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Making Magic -マジック開発秘話-
あなたの望みが『統率者レジェンズ』 その2
2020年11月2日
『統率者レジェンズ』プレビュー特集第2週にようこそ。先週、『統率者レジェンズ』の展望デザインについて話した。今週は、その続きとして『統率者レジェンズ』のセットデザインの話をしよう。また、終了前には、プレビュー・カード数枚を諸君にお見せする。
今日の話を始める前に一言だけ。私が18年前に「Making Magic -マジック開発秘話-」を始めたときは、マジックのデベロップについて語る「Latest Developments -デベロップ最先端-」という記事も同時に連載されていた。私はデザイン・チームを、「Latest Developments -デベロップ最先端-」の中ではデベロップ・チームを紹介していたのだ。展望デザイン、セットデザイン、プレイデザインという形式に移行して、私は私が監督している展望デザイン・チームを紹介するようになった。そして、『統率者レジェンズ』の記事を書くにあたって、いつも展望デザイン・チームの紹介は私が書いているが、セットデザイン・チームやプレイデザイン・チームを紹介するような週刊記事はないので、それらには正しく紹介される機会がないということに気がついた。そこで、『統率者レジェンズ』からは、私が各チームのリード・デザイナーに頼んでそれぞれのチームの紹介文を書いてもらうことにしたのだ。クリックで表示されるようになっているので、興味がある諸君はぜひ目を通してくれたまえ。
さて、それでは、今日の話は『統率者レジェンズ』のセットデザインについてのものなので、私はセットデザインのリーダーであるジュール・ロビンス/Jules Robinsに自己紹介とチームの紹介をしてもらうことにしよう。(『統率者レジェンズ』のプレイデザイン・チームの紹介はまた別の記事で行なうことになる。)
『統率者レジェンズ』の伝説たちのお目見え
ここをクリックして、『統率者レジェンズ』のセットデザイン・チームをご覧あれ。
位置について、よーい……デザイン
今日の話は、ジュール・ロビンス率いるセットデザイン・チームが、ガヴィン・ヴァーヘイ率いる展望デザイン・チームから提出されたものを受け取ったところから始まる。提出されたものは次のようなものだった。
- 新カード(最終的には165枚)を含むセットの大きさ(361枚)
- メカニズム4つ(幇間/advocate、続唱、統治者、共闘)
- ドラフトのルール(60枚デッキ、複数枚可能、《虹色の笛吹き》など)
- 2種類のブースターパックの枚数案(15枚と20枚。どちらを選ぶかによってそのセットのドラフトのあり方に影響する)
- テーマとして郷愁に寄せること
- 「統率者リミテッドは違うものなりうるが、それはデッキの作り方だけで、ゲームプレイは構築の統率者戦と同じようであるべき」という理念
ガヴィン率いるチームはこのセットの大局的な展望を定義づける多くのことをしていたが、解決しなければならない重要な実装上の問題があった。私のお気に入りのたとえを使うなら、展望デザイン・チームは素晴らしい家のための非常に曖昧な青写真を作り、そしてセットデザイン・チームはそれを実際に建てる方法を考えなければならないのだ。
2つ、大きな課題があった。
- 統率者戦の本質を残したまま、ドラフトのあらゆるクールな部分を持つセットを作るにはどうすればいいか。
- 楽しいドラフト体験になるように短時間でドラフトをできるようにするにはどうすればいいか。
この2つの課題は、異なるものではあるが、密接に関連していた。2つ目の問題のほうが簡単な解決法があったので、まずその話をしよう。
楽しいドラフト体験になるように短時間でドラフトをできるようにするにはどうすればいいか。
ジュール率いるセットデザイン・チームは、60枚ドラフトをして60枚デッキを作るという展望デザイン・チームからの提言に同意した。ドラフトするカードを多くしすぎずにデッキの作り方にいくらかの選択肢を与えるのに充分なカードがあるようにする適切なバランスだったのだ。つまり、ドラフトは15枚パック4つか、20枚パック3つかのどちらかになる。
20枚パックが選ばれたのには、主に2つの理由があった。1つ目に、3パックをドラフトするほうが4パックをドラフトするよりも時間がかからない。それは、同じパックを回すほうが時間がかからないということと、新しいパックを開封すること自体が、現在のブースターのドラフトが終わるまで待たなければならないので全体として遅くなるという理由からである。2つ目に、各ブースターに1枚ずつ伝説のクリーチャーを入れるのではドラフトの初期に充分な選択肢を提供できず、20枚パックにすれば2体目の伝説のクリーチャーを入れるのが簡単になるということにジュール率いるチームが気づいたからである。
ただし、60枚デッキと20枚パックに移行しても、ドラフトが充分早くなったわけではなかった。目標は、通常のブースター・ドラフトよりも少しだけ時間がかかるようにすることであり、60枚ドラフトするには45枚ドラフトするよりも3分の1長い時間がかかっていた。そこで、ケン・ネーグルが興味深い提案をしたのだ。(メンバー紹介を読んだ諸君は、これがいつのことかわかるだろう。)ピックごとに、1枚でなく2枚ドラフトするとしたらどうだろうか。これによってドラフトの方向性を早期に決めることが少し簡単になり、「ピック手数」を60から30に減らすことができる。2枚ピックするのには1枚ピックするよりも時間はかかるが、2回に分けて1枚ずつピックするよりはずっと早いのだ。この決定によってドラフトを必要な時間枠の中に収めることができた。
統率者戦の本質を残したまま、ドラフトのあらゆるクールな部分を持つセットを作るにはどうすればいいか。
ここで、さらに厳しい課題に入ることになる。この問題の解決には、これが複数の小さな問題の集合体であることに気づく必要があった。小さな問題全体を解決すれば、大きな問題を解決できるのだ。これから、それらの小さな問題とその解決策を見ていこう。
新カードと再録カードの使い方
展望デザインは、『バトルボンド』などのセットに倣って、人気のあるさまざまな伝説のクリーチャーなどの大型の派手なカードを再録するために再録枠を使っていた。その後、新カードを使って、再録する伝説のクリーチャーのドラフトでのテーマが作用するようにするための低レアリティのカードを作った。テーマ同士にシナジーがないので、これはさまざまな問題を引き起こしていた。セットデザインが見つけたのは、新カードで伝説のクリーチャーや派手なレアを作り、低レアリティの再録カードでそれらのテーマが噛み合うようにするカードを再録する必要があるということだった。新カードでテーマを定義することは、ドラフトのアーキタイプを成立させるための鍵だったのだ。
パック内の伝説のクリーチャーの数の増加
もう1つセットデザインが見つけた問題は、各ブースターに1枚だけ伝説のクリーチャーが入っているようにすると、プレイヤーは面白いデッキを作るための行為者性を発揮できず、可能なものを選ぶことしかできなくなるということだった。もう1枚伝説のクリーチャーを増やすことで、ドラフトに柔軟性が増え、ドラフトが躍動的なものになるのだ。最終的に、ブースター内に確定フォイルを1枚入れ、その1枚も伝説のクリーチャーであることがあるようになったことで、さらにドラフトの選択肢が増えたということも書いておこう。(これについてはまた後ほど。)
メカニズムのうち1つの変更
共闘は、ドラフト中にプレイヤーが別の色に移行することができるようにするという素晴らしい仕事をしていた。続唱はカジュアル向けの多様性を加えた。統治者はゲームを終わらせる助けとなるので多人数戦では常に良いことである、攻撃することを推奨するものだった。幇間(統率者をプレイしたりそれで攻撃したりしたときに誘発する新メカニズム)は、問題を起こしていた。(軽い統率者や安全に攻撃できる統率者を選ぶような)特定の戦略を推奨するものであり、ゲームプレイを劣化させていたのだ。一方で、このセットにはマナを使い切る方法(特に長期戦において余剰のマナを消費できるようにする方法)が欠けていることが明らかだった。この問題の解決策は、幇間を再演/encoreに入れ替えることだった。再演は、蘇生と無尽を合わせたような新メカニズムである。注釈文はこうだ。
([マナ], あなたの墓地からこのカードを追放する:各対戦相手につきそれぞれ、このカードのコピーであり、このターン可能ならそのプレイヤーを攻撃するトークンを1体生成する。それらは速攻を得る。次の終了ステップの開始時に、それらを生け贄に捧げる。この能力はソーサリーとしてのみ起動できる。)
再演は、さまざまなドラフト・アーキタイプを補完する多くのテーマの橋渡しともなった。例えば、これは青黒の墓地テーマ、白黒のトークン・テーマ、黒赤の生け贄テーマ、黒緑や青赤の部族テーマを助ける。
コモンの枚数の増加
セットデザインはレアリティに関してもう1つ変更を加え、通常よりもコモンの比率を高くした。これは、プレイヤーが同じカードを複数枚プレイする頻度を減らしてリミテッドをより統率者戦らしくする一方、多くのテーマを成立させる助けになった。
共闘シナジーへの注目
(過去の共闘を持った伝説のクリーチャーの再録も含む)このセット内で共闘を持つカード間には、1500種類以上の共闘の組み合わせが存在することになる。ジュール率いるチームは時間を掛けて、共闘間のシナジーを可能な限り見つけ出そうとした。
伝説のクリーチャーの開封比の上昇
展望デザインは大量の伝説のクリーチャーが入った状態でこのセットを提出したが、セットデザインは開封比を3種類の方法で高めることができると気がついた。1つ目に、セット内の枚数を増やした。『統率者レジェンズ』には69枚の伝説のクリーチャー(と、統率者になりうる伝説のプレインズウォーカーが2枚)が存在する。これはこれまで作られたどのセットよりも多い。2つ目に、多くの伝説のクリーチャーをコモンにした。(セット内の59枚の伝説のクリーチャーのうち、40枚はアンコモンである。)3つ目に、ブースター・ファンの中で、伝説のクリーチャーの再録を追加した。(詳しくは後述。)
無色のカードの枚数の増加
もう1つ解決しなければならない大きな問題は、孤立問題、つまりプレイヤーが初期に(統率者の固有色で)方針を決め、その後全員が前回同じテーマを選んだときと同じデッキをドラフトすることになるという問題であった。共闘はいくらか助けになったが、セットデザイン中のもう1つの大きな変化は、固有色に関係なくどのデッキでもピックすることができる、無色のカードを大量に追加するというものだった。
これらの小さな修正が、大きなドラフトの問題を解決することにつながったのだ。
ブースター・ファン
この話のもう1つ、これまで触れて来なかった側面が、それにどれだけの時間がかかったのかということである。『統率者レジェンズ』は想像されていたよりも少しばかり複雑で、チームの作業時間を増やすために何度もスケジュールの差し戻しが行われることになった。ガヴィンの最初のプレイテストから印刷に到るまでには、およそ6年の時間がかかっていた。(これは『Unstable』の7年に次ぐ長さだと思われる。)この経過から、『統率者レジェンズ』にはセット・ブースターは存在しない。このセットのデザインが始まった時点ではまだ存在しておらず、セット・ブースターの導入後に発売になるとわかった時点ではもう追加する時間はなかったのだ。幸いにも、ブースター・ファン(枠違い、絵違い、装飾違いのカード群のことを指す開発部語。詳しくはこちらの記事を参照のこと)についてはそうではなかった。
まず、『統率者レジェンズ』チームは、統率者戦プレイヤーが自分のデッキを飾り立てることが好きだと知っていたので、確定フォイル枠がすべてのブースターに追加された。このフォイル枠はセット内のどのカードも入っている可能性がある。伝説のクリーチャーも含まれるので、ブースター・パックの中には3枚の伝説のクリーチャーが入っているものもあるということになる。(全てのブースターに、フォイルでない伝説のクリーチャーの枠が2枚分ある。)その後、新しい装飾のフォイルが追加された。ここで説明するのは難しいが、ガヴィンがその動画を投稿している(英語)ので見てもらいたい。とてもクールだ。このセット内のすべての伝説のクリーチャーには、この新しい装飾のフォイル版が存在する。新しい装飾のフォイル版カードは、通常のフォイル版の代わりにフォイル枠に入っている。加えて、(共闘を持つクリーチャー全てを含む)再録された43枚の伝説のクリーチャーがあり、これらの新しい装飾のフォイル版(だけ)が存在する。さらに加えて、プレインズウォーカー2枚にはボーダーレス・プレインズウォーカー版が存在し、多くのカードには拡張アート版が存在する。ボーダーレス枠のプレインズウォーカーはドラフト・ブースターに入っているが、拡張アート枠のカードはコレクター・ブースターにしか入っていない。
プレビューのある部屋
さて、この2週間にわたって、『統率者レジェンズ』のデザインについて語ってきた。今日の終わりの前に、プレビュー・カード2枚をお見せしよう。そのうち1枚は、『アルファ版』で言及されながらカードになったことがなかった人気のキャラクターだ。このキャラクターに言及したカードはこのセットで再録され、多くの統率者戦で定番である。さて、このプレビュー・カードが何かわかるだろうか。
予想できた諸君は、ここをクリックしてくれたまえ。
本日はここまで。『統率者レジェンズ』のデザインの瞥見を楽しんでもらえたなら幸いである。今回と前回の記事について、あるいはこのセットについて何か意見があれば、メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『統率者レジェンズ』の新しい伝説のクリーチャーの歴史について見ていく日にお会いしよう。
その日まで、あなたが最高の統率者戦デッキをドラフトできますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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