを受け取った当時、私はフリーランスとして、ウィザーズで社内の7分野に渡るさまざまなものを書いていた。(それらの分野の中には、開発部やデュエリスト誌も含まれていた)。外部のプレイテスト・グループを立ち上げる気はないか。次のセットのプレイテスト用物品を送るため、4~8人のプレイ・グループを集めなければならない。我々がすることは、それでプレイし、プレイテストの記録を集め、それを開発部に返送するだけである。私は同意した。それは私がやりたいことだったのだ。
私は(当時私が住んでいた)ロサンゼルスのマジック仲間に声をかけ、プレイテスト・グループを作った。プレイテストのために初めて我々に送られたセットは、『ホームランド』だった。プレイテスト・カードは、印刷されておおよそマジックのカードの形に(ただしひと回り小さくて角張っていた)切られていた。我々が最初の会合で最初にしたことは、プレイテスト・カードの箱を開けて中身を見ることだった。私が最初に見た中に、このカードがあった。
私はこのカード名を見て、大興奮した。「《大いなる人狼》。」これは間違いなく、《Lesser Werewolf》より強いはずだ。私は思わず叫んだ。「人狼だ!」
そしてカードを読んだ。5マナで2/4で、これをブロックしたクリーチャーを継続的に傷つける。「ああ、駄目だ。」私は言った。私は他に人狼がいないかセット全体を探したが、いなかった。マジックは現時点で、人狼2枚中に当たりは0枚だったのだ。
さて、2000年に話を進めよう。私は当時ウィザーズの開発部で働いており、『ジャッジメント』のデザイン・チームに所属していた。『ジャッジメント』は『オデッセイ』ブロックの第3セットで、我々はこのブロックのメカニズムの1つであるスレッショルドの新しい種類のデザインを実験していた。我々が取り組んでいたアイデアの1つが、スレッショルドが成立しているときに諸刃の剣になるような何枚かのスレッショルド・クリーチャーを入れることだった。そう、強化はされるが、その変身には生来の危険が伴うのだ。この結果、このカードが印刷に到った。
このカードは、トップダウンの人狼としてデザインされたわけではなかった。スレッショルド・カードの一部のフレイバーとして人狼化を使っていたので、クリエイティブ・チームは人狼を作るのにふさわしいと感じたのだ。最初の2枚の人狼に比べれば明らかにいいカードだった。(少なくとも、変身は描かれていた。)しかし、大当たりというには遥かに及ばないデザインだった。
ここで、2009年に話を進める。初代『イニストラード』のデザインの初期のことだ。我々は、怪物であるクリーチャーが必要だと判断した。吸血鬼、ゾンビ、そして狼男だ。(スピリットは少しあとになって追加された。)私は、それらの怪物それぞれのトップダウン・デザインを見つけたいと考えた。
その会議の最初に、私は《Lesser Werewolf》、《大いなる人狼》、《不実な人狼》のコピーをポケットから取り出した。「マジックの狼男は、これだ。もっといいものができるはずだ。実際、このセットが成功するかどうかの鍵を握るのは、狼男をどれだけうまくカード化できるかにかかっている。マジックは吸血鬼をうまくやった。マジックはゾンビをうまくやった。しかし、まだ狼男をうまくやっていない。今日、集中すべき場所はそこだ。」
結局、私は、狼男が守らなければならないものを定義する規則を作った。(状態2つ、変身、その他……これについては、人狼特集の私の記事(リンク先は英語)に詳しい。)このことから、トム・ラピル/Tom LaPilleが(ウィザーズの日本語TCGである)「デュエル・マスターズ」にある両面カードの使用を提案するに到ったのだ。我々はそれを採用した。おそらく諸君はこの話を20回も聞いたと言うことだろう。
今日は、この話を別の方向から掘り下げていく。提案されたアイデアは両面カード以外にもいくつもあった。このセットの主なメカニズムの1つ(そして今日のプレビュー・カードの1枚)の元になったのが、狼男問題を解決するための両面カード以外の方法として私が提示したものである。
私はそのアイデアを昼/夜と呼んでいた。その働きは次の通り。狼男をプレイしたとき、ゲームの外部からカード1枚を持ってくる。(そう、『フォーゴトン・レルム探訪』でダンジョンという形で実現したが、このアイデアについてはかなり前から扱っていたのだ。)それには、一方の面が昼を、一方の面が夜を表す両面カードが含まれていた。それぞれの面に、3マスずつのトラックがあった。最初は、昼の面の1マス目から始める。その後、プレイヤーが呪文を唱えるたびに、トラックを進める。1マス目、2マス目、3マス目にある間は、昼である。そして4マス目、5マス目、6マス目にある間は、夜である。6マス目の次は1マス目に進む。そして、狼男は昼か夜かに基づいて面を変えるのだ。
このメカニズムのプレイ感はよかったが、両面カードほど心を躍らせるものではなかったので、そのセットからはボツにしたのだった。しかしながら、これは『イニストラード』に採用された「狼男メカニズム」(人間が狼男に、狼男が人間に変身するという誘発型能力)の元になり、それ以降(『異界月』では少し違う形になっていたが)あらゆる狼男に登場することになったのだ。正直なところ、これまで昼/夜メカニズムが再び話題に登るとは思っていなかったが、全く想像していないときに調整する方法が生まれた。
ハッカソンとは
そしてまた数年の時が流れ、今度は2018年になる。2017年に、開発部は、1週間通常の業務から離れ、その時間で将来の製品のためのブレインストーミングをする、ハッカソンと呼ばれることを始めた。『モダンホライゾン』と『Jumpstart』はどちらも第1回ハッカソンの副産物だった。第1回ハッカソンの成功ぶりを踏まえて、私は将来のマジックのメカニズムのためのハッカソン開催の許可を求めた。そして、アイデアを6つの区分に分類してハッカソンを開催したのだ。
チーム1:プレインズウォーカー ― このチームは、後にふさわしいキャラクターを見つけられるようなクールなメカニズム的仕掛けを探して、ボトムアップでプレインズウォーカーのデザインを掘り下げる。
チーム2:ストーリーの拍子 ― このチームは、近未来のストーリーの拍子を見て、それを新しいデザインの元になる出発点として使えるかどうかを検討する。
チーム3:過去の仮定の再検証 ― このチームは過去に立ち戻り、マジックが過去に下した決定を再検証して、違う判断をしていたらどうなっていたかを掘り下げる。過去の選択に疑問を投げかけることで、クールなメカニズムは見つからないだろうか。
チーム4:未解決メカニズム ― このチームは我々が試して採用されなかったすべてのメカニズムを見て、過去の作業中に埋葬されたクールなメカニズムがないかを見る。
チーム5:カード枠 ― このチームは近年新しいカード枠の使用に積極的になっていることからの可能性を掘り下げる。これまでできなかったがカード枠のデザインをリソースとして扱うことで可能になったメカニズムはないだろうか。
チーム6:外部の物品 ― このチームは、カードのデッキ以外の物品を必要とするメカニズムを掘り下げる。
私は他の5人のチームリーダーを選び、彼らに自分が担当したいチームを選んでもらった。私は最終的に、もっとも「常識はずれな」チームであり他の誰もやり方が思いつかなかったチーム6を担当することになった。私のチームでは、私はアイデアをまた別の掘り下げるべき区分に分けた。
この区分のうちいくつかには開発中のクールなものが含まれるのでについてあまり詳しく説明するつもりはないが、区分の1つである「外部カード」について説明しよう。この区分のアイデアは、デッキ内のカードを使ってデッキ外からそのゲームにカードを持ち込むことができる方法を考えるものである。それらのカードは定形のマジックのカードである必要はなく、カードとして印刷できるものなら何でもいいのだ。ダンジョンはこの区分から印刷に到ったメカニズムの好例である。
このチームが創造的なものを生み出せるようにするため、まず最初に私は、過去に試したが成立しなかったこの区分のあらゆるものについて語った。それらの中の1つが、初代『イニストラード』の昼/夜メカニズムだった。これについて話したとき、チームのメンバーは興味をそそられたので、我々はそれでどんなデザインができたかを見るためにいくらかの時間を費やした。
大きな革新の1つが、この物品を使えば、単に両面カードを変身させる以上のことができるというアイデアだった。昼か夜かによって、有効化/無効化したり、機能を変化させたりする片面カードがいくらも作れたのだ。さらに調べていくほど面白くなっていき、このチームの最後の発表では(各チームは火曜のマジックの会議で見つけたものについて発表した。評価もした)、私は昼/夜を将来の可能性のあるメカニズムとして提示したのだった。
『狩り』の始まり
そして今から1年少々前、『イニストラード:真夜中の狩り』の展望デザインの第1回の会議が行われていた。我々は3回目のイニストラードへの訪問で何ができるかについて話し合い、そこで私は「イニストラードの世界のあり方そのものに関わるあるものに関するアイデアがある」と切り出したのだった。私はハッカソン中に作ったメカニズムのためのデッキを取り出し、チームでそれをプレイした。
このセットのリード展望デザイナーであったイーサン・フライシャー/Ethan Fleischerは、昼/夜を扱うカードと基本構造は気に入ったが、変身条件については疑念があると言った。(いろいろなことが変更されていたが、呪文が唱えられるたびに進むトラックはそのままだった。)そして、他の誘発条件を試して、そのプレイを見てみることを提案してきた。
そこで、そうした。我々は考えられ得るさまざまな誘発条件を列記し、さまざまなバージョンのプレイテストをした。試した中には、狼男がすでに使っていたのと同じ誘発条件があった。「狼男メカニズム」はほとんどのイニストラードのセットで根源にあるので覚えておくのが簡単なだけではなく、(やはり『異界月』の狼男を除く)過去の狼男をこのセットの狼男と同じようにプレイできるのだ。プレイテストしたところ、これこそが採用すべきものだということがすぐに明らかになった。
後に日暮/夜明となった昼/夜メカニズムの採用を決めた後、我々はそれで可能になるものを掘り下げ始めた。最終的には、大きく4種類のものが見つかった。
1.他の変身と狼男を関連付けられる。
ほとんどの日暮/夜明カードは狼男だが、テーマ的に関連したそれ以外のカードを日暮/夜明のサイクルに関連付けることができるようになった。例えば、狼男が変身するのと同時に変化する、他のカード・タイプが登場するのはこれが初めてとなる。
2.変身しないカードで参照できる。
日暮/夜明は、変身しないカードからも参照できる、状態を生み出す。例えば、昼か夜かに基づいて強くなるカードを作ることができる。デザインでは、我々は両方を試したが、セットデザインは、フレイバー的には夜のほうが強力になるということに気がついた。
3.変化そのものを参照できる。
もう1つプレイテスト中に楽しいとわかったことが、昼であるか夜であるかではなく、昼から夜、夜から昼に変化するたびに誘発するカードや、さらにはデッキ・アーキタイプを作ることができるということだった。常に夜にし続けるように尽力するデッキ(これは狼男デッキがほぼすることである)を作るのは楽しいが、可能な限り変更させ続けようとするデッキを作るのも楽しいのだ。このテーマは、白、青、赤に見られる。
4.夜明の面で戦場に出すことができる。
日暮/夜明には、もう1つ興味深い奇妙なことがある。このメカニズムによって、戦場に出る時点でどちらの状態であるかを識別し、変身するようなカードを作ることができる。つまり、例えば、狼男デッキを使っていて、夜であれば、狼男は狼男の面で戦場に出るのだ。(日暮/夜明を持たない過去の狼男はそうはならないが、日暮/夜明の狼男と同じタイミングで変身するので、それらのカードを組み合わせてプレイすることができる。)
強調しておきたいのは、日暮/夜明が存在するからといって、すべての変身する両面カード(TDFC)がそれに関連するわけではないということである。実際、TDFCに関わる全く別のメカニズムが存在する。これについてはまた来週。イニストラードを訪れる楽しみの中には、TDFCでできることを掘り下げることがある。狼男は大量にいるが、他のことをするTDFCも大量にあるのだ。
日暮/夜明がこのセットの鍵となる要素であることがわかると、我々はテーマとして狼男に寄せることは楽しいだろうと判断した。先述の通り、吸血鬼、ゾンビ、スピリットはずっと出番が多かったと言える。そこで、イニストラードは狼男に愛を注ぐことができる場所なのだ。そのための方法の1つが、単に他のイニストラードのセットよりも多くの狼男を印刷するだけではなく、通常の色である赤や緑以外にも存在できるようにするというものだった。(その2色は今回も1種色である。)3色目の選択肢を与え、他の2色にもカメオ(狼男に変身するカード1枚)を与えることにした。狼男の3色目は明らかに黒だと気づくのにはそれほどの議論は必要なく、黒の狼男が3枚入ることになった。白と青にはそれぞれ、第1面がその色であり、第2面で赤や緑の狼男に変身するカード1枚が入った。
そして、このカードのうち1枚、白のカードが今日のプレビュー・カードである。さてそれでは、ここで《粗暴な聖戦士》をご紹介しよう。
赤と白で重複する部分としない部分を第2面で区分していることに気づくだろう。両方の色に先制攻撃はあるが、護法でマナを求めるのは通常白で、ライフを求める護法が赤である。これによって、白のマナ・コストでありながら赤らしさを持たせているのだ。青の狼男のカメオはまだ公開していないが、緑の狼男に変身するということは言える。
他の主なクリーチャー・タイプ(人間、スピリット、吸血鬼、ゾンビ)に充分なカードがないのではないかと不安な諸君、その心配はない。人間とスピリットにはそれぞれ新しいメカニズムがあり、ゾンビには新しい種類のゾンビ・トークンがあり、吸血鬼には名前のないメカニズム的テーマがある。(それに何より、吸血鬼には吸血鬼をテーマにした真紅の血のセットがあるのだ。)それらについては来週触れる。
今夜は満月
本日はここまで。いつもの通り、今日の記事や新しい日暮/夜明メカニズム、その他『イニストラード:真夜中の狩り』の様々な一面についての感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『イニストラード:真夜中の狩り』の狼男以外のあらゆるものについて語る日にお会いしよう。
その日まで、あなたが月に吠えることを楽しめますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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