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Making Magic -マジック開発秘話-
バック・トゥ・ザ・『未来予知』(フューチャーサイト)
2020年8月3日
先週、『ダブルマスターズ』の再録についての話をした。その中に、『未来予知』のミライシフト・シートのカードに触発された土地のサイクルの話があった。そこから私は、ミライシフト・カードと、そのそれぞれにどんなことがあったかについての記事を書こうと思い立ったのだ。
『未来』のショック
2007年5月、我々は『未来予知』というセットを発売した。そのセットの要素の1つに、81枚の、マジックのありうる未来からやってきたカード「ミライシフト」カードというものがあった。将来実際に印刷に到ったカードが収まる場所を探そうという考えのもと、我々は、いつか実現するかもしれないと思ったメカニズム的テーマ(と、クリエイティブ的テーマ)を掘り下げた。それは13年後だった。我々がどのようなことをしたか見てみよう。
カードごとに、私はそれが本流のセットであれその製品の重要な要素として新規カードを含むサプリメント・セットであれ、いつか再録される機会を「ありうる」「まあない」「ありえない」「再録済み」の4段階に分けて評価していく。それぞれの意味は次の通り。
- ありうる ― これは、ふさわしい環境で再録されることを期待しているカードである。再録される日はすぐではないかもしれないが、いつの日か再録する期待を実際に持っている再録カードである。
- まあない ― これは、再録されることは期待しないが、ふさわしい環境ではありうるというカードである。
- ありえない ― これは、私が再録について懐疑的であるカードである。
- 再録済み ― これについては説明はいらないだろう。
《奥義の翼》
ミライシフト・カードの目的の1つに、未来のメカニズムの可能性をほのめかすというものがあった。ミライシフト・メカニズムの中には1枚だけに登場したものも複数枚、多くは(サイクルの一部であれば)5枚に登場したものもある。オーラ交換は前者にあたる。我々はこれを、オーラを使い物になるようにするためのまた新たな方法として作ったのだ。この背後にあるアイデアは、オーラ交換を持つクリーチャーにオーラがついていたら何をするかわからないので、驚きの要素を加えることになるというものだった。
このメカニズムは私が『神河謀叛』の忍者のために作った忍術というメカニズムをもとにしており、クリーチャーを交換するのではなくオーラを交換するようになっている。また、メカニズムが手札から働くのではなく、戦場にあるオーラに働くのだ。これはドラマを作るためだったが、今振り返ってみると、手札から働くようにすればすべてのオーラにドラマを持たせることができただろう。
このカードは再録されたことがない。一番ありうるのは、オーラをサブテーマとして持つセットを作ったときだろう。
再録機会:ありうる
《エイヴンの思考検閲者》
ミライシフト・カードの一部は、ずるい。《エイヴンの思考検閲者》はどんなセットにも入れられるカードだが、ミライシフト・カードのデザインは難しく、また、この効果はまだ使われていなかった。このカードは、運良くエイヴンが入っていた『アモンケット』で再録された。このカードが最終的にそのセットに入ったのは、デザインの後半をイーサン・フライシャー/Ethan Fleischerがリードしたからであり、どのセットでも、彼はミライシフト・カードを調査するのだ。私はある日、《エイヴンの思考検閲者》がそのセットにふさわしいと気づいた彼がひどく興奮した様子で会議に現れたことを覚えている。
再録機会:再録済み
《苦々しい試練》
新しいメカニズムをほのめかす場合、我々は既存のメカニズムの調整版にこだわることが多い。なぜか。1つ目、新規のメカニズムを作ることは難しい。我々は各セットで1~3個作るのに尽力している。20個作るのは、かなりの重労働なのだ。2つ目、これらの新メカニズムを通常のセットでするようなプレイテストにかけるだけのリソースはないので、既知のものを軸にするほうがプレイデザイン的に(厳密に言えば当時はデベロップ的に)まとめるのが簡単なのだ。(そうしてさえ、このセットは不可能な作業だった。単純に、未知の要素があまりにも多かったのだ。)
墓地ストームは、ストームというメカニズムをもとにしている。ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanは『スカージ』のために、大量の呪文を1ターンにプレイすることを報奨するメカニズムのストームをデザインした。このメカニズムはあまりにも壊れていたことがわかった。(後に、評価基準にまでなるほどだった。)私の変更は、何を数えるかを変えただけだった。過去のストームのカードから学び、私はその効果を直接ゲームの勝利には繋がらないようなものにした。(ただし、充分大量であれば実質的にはそうなるという意見はあるだろう。)
《苦々しい試練》は再録されたことがなく、おそらく今後もされないだろう。ストームをもとにしたこれもストーム同様に壊れており、ある意味ではあれ以上に壊れているとも言えるかもしれない。
再録機会:ありえない
テキストレス・バニラのサイクル
『未来予知』をデザインする上で難しかったことの1つが、あまりにも複雑になることを避けることだった。私がよく示す指標として、『未来予知』のメカニズムの数は『未来予知』以前のマジックに存在していたメカニズムの数よりも少しだけ少ない、というものがある。このため、私はこのセットで単純なカードを作る方法を常に探していた。このサイクルはその一例である。ミライシフト・シートを使って、非常に単純な未来、ここではフルアートのバニラ・クリーチャー(「バニラ」クリーチャーとは、ルール文を持たないクリーチャーのことを指す開発部語)を示したらどうだろうか。未来らしさを見せるためにメカニズム的にした唯一のことは、マナ・コストとパワー/タフネスの組み合わせをそれまでにないものにすることだった。
これらのカードについて見てみよう。まず第1に、バニラ・クリーチャー用のフルアート枠。これは何度も出てきている。最大の問題は、データから、キーワードを1つだけ持つフレンチバニラ・クリーチャー(キーワードだけを持つクリーチャーを指す開発部語)がバニラ・クリーチャーの機能の多くを果たし、かつよりよいゲームプレイを生むということがわかっていることから、セットごとのバニラ・クリーチャーの数を減らしていたということである。
《第六隊の刃》 ― これは{1}{W}初の3/1であり、この組み合わせはその後マジックの基本となっていった。ただし、このカードそのものは、このカード名が意味を持つ世界に行っていないため、再録されていない。これはこの記事や今後の記事で何度も出てくる話である。また、{1}{W}でバニラの3/1も使っているが、それにさらに能力を持たせたカードも作り始めているのだ。
《盲目の幻》 ― このカードはまた別の理由から再録されていない。ほとんどの世界で当てはまる曖昧な名前だが、{2}{U}で2/3というのは他の能力を持たせる余地があるとわかったのだ。そこで、我々は何枚も{2}{U}で2/3のカードは作ったが、どれもが追加でルール文を持っている。
《グールの大群》 ― このカードは『基本セット第10版』で再録されている。概念上、基本セットは再録のみなので少し矛盾していた。(次の基本セットである『基本セット2010』では、『アルファ版』『ベータ版』以外の基本セットに新規カードを導入している。)これを数に入れるべきではないとも言えるが、しかし基本セットも本流のセットなので、ここでは扱うことにした。
《フォモーリの遊牧の民》 ― このカードは、{4}{R}バニラで4/4は過去のセットでも存在していたが、『ポータル・セカンドエイジ』の話であり、当時はヴィンテージやレガシーでも使えなかったという点で奇妙なものだった。(また、バニラでない《Two-Headed Giant of Foriys》が『アルファ版』に存在していた。)バニラでこのスタッツは印刷されたが、カード名は違っており(『基本セット2012』の《砕骨の巨人》)、このカードそのものは再録されていない。カード名は世界と合わなければならないが、それよりも大きな問題として、《盲目の幻》と同様、開発部は{4}{R}4/4には追加のルール文を持たせたいのだ。
《ネシアンの狩猟者》 ― 今後の記事で見る通り、ミライシフト・カードを再録する上での問題の1つは、メカニズムとフレイバーの両方をうまく充てなければならないということだった。正しいメカニズムが間違ったフレイバーと組み合わせられていたり、その逆だったりしたことで再録されなかったものが多くある。これは、その2つがうまく組み合わさってうまくいった一例である。(確かに、バニラ・クリーチャーであることは大いに助けになっている。)クリエイティブがギリシャ神話風世界をほのめかしていたので、我々がそういう世界である『テーロス』を扱うとなって、これを入れることにした。
確かに、5枚のうち2枚は最高の打率とは言えないが、5種類すべてのスタッツは印刷されているのだ。
再録機会:再録済み(《グールの大群》《ネシアンの狩猟者》)、ありうる(《第六隊の刃》)、まあない(《盲目の幻》《フォモーリの遊牧の民》)
《血まなこの練習生》
このカードは、基本のパワーを超えるパワーを参照することを軸にしている。このカードに作用する他の効果がある場合にのみ働くというアイデアだ。最終的に、-1/-1カウンターを単なる除去でない形で対戦相手のクリーチャーに使うことができるようにするので、『ミラディンの傷跡』で再録されることになった。ミラディンにはゴブリンがいて、このカード名はそれほど具体的なものではなかったので成立したのだ。
再録機会:再録済み
《ボールドウィアの威嚇者》
これから秘密を明かそう。我々がミライシフト・カードを作ったとき、翌年のセット全てにミライシフト・カードを入れるようにしたのだ。《ボールドウィアの威嚇者》は新しいクリーチャー・タイプである臆病者を導入し、戦士と相互作用するようにした。『モーニングタイド』には、職業のクリーチャー・タイプというテーマがあり(そこで戦士は5つの主たるクリーチャー・タイプの1つだった)、このカードはまさにふさわしかったのだ。このカードは熱烈なファンを獲得し、サプリメント・セットでは何度も再録された。(『コンスピラシー』『バトルボンド』『デュエルデッキ:精神vs物理』)。
再録機会:再録済み
《結ばれた奪い取り》
このカードは、我々が青の、攻撃できなかったりパワーが0だったりするけれども起動型能力を持つカードに速攻を与えるという実験だった。我々は、タップ能力のために青に速攻を持たせることを真剣に検討していたのだ。ただし、成功はしなかった。そのため、その方向性を取らなかったので、このカードは一度も再録されていない。私は、《結ばれた奪い取り》を作ろうとするのは止めるべきだと考えている。
再録機会:ありえない
《静寂の捕縛》
これもまた、単純なミライシフト・カードを作ろうという試みの1つである。このセットに《平和な心》の変種が必要だったので、我々は新しく部族キーワードを用いて『メルカディアン・マスクス』のクリーチャー・タイプであるレベルと関連付けてレベルであるカードを作った。(同じくミライシフト・カードである《レイモス教の復興論者》はレベルというサブタイプを用いており、リミテッドではこのカードと相互作用する。)このカードは『未来予知』の次である『ローウィン』ブロックで重要な役割を果たす部族というカード・タイプを準備している。
部族というカード・タイプを使わなくなり、またレベルも再利用していないので、このカードが再録される可能性は低い。
再録機会:ありえない
《黄泉からの橋》
通常、セット作成中の後期になってファイルに穴が空いたら、我々は社内全体から選んだ人々からその穴を埋めるカードのアイデアを求める、穴埋めという工程を取る。『未来予知』では、そのセットのリード・デベロッパー(今日のリード・セットデザイナーのようなもの)であったマイク・チュリアン/Mike Turianはセット作成の後期に穴埋めをしたが、ミライシフト・カードのデザインは難しく、彼の求めるようなミライシフト・カードは来なかった。マイクは私の元を訪れ、その穴を埋めるカードのデザインを頼んできたのだ。私が埋めた最後の2枚(おそらくファイルに入った最後の2枚)は、《黄泉からの橋》と《ナルコメーバ》だった。《黄泉からの橋》は、本質的に自分の墓地でしか働かないエンチャントをいじったものである。私は対戦相手が対策できるようにするため、逃げ道をつけた。
このカードは最終的に非常に強力になったので、今存在していないフォーマットに加えたいと思うようなものではない。このカードはマスターズ・セットで2回(『Modern Masters』と『アルティメットマスターズ』)再録されているが、本流のセットで再録されたことはない。
再録機会:ありえない
《ケンタウルスの前兆読み》
このカードは、氷雪という特殊タイプの再録と、クリーチャーがタップ状態のときにのみ発生する効果を持たせることの2つを掘り下げている。前者は『モダンホライゾン』で華々しく実現しているので、また起こることだろう。後者は1枚だけでも大きなテーマの一部としてでもありうる種類の効果である。再録には、この両方が同一のセットで登場しなければならない。
再録機会:ありうる
《ダークスティールの駐屯地》
城砦は装備品をもとにして、クリーチャーでなく土地につくようにしただけのものだ。これは私がもっともよく質問されるミライシフト・メカニズムの1つである。最大の問題は、土地をエンチャントするオーラと城砦の間にそれほどの差がなかったことである。装備品とクリーチャーにつくオーラの最大の違いは、装備品はクリーチャーが死亡しても戦場に残り、他のクリーチャーに移すことができるということである。そのどちらも、土地につけられている場合にはそれほど魅力的ではない。土地はそうそう破壊されないし、城砦を別の土地に動かそうという理由もそれほど多いわけではない。それらにも増して、土地に持たせたいと思うような効果がそれほどないのだ。土地の機能によるものからも、土地を破壊しやすくしたくないという理由からも、強力なエンチャント系効果には制限がかかることになる。ふさわしい実装とこれらすべてが一体となるようなふさわしい世界を見つけることはあるかもしれないが、それは大穴と言わざるを得ない。
再録機会:まあない
《夜明けの宝冠》
このカードは、「オーラ関連」テーマをほのめかしている。そこに問題がある。オーラにはすでに多くの問題があり、さらにオーラに依存したものを作るのは難しいのだ。とは言え、我々は(最初から入れていた《ネシアンの狩猟者》に加えて)このカードを『テーロス』に入れることを真面目に検討していた。『テーロス』にはオーラ・テーマがある。(ただし、「オーラ関連」テーマではないと主張したい。)このカードが印刷に到らなかった理由は、強すぎたからだと考えている。ミライシフト・カードの難しいところの1つがコストをつけ直すことができないことであり、未来の可能性からのカードを、それがどのようなセットに入るかがまったくわからない状態でコスト付するのは難しいのだ。とは言え、《夜明けの宝冠》はいつか、本流でないセットに居場所を見つけることはあり得るだろう。
再録機会:ありえない
《深洞のインプ》
このカードは、マナ以外のエコー・コストを掘り下げたものである。エコーが再録されることになれば、このカードがそのセットに入る可能性は高いと革新している。問題は、エコーは人気があったメカニズムではないので、再録されることがまあないということである。一般に、プレイヤーは特にフレイバーに富んだものでない限り不利益になるメカニズムを嫌うものであり、エコーは最もフレイバーに欠けたものだと言える。
再録機会:まあない
《ドライアドの東屋》
このカードは一見無害に見える。土地で、クリーチャーだ。他のカード・タイプは組み合わせている。なぜこの2つを組み合わせないのか。
ルール・マネージャーが、マジックから永遠に取り除くカードのリストを作っていいとすれば、このカードはかなり上位に名を連ねるだろう。クリーチャーのルールと土地のルールは、本当に混ぜにくいのだ。クリーチャーや土地に影響を及ぼす新しいものの中には、《ドライアドの東屋》と問題を引き起こすものが一定割合含まれるということがわかっている。
とは言え、このカードはある種のプレイヤーたちに人気なのだ。私は常々、このサイクルを成立させるための残りのカードはいつ登場するのかと尋ねられている。その答えはいつも、「悪い知らせがある」だ。
再録機会:ありえない
《秋の際》
マナ以外のエコー・コストができるなら、マナ以外のサイクリング・コストをできない理由があるだろうか。このカードのデザインはよくまとまっている。土地が足りない時に使いたいような効果と、土地が余っている時に使いたいサイクリングである。このカードが再録されていないのは、強すぎるからだろう。そう思う。サイクリングは充分使っており、このカードを検討したことも何回もあることだろう。マナ以外のサイクリングはコンボの問題があるかもしれない。さまざまな可能性がある場合に、問題が起こらないということは疑わしい。
再録機会:まあない
《戦精神の象徴》
これは、全体効果を持つ個別エンチャントをいじってみたものである。なぜこれが再録されていないのかはわからない。おそらく、2マナでこの能力というのがオーラにしても強すぎるということなのだろう。そうであれば、再録の一番の可能性はサプリメント・セットということになる。
再録機会:ありうる
《肉捻り》
変形は、初代『ラヴニカ』のディミーアの能力であった変成のクリーチャー版である。開発部は教示者系の効果(カードをライブラリーから手札に入れる効果)を減らしているので、教示者メカニズムを使う可能性は非常に低い。
再録機会:ありえない
タップするエンチャント
これら3枚はどれも、タップするエンチャントをいじってみたものだ。それぞれ、タップ・シンボルを別々の方法で使っている。《流動石の抱擁》は、望む時にエンチャントを有効化できるようになっている。例えば、これを自軍の3/3につけた場合、ブロックされなかった時にだけ起動することができるのだ。《新たな精力》は、2つの能力を与えるものだが、タップ・シンボルを使うことで同時に使えるのは1つだけに絞っている。《魔女の霧》はタップ・シンボルを使い、能力を使う回数をターンに1回に制限している。この手法はアーティファクトでよく用いている。
ミライシフト・カードでこれを試したのは、効果を見つけてエンチャントをタップすることが特別なものだと感じさせるのが難しかったからだろう。アーティファクトとエンチャントにはすでに大量の共通点があり、わずかな相違点の1つを取り除くことは考えられない。
再録機会:ありえない
過ぎ去りし『未来』
本日はここまで。今回のミライシフト・カードへの振り返りを楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事について、あるいはどのミライシフト・カードを再録してほしいかについて、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、さらなるミライシフト・カードを扱う日にお会いしよう。
その日まで、あなたがあなたの人生の未来を楽しく予想できますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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