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Making Magic -マジック開発秘話-
『ゼンディカーの夜明け』の挑戦 その2
2020年9月7日
先週、『ゼンディカーの夜明け』のプレビューと、そのセットがどのようにデザインされたかについての話を始めた。語るべきことは多く、プレビューすべきものもまだあるので、その話を続けよう。
楽しみを倍に
『ゼンディカーの夜明け』で導入した新メカニズムはパーティーだけではないので、もう1つの新メカニズムがどのように作られたかについて語っていこうと思う。興味深いことに、それは私が長年温めていたアイデアだった。話は『イニストラード』のデザインにさかのぼる。(陰鬱にならなくてもいい。)我々が狼男の最高のメカニズム的実装を作ろうとしていたとき、デザイン・チームの一員であったトム・ラピル/Tom LaPilleが「デュエル・マスターズ」トレーディングカードゲームで使われたことがある、両面カードを持ち込んできたのだった。最終的にそれが完璧にハマり、「闇の変身」はそのセットの大テーマとなったのだ。
我々が両面カードをデザインしていた時、チーム内で私や他の複数人のデザイナーは、この変身する両面カードとは少しばかり異なる働きをするカードをデザインしていた。第1面を唱えるなりプレイするなりしたあとで第2面に変身するのではなく、それらのカードは第1面と第2面のどちらを唱えるなりプレイするなりするかをプレイヤーが選ぶのだ。それらは基本的に、両面カードで分割カードを実装したものだった。我々はそれを、変身する両面カード(TDFC)と対比してモードを持つ両面カード(MDFC)と呼んだ。
ここで一言。『ゼンディカーの夜明け』で新しい両面カードが登場して以降に両面カードについて語る方法(ああ、少なくともどのように両面カードについて語ろうとするか)について手短に説明しよう。『イニストラード』で初登場した両面カード(や、現時点までに存在するすべての両面カード)は、変身する両面カードである。これは、第1面で唱えて、それから第2面に変身させるものである。明確にそれらの両面カードだけを指したい場合、変身する両面カード(TDFC)と呼ぶことになる。『ゼンディカーの夜明け』にある両面カードは、モードを持つ両面カードである。これは、第1面で唱えるか第2面で唱えるかをプレイヤーが選べるものである。明確にそれらの両面カードだけを指したい場合、モードを持つ両面カード(MDFC)と呼ぶことになる。それらすべてを指したい場合は、単に両面カード(DFC)と呼ぶ。ただし、どちらかについて話しているときに文脈上どちらであるかが明白であれば(「『ゼンディカーの夜明け』の両面カード」)、単に両面カードと省略して呼ぶことができる。本題に戻ろう。
両面カードは新しいものであり(したがってプレイヤーにその使い方を教えなければならない)、「闇の変身」はテーマだったので、初代『イニストラード』ブロックでは変身する両面カードだけを使うことが重要だった。そして、モードを持つ両面カードを尻ポケットに収めたのだった。後で使うことができるということである。
あれは2010年のことだったと思う。(『イニストラード』の発売は2011年である。)それでは、なぜこれほど長くかかったのか。理由はいくつかある。1つ目が、私はメカニズムを初登場させるのはそのメカニズムの長所を扱うことができるセットにすることにしているので、どこで使うかについてはさらに選り好みをしている。初登場したときに愛されたメカニズムを、我々は何度も再利用する傾向にある。嫌われた(あるいは単に関心を惹かなかった)メカニズムは、それきりになることが多い。2つ目が、両面カードをセットに入れると生産上の問題が増えるので、その追加に問題を起こすだけの価値が確実にあるようにしなければならない。3つ目が、単純に我々が多くのものを扱っているということである。例えば、居場所を探しているメカニズムは大量にある。つまり、どのアイデアでもしばらく待つことになりうるのだ。
ここで話はその先3年間のセットを企画する場外会議に飛ぶ。セットのほとんどは、プレイヤーが求めている世界(トップダウンの北欧神話風セットなど)であったりクリエイティブ・チームが提案していたクールなアイデアの世界(怪物世界など)であったりする、作りたい世界の話から始まる。アーロンは私に、私のやりたいメカニズムに基づくボトムアップの世界でやりたい世界はないか、と尋ねてきた。私は、ある、と答えたのだ。私はMDFCについて説明し、それを軸にして作ることができると思われる世界の種類について説いた。誰もが同意し、それはスケジュールに書き加えられた。そのセットは後に……『ストリクスヘイヴン:魔法学院』となった。それでは、MDFCはどのようにそこから『ゼンディカーの夜明け』に移動したのか。いい質問だ。
『ストリクスヘイヴン:魔法学院』の専攻デザインを始める予定が1年ほど後に近づいた頃になって、私の上司であるアーロン・フォーサイスがやってきてMDFCにはいくつか懸念があると言ってきた。開発部の中には、MDFCに懐疑的な人たちがいた。そして実際にそれをするとなると、経営陣からそれについて質問が来るだろうというのだ。(「なぜこの人々は反対しているのか?」)私は、MDFCは、プレイヤーの多くが大好きだった変身する両面カードとプレイヤーの多くが大好きだった分割カードをかけ合わせたものだ、と答えた。もちろん、好かれていたもの2つを組み合わせた結果として愛されないものが生まれる可能性はあるが、我々はいつでも新しいメカニズムに機会を与えており、取り除かなければならないリスクの障壁はすべて超えているように思われた。アーロンは私に同意し、そう思っていなければゴーサインは出していないと言ってきた。ただ、ミニ・デザイン・チームを組んで、人々に理解してもらうために使えるMDFCをデザインしてほしいと言うのだ。つまり、まだ実現していないコンセプトの賛成論を立て、そして実行できることの具体的な証拠を示すことになる。また、実際のカードがあればプレイテストも、そしてデータを集めるための市場調査も可能になる。データは、開発部内の懐疑論を黙らせるための最高の方法だ。
そこで、私は数週間会議を重ね、数枚のMDFCを作った。大量の、本当に驚くべき量のMDFCを作ったのだ。私はそれをアーロンに見せ、彼は懐疑論のほとんどを黙らせるための助けとしてそれを使うことができた。興味深いことに、同意を固めたのは、私が何年も前に作った(私はミニチームでの私の過去のデザインをすべて記録していた)MDFCのデザイン群、MDFC2色土地の10枚サイクルだったようだった。それを見た人々は、「これを作らなければ」という雰囲気だったのだ。(その中の6枚が『ゼンディカーの夜明け』に入っていて、残りの4枚は『カルドハイム』に入っている。)
また別の、私がずっと取り組んできた問題として、私はマジックの「1年」に存在する、基本セット以外の3つの本流のセット(つまり北半球の四季でいう秋、冬、春のセット)を関連付ける新しい方法を探し求めていた。10年以上に渡って我々は、セットをつなぎ合わせるブロック・モデルを使っていたが、それをやめて以来マジックの1年というイメージは疎遠になり始めていたのだ。(ローテーションは一括して行われているが。)それらの3セットをつなぎ合わせる新しい方法を探していた私に、MDFCはアイデアをくれた。そこには広いデザイン空間があったのだ。それぞれのセットが、それぞれのセットのテーマを扱うために少しずつ違う方法でMDFCを使ったらどうだろうか。
例えば、『ゼンディカーの夜明け』は、土地をテーマとするセットである。『ゼンディカーの夜明け』に入っているMDFCの少なくとも一方の面が土地だというのはどうだろうか。呪文か該当色の土地で使える、あるいは、2色どちらかの土地を選べる。セットを埋めるのに充分なデザインがあった。『カルドハイム』や『ストリクスヘイヴン:魔法学院』で何をするかについてはまだ語れないが、それぞれのセットのテーマを強める方法でこの新メカニズムを使ったクールなデザインが存在している。
『ゼンディカーの夜明け』に関して言えば、どのMDFCも土地ともう1種類のどちらでプレイするかを選ぶことができるようになっているということである。もう1種類というのは呪文であることが多いが、他の土地であることもある。その土地はタップして1色のマナを出すものであり、コモンやアンコモンやそれ以上のレアリティの一部ではそれらの土地はタップ状態で戦場に出る。もう一方の面は、クリーチャーやインスタントやソーサリーや土地でありうる。
スタックと戦場以外の領域では、このカードは第1面であるものとして扱われる。これは左上隅にある、三角形のシンボルで示されている。三角形が2つなら第2面である。
追放領域、手札、墓地、ライブラリーにある間は、これは《ウマーラの魔術師》であって《ウマーラの空滝》ではない。これはつまり、自分の墓地からクリーチャー・カードを回収する呪文を使って《ウマーラの魔術師》を戻すことはできるが、土地・カードを自分の墓地から回収する呪文では《ウマーラの空滝》を戻すことができないということである。同様に、ライブラリーからクリーチャー・カードを探すことで《ウマーラの魔術師》を手札に入れることはできるが、土地・カードを捨てるカードで《ウマーラの空滝》を捨てることはできない。カードがクリーチャー・カード1枚を捨てるという場合に《ウマーラの魔術師》を捨てることはできるが、土地・カード1枚を捨てる場合に《ウマーラの空滝》を捨てることはできないのだ。
スタックや戦場においては、そのカードは唱えられたりプレイされたりしたときに選ばれたものである。例えば、そのカードを《ウマーラの空滝》としてプレイすることを選んだ場合、戦場では土地である。土地破壊呪文で破壊することはできるが、クリーチャー破壊呪文ではできない。その土地を手札に戻す場合、それは《ウマーラの魔術師》のカードに戻るが、次に土地をプレイできるタイミングで《ウマーラの空滝》としてプレイすることができる。
カードの左下側に、もう一方の面に関する(あるなら)マナ・コストとちょっとした情報が書かれていることにも気づくだろう。
私はMDFCを長年待っていたので、諸君がこれをプレイできるようになることに興奮している。
古きもの、古きもの
新しいメカニズムについて語ってきたので、今度は再録メカニズムについて語っていこう。ある次元を再訪する場合、私は必ずその世界を舞台にした過去の拡張セットでのあらゆるメカニズムを書き出す初期の展望デザインの会議を開催している。ゼンディカーに関して言えば、『ゼンディカー』『ワールドウェイク』『エルドラージ覚醒』『戦乱のゼンディカー』『ゲートウォッチの誓い』である。
それらのセットで名前のついているメカニズム(と、名前はないが人気の高いメカニズムの少々)は以下の通り。
- 滅殺
- 覚醒
- 盟友
- 無色マナ
- 収斂
- 欠色
- エルドラージ・落とし子・クリーチャー・トークン/エルドラージ・末裔・クリーチャー・トークン
- 嚥下
- キッカー/多重キッカー
- 上陸
- Lvアップ
- 「クリーチャー・土地」(自分でクリーチャー化できる土地)
- 昇華者
- 探索
- 結集/同盟者
- 反復
- 支援
- 怒濤
- 族霊鎧
- 罠
最初にしなければならないことは、すでにいなくなっているエルドラージ関連のメカニズムを取り除くことだった。そうなると残りは、
- 覚醒
- 盟友
- 収斂
- キッカー/多重キッカー
- 上陸
- Lvアップ
- 「クリーチャー・土地」(自分でクリーチャー化できる土地)
- 探索
- 結集/同盟者
- 反復
- 支援
- 怒濤
- 族霊鎧
- 罠
次に、このセットではパーティーが果たす役割である、ゼンディカーの住民が協力することに関連するメカニズムを取り除かなければならない。そうなると残りは、
- 覚醒
- キッカー/多重キッカー
- 上陸
- Lvアップ
- 「クリーチャー・土地」(自分でクリーチャー化できる土地)
- 探索
- 反復
- 族霊鎧
- 罠
それから、残っているものを検討していった。それぞれを、「採用」「未定」「不採用」に分類した。
覚醒 ― このメカニズムは『戦乱のゼンディカー』で、エルドラージと戦うために土地自身でさえ立ち上がったことを表している。フレイバー的には少し外れているが、メカニズムはうまく働いており、一般的に好評で、もちろんゼンディカーの土地テーマと明確に関連している。(「未定」)
キッカー/多重キッカー ― これら2つが過去のゼンディカーのセットに登場していた理由は、土地中心のテーマだと土地をプレイする数が多くなり、その結果プレイヤーの使えるマナが増えることになり、マナを処理するメカニズムが有用に鳴っていたからであった。(「未定」)
上陸 ― 上陸は愛されていて本質的にゼンディカーに関連している。『エルドラージ覚醒』以外の、ゼンディカーを舞台にしたすべてのセットで登場している。このリストにある中で、もし存在しなければプレイヤーが一番怒るであろうメカニズムはこれである。(「採用」)
Lvアップ ― Lvアップは、フレイバーは素晴らしいが実装には問題があったメカニズムである。フレイバー的には「冒険世界」にふさわしいが、新しいカード枠が必要となり、MDFCがこのセットにおけるそのリソースを使ってしまっている。いつかこのメカニズムの改革に取り組む日が来ると信じてはいるが、このセットの他の要素と素晴らしく噛み合うわけではないのだ。(「不採用」)
「クリーチャー・土地」(自分でクリーチャー化できる土地) ― クリーチャー化できる土地以上に土地中心なものはあまりない。これの問題は、土地中心のものをどれだけ入れるか、その枠はあるのかということだけである。(「未定」)
探索 ― これは「冒険世界」にふさわしいようにデザインしたメカニズムであり、当然検討する対象である。これには、デザイン空間が狭いことと、少しばかり複雑で文章量が多いという2つの懸念がある。(「未定」)
反復 ― これはいいメカニズムである。すでにこれは何度も再録されている。(『タルキール龍紀伝』『統率者(2017年版)』『モダンホライゾン』)問題は、これがゼンディカーのメカニズムかどうか、だった。これが『エルドラージ覚醒』で使われていたのは、セットのテーマのいくつかを強化する助けになるからだが、このセットはその通常のゼンディカーのメカニズム的テーマを中心にするようにデザインされてはいないのだ。ふさわしいものだとは言えない。これが再録されることはあるだろうが、ここではない。(「不採用」)
族霊鎧 ― これも『エルドラージ覚醒』のメカニズムであり、そのセットを成立させるためにデザインされていた。反復同様、特にゼンディカー世界のものとは言えない。(「不採用」)
罠 ― 探索同様、このメカニズムは「冒険世界」のために特に作られたものである。これも探索同様、デザイン空間は限られている。とはいえ、非常にクールである。(「未定」)
この一覧をまとめてみよう。
採用
- 上陸
未定
- 覚醒
- キッカー/多重キッカー
- 「クリーチャー・土地」(自分でクリーチャー化できる土地)
- 探索
- 罠
不採用
- Lvアップ
- 反復
- 族霊鎧
まず、このセットに上陸を採用した。うまく働き、テーマに合い、期待されている。唯一の大問題は、これを初代『ゼンディカー』ブロックの上陸と、『戦乱のゼンディカー』ブロックの上陸のどちらに寄せるかということだった。つまり、初代『ゼンディカー』ブロックは非常に積極的であり、構築マジックでも大きな役割を果たすことになった。『戦乱のゼンディカー』ブロックの上陸はいくらか弱体化しており、結果として、構築で見られる機会はかなり減った。このセットのリード・デザイナーであるエリック・ラウアー/Erik Lauerに相談したところ、彼はさまざまな要素から『ゼンディカーの夜明け』はそれぞれの上陸カードはパワーレベル的に初代『ゼンディカー』ブロックに近づけることができると感じていた。
問題は、後は何を入れるかだった。我々は「クリーチャー・土地」を作ろうとしたが、最終的にはMDFCに追い出されることになった。「このカードを土地かクリーチャーとしてプレイできる」というカードも同じ働きをし、さらに土地枠のほとんどもMDFCが埋めていたのだ。
また、新しい探索もデザインした。それらは、初代『ゼンディカー』の探索カードのもう1つのバージョンをもとにした、『エルドレインの王権』で一時的に使われていた探索メカニズムをもとにしていた。我々は、単色の探索のサイクルの構造をデザインした。また、罠の新しい形もデザインした。今回はフレイバーをうまく再現するためにアーティファクトとして作った。対戦相手が誘発条件を満たしたらそれを戦場に出すことができるが、ターン終了時までしか残らないようにすることで対戦相手に出させることを推奨するのだ。これらのデザインはどちらも展望デザインからの提出物に補記として添えた。これは、これらをセットには入れなかったが、セットデザイン・チームが使い方を見つけたら使うことができる要素だということである。どちらのメカニズムも、最終的に不採用になった。(これらを『ゼンディカーの目覚め』の展望デザインの提出文書でどのように書いていたかについては、これから数週の間にお見せすることになるだろう。)
こうなると後は、マナを消費するメカニズムが必要である。覚醒とキッカーは、それぞれ別のセットでこの役割を果たしている。しかし、最終的に、我々はこのどちらも採用しなかった。我々はこの枠を埋める新しいメカニズムを作ったのだ。それは「巨躯/Titan」と呼ばれていた。巨躯は、マナ・コストが不特定マナで、必ず7マナ以上であるというキッカーの変種だった。これは呪文を超強化するものであることが多かった。フレイバー上は、大地深くに染み込んでいるエルドラージの残したエネルギーを引き出すというものだった。私がこれを採用したのは、エルドラージをセットに入れることなくエルドラージへのちょっとした言及ができたからであった。セットデザイン中に、エリックは通常のキッカーの柔軟性のほうがいいと考え、巨躯をキッカーに入れ替えたのだった。
私の語るべきデザインの話はこれで全部だが、今日の話を終える前に公開すべきプレビュー・カードがある。諸君、《見捨てられた碑》をご覧あれ。
上述の通り、エルドラージそのものはいなくなっているが、エルドラージに少しだけ言及したかった。エルドラージは去ったが、ゼンディカーの住人たちはエルドラージのことやエルドラージが世界に与えた巨大な衝撃のことを忘れてはいない。ゼンディカー人たちは覚えているのだ。
『ゼンディカーの夜明け』の波
『ゼンディカーの夜明け』のデザインの話を楽しんでもらえていれば幸いである。いつもの通り、この記事について、『ゼンディカーの夜明け』そのものについて、あるいは今日や先週に私が語ってきたメカニズムについて、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『ゼンディカーの夜明け』のカード個別の話をする日にお会いしよう。
その日まで、あなたがカードの両面を楽しくプレイできますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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