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Making Magic -マジック開発秘話-
『ゼンディカーの夜明け』の挑戦
2020年9月1日
『ゼンディカーの夜明け』プレビュー特集第1週にようこそ。今日は、最初にこのセットのデザインについての話と展望デザイン・チームの紹介をして、そして数枚のプレビュー・カードをお見せしよう。手順はご存知の通りなので、早速始めよう。
ゼンディカーは私の心のなかでも大切なものである。私が最初にゼンディカーを(メカニズム的に土地に焦点を当てたボトムアップの世界として)提案したときには、ファンは決して多くなかった。スケジュールに組み込むことにさえ、かなりの努力が必要だったのだ。それに成功したら、今度は私は3か月で概念を証明することができなければ、別のデザインに切り替えることになると告げられた。そのころ、ダグ・ベイヤー/Doug Beyerは土地中心のデザインを補完する、冒険世界という素晴らしいテーマを思いつき、そしてゆっくりと社内にこのセットのファンが増え始めた。『ゼンディカー』が発売されてあれほどのファンが心を躍らせた日は、私にとって特別な日だったのだ。
『ゼンディカー』ブロックは、大型の秋セット、小型の冬セット、大型の春セット(ここで言う季節は北半球のものである)という形でデザインされていた。その2年前に、私は『シャドウムーア』を(4セットからなるブロックを成立させるための方法の一部として)大型セットにするという実験をして、秋にマジックの1年が始まるとき以外にも大型セットを作ることができるということを示した。このブロックでゼンディカーが承認された理由は、計画では全く異なる世界で全く異なるメカニズムの春の大型セットを作る予定になっていたからである。そして、土地に焦点を当てた世界への懸念から、2セット作る必要があるだけのブロックに入れるのは当然だった。
クリエイティブ・チームは彼らが作った世界に大満足していて、この年に使う予定の2つ目の世界を作るための人員の準備すらしていなかった。そこで彼らはメカニズム的に完全に変わってしまうことが必要になるような大きな出来事をその世界で起りうるようにする物語を提案したのだ。その物語上の要素は、エルドラージの導入となった。エルドラージは最初の2セットでもほのめかされていたが、結局、『エルドラージ覚醒』までは開放されなかったのだ。そのセットのデザインのリードはブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanで、ブライアンが「巡洋戦艦マジック」と呼んでいたものにオールインすることになった。このブロックは壮大なヒキ、つまり「エルドラージは解き放たれた。ゼンディカー世界はこれからどうなってしまうのか」というところで終わっていた。
『戦乱のゼンディカー』で再訪したとき、私は、物語がどこで中断していたかを取り上げなければならないと感じていた。エルドラージとゼンディカーの生き物(そして何人かのプレインズウォーカー。だがそれについては時を改めて語ろう)の戦争を取り上げるのだ。完全に後知恵だが、私は、いくつもの理由からこの判断が誤りだったと考えている。1つ目に、エルドラージは少数のときに最もうまく働くと私は確信している。セットのフレイバー付けにすべきであって、主題ではないのだ。2つ目に、そうしたことでゼンディカーの魅力である冒険世界から離れてしまう。カード的に戦争に必要なものを揃えると、どうしても他のゼンディカー要素が犠牲になってしまうのだ。これらの結果として最終的に、私自身満足できたと断言できないようなデザインを作ってしまった。(エリックはデベロップ的にすばらしい仕事をして、セットを良いものにするために尽力してくれたということは強調しておくべきだろう。)
これらすべてが、『ゼンディカーの夜明け』のデザインにつながっているのだ。ゼンディカーは私がとても大切に思っている世界で、前回の私のデザインはいいところを取り落していたと思う。私はどうしても、自分の失敗だけでなくゼンディカー世界の失敗を埋め合わせなければならなかった。私にとって、最初のゼンディカーをこれほど愛すべきものにしたものを再現することは重要だったのだ。私の最初からの展望は、初代『ゼンディカー』セットをあれほど特別なものにしたものに戻ることだった。
パーティーの時間
ある世界を再訪する場合、何を再登場させ何をさせないのかを決めるためにかなりの時間を費やすことになる。(これについては来週触れる。)また、メカニズム的にその世界に導入できる新しい何かを探すことも必要である。問題はここにある。プレイヤーがゼンディカーで見たことがない新しいものを導入しながら、初代『ゼンディカー』の精神を再現するにはどうしたらいいだろうか。その答えは、冒険世界の精神に深く踏み込んでいくことだった。
私は芳醇さの大ファンなので、私はデザイン・チームに、冒険世界を考えたときに何が心をよぎるかを尋ねた。長大なリストができた。ほとんどのものは『ゼンディカー』ですでにやっているものだった。(おそらく、当時もこれと同じ手法をとったからだろう。)なにか採用できる、別の角度からのものはないだろうか。
アイデアの1つに、冒険のパーティーという概念があった。我々全員が「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)」をプレイしたことがあり、そこではさまざまな人物が集まった集団が冒険に挑むのだ。初代『ゼンディカー』でもこの素材は同盟者という形で扱っていたが、このアイデアを別の形で実装する方法があるかもしれない。同盟者は、協力するというアイデアを扱っていた。大量の同盟者をデッキに入れることで利益を得られたのだ。では、パーティーが通常さまざまな種類の人物からなるというところに注目したらどうだろうか。
例えば、D&Dでは、冒険でどんな問題に出くわしたとしてもその専門家がいるようにするため、冒険のパーティーにさまざまな人を入れることが重要である。戦闘、あるいは力で解決しなければならない問題があれば、戦士が役に立つ。鍵を外したり罠を解除したりするには、ならず者が必要だ。魔法の呪文が必要であれば、そう、ウィザードやクレリックがそれぞれの形で役に立つことだろう。我々が手にしたアイデアは、さまざまな種類のクリーチャーによるパーティーを組むことに言及する方法を見つけることだった。
我々はまず、冒険のパーティーのさまざまなメンバーをどのように表現するのが最適かということを検討した。どうすればいいのか。職業のクリーチャー・タイプがすぐに思い当たった。ウィザードはもちろんウィザードで、クレリックはクレリックだろう。ローグはならず者だ。唯一ファイターだけが、D&Dの職業で、クリーチャー・タイプには直接存在していない。ただし、基本的にファイターだと言える選択肢はいくつも存在していた。バーバリアン、狂戦士、騎士、忍者、レベル、侍、兵士、戦士。バーバリアン、狂戦士、騎士、忍者、レベル、侍は、どれもあまりに狭かったので、候補は兵士と戦士に絞られた。兵士は、大きな社会の一員である戦闘員であり、これはファイターの多くには当てはまらない。そこで、戦士で行くことになった。
次は、さまざまなクリーチャーを揃えていることを参照する方法を考えた。再び、我々はすぐに思い当たるものを採用した。ウィザードとクレリックと戦士とならず者を揃えていたらボーナスが得られるのだ。この条件は厳しすぎた。クリーチャー4体を揃えるだけでなく、正しい4体を揃えなければならないのだ。一部だけでも利益が得られて、数が増えればさらに多く得られるようにすればどうだろうか。言い換えると、効果を拡大的なものにすればどうなるか。(『ドミナリア』で)歴史的のために作り出した包括の技術を用いて、我々は新しく「パーティー」という術語を導入した。パーティーとは、ウィザード、クレリック、戦士、ならず者の4種類の職業がそれぞれ最大1体からなるものである。カードでは、パーティーという語を用いて、数を求めたり条件を満たしているかどうかを参照したりできる。
パーティーのプレイテストを行なった結果、大いに好評だった。いくつもの前向きな要素があった。1つ目に、これは非常にフレイバーに富んでいた。我々が求めていた、冒険世界の雰囲気をまさに再現していた。2つ目に、ゲームが進行していくにつれて成長するという良い性質を持っていた。3つ目に、プレイヤーに挑み達成すべきちょっとした課題をもたらしていた。達成したときに満足感を得られるような、充分な(そして難しすぎもしない)難しさだったのだ。4つ目に、部族は我々が何度も使ってきたテーマだが(非常に人気が高いのだ)、今回は通常と違う形で扱っている。ほとんどの部族テーマは、同じものを大量に集めることが主眼である。人気のあるテーマを別の視点から扱うのはいつでも心躍ることだ。マジックは「馴染みがあるが違うこと」にこだわる傾向があるのだ。
ただし、いくつかの問題があった。1つ目が、拡大的効果に限られること。セットを次々と手掛けていると、さまざまなメカニズムの道具を分類するようになり、よく使う道具の1つが拡大的効果である。メカニズムを1つ作るには充分な広さがあるが、狭いと言える程度には広さが限られているのだ。2つ目が、通常の部族よりも解決するのが難しい方向に進んでいること。例えば、同盟者は「大量の同盟者をデッキに入れろ」と言うだけだった。パーティーは、それぞれを一定量入れる必要があり、これはプレイヤーにとって複雑な要求になる。なお、我々は、パーティーが全員揃っていなくても問題なく作用するようにこのメカニズムをデザインしている。例えば、戦士がいなかった場合、他の3種類をプレイすることでパーティーから多くのものを得ることができるのだ。
ここで、次の段落で浮かぶであろう質問に先に答えておこう。(マジックは5種類というのが好きなので)5つ目の職業としてドルイドを入れることについては議論した。計算の結果、クリーチャー・タイプを4種類にすれば実用的だが、5種類だとそうではないということがわかったのだ。ゼンディカーの冒険世界という雰囲気を再現するという中には、その世界にいる人間型でないあらゆるクリーチャーを描くということも含まれる。そしてパーティーの5つ目の職業はその枠を使ってしまい、妨げになるのだ。加えて、4つの職業のようにうまく拡大型効果とはまらなかった。
ここで問題になったのが、4つの職業を5つの色に当てはめるということである。単純に各クリーチャー・タイプを各色に均等に割り振ることも検討したが、それは色の差別化を不可能にし、そのメカニズムを軸に組み上げることが困難になっていた。我々は、4つの職業はほぼそれぞれ異なる色にうまく当てはまることに気づいた。つまり、歴史的に見て、青にウィザード、白にクレリック、赤に戦士、黒にならず者というクリーチャー・タイプが多いのである。(緑が残されていたことから、我々はドルイドを検討したのだ。)4つの職業を色の中で均衡させる方法はあるだろうか。その答えは、ある、だった。
その方法は次の通りである。緑以外の各色に、1種職業、2種職業、3種職業を定める。この順位付けは、その職業はその色でどの程度登場するかを表している。各色に、それぞれ職業1つが存在しないことになる。職業ごとに、1種職業の色が1つ、2種職業の色が1つ、3種職業の色が1つ、不存在の色が1つあるのだ。そして、緑は、4つの職業すべてが3種職業であり、不在の職業は存在しない。どの職業がどこに割り当てられたかの一覧はこうなった。
白
- クレリック(1種職業)
- 戦士(2種職業)
- ウィザード(3種職業)
- ならず者(不在)
青
- ウィザード(1種職業)
- ならず者(2種職業)
- クレリック(3種職業)
- 戦士(不在)
黒
- ならず者(1種職業)
- クレリック(2種職業)
- 戦士(3種職業)
- ウィザード(不在)
赤
- 戦士(1種職業)
- ウィザード(2種職業)
- ならず者(3種職業)
- クレリック(不在)
緑
- クレリック(3種職業)
- ならず者(3種職業)
- 戦士(3種職業)
- ウィザード(3種職業)
これを職業の側から見るとこうなる。
クレリック
- 1種職業 ― 白
- 2種職業 ― 黒
- 3種職業 ― 青、緑
- 不在 ― 赤
ならず者
- 1種職業 ― 黒
- 2種職業 ― 青
- 3種職業 ― 赤、緑
- 不在 ― 白
戦士
- 1種職業 ― 赤
- 2種職業 ― 白
- 3種職業 ― 黒、緑
- 不在 ― 青
ウィザード
- 1種職業 ― 青
- 2種職業 ― 赤
- 3種職業 ― 白、緑
- 不在 ― 黒
色に構造を与えパーティーの助けにするだけでなく、このシステムによって我々は4つの部族で職業部族を成立させることができるようになったのだ。つまり、緑を除く各色には、メカニズム的にその色の1種職業を助けるカードが含まれるということである。
それでは、パーティー・カードは実際どのようなものなのか。プレビュー・カードでパーティーは全員(ウィザード、クレリック、戦士、ならず者)そろっており、その中の1枚にはパーティー・メカニズムが含まれている。まずそれをお見せしなければ始まらない。
プレビュー・パーティーの戦士、《グロータグの虫捕り》をご紹介しよう。
次のプレビュー・カードはプレビュー・パーティーのウィザードで、その色の1種職業、この場合で言えばウィザードと相互作用するコモンの部族カードの好例である。
他のプレビュー・カード2枚は単純なカードで、その職業であるだけである。パーティーはセット全体を通して存在するので、ウィザード、クレリック、戦士、ならず者の多くは普通のことをする、セット内の通常のクリーチャーなのだ。その例として、プレビュー・パーティーのならず者をご紹介しよう。
最後は、諸君すべてが過去2回のゼンディカー訪問で覚えているであろう伝説のクリーチャーだ。プレビュー・パーティーのクレリックは、誰あろうドラーナである。
締めくくりの前に、パーティーの最後の要素について触れておきたい。上述の通り、過去2回のゼンディカー訪問の際に、冒険のパーティーらしさを表すために同盟者を使った。そのため、展望デザイン中には、ウィザード、クレリック、戦士、ならず者は全員が同盟者でもあったのだ。過去の同盟者デッキと『ゼンディカーの夜明け』がうまく噛み合うようにそうしていたのだ。問題は、同盟者が職業タイプであるということだった。パーティーがあるので、クリーチャーはもう1つの職業タイプを持つ必要があった。加えて、職業には種族も必要である。そうなると文字数が大きく増えてしまい、特に伝説のクリーチャーでは1行に収まりきらなくなってしまったのだ。同盟者というクリーチャー・タイプそのものは『ゼンディカーの夜明け』ではそれほどメカニズム的に重要ではないので(言及しているカードは1枚存在する)、このセットでほとんど意味を持たないもののために多くの文字数を加えていたことになる。残念ながら、そうなると同盟者というクリーチャー・タイプを取り除かなければならなくなり、『ゼンディカーの夜明け』には同盟者が存在しないことになったのだった。
パーティーの終わり
初公開のパーティー・メカニズムを楽しんでもらえていれば幸いである。本当に楽しいものだ。諸君がこれをプレイする機会を得ることに私は興奮している。いつもの通り、この記事やパーティー・メカニズム、『ゼンディカーの夜明け』についての反響を私に届けてもらいたい。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『ゼンディカーの夜明け』のデザインについてさらに語る日にお会いしよう。
その日まで、パーティーを楽しみますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
※コモン・アンコモンのカード画像にホログラムが付いているものがありますが、実際のカードには付いておりません。
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